- Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
- / ISBN・EAN: 9784000025393
感想・レビュー・書評
-
EU企画展2023「EUの北と南スウェーデンとマルタにフォーカス!」 で展示していた図書です。
▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
https://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BA83988171詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
40年にわたってヨーロッパに駐在し、冷戦時代からベルリンの壁崩壊に至る20世紀後半の激動を目撃してきた国際ジャーナリスト・藤村信。
日本のマルクス研究者から批判され、東欧の秘密警察の監視下に置かれながらも、彼は精力的な取材と精緻な頭脳で、既に1970年代から〝ソ連帝国〟の崩壊を予見していた。
2006年に彼が82歳で世を去ったあと、彼自身の手で編集され「まえがき」まで用意された遺稿集が発見された。それが、自身が50年のジャーナリスト人生でもっとも知力充実していた時期と評する1989年から1992年の仕事をまとめた本書である。
ベルリンの壁崩壊を頂点とする東欧の「革命」が平和裏に進んだ背景には何があったのか。旧ソ連の権力闘争の本質と推移。思想家の資質をもった外交官たちの功績。ゴルバチョフが対峙していた困難。歴史の大変動を目撃していた藤村の眼は、冷静に本質を捉えているように思われる。
歴史が彼が早くに予見したとおりに動き、あるいは彼が本書執筆時に記した方向にその後の世界が進んだのは、彼が言語や歴史や宗教にも深い造詣をもったきわめて教養豊かなジャーナリストであった所以でもあろう。
当人が密かに自負していたとおり、本書は20世紀後半の歴史を検証する一級の資料である。
同時に、半世紀も前から世界を棲み家として孤高のジャーナリズムを貫き通してきた一人の男の生き様が、品格ある美しい文体の中に馥郁たる薫りをともなって、本書を手にする人生の後進たちに迫ってくるのである。