よみがえる天才アルキメデス: 無限との闘い (岩波科学ライブラリー 117)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (130ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000074575

作品紹介・あらすじ

幻の奇書といえば、アルキメデスの『方法』は格別だ。貴重な写本に祈祷書が上書きされた羊皮紙が偶然発見されたのち行方不明。それが前世紀末のオークションに突然現れて世界を驚かせた。その運命もさることながら、その驚くべき内容がもし千年早く知られていれば、近代数学の歴史はまったく違ったものになったという。今回初めて読解された部分も含め、時代に二千年以上先んじた天才の思考を読む。

感想・レビュー・書評

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  • 大渕朗先生(理工学部応用理数コース)ご推薦

     斎藤憲はギリシア数学史を専門とする人で、ユークリッドの原論の翻訳などでも知られています。この本の内容はアルキメデスの数学の紹介です。
     アルキメデスの数学は現在三つの写本(A写本,B写本,C写本)で知られていて、その中でこの本はC写本に関するものです。このC写本と言うのはパリンプセストと呼ばれる再利用された古文書です。これは羊皮紙にもともと書かれていた文章を削ったり、指でこすってインクを消してしまったりして再利用した物で、1906年に最初に発見された時はアルキメデスの著作の上に祈祷書が上書きされていました。しかも発見後行方不明になるも1998年に突然ニューヨークのオークションに出品され、匿名の篤志家による落札後、研究機関へ寄贈と言う運命を辿って今日また研究される様になっています。素晴らしい!
     紹介する本の内容は、この写本にあるアルキメデスの数学の話ですが、そこで窺えるアルキメデスのアイデアは大変面白い物です。我々は微分・積分と言う近代兵器を有しています(積分は面積や体積を普通の計算だけで求める技術)。しかしアルキメデスの時代には積分の様な近代兵器は無く、途方に暮れるしかなかったのですが、そこは天才アルキメデスで「天秤」を頭の中で想像する事で図形の体積を求める方法を開発したのです。この本では、その「極上の凄技」が紹介されています。微分・積分と言う近代兵器(計算技術)の無い時代の、この攻めた考え方にはホレボレしてします。
     アルキメデスはシラクサと言う現在のシチリア島の地方の生まれで第二次ポエニ戦争でシラクサに入ったローマ軍により殺されたと言う記録がありますが、軍事技術にも通じた人で投石器を使って敵の船を正確に沈めたと言う事です。これらは放物線などの事を非常に良く知っていたと言う事を意味しますが、その礎には表に出ない数学的な計算が多くあったと思われます。その計算技術の一つがこの本の紹介するC写本と言う事でしょう。
     数学と言うのは今も昔も洋の東西を問わず煙たがられる様で(その証拠にC写本も「消された」のですが)、アルキメデスのレベルの数学者であっても、この程度の著作しか残らなかったのは残念ですが、読める物があるだけ幸せでしょう。宜しければ、この本で、アイデア溢れる、最高級ワインにも匹敵する様な「至高の凄技」を味わってみてください。

  • アルキメデスの著書は、これまでA写本、B写本、C写本の三冊が発見されている。A、B写本の内容はむかしから明らかにされいるもので、彼の定理とその証明が記述されている。今世紀に入り、C写本が再発見(その存在は全世紀からしられていたが、紛失してしまっていた)された。競売にかけられ当時のレートで2億円以上の値がついた。その内容について解説するのが本書の役割である。 それによると、アルキメデスの思考は幾何を代数的に解くレベルに到達していたことがわかる。ここまで来てなぜ、解析(無限級数を扱うこと)に到達できなかったのかと残念に思うのだが、それは無限の扱いになれている現代数学を学んだ人間だから言えることなのだろう。それを差し引いたとしても、恐るべきレベルの数学者である。彼の数学は、おそらく2000年進んでいたと思われる。つまり、彼の死後2000年の経過を待たなければ、彼の知識の後継者は出てこなかったのである。なんと凄まじい数学者なのだろう。

  • 勉強になりました。

  • こちらも図書・図書館史の授業向け、パリンプセストについて別の本も見て書いておこうと思って買っておいた本。
    2ソース以上あたる、という意味ではあってよかったと思う。

  • 3位
    アルキメデスの著作はA写本、B写本、C写本に大別されます。
    C写本の所在はながらく謎とされてきましたが、近年になってようやく発見されました。

    本書はC写本の数奇な運命を描く歴史ロマン、かと思いきやアルキメデスの業績をおさらいする数学史の時間に早変りし、さらには 「もしC写本が紛失しなかったらどうなっていたか?」 という歴史のIFにまで挑むのです。
    壮大な可能性を秘めた力強い本! 書き方はそっけないけど、
    それがまたそそります。

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著者プロフィール

斎藤 憲
斎藤 憲:大阪府立大学学術研究院第一学群人文科学系教授

「2015年 『原論 VII−X』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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