運命の人(一)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163281100

作品紹介・あらすじ

毎朝新聞政治部記者、弓成亮太。政治家・官僚に食い込む力量は天下一品、自他共に認める特ダネ記者だ。昭和46年春、大詰めを迎えた沖縄返還交渉の取材の中で、弓成はある密約が結ばれようとしていることに気づいた。熾烈なスクープ合戦の中、確証を求める弓成に蠱惑的な女性の影が-。

感想・レビュー・書評

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  • 毎日新聞記者の西山太吉らが国家公務員法違反に問われた……
    運命の人1作目 
    2009.04発行。字の大きさは…中。

    毎朝新聞政治部記者の弓成亮太が、沖縄返還時の日米密約をスクープするが……。総理の怒りを買い国家公務員法違反に問われた物語です。

    音読で、読んでいると感情が入り、場面場面で力が入って来ます。

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    著者の山崎豊子さんが、「この作品は、事実を取材し、小説的に構築したフィクションである。」と文頭に書いて有りますが。読んで行くと1971年の沖縄返還協定に関する取材で入手した機密情報を記事にする以前に野党国会議員に漏洩した毎日新聞記者の西山太吉らが国家公務員法違反で有罪となった実際の西山事件を想起させる内容となっています。

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    物語は、沖縄返還協定が調印される1971年(昭和46年)。舞台は、東京です。

    三大新聞と云われる全国紙の一翼を占める毎朝新聞(毎日新聞)政治部の外務省詰めキャップ弓成亮太は、外務省安西審議官付きの三木事務官から沖縄返還交渉に係わる外交機密の米国ロジャード国務長官と愛池外務大臣との間で交わされた電信文3通を入手する。

    この文章には、沖縄の米軍基地の復元費用400万ドルは、米側が支払う形をとるが、実質は、日本側が支払うものとする旨が書かれており。そして、その旨の書類をロジャード長官へ愛池大臣が提出する旨が書かれたものです。

    これを入手した弓成は、入手ソースを隠して論説を書くが、この日米の機密はいっこうに表沙汰にならないのにイライラし、とうとう野党議員に3枚の機密文書を渡して国会で追及しょうとしたことが裏目となり、三木事務官が国家公務員法100条(秘密を守る義務)。弓成も国家公務員法111条違反で逮捕されます。

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    【読後】
    精力的にスクープを取っていく弓成記者の自信に満ちた堂々とした姿を見ていると凄いとしか言いようがありません。そして妻と小学校3年生、1年生の男の子を慈しむ慈愛に満ちた姿を見ていると。最後に警視庁の地下の取調室の模様が嘘のように感じられます。
    これからどのように進むのかが不安でなりません。

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    【音読】
    4月29日から5月7日まで音読で読みました。今回は、大活字本でなく単行本の「運命の人」です。
    2021.05.07読了
    2021.05.31感想文記入

    ※「運命の人」感想と読了日
    運命の人4作目 2021.07.07読了 2021.07.08感想記入
    https://booklog.jp/users/kw19/archives/1/4163281401#
    運命の人3作目 2021.06.10読了
    https://booklog.jp/users/kw19/archives/1/4163281304#
    運命の人2作目 2021.05.25読了 2021.06.04感想文記入
    https://booklog.jp/users/kw19/archives/1/4163281207#
    運命の人1作目 2021.05.07読了 2021.05.31感想文記入
    https://booklog.jp/users/kw19/archives/1/416328110X#

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    【令和3年(2021年)5月に読んだ本】

    5月に読んだ本は、31冊です。
    金子みすゞさんの「わたしと小鳥とすずと」は、自分を肯定でき、癒され、やさしく、深い思いやりがあり、感動する詩です。このような詩に出合ったのは、もしかして初めてかもしれません。
    皆様の応援で5月も楽しく読書が出来ました。ありがとうございます(笑顔)。

    なお、昨年(2020年)8月から5月まで毎月31冊以上の本を読んで感想を書いてきました。その疲れが出たのか、6月に入ってすぐやる気がなくなって、ペースが崩れて、読むスピードが落ちました。6月は、なんとか20冊を読み感想を書きました。
    今月に入り、少し回復してきたので、5月、6月のまとめを書く気になりました。
    ご心配をおかけして申し訳ありません。

