海にはワニがいる

  • 早川書房
4.16
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784152092373

作品紹介・あらすじ

パキスタン、イラン、トルコ、ギリシア、そしてイタリア-アフガニスタンを逃れた10歳の少年は、母が消えた翌朝からただ一人、安住の地をさがしもとめ命をかけて国境を越え、旅をつづけた。少年の苛酷な彷徨を、近しくも静かな視点でときにユーモアをまじえて描きイタリアをはじめ世界中の読者の心を動かした、事実にもとづく物語。

感想・レビュー・書評

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  • エナヤット少年の家族は、アフガニスタンの小さな村で暮らしていた。だが、村はタリバーンが政権ついてから激しい迫害の標的となる。父が死に、学校も閉鎖され、エナヤットの身を案じた母は、十歳の彼を隣国パキスタンへと連れ出し、 一人置き去りにする。それが、彼を生かす最善の方法と信じて。

    エナヤットッラー・アクバリの体験話をイタリア人の著者が聞き、記す。十歳の時から、8年間にわたる密入国の旅の末に、ついにイタリアに安住の地を見いだすまでの日々を、事実に基づき、物語としてまとめた作品だ。

    アフガニスタンを出て、パキスタンからイランへ、その後トルコ、ギリシア、そしてイタリアへと渡り、エナヤットは生き延びる。何度も命を危険に晒し、捕まり、逃げ、ぼろぼろの心と身体で少年は移動し続ける。普通に暮らせるという、より良い環境を見つけるために。

    イタリアに着いて、エナヤットが親切な人々に出会えて本当に良かった。イタリアの人って優しいんだな…と感動しました。

    日本は、難民の受け入れに対して並外れて厳しく、入管での外国の方への対応の酷さもあちこちで話題になっている。国レベルの問題は、個人にはどうすることもできそうにないけれど、もし、自分が個人的にエナヤットのような人に出会ったときに、果たしてイタリアで出会った優しい人々のように寛容で助けてあげられるだろうか?不安や怖さなど、邪魔するものが沢山ありそうだけど、助けになるよう、動ける人間でありたいと思った。

    お洒落な装丁で、薄めの本だが、内容はハードで、存在感のある一冊だった。

  • タリバンの迫害から逃れ,生きる為に5つの国境を越えた少年。10歳時から8年間不法入国と不法就労を繰返し,イタリアへ辿着く。雪山越やゴムボートで渡海…過酷な日々を乗越え,生抜いた事実に感動。実話。

  • 「同じ行動をする人なら誰でもいいんだよ」

    不法だろうが気まぐれだろうが、生き抜くきっかけになるなら何だっていい、誰だって同じことなんだ。
    難民も貧困もずっと前から世の中にあるのに、彼がそう考えるほどの状況に今さら胸が痛んで恥ずかしい。

    主人公のような少年に、何か助けになるようなことをしようとしたとして
    彼が何に驚くか、何を幸いに思うかなんて、全く違う人生を生きている私にはきっと本当の意味で理解できない。

    それでも彼を受け入れたイタリアの家族のようになりたいと思った。

  • 薄くて短い物語だけれど、胸がつまって思ったよりも時間がかかった。タリバンに迫害され、アフガニスタンからパキスタンへ少年を連れ出した母。その母ともパキスタンで生き別れ、少年は生きるために安住の地を求めイラン、トルコ、ギリシャ、イタリアといくつもの国境を越える。この話は事実に基づいたものだという。タリバンに完全に支配された現在のアフガニスタンの情勢はどんなに酷いものか想像に難くない。ニュースで見た飛行機に乗ろうとしていたアフガニスタンの人々を遠くの国のことだと感じていたが、この本を読んで彼らが少し近くなった気がする。10年前の訳書だけれど今こそ読んでほしい小説。ファブリツィオ・ガッティの『僕たちは幽霊じゃない』という小説でも、主人公が政情不安のアルバニアから脱しイタリアで不法移民として暮らしていたが、イタリアは不法移民が暮らしやすい国なのだろうか。

  • 少し小ぶりなサイズでそんなに厚くもなく、表紙もハードカバーではない。そんな、あまり存在感のないこの本を、私は何気に図書館で手にした。
    “10歳のあの夜、母さんが消えてから
    ぼくは生きる場所をもとめて 五つの国境を越えた――”
    帯にはそう書かれていた…
    アフガニスタンから逃れて6ヵ国にもわたる長く厳しい旅。

