ユリイカ(EUREKA) [DVD]

監督 : 青山真治 
出演 : 役所広司  宮崎あおい  宮崎将  斉藤陽一郎  国生さゆり  光石研  利重剛  松重豊 
  • KADOKAWA メディアファクトリー
3.67
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感想 : 50
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4935228994755

感想・レビュー・書評

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  • この映画の最大の魅力は役所広司の演じる主人公そのもの。
    この人であれば、ずっと見つづけていたいと思う。4時間弱という長すぎる映画を成立させたのは、この人が演じたからこそ。(私は基本的に1時間半くらいにまとめる映画監督が好きです。)

    バスジャックによるトラウマを受けた人たちの再生の映画。とのことだが、私はあまり「再生」の部分には共感できなかった。

    映画の質として、映画そのものとして非常に力があるのはわかる。だが、ストーリーに感覚的に寄りそえない部分がある。

    若い女性が連続で殺されるという内容が、題材の深刻さの割に、あまりに軽く扱われすぎているのではないかと思う。
    淡々と、クールに深い事を表現する。社会に対する違和感、すれ違いを描くこと。善悪を超越した業を、社会性から外れた痛みを描くこと。
    その表現手段としてこのストーリーはあるだろうし、色々な深読みができるようになっていると思う。
    それは芸術として重要だと思うが、やはり連続殺人に対して、演出の側面以上には理解できない。

    バンドエイドをはがして、膿んだ傷口をわざわざ見せつけられたような、そんな気分がする。そのバンドエイドはそのままにしたままで、下にある傷口を想像させて欲しいと思う。

    青山監督の若さ、自意識の強さが出てしまっている気がする。

    ドストエフスキーの「悪霊」を、悪魔的な行為を、関連して思い出した。が、あの小説における、主人公の虚無性、悪意は、ナルシスティックな主人公、弱さと強さ、その人間性の描出により、ある意味、納得感(?)があった。
    この映画の場合は、突然、答え(真犯人)がスッと突きつけられ、犯人に対する言及はあまりされないまま。そこから駆け足で、ストーリーが都合よく収束していく。
    その犯人に対する対応があまりにも薄く強引で、単調である。
    「傷ついた被害者だからこそ」、「トラウマがあるからこそ」という免罪符により、ストーリー自体がずいずい作り手の導く方向へ進む印象がある。ここにストーリーのもろさがあるのではないだろうか。
    ある意味バスジャックのくだりが説明されていることで、「な、俺たち傷ついているんだから、そうなっちゃうだろ、しょうがないだろ」と言い訳されているようで。

    また、斉藤陽一郎演じる明彦が、前半はいい味だしていて、狂言回しとしての役割があったのだが、最後の怒涛のストーリー展開の中で、なぜか切り捨てられてしまう。
    映画に何度もでてくる食事のシーンにより、仮想の家族のような関係になっていることを暗示していたんだが、あっさりと、簡単に関係性が崩れ去ってしまう。
    その関係性がくずれさった後に世界に色がつくということに、理解ができない部分がある。

    尚、何となく共通点があるのではと感じた映画は以下。
    ・「ストーカー」タルコフスキー 
     → 色が少なめの場面や、1シーンの長さなど
    ・「ダウン・バイ・ロー」ジムジャームッシュ 
     → あまりしゃべらない、白黒、ロードムービー。

  • 日本映画チャンネルで視聴。

    青山真治の北九州サーガ3部作の1つ、宮﨑あおいのほぼデビュー作。
    脇も光石研、でんでん、尾野真千子、利重剛。西鉄バスジャック事件をモチーフに、テロと向き合い、トラウマからの再生を描く。

    などという紹介はいいとして、この3時間半を超えるモノクロ映像はザラザラした映画の空気感を否応なく観る者に突きつける。わずか10年余りで、このような映画はスクリーンから消えてしまった気がする。沢井と梢が色と声を取り戻す旅の終着地は、昨年僕も行った阿蘇山の大観峰。この空撮はなかなかの迫力。正直、今初めて見ても、役所広司の演技を含めたこのヒリヒリした感じは当時見るよりインパクト半減じゃないかなあ。当時(自分の学生時代)を思い出しながら見るのが正しい見方だな。オーディション、HYSTERIC, バレットバレエ、顔、バトルロワイヤル、ピストルオペラ・・・改めて時代の変化を感じた次第。
    でも、「共喰い」は楽しみ。

  • 宮崎あおいがランドセル背負ってる!!という新鮮な驚きから始まり、彼女の存在の奇跡に感嘆しつづけた3時間半だった。
    「癒し」とか「再生」とかありきたりなキャッチフレーズに落とし込めないものをこそ映像で表現するのが映画なんだなあと確信できる圧倒的な体験ができた。だから、私もこの映画を観て湧き上がったさまざまな感情を言語化する必要はない。以下、備忘録。

    *技術的なことは知らないけど、これはモノクロというのだろうか、なぜか観ているあいだ、色がないことをほとんど意識しなかった。でも、終わってみれば、この色じゃなければ描けなかった世界なのだと思った。
    *日本にもあんなに凄い景色があることに驚いた。実はまだ九州訪れたことがなく、憧れが募った。
    *『Helpless』に続き、光石研がこの映画でもいい味出していた。「しげちゃん」「まこちゃん」と呼び合う(多分)幼なじみのなんとも言えない関係。ちょっと無垢でナイーブすぎる気がしないでもないけど、よかった。
    *でんでん、疑ってごめん。

