喜嶋先生の静かな世界 (100周年書き下ろし)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (346ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062166362

作品紹介・あらすじ

学問の深遠さ、研究の純粋さ、大学の意義を語る自伝的小説。

感想・レビュー・書評

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  • 波瀾万丈な展開はなく、とにかく題名通り静かに物語は進んでいく。
    でもその静謐な文章の中から、ところどころで主人公の喜嶋先生への尊敬の思いや、研究にかける情熱などがじわじわと伝わってきて、とてもよかった。
    特に"学問には王道しかない"という喜嶋先生の言葉には、主人公と一緒にものすごく感動してしまった。

    小説の世界は圧倒的に文系の書き手が多い世界で(ミステリ、SFなどを除く)、こういう理系の研究者を主人公にした小説はとても新鮮だったし、実際に自身も国立大の助教授をしていた著者だからこそ書ける物語だと感じる。
    理系には特に刺さること間違いなしですが、文系理系に関係なく、学問を究めている人にとって、深く心に残る本なんじゃないかと思います。

  • 読み終えたとき、唐突になにかを「失った」と思った。
    “静か”な装丁とともに、静寂のなかで進みゆく物語。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    “喜嶋先生の”とタイトルにあったため、主人公は喜嶋先生なのかなと思い、読み始めましたが、主人公は大学生の橋場だったので、少々おどろきました。
    喜嶋先生の登場までには、思っていたよりもページ数がかかり、喜嶋先生が登場してからも先生の存在感はとても薄く感じました。
    ただ、主人公である橋場が大学に入り、修士・博士課程と進むなかで、喜嶋先生と共通する“なにか”を得て、そして卒業し暮らしの中へと潜っていく過程で、“なにか”を失っていく様子は感じとれました。

    喜嶋先生と橋場が共通して見ていた世界、それはタイトルの「喜嶋先生の静かな世界」であり、どこまでも潜っていける深い探究の森です。
    けれど、ずっとその森を歩き続けるためには、暮らしと自分を切り離し、雑音がなにも聞こえない世界に生きる必要があります。

    橋場と喜嶋先生の道がどう交わり、どう距離をとっていったのか。
    橋場と喜嶋先生は、どういう道を歩んでいったのか。

    1990年頃と思われる時代、まだスマホなんて微塵もなかったころの、とても淡々とした文章で語られる静かで、どこかせつない物語世界でした。

  • 森博嗣さんはそろそろ執筆を辞めるんではないかと囁かれていますね。難しそうでいてとっても分かりやすい文章で、あらゆる分野で面白い本を書ける人なので、もっと名作を残して頂きたいです。まだまだ若いんですし。
    そんな森博嗣さんの自伝的小説です。
    大学で理想の研究者喜嶋助手と出会って、次第に研究にのめり込んでいく青春小説(?)です。
    研究者というと変わり者というイメージですが、この本読むとやっぱり変わっているんじゃないかと確信を深めます。主人公も変わっているし、先生も変わっています。
    でも、この変わっているけれどどこか間抜けで真摯で温かい姿がとても愛おしいです。世の中と折り合いをつけるのが苦手な子供の心を残したまま、秀でた頭脳を持ってしまった人たち。次第に皆大人になって社会に飲み込まれていくのに、喜嶋先生だけは静かな学究の世界に留まっているのではないか?それを主人公も神に祈るように望んでいます。
    表紙があらわしている通り、とても清らかでシンプルな世界に生きているのが学究の徒なんだなと思いました。
    この本はあくまで小説なのでモデルが居ても、作りだされた人格です。それを証明するかのように、広げた人形劇をぱたぱたと片付けるように、あっという間に店じまいします。森先生何考えているのか分からないけれど、取り残された僕の心に温かさと空疎さを残して、忘れられない本になってしまいました。

  • 「どの本が一番好き?」
    って聞かれたら、迷わずこの本を選ぶと思う。
    大学生である今の時期に読めてよかった。

  • 人生をある時期に本にしたら、時間の濃淡はこの本のようになるんじゃないかなと思います。どうでもいい授業や出来ごとは一行も書かずに、大事な先輩に出会ったときや、ガールフレンドができたときのことや、先生と酒を酌み交わしたことや、そういったものの記述が長くなる=その時間は長く覚えているものだと思います。

    人格形成期の希望と不満(10代~20代前半)、社会の中での位置が見えてくる喜びと不安(20代後半から30代前半)、そのまま働いた末の得たものと失ったものの悲しみ(40代~50代)、それぞれにおいて読むと、またその時々に感じるものが違うように書いているような印象を受けました。なので、また10年後に読むように本棚に取っておこうと思います。