    今月のベスト本は、下記の8冊です。
    ★★★★★5つは、下記の2冊です。
    わたしと小鳥とすずと (金子みすゞ詩の絵本)  ―――― 著者/金子みすゞ
    おいで、もんしろ蝶 ――――――――――――――――著者/工藤直子

    ★★★★☆4つは、下記の6冊です。
    運命の人シリーズの1作目 ――――――――――――― 著者/山崎豊子
    逃げろ 生きろ 生きのびろ! ―――――――――――― 著者/たかのてるこ
    雁もどる ー 隅田川御用日記シリーズの1作目 ――― 著者/藤原緋沙子
    始まりの木 ――――――――――――――――――― 著者/夏川草介
    ころころ手鞠ずし―居酒屋ぜんやシリーズの3作目 ―― 著者/坂井希久子
    空のどうぶつえん ―――――――――――――――― 著者/田中達也

    ※令和2年(2020年)1月から、その月の最後に読んだ本に、その月のベスト本をのせています。
    2021.07.17記入

  • 沖縄返還前の日本とアメリカの密約。そしてその裏で何があったかを描く。私の生まれた頃の話なので、このような事件があったことは知らなかった。フィクションとはいえ、山崎豊子の作品はいつもよく取材して書かれているので、かなりの部分で似たようなことがあったのだろうと思う。内容は重厚なのだが、さっくりと読める。

  • 山崎豊子の最新作「運命の人」は1971年の沖縄密約の漏洩事件「西山事件」を基にしたフィクション。西山事件は僕にとって幼少の事件であり、記憶にすらない。

    西山事件のあらましはこうだ。

    毎日新聞社政治部の西山太吉記者は沖縄返還協定に絡む補償金をめぐって、米国が支払うとされた金が実際は日本政府が肩代わりをしたことを掴む。

    しかし、決め手をつかみきれず、その秘密文書のコピーを社会党の横路孝弘と楢崎弥之助に手渡す。疑惑は国会で明らかになり、批判が巻き起こった。

    ところが、政府は「密約はなかった」といい、国家公務員法(秘守義務)で情報提供者だった女性事務官と西山記者を逮捕。新聞記者と、その情報源の逮捕という衝撃に、毎日新聞だけでなく、他メディアも表現の自由、知る権利への侵害だとして一大キャンペーンを張るが、検察側は2人が愛人関係にあったことを暴露。裁判では、検察側が起訴状の中に「情を通じて」という文言をあえて盛り込み、セックススキャンダルに仕立て、焦点をぼかす。

    「週刊新潮」が2人の関係を興味半分で面白おかしく取り上げたことで、新聞メディアのキャンペーンも勢いを失う。第一審では、女性事務官は有罪、西山記者は無罪とされたが、最高裁では取材手法の違法性、報道の自由は無制限ではないとして、逆転敗訴となった。しかし、肝心の沖縄密約の有無は問われず、うやむやになった。

    山崎豊子は事実を基にフィクションを構成する手法で知られる。映画化された「沈まぬ太陽」も御巣鷹山の日航機事故を中心に、信念を貫く労組委員長、恩地の闘い。異例の2クールでドラマを放送した「不毛地帯」も伊藤忠時代の瀬島龍三がモデルだ。

    モデル小説はプライバシー保護の観点から、難しいところがある。より今回は公人ではなく、セックススキャンダルに巻き込まれた主人公と、その相手を描いていることから、小説に仕立てる自体、困難さがつきまとったのではないだろうか?