    自分があまり詳しくない国が舞台の話を読むとき、少し独特の距離感を感じながらも、急激に物語に入り込むことがある。

    この本を読むと、この少年と私たちとの「過酷さ」の意味合いの違いを痛感させられる。あまりにもドラマチックなこの物語が、事実に基づいて作られていると知ったとき、またさらに衝撃を感じる。

    会話が多いのに、なぜか全体的にかぎかっこ「」が付いていないのがとても印象的。

  • 難民の子供がどんなふうに旅をして目的地に辿り着くか、興味深く読ませてもらったんだけども。なんだかんだ言ってもアフガンあたりじゃ子どもは絶対大変だ頑張ったよ、アンタ、である。
    あるんだけども、それ以上に、この主人公のできる子っぷりが半端ない。勤勉にして、へこたれず、体力もあれば、コミュニケーション能力も十分。いわゆるリア充なのである。そんなだから、多くの仲間の屍を乗り越えて、最後には勝ち組へとのし上がっていく彼こそがアフガンの子どもたちのヒーローであり、野球少年にとってのイチローのような殿上人なんです。
    これが全く能力もなければ性格も悪い子なら速攻くたばって物語にもならないわけで、そういう厳しい世界がやっぱりあるんだな、と、しんみりするのです。

  • アフガニスタンの小さな村に住んでいた少年エナヤットは、その身の危険を案じた母親によって隣国パキスタンに連れ出され置いてけぼりにされる。エナヤットは仕事と食料と寝る場所を求めて密入国を繰り返す。それは安住の地を求める旅だった。

    エナヤット少年の実体験が作家によって再構成された物語。合間に不意にエナヤットと作家のやり取りが挿入され、これが実際に起こったことなのだということが突き付けられます。そのためドキュメントでもなくフィクションでもない独特のものとなっています。
    難民の密入国や不正就労の話。しかもそれが未成年者であるということ。そのこと自体かなり重い事実です。それを事実の列挙としてレポートを読むのはなかなかつらいものがあります。しかし物語の形で示されると受け容れやすくなるのではないでしょうか。
    もちろん物語になるということは、そこに語り手の意思が含まれます。そのことを念頭に置きながら読むことで、問題を(ここでは難民問題)知ることのきっかけになるのでしょう。その後に改めて調べたり考えたりする入口となるでしょう。物語にして主人公を設けることによって、却って普遍的なものとなることもあるでしょう。

    作中で密入国を手助けする「運び屋」という人物が多々出てきます。福祉的理念のもと行なうのでなく金銭授受のためのビジネスとして行なっているものです。なぜ密入国の手助けがビジネスになるのだろうと思っていましたが、低賃金で社会保障のいらない労働力の入手が目的だったのだと気付き戦慄しました。しかしその違法労働があったからこそ、エナヤットたちは生き延びることもできたのです。
    かと思えばエナヤットを全くの無償で助けてくれる人も出てきます。言葉もわからない正体もわからない少年を見捨てられなかった人々がいたのです。
    それらのことが重く心にのしかかり、その重さによって刺激される何かを感じること。それが面白く感じたのです。これが知ること考えることの面白さなのでしょうか。

  • むかしむかしの、ではなくて
    ついさいきんの、ということが
    そしてこれは今も続いているということが
    ずしりずしりと

    読みながらとてもとても考えました

  • タリバンからの迫害を避けるためアフガニスタンから逃れる道中、母親に捨てられた少年が安住の地を得るまでのドキュメンタリー。より良い労働と居住環境を求め国から国へ移る様は過酷の一言であり、2000年代の出来事とは思えない。絶望的な環境の中、とにかく明日へと命をつなぐ、人間の逞しさが垣間見える。一方、恵まれた環境の中、自ら生を放棄する人の絶えない今の日本は何なのだろうか。

  • ファンタジーっぽい表紙とタイトル。そんなに厚くない本なのですが、重い! 事実に基づいた話ならでの読ませる力、勢いがあります。エナヤット少年の孤独、家族への愛情、何より自由への憧れが、すぐそばに感じられます。

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