瀬戸内寂聴・永田洋子往復書簡: 愛と命の淵に (福武文庫 せ 202)

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  • Amazon.co.jp ・本 (405ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828832708

感想・レビュー・書評

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  • 永田洋子という人のことをよくは知らない。連合赤軍の女リーダーで、リンチ殺人の首謀者とされ、死刑判決を受けた人ということくらい。彼女は今でも許されざるべき女というようなレッテルで見られているようだけど、この本を読む限り、あまりそんな感じがしない。リンチ殺人の首謀者というと恐ろし気な感じがするけど、寂聴さんに書いた手紙の文面はかわいいような、幼いような感じで、こんな人がリンチ殺人を仕切れるものだろうかと思う。それに、寂聴さんに向けて書いた日記が本になることを知っているだろうに、ずいぶん無邪気であっけらかんとしていて、世間の心象を悪くするのもあまり頓着していない感じだ。そういう言動が許せないと思う人がいることも想像に難くないけど、判官びいきな自分としては、何だか悪く言えない気がしてくる。
    寂聴さんが、永田洋子のことを(どちらかというと、大人になりきっていないという意味合いで)子どものような人だと言っているんだけど、言い得て妙なのかなという感じがする。寂聴さんは、周囲に安易に影響されそうとも言っているんだけど、永田洋子ってそのとおりで、連合赤軍などで活動していた時期って、過ぎてみれば彼女にとって、自分が自分でないような時間だったのではないかと思う。寂聴さんが触れ、やはり永田洋子も共感を覚えていた様子のアングリマーラと永田洋子が重なる。
    修行僧だったアングリマーラは師の若妻の誘惑を断ったがために、若妻は夫にあることないこと吹き込み、嫉妬に駆られた師は彼に最大の修行として、人を百人殺し、その死者の指で首飾りを作ると修行が完成すると告げる。忠実な弟子だったアングリマーラは心を鬼にしてそれに従い、99人殺したところで現れた釈尊に気づかされ、以後は釈尊に仕え、過去を責める迫害に耐えながら「月のようにこの世を照らす人と生れかわりました」という話なんだけど、永田洋子も連合赤軍などの活動をしていた頃は、ただ盲目的にその思想(理屈)を信じきっていたんじゃないだろうか。
    だから、それが覚めて拘置所に入ってからは、あの頃の自分や周囲のことを考えて、自分なりの答えを出そうとし続けたんじゃないだろうか。死刑を受け入れず控訴を繰り返したことも、病気の治療を望んだことも納得がいく。自分で答えが出ないまま、死ぬだけで償えるかという気持ちがあったんじゃないだろうか。
    そもそもああいう事件が起きてしまったことも、時代の流れのなかの不幸な出来事という気がする。「活動」で山小屋にこもっていた頃、仲間の女性が持ってきていたワンピースを前にして「私たちは『わぁーステキなワンピース』ということをごくひかえ目にしか話せませんでした。金子さんも『母がこんなワンピースをつくってくれた。もったいない』という風にいってました。私たちはステキなものをステキと話せればどんなによかったかと思います。」と永田洋子が書いているんだけど、翻って、そんな窮乏生活が今の若者にできるだろうか。親の世代や自分たちが子どもの頃の貧しく、つましく暮らした時代を知っているから、窮乏生活に耐えられた……というか、耐えようとしてしまったんだろう。そのやせがまん、心とうらはらの我慢で互いを縛り合うような関係の行き着く先があの事件だったようにも思える。
    それと彼女がこれだけ世間の注目を浴び、責められたのも「彼女」だったからのような気がしてならない。「彼」でなくね。だって、そうでなくてこんな判決文(一審)ありだろうか。
    「被告人永田は、自己顕示欲が旺盛で、感情的、攻撃的な性格とともに強い猜疑心、嫉妬心を有し、これに女性特有の執拗さ、底意地の悪さ、冷酷な加虐趣味が加わり、その資質に多くの問題を蔵していた」なんて。こんな言葉で裁かれるとしたら、司法っていったい何なんだろう。
    この本で読むかぎり、連合赤軍の活動だって「革命」を目指しておきながら、決して男女平等や同権なんて根付くどころか、目指されてさえいない。結局、男たちが自分たちの論理で盛り上がって、女たちには追従の立場に抑え込んでいるように思える。男たちにコビ売って「女の武器を使ったから自己批判せよ」みたいなこともあったようだけど、女の武器なんてものが出てくること自体が、男論理で回ってる証拠なのにね。そこでのリーダーってどれほどの立場だったんだろう。
    かくかくしかじか、こういうわけで永田洋子を悪く思えない。横道にそれるようだけど、永田洋子によれば、田中角栄が拘置所にいたときだけ、それまでなかった高額の弁当が買えるようになっていたとか、夏にお決まりのスイカでなく桃が出たとか。そんな小賢しい体制にいいようにされてしまったような気がする。

  • 僧侶の瀬戸内寂聴と永田洋子の私的な手紙のやり取りをまとめたもの。

    瀬戸内寂聴は永田洋子を「幼い、無邪気」と評したらしいが、この本に載っている彼女の文章を読んだ私も同じ印象を受けた。
    素朴でどちらかといえば好感が持てる感じの文体。
    この文章と「同志殺害の悪女」のイメージはあまり結び付かないなあと思いながら読んだ。

    こうゆう文章を書く人があれだけ残酷な事件を起こしたという事が本当に不思議。

  • 図書館の本

    学生運動ってなに?
    連合赤軍って?
    あさま山荘事件って?
    その疑問を持って最初に覚えた名前が永田洋子でした。

    瀬戸内寂聴がなにを考え、彼女と交流をしたのか知りたくて読みました。

    人は人を殺してはならない。
    人は人を殺させてはいけない。

    だとしても彼女の擁護はわたしは無理かなぁと思いながら読みました。
    永田洋子の著書を読んでみようと思っていたのですが、躊躇する。

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著者プロフィール

1922年、徳島県生まれ。東京女子大学卒業。63年『夏の終り』で女流文学賞、92年『花に問え』で谷崎純一郎賞、11年『風景』で泉鏡花賞を受賞。2006年、文化勲章を受章。2021年11月、逝去。

「2022年 『瀬戸内寂聴 初期自選エッセイ 美麗ケース入りセット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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