折り返し点: 1997~2008

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 50
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  • Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000223942

感想・レビュー・書評

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  • 「出発点」と比べると文化人としての自分の立場をふまえての発言も多いと思うけど、面白い。近年の宮崎作品のストーリーの曖昧さや説明不足さというのが意図的な物だということがわかる。集団での地道な作業で作り上げなければならないアニメーションという手法や人間の年齢という制限が無ければこの人はどんな物が作り出せるんだろう。

    子供が大切ということを繰り返している。あとがきにかえての最後の文章がとても心に残る。
    「子供が成長してどうなるかといえば、ただのつまらない大人になるだけです。大人になってもたいていは、栄光もなければ、ハッピーエンドもない、悲劇すらあいまいな人生があるだけです。
    だけど、子供はいつも希望です。挫折していく、希望の塊なんです。答えは、それしかないですね。人類の長い歴史の中で、そういうことが繰り返し、繰り返し、感じられてきたんだなぁと思うんです。そういうふうにできているんですね、世界は。自分たちが作り出しているのではなくて、そのサイクルの中に自分たちもちゃんと入っているんです。だから、なんだかんだと言いながらも、なかなか滅びないんだと思います。」

  • 『出発点』以降の『もののけ姫』から『崖の上のポニョ』公開までの
    エッセイやインタビューを収録。
    ジブリで一番好きな作品が『もののけ姫』であるから楽しく読めた。

    混沌とした時代とか色々言うが、それでも結局
    子供に対しては、生まれてきたこの時代、この世界を
    肯定してやりたいと映画を作り続ける姿勢が良い。

    次は『到着点』になるのかな。

  • 色々な着眼点があると思うけど、宮崎駿の死生観を見る上では非常に良い資料だなと思う。文字だけだけど、なんとなくどういう人なのかが伝わってくる良い本。

  • 1996年に出版された『出発点』の続編となる一冊。
    「もののけ姫」、「千と千尋の神隠し」、「ハウルの動く城」、「崖の上のポニョ」に至るまでの12年間をインタビュー、エッセイ、対談等によって振り返っている。

    まず、本そのものの印象としては、前作よりもはるかに読みやすい。
    『出発点』では文章は項目ごとにまとめられ、雑多な印象を受けたが、『折り返し点』では全て時系列に並べられている。そのため、宮崎駿の心の移ろいが比較的分かりやすく綴られている。


    作品論として語るならば、『出発点』と『折り返し点』を読んで、「もののけ姫」に対する理解が一層深まった。宮崎駿は「環境」について、特に熱心な監督ではあるが、「もののけ姫」でこの問題に対する一つの結論を出していると思う。「風の谷のナウシカ」や「となりのトトロ」では、宮崎はまだ“文明社会vs自然”という構図でしか両者の関係をとらえていない。しかし、「もののけ姫」ではそうした構図は適用せず、敢えて曖昧にすることを選んだ。

    本書にもあるように、現代の環境問題とは「罪ある人間」が「素晴らしい自然」を壊すから問題なのではなく、「善良なる人間が良かれと思ってやったこと」が結果的に「環境問題」につながるのであり、人間と自然との間にはもっと「宿業」とも言えるような関係がある。
    本書を背景に「もののけ姫」を見ると、確かに善と悪は極めて曖昧になっていることに気づく。タタラ場を仕切るエボシは善悪の二面性を秘め、対する神々もその二面性を持っている。どちらかが善い悪いと言う訳でない。しかし、それでもなお「対立する両者が共に生きる道はある」と説くアシタカは、正に「この映画は環境問題に対する姿勢に関する映画」という宮崎駿のある種の代弁者と言えるだろう。

    「もののけ姫」で長年考えてきた問題に一つの終止符を打った宮崎駿は、これ以降もっと根源的で、観念的なテーマで映画を制作していく。キーワードは「こども」だ。本書にも繰り返し「こどもが喜ぶ映画を」といった文章が散見されるようになる。この社会はどうしようもない。こどもたちもやがてつまらない大人になっていく。諦観とも受け取れる発言を繰り返しつつ、それでも「こどもこそ希望」と説く宮崎駿。(本人にもその自覚はあるようだが)その様子にはつい「老い」を感じてしまう。



