この気持ちいったい何語だったらつうじるの? (よりみちパン!セ 48)

著者 :
  • 理論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (225ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784652078488

感想・レビュー・書評

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  • 著者のことが気になっていたら、中学生向きの本があったので読んでみた。
    文章自体に難しいところはないし、ほとんどの漢字にルビが振ってあるので、子どもが「読めない」ということはない。
    が、「わかった?」ときかれても、多分子どもは「よくわからない」となってしまいそう。読めても読み取れない文章なのである。
    むしろ間に挟まれているマンガ(著者自身が描いたもの)がよほどわかりやすい。言葉がほとんどないマンガの方がストレートに胸に迫り、文章の方がわかりにくいというのは、この本のタイトルをよく表しているのかもしれない。

    子どもはホロコーストは知っていても、その後のイスラエル・パレスチナ問題や911前後の世界の状況を知らないのに、この本では何の説明もない。大人なら911の衝撃は昨日のことのように感じるし、イスラエル・パレスチナ問題がいかに解決が難しいか、その過程も含めて知っているけれど、中学生は911のとき生まれていないのである。「トロイの側から語る」と言われても、子どもはトロイア戦争を知らないのである。ベツレヘムがどんな土地か知らないのである。
    (もちろん知っている子どももいるけど、少数派)
    これは著者のせいではなく、中学生向けに作っているのに解説を足さない出版社側の問題である。

    読んでみて、ああ純文学の文章だな、と思った。
    理路整然とか、序論本論結論みたいなものを求めてはいけないのである。そう考えて読めば、心を打ついい本である。

  • 外国にて、伝えたいことをどう言うかわからなくて苦しい思いをした後、日本に帰ってきてから何でも伝えられるような気がしたのに、
    日本でずっといると、また、自分の日本語のセンスのなさにうんざりして話すことを諦めてしまう自分を反省

    最低限の「伝えたい」「伝えなきゃ」と思ったことだけは、頑張って、言葉かなにかで、表現していきたい

  • 語り口がやや感傷的。

    紹介されていたマフムード・ダルウィーシュの詩集『壁に描く』を読んでみたい。

  • 言葉と戦争、翻訳の可能性と不可能性。そして(ことばの)帝国主義。

    ある種のナイーブさは、ちょっと前のポストコロニアリズムあたりの言説を彷彿とさせた。きらいじゃないけど、ちょっと古いかも。

    エスペラントについての記述が興味深かった。

  • 思いが通じない時、いつも思う。
    どうしたら通じるの、と。

    戦争や紛争のニュースをみる度に思う。
    知らない、分からない、その恐怖がなくなったら、と。

    言葉は違っても、同じ人間だよ。
    ご飯食べて、生活があって、夜になれば寝るし、
    好きな人や大切な人がそれぞれにいて…

    この思い、どうやったら書き表せるのだろう?

  • このタイトル、すごくすきだ。

    たぶん、この混沌とした矛盾だらけハイクオリティーを貪欲に求め続ける資本主義社会、現金と物とやっぱり現金をたえず回し続けるこの社会、世の中、で生きている私達はこういう答えがでるはずもない、一つの細胞がおそろしいスピードで細胞分裂していくみたいにどんどん増殖していく類の問題にずっと迷う時間や機会がたくさんあって大変になってしまうけど、こういう事を馬鹿みたいにつきつめて考えるのはすごく大事なことだと私はおもいます。

    ルビがふってあるので、思春期ど真ん中の中高生におすすめ。
    もう中高生ではなく、自分の身体に責任という言葉も見え隠れしてきて焦っている今日この頃、の私には少し物足りなかったかも。

  • 理論社のよりみちパン!セのシリーズの挿画・装画は100%ORANGEがほとんどだが、この本はちょっと印象が違った。あ~パン!セや~と、図書館でぴらぴらとめくると、見慣れない絵のマンガが巻頭にある。

    誰の絵やろ~?と思ったら、著者の小林さんの絵だった。借りてきてからしばらく積んでいたが、巻頭の、ほとんど字のないマンガ(ときどき出てくるのは「この 気持ち」という字)を全部めくって、字のページになったら、タイトルから私がなんとなく想像していたのと、ちょっと違っていた。