  • やはりいい。
    頭のよい人は本当に羨ましい。
    羨むということだけで僕は森さんから遠のいているのはわかるのだけれど。

    誰を羨むこともなく
    誰と比べることなく
    誰も妬むことなく
    誰にも理解されなくていい

    最も珍しいことにこの作品では喜嶋先生と橋場くんは自分を比べているけれど。

    森さんの作品を読むとき僕は正直内容はどうでもいい。
    ただ文章の中に流れる汚れなく美しい何かに触れることがとてつもなく嬉しいのだ。
    それは僕が森博嗣という生き方に対して憧れや羨望、自分のなかった未来を重ねているからだろう。

    僕もあんな風に生きたかった。
    世俗になんかまみれたくなかった。

    こんな人が近くにいたら僕は変わっていただろう。
    本だけでこれだけ変わったのだから。
    しかし会うことはない。
    ステージが違い過ぎる。
    たった一人雰囲気が似ている人に出会い、僕は憧れを抱いたが近くに居続けることは出来なかった。
    あれが最初で最後。
    僕が知性に触れることが出来た機会だ。
    貴重だった。
    もっと早くに出会っていれば僕は森さんにもっと近づけただろう。

  • 大学院の研究者である橋場くんと喜嶋先生の話。 大学と研究者の世界と言うものについてどんな雰囲気なのかその一部を垣間見れたような気がする 言葉の意味にこだわること 研究者と社会との折り合いについて

  • 天才「橋場君」が(本作は橋場君の一人称で語られた物語なので、橋場君が天才と表記される事はないのだが…)大学で喜嶋先生と出会い研究者として一人前になっていく物語。
    題名の"静かな世界"とは研究者の生活の、テレビやニュースも見ない、俗世間とは隔たった、ただひたすら研究(喜嶋先生の場合は数式や数値計算等々)の中に没頭する様子の事だ。"僕の"ではなく"喜嶋先生の"としているのは、橋場君の喜嶋先生に対するリスペクトの大きさからか…。

    物語の二本柱は、その研究と大学という教育機関がどういう物がという説明と、橋場君を取り巻く個性的な人達との関わり合いになると思う。
    私は理系の人の頭の中も大学の内側も分からなかったからその部分もとても興味深かったが、登場人物の関わり合いも橋場君の人に対するスッキリした淡白さが好感がもてた。
    研究者にとってのメンターの重要性が、フィクションながら良く表されていると感じた。

  • 大学生の日常生活で、エッセイ調かと思いきや、どんどんドラマチックな展開に。最後は少しぞっとするミステリーのような終わり方。孤独や寂しさが作品全体から感じられて、読み終わってもまだ静かな世界に取り残されたようでした。

  • 静かだけど情熱的。
    目の前に山(研究課題)を積み上げては高く高く登っていく、その喜びが詰まっていて、読んでいるとこちらまで高揚してしまうほど。

    学問の意義。
    勉強と研究の違い。
    研究を進めていくときの感覚。
    そして、生き方。
    この読書のなかで、たくさんの収穫があった。

    喜嶋先生は社会的な枠組みだけから見れば多くの欠点を抱えた人だ。でも主人公の視点から見たときそれらは全く逆の意味を持ち、ますます先生への尊敬は高まっていく。
    なぜなら、それらが研究者として正しい道を歩いているが故だと理解できるから。

    「学問には王道しかない」という先生の言葉から主人公が汲み取ったものと、その純粋さにひたすら圧倒される。
    こういう生き方もあるんだと、衝撃を受けた。

    でもやっぱりそういう生き方は難しいもので、生きている限り、たくさんのものに縛られていく。
    素敵な奥さんと出会って、新しい家族が出来て、研究一本に突き進めなくなってからの文章に泣きそうになった。
    それが家庭を持った者としてのごくあるべき姿、「王道」なのだと私は思うけれど、同時に研究者としての王道を外れてしまうことでもあるというのはやはり切ない。

    それでもなお(だからこそ?)喜嶋先生に敬愛と信頼の念を捧げつづける主人公の姿が悲しすぎる。

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著者プロフィール

工学博士。1996年『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞しデビュー。怜悧で知的な作風で人気を博する。「S&Mシリーズ」「Vシリーズ」(ともに講談社文庫)などのミステリィのほか「Wシリーズ」(講談社タイガ)や『スカイ・クロラ』(中公文庫)などのSF作品、エッセィ、新書も多数刊行。

「2023年 『馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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