村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝

著者 :
  • 岩波書店
3.76
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本棚登録 : 818
感想 : 87
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000022316

作品紹介・あらすじ

ほとばしる情熱、躍動する文体で迫る、人間・野枝。筆一本を武器に、結婚制度や社会道徳と対決した伊藤野枝。彼女が生涯をかけて燃やそうとしたものは何なのか。恋も、仕事も、わがまま上等。お金がなくても、なんとかなる。100年前を疾走した彼女が、現代の閉塞を打ち破る。

感想・レビュー・書評

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  • 名前くらいしか知らなかった伊藤野枝。
    著者の思いっきり主観でつっぱしる書きぶりに、思わず怯みそうにもなるが、とにかく疾走感はある。
    当時の女性にまつわるいろいろな論争を今読んでも、まだ問題は解決していないということを思い知らされるばかり。
    ただ、現代はもう、論争にすらならずあきらめの境地にあるような気さえする。
    著者は表記も独特で、ひらがなを多用するのだけれど……
    もうすこし、漢字でかいたほうがよみやすいのではとわたしはおもう。(←あえて)

  • 「愛国とノーサイド」読んでたら右翼の大物、頭山満がアナキストの大杉栄と伊藤野枝を援助していたエピソードが紹介されていて、これはずっと積読だった本書を開くチャンスとばかりに読みました。伊藤野枝の無政府主義という主張や甘粕大尉による悲惨な最期、さらには岩波書店という版元のイメージもあってヘビーな読書になりそうな予感がなかなか手に取らなかった原因なのですが、全く逆でポップでロックでノリノリな本でした。いや、こういうのはパンクと言えばいいのかな?なにしろ著者が野枝の生き様に完全にやられてしまっていて、サンテレビのタイガース戦のアナウンサーのように、一方的な応援団として主人公を応援しています。「あとがき」で原因が明かされる著者の熱情は置いておいても、伊藤野枝という人物のことは自分は何も知らなかったことを知りました。物凄いエネルギー。特にあの時代の女性としてあり得ないぐらいのイノベーターでありました。作り出したものは「思想」でも「製品」でもなく「生き方」なのですが。だから後世に伝わっていない、なにしろお墓も案内不詳の巨大な自然石なのです。資本主義前期の彼女の時代から時は流れ成熟資本主義の行き詰まり=息詰まり、を感じる今、伊藤野枝が朝の連続テレビ小説のヒロインになること、夢想したりしました。あり得ないけど。なにしろセックスを人間の交流の基本におくんだから。「正直に生きること」のカッコよさに痺れました。忖度時代の必読書?

  • 思春期の頃の私のアイドル、伊藤野枝。こんな風には生きられないよね、やっぱり、となって遠ざかってしまったけれど、これを読んだら、当時の自分が、なんで彼女をかっこいいと思っていたのか、思い出した。青くさかったり、齟齬があったり、無茶があったり、多分そばにいたら仲良くはなれないだろうけど、自由への強い思いとか、心意気とか、行動力とか、ことごとく自分には見つけられないものが憧れだったんだな。
    著者の弾ける文章が、野枝の力強さを、ポップに、ロックに描いていて、その人生の終わりを知っているのに、その疾走感にわくわくした。
    彼女がもう少し長生きして、その思想を深めていくことができていたら、どんなことを語ってくれていただろう。惜しいとしか、言いようがない。

  • いゃあ 面白かった
    日本の歴史上の一人の烈女として
    描かれてしまうものが
    多い気がするのですが

    著者の栗原さんの
    飄々とした筆致が
    等身大の伊藤野枝さんを
    描きだされているのが
    とても魅力的です
    ※評伝には先ずみられないであろう
    随所に、挿入される筆者の形容詞句が
    なんとも素敵な効果を生み出しています

    この一冊が岩波書店から出されているのも
    また うれしいことのひとつです

  • 伊藤野枝をご存知でしょうか?

    何を隠そう私は知りませんでした。
    皆さんも知りませんよね。

    3人目の子供が女の子だったらのえという名前をつけようと決めていました。
    オアシスのノエルギャラガーにちなんで。

    なかなか被らない良い名前かと自負していたところ、私の周りで2人だけある女性の名前を口にしたのです。

    『のえって、大杉栄の愛人の?』

    知りません。
    なんなら大杉栄も知りません。
    すいません、不勉強で。

    その2人は、義理祖母と弟でした。
    2人の共通点は読書量の多さです。

    それにしても聞きづてならないのは、『愛人』という点です。愛する我が子の名が、誰かの愛人(歴史的愛人)の名と重なっているなんて!