    山崎にはこのリスクを覚悟しても、描きたいという動機があった。山崎は毎日新聞社出身でもあり、マスコミを正面から描くというのは、彼女自身の「けじめ」でもあったようだ。それは横山秀夫が「クライマーズ・ハイ」を書かずにはいられなかったことと同じなんだろう。

    小説は1、2巻が事件そのもの、3巻がその裁判、4巻では新聞社を退社した主人公は故郷、小倉に戻り、青果店を継ぐも、激しい競争の中で再び失意を味わい、運命に導かれるように沖縄にたどり着く。物語は主人公の魂の旅路ともいえる。

    東京で暮らす主人公は沖縄密約を問題視しながらも、沖縄自体については深く知っていたわけではない。現地で暮らし、人々と接することで、沖縄の悲劇の真実を目の当たりにする。

    4巻は沖縄決戦での集団自決の悲劇、戦後の進駐軍兵士によるレイプ事件、米軍による土地の搾取、基地問題などが語られる。それらの悲劇には憤り、深い悲しみを感じずにはいられない。

    「沈まぬ太陽」と「運命の人」はより近いものを感じる。「太陽」の恩地も「運命」の弓成も信念、正義感の持ち主で、はからずも巨大な組織を相手に闘いを挑む。「図らずも」というのがポイントだ。しかし、正義は必ずしも勝利できない。

    恩地は不当人事によって、アフリカへと左遷される。一方、弓成は会社を追われるようにして辞職し、逃げるようにして、沖縄に流れ着く。恩地は御巣鷹山事故後に新たに就任する国見会長と出会い、弓成は衰弱しているところを沖縄人に助けられ、「人間の言葉を久しぶりに聞いた」と口にする。「南」の大陸、島の風土が主人公を変えるという設定も同じだ。

    組織と個、国家と個は山崎作品の大きなテーマだ。それは山崎がジャーナリスト出身であることも関係しているのだろう。

    山崎豊子作品は2度の盗作疑惑を差っ引いても、ジャーナリズムを感じる。それは、今日性があるか、どうかだ。この作品の舞台は71年がメインではあるが、報道の自由、普天間基地の問題、検察による人権蹂躙といったことは、まさに「こんにち」の問題である。

  • 1〜3までは秀逸。ただ最終巻でだれたのがちょっといただけない。

    国家機密とそれを報道する記者の権利を描いた素晴らしい小説。色々友人に感想を聞いてみたい。

  • 「密約」をめぐる二人の女流作家の闘い【赤松正雄の読書録ブログ】

     山崎豊子さんが今年の毎日出版文化賞特別賞を受賞され、病を患っておられるのに授賞式に出られたとの記事に先日出会った。日航機墜落事故に題材をとった彼女の『沈まぬ太陽』が映画化され、外務省機密漏洩事件の小説化で今話題の『運命の人』を読むにつけ、この人の底知れぬ取材力と構想力に改めて感服しているところだ。ただし、前者を読んだ際にも感じていたが、やはり往年の凄みが徐々に薄れてきているのではないかとの思いは捨て難い。西山記者の人物像がいまいち実在感を持って結ばれないし、沖縄に身を置かせるといった創造的アイデアもどこか浮き上がっているように思える。前三巻と四巻の主人公が同一人物とはどこか思えず、ちょっぴり割り切れぬ思いを持ってしまったのは私だけだろうか。

     比較する思いも多少あって、澤地久枝『密約 外務省機密漏洩事件』―約30年前に出版された著者の実質的な処女作と言えるこの本を、まことに遅ればせながら読んでみた。心底から圧倒された。ジャーナリストに憧れ、その真似事をしてきた(昭和44年から18年間)人間として、また政治家の端くれ(平成5年から16年間)として沖縄をめぐる「密約」問題に強い関心を持つ私として、二重、三重の意味で深く考えさせられた。

     時あたかも、この裁判にあって徹して「密約」を否定してきた吉野文六外務省アメリカ局長(当時)が一転、それを認める発言を法廷で行ったとの報道に接して、感慨はいやがうえにも高まる。この本で澤地さんは「政府の対米『密約』と男女関係との比重の倒錯、本質のすりかえを初心者らしいしつこさで追求した」と述べている。なるほどしつこさは並みではない。

