封建社会

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (649ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000020923

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  • 『 フランス農村史の基本性格 』とともにマルク・ブロックの代表作であり、アナール学派第一世代の金字塔である。随所で日欧の封建制が対比されているのも興味深い。ブロックはイスラム、マジャール、ノルマンといった外敵のヨーロッパへの侵入から本書を書き起こしているが、それがもたらした混乱が血族に依存しない社会的紐帯の形成を余儀なくさせ、土地を媒介(恩貸地制)とした主従関係(家臣制)を特色とする封建制の発展を促したとしている。ただ、ここでブロックが強調するのは、外敵からの影響がその後長きにわたって遮断されたことが、封建制の定着にとって決定的に重要であるという点だ。そしてこの条件が満たされたのが西欧と日本のみであるとの指摘は示唆的である。

    日本に関してブロックが依拠したのは福田徳三や朝河貫一の欧文の研究だが、O・ヒンツェ、E・ライシャワー、梅棹忠夫など、封建制について日欧の共通性を指摘する文献は多い(もっともブロックはヒンツェの封建制論を酷評したらしく、福田の研究についても阿部謹也が方法論的・実証的観点から疑問を呈している。『 封建制の本質と拡大 』訳者あとがき 参照)。ライシャワーなどが主張するように、封建制下で培われた自治意識や法意識が近代化を容易にしたかどうかは議論のあるところだが、日欧の歴史にある種の並行現象が存在するのは確かであろう。ただ日本における主従関係は「ニ君にまみえず」と言われるように支配的・隷属的性格が強く、主君が信義に反すれば臣下が主従契約を破棄することもできた双務的な契約観念は西欧に固有のものだというブロックの指摘は重要である。

    ブロックは本書の書名を「封建制」ではなく「封建社会」とすることにこだわったという(二宮宏之『 マルク・ブロックを読む (岩波現代文庫) 』)。本書でとりわけ精彩を放つのは人々の集合心性についての記述だ。時間、数、文字などについて、中世人の「感じ方、考え方」を彼らの日常生活の襞に分け入って鮮やかに描き出している。吟遊詩人が朗誦した武勲詩に表現された彼らの人生観も興味が尽きない。ブロックが捉えようとしたのは、法制史や経済史からのアプローチでは汲み尽くせない制度の背景にある生きた人間であり、人間たちが営む社会の多面的な全体像だ。全体史としての社会史という歴史叙述の新しいスタイルを確立したことが本書の最大の貢献と言えるだろう。

  • BM2a

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著者プロフィール

1886-1944年。フランスの歴史家。リュシアン・フェーヴルとともに『社会経済史年報』誌を創刊し、アナール派を代表する人物。代表作に『封建社会』(1939-40年)、『歴史のための弁明』(1959年)など。

「2017年 『比較史の方法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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