リンドグレーンと少女サラ――秘密の往復書簡

  • 岩波書店
3.76
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本棚登録 : 86
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000220859

作品紹介・あらすじ

『長くつ下のピッピ』を生んだ児童文学作家リンドグレーンが、たったひとり文通を続けた相手は、問題を抱えた思春期の少女サラでした。心の内面を打ち明ける少女に、作家は愛情と信頼を寄せ、共感やユーモアに満ちた言葉で、はげまし続けたのです。いま、時を経て、ふたりの八〇通以上の手紙が、一冊の本になりました。子どもから大人まで、すべてのひとに贈る、ある友情の記録。

感想・レビュー・書評

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  • 梨木香歩さんのコラムで本書に触れた箇所があり、興味を覚えて読んでみた。

    『長くつ下のピッピ』、『名探偵カッレくん』シリーズは、私も子どもの頃に愛読した(これが同じ作者によるものだと知ったのは大人になってからだったが)。その生みの親リンドグレーンのもとには世界中からファンレターが押し寄せたという。当然ながら、彼女がいかにその全てに返事を書きたいと思っても無理な相談だった。

    しかし、ある日、リンドグレーンは12歳の少女から手紙を受け取る。とても個性的で、生きづらさを感じさせる多感な少女の手紙に、どこか引かれるものがあったのだろう。リンドグレーンは懇切丁寧に返事を書くのである。そしてそこから歳の差50歳の相手との10年以上にわたる文通が始まるのだ。

    まるで物語のような話だが実話である。物語の作者との文通なんて、本好きなら一度ならず空想するものだ。

    2人の関係はとても不思議である。実際に会ったことはないという。リンドグレーンは生前この文通の話を誰にもせず、文通相手の少女サラも積極的に公表したりはしなかった。突拍子もないサラの手紙を目を細めながら読むリンドグレーンの姿が浮かんでくる。彼女の手紙から感じられるのは愛情、そして歳の離れた友人への敬意である。

    しかし、サラの成長とともに2人の秘密の文通は徐々に間隔が開き、微妙なすれ違いも生じていく。自分の知るサラが少しずつ変わっていくことをリンドグレーンは敏感に感じとっていたはずだ。これはハッピーエンドで終わる話ではない。ただリンドグレーンの優しさや深慮、思いやりがとても強く感じられるアーカイブである。

  • ファンレター(?)から始まった、児童書作家と少女の文通。
    少女サラは(徐々にわかるのだが)いじめと家庭内暴力にあっていて、学校になじまず、盗み、精神病院に入れられ、その後も喫煙、飲酒、妻子ある人への恋、カルトへの入信…と息つく暇もなく難しい状況をずんずん進んでいく。大人びていながら自己嫌悪と自己顕示欲、自暴自棄にまみれた、否定することで愛と肯定を求めるような子供の手紙は、正直読んでいてほほえましいと楽しめる範疇にないというか、痛々しくすらある(そういう仕草は自分の身に覚えがあるからそう思うだけ?)。
    でも、そういった子供のかたくななやり方に敬意を持って、一人の人格として誠実に接したリンドグレーンの手紙の巧みな距離感にはびっくりする。綱渡りか。そして必ず、サラが言動と裏腹に求めてやまなかった無条件の愛情と肯定と関心を、惜しみなく与えていた。

    サラの苦境を、リンドグレーンが心から理解するのは難しかっただろうと思う。
    父との不仲をほのめかしたサラに、子を愛さない父はいないからあなたから歩み寄ればいい、と書き送ったリンドグレーンが、虐待を告白されて心底驚いて慌てているようなのとか、ウェイトレスなどの(おそらく)低賃金労働をする彼女に「もっと満足できる仕事のよろこびを得られるような何か」を望み続けたのを読むとそう思う。それなのに、あんな風に彼女を受け入れて励まし続けられたのはどうしてなのだろう。わからなかったからこそなのか、底なしに深い懐を持っていたからなのか。たくさんの子供たちを無条件に愛することができる人というのはそういうところがあるように感じるけど、ぞっとするような羨ましくて仕方ないような、不思議な気持ちになる。

  • 2人の文通が始まったのは、アストリッド・リンドグレーン63歳、サラ11歳の時。
    思春期の不安定なサラに、きちんと向き合っているリンドグレーンの真摯さに打たれた。
    51歳もの年齢差を超えて、意見を押し付けることなく対等に、友達として。と同時に、おばあちゃんが孫を心配するように慈愛に満ちている。
    こんな対応ができるリンドグレーンはどんな人だったのだろう。どのように生きてきたのだろう。
    今ちょうど、彼女の人生を描いた映画「リングレーン」が放映されている。観に行かなくちゃ。
    子どもの頃夢中になって読んだリンドグレーンの本、全部読み直したくなった。

    • やまさん
      各位

      昨年ブクロクに登録した本の中からベスト7を選びました。
      なお、平成31(2019)年3月27日に読み終わった本からブクロクで管...
      各位

