ドン・キホーテ 前篇(二) (ワイド版岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000073301

感想・レビュー・書評

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  • この世の喜怒哀楽、虚構と現実、世辞と皮肉、善と悪、そしてその曖昧さ。これらがすべてつまった哀しくて可笑しい人間ドラマ(茶番)だ。最高だ。

    わたしも全部、魔法使いのせいにしちゃおうかな。っておもったけど、むかしからそんなふうにおもってることがあったな、と思いかえす。ドン・キホーテ症候群。よくものがなくなるのは、妖精が隠しているからとか、なんとか。"なくなる"って、人のせいなのがまた症候群じみてる。じぶんがどこかへ無意識においたりなんかしたりして忘れてしまっただけなのに。
    どうでもいいけれど、ルシンダはカルデニオに、止めに入ってもらいたかったんだろうな(そう、言ってなかった?)。
    兎にも角にも、ここでは新たに濃密な出逢いが、そしてドン・キホーテを正気にもどす作戦が、あっちへいったりこっちへいったり。ファンタジーものの旅程の矛盾や"お高くとまった"貴婦人像に斬りつけたり、ああ、おかしい。
    親切 ってむつかしいよね。ときにそれは独りよがりになってしまう、なんておもってしまう。電車で席ひとつ譲るにも細々としたことを考えてしまう。だからわたしはドン・キホーテはかっこいいとおもう。ダサくてまっすぐで阿呆で。
    とりあえず、『愚かな物好きの話』のつづきがたのしみ。



    「あなたの話を聞いていてうんざりするどころか、その脱線や細部がとても興味深い。それこそ話しの本筋と同じほど傾聴に値するものだから、省略しないで話してもらいたい」

    「それにね、ほらアンセルモ、女というのは未完成な生き物なんだよ。」

  • 郷士ドン・キホーテ・デ・ラマンチャの暴走は続く。ドン・キホーテは、云わば「騎士道物語オタク」。眼前の現実を、騎士道物語の世界に置き換えて幻視し、勢いで武闘すらやらかしてしまう。狂気の域に達している。

    遍歴の騎士になりきって騎行する道中、ドン・キホーテは護送される徒刑囚の一行に遭遇。騎士の正義感が発露し、官憲をけちらし彼らを解放する。これははたからみればお上に楯突く暴挙。従士サン・チョパンサの勧めで、ドン・キホーテは「官憲」の目をやりすごすため、峩々たる山岳地帯に深くわけいりしばし身を潜めることに。
    第二巻は、この山岳地帯での道行きがつづられる。
    巻の後半、その道行きに、大きく2つのサイドストーリーが挿入される。

    ひとつは、悪漢によって引き裂かれた男女の悲恋のエピソードである。 青年カルデニオは、美しき許嫁ルシンダを、友と見込んでいたドン・フェルナンドに奪われる。一方、美しき娘ドロテーアは、やはり同じくドン・フェルナンドに強引に口説かれて操を奪われた挙句、この好色漢に捨てられていた。このふたつの悲恋(痴話話)が、本人の独白の体でこってり語られる。

    もうひとつは、道中の旅籠の主人が所蔵していた手書き原稿の束で、未出版の物語であるという『愚かな物好きの話』。この書を、ドン・キホーテ一行に同行の司祭が朗読し始める。これは3章およそ100頁近くに及ぶ。物語の舞台はイタリアのフィレンツェ。ドン・キホーテが暮らした村の近郷やスペインの地方で語り継がれた挿話、というわけでもなく、完全なる劇中劇なのである。

    深い信頼関係で結ばれた二人の青年、アンセルモとロターリオ。アンセルモは美しく貞淑な女性カミーラを妻にめとる。その後アンセルモは、親友ロターリオに対し、世にも奇妙な、奇抜な依頼をもちかける。それは、妻カミーラを本気で口説き、彼女の貞節さを徹底検証したいというのだ。当然ながらその依頼を強く拒むロターリオであったが、結局その頼みをひきうける展開に。
    この「物語」、男女三人の友情と夫婦愛のバランスの危うさ、関係の脆さを浮き彫りにしてゆく。結末は、次巻に持ち越されるんだが、この「物語」、現代的な洗練と完成度に達しており出色の出来で驚かされる。漱石の小説にもありそうであり、ユゴーや大デュマなんかの作品群にまぎれこんでいても違和感のない感じである。近代に書かれたようなモダンな趣があるのだ。

    「ドン・キホーテ」は、こうした挿話もまるごと収めてしまう、大きな器でもあるようだ。

  • 明るくていいけど、そればっかりでも飽きちゃう感じもあるかなぁ・・・。ちなみにこの巻で一番印象に残ったのは、「作者が思い違いをしていたか、印刷屋がうっかりしていたにちげえねえ」という言葉!これ好き!

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著者プロフィール

Miguel de Cervantes Saavedra(1547 – 1616)

「2012年 『新訳 ドン・キホーテ【後編】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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