     核の存在を「必要悪」と認め、「核抑止論」を擁護し、日米同盟のありようを現実的国際政治観から肯定してきた立場からは、澤地さんの『密約』後の論述はまことに手厳しい。三年前に書かれた「沈黙をとく」と題するあとがきの冒頭でも、自衛隊のイラク出動を憲法違反といい、自衛隊法改正により海外任務を認めることや、防衛庁の省格上げを否定的にとらえられている。このあたり山崎さんの本と似て非なるものだが、僅かながら違和感を持つ。国際政治における理想主義と現実主義と。「密約」という名のもとでの政府の公然たる嘘には怒りを覚えつつ、若き日から切り結んできたテーマが改めて胸を去来する。

  • 外務省公電漏洩事件を題材に小説化された作品。
    本作の主人公の肥大化したエリート意識(政治部キャップ)や傲慢さも垣間見えつつも、国民の信託を受けて機能すべき政府が、国民を欺いているときに、説明責任をどう取らせるか? 

    個人的には、記者の傲慢なプライドがどうも鼻につく。
    国民からバッシングを受けたのも、感情的には理解できるが・・・

  • レビューを書いていなかった。
    星は読んだ時に付けている。

    今、あらすじを読んでも全く内容を思い出せないが、星を4つ付けているからたぶん面白かったのだろうな。
    しかし、2巻で星が2つになっていて、その先の巻に進んでいない自分…。

    今から再読するにはもう時代が古過ぎて、ついていくことができないだろうと思う。

    山崎豊子氏の「沈まぬ太陽」も、何度かトライし直しても3巻止まり…。
    凄い作家さんなんだけど、もう私に読む気力が無い。
    ごめんなさい。

  • 仕事をしていて、ある情報が必要になったとします。しかし、その情報が掲載されているサイトはアクセス制限が課せられており、会社の端末では閲覧できません。個人の有するPC端末を使いたいところですが、持ち込み禁止です。そこで、PCサイトブラウザ機能のついた携帯電話を使います。携帯電話は持ち込み可能です。これで、所望の情報を手にすることができます。本書で取り立たされていた国家規模の情報でない限り、現在の情報化社会では携帯端末によりたいていの情報は入手可能です。

    では、組織としては情報規制のため携帯電話等の端末の持ち込みを禁止するのでしょうか。携帯電話にしても、ブラウザ機能が付いているものと付いていないものがあります。「付いているものだけ持ち込み禁止」等という七面倒なことはせずに、「まとめて全部禁止」となるのがオチでしょう。ネット音痴な年配者に決定権がある場合は、端末の持ち込み禁止に拍車がかかりそうです。

    組織との雇用契約があるので、憲法のように「知る権利」を掲げることは難しいかもしれません。しかし、情報化社会では、「知る者」と「知らない者」との成果の差は残酷なまでに反映されます。それでも、情報は規制されるべきものでしょうか。決定する「権利」のある方々には、組織を繁栄させる「義務」を履行すべく、「どこまで情報は開示し規制されるべきか」について真摯に考えて頂きたいものです。

  • 政治がらみの新聞記者の物語

  • 沖縄返還に伴う政府の裏取引を暴いた新聞記者が国から裁判を起こされ最後には敗訴する。記者の家庭は崩れ、一人失意のうちに沖縄に移り住む。そこで沖縄の人々の味わった苦しみの歴史を知り、それを人々に知らせるべくまた立ち上がる。今も沖縄が抱えている基地問題の深刻さを知ることができる。

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著者プロフィール

山崎 豊子(やまざき とよこ)
1924年1月2日 - 2013年9月29日
大阪府生まれの小説家。本名、杉本豊子(すぎもと とよこ)。 旧制女専を卒業後、毎日新聞社入社、学芸部で井上靖の薫陶を受けた。入社後に小説も書き、『暖簾』を刊行し作家デビュー。映画・ドラマ化され、大人気に。そして『花のれん』で第39回直木賞受賞し、新聞社を退職し専業作家となる。代表作に『白い巨塔』『華麗なる一族』『沈まぬ太陽』など。多くの作品が映画化・ドラマ化されており、2019年5月にも『白い巨塔』が岡田准一主演で連続TVドラマ化が決まった。

山崎豊子の作品

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