    それ以外にも本書には宮崎駿の魅力が詰まっている。
    前作以上に驚かされるのはその観察眼の鋭さである。例えば、342ページから始まる「富士見高原はおもしろい」という講演を収録した文章。一冊の本とわずかな散歩を手掛かりに、宮崎駿はそこがかつて大変栄えた村であったと推論するのだが、そのプロセスはとても説得力がある。そのバックボーンとなる普段からの情報インプットもそうだが、一つの事柄に関する鋭い洞察と深い考察はそこらの下手な学者をも軽く凌駕する。その洞察力の土台の上に宮崎駿のファンタジーの世界が広がっていることが良く分かるエピソードであり、大変興味深く読むことができた。

    ジブリファン、宮崎駿ファン以外にもオススメの一冊である。

  • 『もののけ姫』から『崖の上のポニョ』までの間の宮崎氏によるインタビューやコラムをまとめた一冊。大ヒット作の根底にある宮崎氏の哲学を知ることができる。『もののけ姫』は『風の谷のナウシカ』よりも『耳をすませば』の延長上にある作品である、映画監督でありながら映画はあまり観ない、などの目から鱗が落ちる話が満載だ。

    自信がアニメ作品を作りながらもアニメが子どもたちにもたらす影響には懐疑的であったり、戦闘機を愛しながらも戦争には嫌悪を抱いているなど、自身の矛盾に気づき、そこでもがく謙虚さのある方なのだと感じた。

  • 「せめて志だけでも高く持つ」

  • 宮崎駿さんの、1997〜2008年、もののけからポニョまでの文章。
    環境への考え方。子供達への考え方。飛行機乗りへの考え方。
    しっかりと確立された人だなぁと思いました。
    ハウルだけ周辺を固めるような書き味?

  • 「もののけ姫」

    今日、自然と経済活動には必ず環境問題が存在する。そしてその問題は日本を問わず、先進国から後進国まで世界共通の問題として横たわったおり、完全なる答えはないように思われる。

    経済活動が往々にして優先される事が多いが、あえて保護側を批判するならば、いつも「自然は人間が残すべきものなんだ。か弱いものなのだ」という論法が通年の気がしている。

    駿氏は本来の自然はその様なか弱気物ではなく、人間と耐えずせめぎ合いをしてきた非常なる姿だと言っている。

    確かにもののけ姫に出てくる動物達は獰猛である。しかし、自然界の強さを備えた姿には威厳に満ち溢れていた。
    日本の奥深い森は本来この様な威厳も持っていたはずだろう。
    人などが管理出来る様な物ではなかったのだ。

  • ああそうだなって思うことがたくさんあって勉強になりました。

  •  アニメを海外向けにコンテンツとして有望視することについて(メモ)

     アニメで雇用を増やしたり、外貨を稼いだりなんて、こっけいな感じすらする。マイナーであることがアニメの活力を生んできたと思う。そんなアニメに国が本腰いれて取り組むなんて・・・・・・。90年代のナタデココのようになってしまうかも。一大ブームだ、さぁいくぞと思って意気込んで誰もが事業を始めたり投資した途端ブームが去って大誤算、後は損害だけが残ったということだってあり得る。過度の期待は禁物だ。現代のアニメ作品はいくらビデオで残そうとDVDを売ろうと、何百年単位では消えていく運命にある。

     海外に目を向けるのもいいが、日本は一億人を超える人口を持つ数少ない先進国だ。これだけの規模があれば、欧州の一国単位や韓国ではできないことが単独でやれる。だからこそ、アニメがここまで盛んになった面もあると思う。海外の評価ばかり気にして肝心の国内がおろそかになってはいけない。

    (p455)

著者プロフィール

アニメーション映画監督。1941年東京都生まれ。学習院大学政治経済学部卒業後、東映動画(現・東映アニメーション)入社。「ルパン三世 カリオストロの城」(1979)で劇場作品を初監督。1984年には「風の谷のナウシカ」を発表。1985年にスタジオジブリの設立に参加。「天空の城ラピュタ」(1986)、「となりのトトロ」(1988)、「魔女の宅急便」(1989)、「紅の豚」(1992)、「もののけ姫」(1997)、「千と千尋の神隠し」(2001)、「ハウルの動く城」(2004)、「崖の上のポニョ」(2008)、「風立ちぬ」(2013)を監督。現在は新作長編「君たちはどう生きるか」を制作中。著書に『シュナの旅』『出発点』『虫眼とアニ眼』(養老孟司氏との対談集)(以上、徳間書店)、『折り返し点』『トトロの住む家増補改訂版』『本へのとびら』(以上、岩波書店)『半藤一利と宮崎駿の腰ぬけ愛国談義』(文春ジブリ文庫)などがある。

「2021年 『小説 となりのトトロ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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