    愛人のレッテルは強烈ですが、どういう経緯で?という事で、本を手に取りました。

    読んでわかったのは、愛人というレッテルは伊藤野枝の知性と先見性、行動力を疎むあまり、その存在の都合の悪さ故に、貼られたレッテルだったいう事です。

    著者がかなり伊藤野枝のことが好きなことが読んでいてわかりますが、そのおかげもあって私もかなり魅力的な人物だと感じました。

    確かに、本能のまま破天荒な人生を歩んでいる部分もありますが、言ってること、やってることはかなりまともだと思います。

    それも時代が今と全然違う、世の中の女性に対する考え方が今とは比べ物にならないくらい疎かにされている環境の中、その地位向上(←こんな表現すらないくらいの時代に)のために必要な発言をし、行動をする。喧嘩を売りまくる!

    彼女やその周りの仲間たちが作り上げたものが、その後の基礎になっているように感じます。

    関東大震災の混乱に乗じて暗殺されますが、やはりその先見性を疎まれ、怖がられていたのだと思います。

    死をも恐れず、女性の地位を、人権を、そして個の存在を主張し続けた、こんなロックな人は他になかなかいないかもしれない。

    我ながら良い名前をつけたものだ。

    愛人?
    アナキスト?
    ふん、なんとでも言いなさい、あなたがなんと言おうと、私はのえちゃんなのよ!!

  • 伊藤野枝については瀬戸内寂聴さんの「美は乱調にあり」「諧調は偽りなり」で読んで、その世間の一般常識など蹴散らして猪突猛進に自分の行きたい道を突き進む生き方に一時期夢中になり、ある意味憧れもした。なのでこの本の作者が心酔するが如く筆が躍る様に野枝の生き様を追う姿にとても共感した。ただ野枝の残した文のその思想を作者の言葉で噛み砕く箇所はとても分かりやすく説明されて納得し有り難い所と、余りに過激な言葉を選んで使っていて私にはちょっと腰が引ける所もあった。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    ほとばしる情熱、躍動する文体で迫る、人間・野枝。筆一本を武器に、結婚制度や社会道徳と対決した伊藤野枝。彼女が生涯をかけて燃やそうとしたものは何なのか。恋も、仕事も、わがまま上等。お金がなくても、なんとかなる。100年前を疾走した彼女が、現代の閉塞を打ち破る。

    誰だか分からない状態で読みましたが、猛烈な女性ですね、僕なら絶対一緒に居られないだろうなあ。文章だけでもバイタリティーが溢れまくっていて、魅力的だったんでしょうね。

  • これはまたえらく型破りな評伝だ。もう全面的に「伊藤野枝、サイコー。マジかっこいい!」というスタンスに貫かれている。こういうのもありだなあと面白く読んだ。

    この語り口は好き嫌いが分かれるだろうが、何と言うか、著者の「血肉から出ている」という感じがあって、本気度が伝わってくる。一面では、野枝の思想・行動を、自身の考えに引きつけすぎのようにも思うが、高見からあれこれ言ってるスタイルより私は好きだ。何より、読んでてオモロイ。

    カネがないのを絶望的に悲惨なことだと思い、お上に何とかしてもらおうとし、少し恩恵にあずかれば有り難がり、世間的な道徳を内面化して生きるのは、「奴隷根性」だ。そこから抜け出せ!と、著者は煽る。

    私は、政治思想や運動としてのアナキズムには賛同しかねるが、精神のありようとしては心ひかれるものがある。どんな高邁な思想を掲げていても、「組織」は必ず人間を疎外する。それでも、多くの人はそのどこかの末端で生きていかなくてはならない。伊藤野枝のように生きた人への反感も憧憬もそこから来るのだろう。

  • 伊藤野枝の激しい人生を、疾走感抜群に書き進めた感あり。

    ただ、他の方のレビューにあるように、筆者の入れ込みが凄まじすぎて、主観的な解釈が暴走している気もした。
    だからこそ、入り込みやすい人もいるのだろうけど、、、

    大杉栄と伊藤野枝の理想とするアナキシズム社会はあまりに自由で、個人の身勝手な欲望ばかりに視点が置かれて現実的ではないと感じてしまったが、そんな自分が型にはまった小さい人間だなぁ〜とも思った。笑

  • 自分に正直であるためにはわがままでなければならない。野枝、かっこ良すぎる

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に『大杉栄伝 ―― 永遠のアナキズム』(夜光社)、『はたらかないで、たらふく食べたい ――「生の負債」からの解放宣言』(タバブックス)、『村に火をつけ、白痴になれ ―― 伊藤野枝伝』(岩波書店)、『現代暴力論 ――「あばれる力」を取り戻す』(角川新書)、『死してなお踊れ ――一遍上人伝』(河出書房新社)、『菊とギロチン ―― やるならいましかねえ、いつだっていましかねえ』(タバブックス)、『何ものにも縛られないための政治学 ―― 権力の脱構成』(KADOKAWA)など。

「2018年 『狂い咲け、フリ-ダム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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