      昨年ブクロクに登録した本の中からベスト7を選びました。
      なお、平成31(2019)年3月27日に読み終わった本からブクロクで管理するようにしています。
      ① なんとなく・青空 / 工藤直子 / 詩 / 本 /読了日: 2019-12-11
      ② 螢草 / 葉室麟 / 本 / 読了日: 2019-12-16
      ③ あなたのためなら 藍千堂菓子噺 / 田牧大和 / 本 /読了日: 2019-04-10
      ④ 甘いもんでもおひとつ 藍千堂菓子噺 / 田牧大和 / 本 / 読了日: 2019-05-04
      ⑤ あきない世傳 金と銀(七) 碧流篇 / 田郁 / 本 /読了日: 2019-09-14
      ⑥ てらこや青義堂 師匠、走る / 今村翔吾 / 本 / 読了日: 2019-08-27
      ⑦ ひかる風: 日本橋牡丹堂 菓子ばなし(四)  / 中島久枝 / 本 / 読了日: 2019-07-23
      ※もしよろしければ、皆様の昨年感想を書かれたものの中からベストの順位を教えて頂けたら嬉しいです。

      やま
      2020/02/07
    • koringoさん
      やまさんへ

      昨年ベスト7のご紹介ありがとうございます。やまさんのレビューから手に取った『甘いもんでもおひとつ 藍千堂菓子噺』とても良か...
      やまさんへ

      昨年ベスト7のご紹介ありがとうございます。やまさんのレビューから手に取った『甘いもんでもおひとつ 藍千堂菓子噺』とても良かったです。
      さて、私のベスト7は…迷って決められませんが、う~ん、一冊『鳥と花の贈りもの』串田孫一/作 は選びたいと思います。

      Koringo
      2020/02/08
  • スウェーデンベストセラー作家
    アストリッド・リンドグレーン作品
    リンドグレーンが一人の10代の少女と取り交わしていた手紙についての
    資料的な本
    少女 サラの環境を心配しつつ
    的確なアドバイスをしている
    今でいう、SNSな関係を築いていて興味深い
    着かず離れずな微妙な距離感は参考になる

  • 不安定な少女をよくサポートしたわねー

  • 長くつ下のピッピのリンドグレーンが、色々と問題を抱えた10代の少女サラと何年にも渡り文通を続けていたことがわかり、その全往復書簡をそのまま公刊したもの。リンドグレーンの死後にサラから送られた短い最後の手紙、そして、公刊にあたり、サラが綴った手紙が深い感動をもたらします。

  • 12歳の少女サラがシンドグレーン(52歳)に手紙を書く。リンドグレーンが原作の映画に出演したかった。40歳も年の違う二人は、ここからリンドグレーンが亡くなるまで80通以上の手紙を交わします。
    女優になりたかったサラ(確かにカワイイ)。ティーンエイジャーらしい希望と悩み、両親との葛藤、先生への恋心。刹那に綴るサラと、真摯に向き合うリンドグレーン。
    サラの喫煙を気遣うリンドグレーンの親心(?)。
    単なる作家とファンの文通を超えたやりとりに、羨ましさを感じます。

  • どうしてこの少女だったのか? 多くの手紙の中からリンドグレーンが返事を書き、気にかけ、長年の文通にまで至ったのがなぜ彼女だったのか?
    時々わかるような気がし、でも時々わからない。

  • 『長くつ下のピッピ』や『やかまし村の子どもたち』などの作品でスウェーデンの豊かな自然に囲まれて伸びやかに育つ子どもたちを描き、世界中の子どもたちを魅了したアストリッド・リンドグレーンと、一読者だった当時12歳の女の子との、20年以上に及ぶ往復書簡集です。感受性豊かで傷つきやすい10代の少女サラからの手紙に、世界的に有名なリンドグレーンが誠実に手紙を返しています。それは父親から虐待を受け、孤独と不安の中にあるサラの苛立ちや迷いが、自分自身の若い頃と重なって放っておけなかったからでしょうか。手紙の中で、サラの人生の可能性が花開くのと見届けたいと綴られ、無謀なサラの思いに寄り添い、励まし、共感を与えています。今は50代後半になっているサラが、この往復書簡を公開するに至る思いも「本当に最後の手紙」と題して書かれています。私たちはこの本を読むことで、リンドグレーンの作品の根底に流れている生きとし生けるものへ向けられる暖かい眼差し、子どもの本を書く作家として子どもたちの幸せを願う気持ちを、確信を持って受け取ることが出来ます。リンドグレーンがこの世を去って10年後の2012年に出版された本が、石井登志子さんの訳によって日本の私たちの元に届けられたことを喜びたいと思います。

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著者プロフィール

1907年‐2002年。スウェーデンに生まれる。1944年『ブリット‐マリはただいま幸せ』(徳間書店)で、出版社主催の少女小説コンテストの二等賞を得て、デビュー。以後、児童書の編集者として働きながら数多くの作品を発表しつづけた。1958年には国際アンデルセン賞を受賞。「長くつ下のピッピ」「やかまし村の子どもたち」「名探偵カッレくん」のシリーズや、『ミオよ わたしのミオ』(岩波書店)など、世界中で今も愛されている数々の物語を生み出し、「子どもの本の女王」と呼ばれた。

「2018年 『長くつ下のピッピの本 決定版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アストリッド・リンドグレーンの作品

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