  • 文句なく糞映画。
    唐突で脈絡のないギクシャクした、それでいて起伏のないストーリー。陳腐で無駄に長い。
    前衛映画を模した素人映画なのでした。

  • 久しぶりにかなりヒットしたと思う。

    かつて大きな傷を負った地にあえて降り立ち、ここからリスタートだと言うシーン、
    バスでの旅の中、不安で眠れない夜に、壁をノックし合うシーン、
    狂気に取り憑かれてしまった兄の「海を見ろ」という内なる声、
    ラストカット(ここだけ映像のコントラストが高い) 、
    響く部分が沢山あった。
    上映時間はかなり長いけど、ワンシーンにかけられてる時間は短く、さくさく進んでいく印象。飽きずに観れた。
    全体のバランスも良く、本当にいい映画だった。

  • 3時間半という長いストーリーながら、一瞬も目を離すことが出来ない、緊張と静けさ。

    物語の核となる梢と直樹がほぼ言葉を発することもなく、だからこそ人間の内面をあぶり出すような、詩的な表現となっている。

    兄弟と主人公の沢井は同じトラウマを抱えながら、癒えることのない苦しみを互いに無言で見つめあって肩を寄せ合う。

    目の前で人が殺されることの恐怖は私には想像すらできない。
    ただ、人が殺されることも、自分が人を殺すのもじつは背中合わせであり、直樹の持つ狂気は、実は梢や沢井が持つやもしれなかった狂気であり、それを代わりに請け負ったようにも見受けられた。

    普通に生きていくことが出来ない自分に気が付いた時、沢井は梢や直樹のために生きること。そして、梢は直樹がこの先見ることの出来ない景色を見続けることで意味を見出した。


    非常に長いロードムービーながらもこの長さだからこその彼らの背負う悲しみの重みをずっしりと、感じることのできる映画だったと思う。

  • 長い映画でしたが最後まで興味が途切れることなく
    しっかりと引っ張ってくれました。
    ひっそりとした空気が緊張を高めているように感じました。

    日常が何の前ぶれもなく恐怖のどん底に突き落とされる。
    その事件によって全てが変えられてしまった・・・。

    事件のトラウマ。
    被害者なのに責め苦を味わう。
    日常にもどれない。
    当たり前の価値観を持てない。
    口を開かなくなる。

    役所演ずる誠さんの予想のつかない
    行動が物語の求心力になっていました。

    チャラチャラした親戚のお兄ちゃんは
    「世間」の声の代弁者に感じました。
    この三人に降りかかる心無い興味本位の好奇の目。

    一方友達の茂ちゃんは閉鎖的で建前を重んじる田舎の姿。
    表向きはニコニコ、裏では辛らつ。
    東京の匂いに拒否反応。

    まだ一回しか見ていないので詩的な結末に
    何と受け取っていいのか混沌としている感じです。

    独特の雰囲気をかもし出す秀作でした。

  • 結構評価は高いみたいですが、
    かなりの通でないと
    楽しめない。

    エンターテインメントより芸術性。
    面白くは無い。

  • ラストは鳥肌が立ちました。

  • 長い長い映画。物理的にも心理的にも。
    画像の色も セピア色かかって・・・
    セリフも ほとんど削り落とされて・・・・
    直裁 なセリフがはいる。

    無表情なサラリーマンが バスジャック。
    6人も殺し・・・最後は警察(松重豊)に射殺される。
    理由や動機などはわからない・・・
    この過激な事件が・・・・

    運転手 役所広司 
    直樹(宮崎将)梢(宮崎あおい)の兄弟。
    実際に この兄弟は 実の兄弟。
    事件は 三人の心に 
    大きな衝撃を与え、破壊されるほどに。

    直樹・梢兄弟の母親は 家出し・・・
    父親は 交通事故死・・・保険金が入って。
    二人は 学校にも行かずに 家に閉じこもる。

    役所広司は バスの運転手をやめ
    放浪の旅に出て 2年後に家に戻ってくる。
    そのころ 殺人事件がおきていて・・・
    嫌疑をかけられる 役所広司。

    釈放されたら・・・・2人の兄弟の住む家に
    一緒に住むことに・・・・
    家は ごみだらけだった・・・
    2人の兄弟は 話すこともなく
    することもなく 時間が過ぎていく。

    そこに 22歳の親戚の青年秋彦(斉藤陽一郎)が
    心配して 入り込んでくる。
    4人の奇妙な生活が始まる・・・。

    深い深いところにもぐりこんだ彼らの心の叫びが・・・・
    浮かび上がっては 消え去る・・・・
    梢の純真な眼。直樹の苦しい表情。
    それに 暖かく降り注ぐ 役所広司の表情。
    しかし、役所広司の心の中の痛手は・・・・・。

    シャベルカーを使うときに ふと変化する役所広司の顔。
    別のバスに乗りたい・・・・といって、
    中古のバスを買い みんなで旅行を・・・。

    旅行先でも 殺人事件が起こる。
    そして・・・。

    理由なき殺人 動機なき殺人 といわれる現代で
    動機とは なんなのか?
    を映像で見せ付ける・・・・

    そして 秋彦が・・・
    『一線を越えてしまったら隔離した方が
    周りにとっても本人にとっても幸せなんだよ』
    と いう 言葉に 怒る 役所広司。

    重い重い 物語。
    映画に 身体を押さえつけられる感じを受けたのは
    初めてのことだった・・・

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著者プロフィール

1964年7月13日、福岡県北九州市門司に生まれる。立教大学英米文学科卒。
1996年『Helpless』で劇場映画監督デビュー。2000年『EUREKA』がカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞とエキュメニック賞をW受賞。同作の小説版が三島由紀夫賞を受賞。2011年『東京公園』でロカルノ国際映画祭金豹賞審査員特別賞受賞。2015年度まで4年間、多摩美術大学映像演劇学科教授。2016年度、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映画学科の学科長を1年のみ務める。2020年公開の『空に住む』が遺作となった。2022年3月21日逝去。

「2023年 『青山真治クロニクルズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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