今回の本を出版するきっかけを教えてください。
直接のきっかけは去年Twitter上で今回の出版元であるディスカヴァー・トゥエンティワンの干場社長(@hoshibay)に「電子書籍についての本を書きませんか」と声をかけられたことですね。
何千年も変わっていない、「読む」という行為や「書籍」「出版」という文化が、電子書籍化されることによって私たちの生活にどんなインパクトを与えるのだろう、ということが僕自身も気になっていたので、お受けすることにしました。
電子化されることにより出版はどう変わってくるでしょうか。
電子書籍化することにより、コストをかけずに本を出版できるようになるので、根本的な出版業界の構造は変わると思います。
電子書籍の行先を見るには、音楽業界がここ10年ほどで辿った道を見るべきだと考えています。音楽業界はiPodやiTunesがでてきて、音楽が電子化されることにより業界構造が全く変わってしまいました。音楽業界は「360度契約化」と「スモールビジネス化」という大きな変化を遂げました。まず「360度契約化」というのは、今やCDが売れなくなってしまったので、コンサートや副次的なコンテンツ・写真集やグッズといったもの全てを包括的にマネージメントして、その手数料で収益を得るというビジネス方式です。マドンナがワーナー・ミュージック・グループとの契約を解消して、コンサート運営大手ライブ・ネーションと契約したのが典型的な例ですね。
もう一つの「スモールビジネス化」は、新人バンドか歌手に対して、最初からミリオンセラーを狙って膨大な広告費などは掛けずに小さな会社で売れるように育て、
売れてきたらメジャーレーベルに格上げして、さらに売れるように資金を投入してプロモーションするという方法です。
出版に関しても360度化が進み、書き手も単に本を書いて売っていくというだけでは成り立たなくなってくるかもしれません。
著者自身が読者との繋がりを持ちソーシャルな権益を積み上げて、本だけじゃなく色んな方法でマネタイズしていくことが大切ですね。
僕もかつては、たくさん講演をするとタレント化するからやめた方がいい、などとも言われたこともありましたが、今は積極的にやるようにしています。
講演で話して、本も書き、ウェブ上でもメールマガジンを始めたりと色々な方向で包括的なマネタイズができるようになるんじゃないかと思います。
そういうことができない人は、信頼できる校正者、マーケッターとしての才能がある編集者などと手を組んで、レベニューシェアをしていけばいいと思います。
これが出版業界における「スモールビジネス化」です。
あとは、iPadやKindleももちろん気になりますが、それよりももしかしたらiPhone専用アプリを作ってしまった方がいいという意見も多いんですよね。
特に絵本などはギミックなどを考えるとiPhoneアプリの方が、おそらくiPadや現状のKindleなどよりも可能性が広がります。
そうなってくると、プログラマーやデザイナーともチームを組む必要が出てきますね。現状の出版業界ですと著者に入ってくる印税は10%程度ですが、
個人が自由に電子書籍を売ることのできるサービス「Amazon Digital Text Platform」をAmazonが提供したことで、60〜70%程度が著者に入るようになった。その印税をチームでシェアするというビジネスが今後生まれるのではないでしょうか。
電子化されても作家という職業はなくならないのでしょうか?
書籍が電子化されて、過去の本も現在の本も同様に扱われるようになれば、新しい本がいらなくなると言えます。
たとえばインターネットがこれからどうなるとか、今起きていることを残すための本はもちろん必要ですが、恋愛小説のようなものは田辺聖子で十分じゃないかと考える人も出てくるんじゃないかということです。
古本屋や往来堂書店、丸善の松丸本舗などに行くと、実に知らない古い本がたくさんある。
読んでない本は膨大にあるのに、今の書店のシステムでは読みきれないですし、書籍そのものが絶版になってしまえばもう読むことすらできません。
これが電子化されると、絶版はほとんどありません。これはプロの作家にとっては大変なことですよね。
現在の出版界、特に純文学などのジャンルでは、売れないけれど文化的に価値があるという理由で、
出版社の余剰の富をもって作家を抱えるというシステムが出来上がっていますが、そのシステムがなくなる可能性があるわけです。
現代アートの世界ではすでにお金持ちのお抱え画家というシステムがなくなり、今では現代アートを続けるために大学の先生をしたり、
副業や趣味レベルで細々と続けたりという状況になっています。おそらく文学も少なからずそういう状況にはなるでしょう。
玉石混交が予想される電子書籍では、本を選ぶのが大変になりそうですね
確かに本がたくさん出版されるようになれば、選ぶのは大変になりますね。
ここで大切になってくるのは本のパッケージではなくて、コンテキストの部分だと思います。
パッケージというのは、平積みの台の位置だったり、著者の名前だったり、装丁そのものであったり、あるいは取次がどのくらい扱ってくれるかなどの属性的なものを指します。
今の出版業界ではこのパッケージの部分が強い。それに対してコンテキストは、なぜその本が面白いのか、なぜあなたのために役に立つのか、というといういわゆる内容の部分です。
電子書籍の中ではコンテキストの部分こそが重要であるのに、現状本のECのサイトではコンテキストの流通ができてないですし、
たぶん販売サイトそのものでコンテキストの部分を実現するのは難しいんじゃないかなと思います。
今後、コンテキストはソーシャルメディアの中で流通していくと思います。
たとえば、ブログで「起業を考える人が読む5冊」といった記事をたくさん見かけますが、ああいうものが典型的なコンテキストリーディングですね。
たとえばTwitterで僕が、この本はマスコミがどうのこうので……と自著についてつぶやけば、
その本は「佐々木俊尚がメディアについて考えているおすすめ本」として紹介されたりもするでしょう。
こういうコンテキストの部分は、それこそ「ブクログ」などのブックレビューサイトでうまく補完していけばいいのだと思います。
佐々木 俊尚 (ささき としなお)1988年毎日新聞社に入社。記者として視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。その後、1999年『月刊アスキー』の編集部デスクとなる。2003年に退職をした後は、フリージャーナリストとして主にIT分野やメディア業界についての取材をしている。 主な著書 仕事するのにオフィスはいらない(2009) / 2011年新聞・テレビ消滅(2009) / 次世代ウェブ グーグルの次のモデル(2007) ネットvs.リアルの衝突―誰がウェブ2.0を制するか(2006) / グーグル ―Google 既存のビジネスを破壊する(2006) |