    「言葉なんてなんにもいらなくて、心がつうじたらいいのに」と思ったこともあるという小林さんは、「けれど、言葉があるから、わたしたちは、千年前の人の作った歌を、地球の反対側に住む人の詩を、読むことができる」とも書く。

    それは、何語だったらつうじるのか?
    『ガザ』の本や、『ウシがゆく』を読んだりしたあとだけに、戦争、パレスチナ、ガザ、沖縄、島クトゥバ…と出てくる本にぐっと引きつけられる。エスペラントや岩手のことが出てくるところにも、大きな地震のあとだけに、この地名の場所はどうなっているのだろうと思わされる。岩手の「銀河ドリームライン」の各駅には、エスペラントでそれぞれもう一つの名がつけられているという。

    この本のなかには、映画や本がいろいろと引かれていて、『エクソフォニー 母語の外へ出る旅』とか、巻末にリストされているそれらの作品も読んでみたいと思った。

    (4/29一読、5/5再読)

  • アフガンやイランの空爆、独立運動などについて、世界中で起こっている戦争について、消化できない思いを絵や言葉にした一冊。
    気持ちは伝わってきます。
    ただ、文章としては観念すぎる気がしました。
    自分の感情を、言葉に変換した段階のままで、それを万人の読者に受け取りやすい形で伝える、という段階ではないように思います。

    エスペラント語を習い始めているという著者。
    言葉の多様性の持つ隙間に気付き、なんとかそれを埋められないかと、世界共通語を学び始めたという彼女の動機には納得できます。
    なぜ世界の言葉が共通しないのか、という疑問は、一度は抱くべきものでしょう。

    ただ、多言語であるメリットも世の中には数多く存在します。
    長所については記されておらず、言葉が通じない悲しみだけをつづっているのは、バランスに欠けるように感じます。

    10代までなら、戦争について身近に感じられ、わかりやすく読めるのかもしれませんが、それ以上の年代が読むと、多分に主観的で具体性に欠け、詩ともエッセイともつかない、涙を含んだ不確定な文章のように感じられるようにも思います。

    この本は、大地震前に読みましたが、今となっては、日本人が打ちひしがれているのは、遠い国の戦争ではなく、目の前の自然災害。
    こういった類の本は、読む側の状況によって受け取られ方が変わるため、今となっては著者の思いとは違う方へととらえ方が変わりそうな気もします。

  • 私たちは普段、当然のように標準語の日本語を使っている。でも世界には日本語以外の言語がたくさんあるわけで、その言語が違っているだけで起こる不幸というのが、あったりする。今使っているこの言葉を見つめなおしたくなる。

    放課後の図書館で一気読み。これは再読しなければ。

  • エスペラント―――希望する人。

    言語、宗教はやはり興味深い。

    「すべての人が幸せにならない限り、個人の本当の幸せはありえない」

    真実だと思う。

    私たちはいつになったら‥



    簡単なことじゃない。

    けど私もエスペラントとして生きていたいと思った。

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著者プロフィール

小林 エリカ(こばやし・えりか):目に見えない物、時間や歴史、家族や記憶、場所の痕跡から着想を得た作品を手掛ける。著書は小説『トリニティ・トリニティ・トリニティ』『マダム・キュリーと朝食を』(共に集英社)、『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社)、コミックに“放射能”の歴史を辿る『光の子ども 1-3』(リトル・モア)、絵本に『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店)他。私的なナラティブと社会のリアリティーの狭間を追体験するようなインスタレーション作品も国内外で発表し、主な展覧会は個展「野鳥の森 1F」(Yutaka Kikutake Gallery) 、「りんご前線 ? Hirosaki Encounters」(弘前れんが倉庫美術館)、「話しているのは誰? 現代美術に潜む文学」(国立新美術館)他。近年は、音楽家の寺尾紗穂とかつての歌を甦らせる音楽朗読劇シリーズ「女の子たち風船爆弾をつくる Girls, Making Paper Balloon Bombs」の脚本も手がけている。

「2024年 『彼女たちの戦争 嵐の中のささやきよ!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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