混迷するシリア――歴史と政治構造から読み解く

著者 :
  • 岩波書店
3.54
  • (1)
  • (6)
  • (5)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 56
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (160ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000229234

作品紹介・あらすじ

2011年3月、「アラブの春」がシリアに波及し、人々は「民主化」を求めて立ち上がった。しかし、諸外国の思惑も絡み、今日のシリア情勢は「民主化」論だけでは捉えられなくなっている。「独裁体制」アサド政権はなぜしぶとく生き延び、「民主化」運動はなぜ挫折しつつあるのか。シリア混迷の実態を、現代史と政治構造から読み解く。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 長期化するシリア内戦。アサド政権の圧倒的な抑圧に抵抗する反体制派という構図は果たして真実なのか。
    2011年から2012年の初期段階からすでに混迷の様相のシリア情勢。複雑さは増し混乱は続く。勧善懲悪ではないとしたら、その悪が去ったとき残るものは何なのか。

    巻き込まれたシリアに暮らす人々は街を破壊され日常を失い、国を追われ難民として生きる。そして出口の無い恐怖に苛まれている。今も。

  • 2019年10月末に読んだ。2012年刊行当時までの「アラブの春」直後のシリア情勢を論じている。シリアのBアサド体制は「独裁」と呼ぶには complicated であり、「反体制」は即ち民主化勢力と呼ぶには程遠いことを示した。
    「ジュムルーキーヤ」「サラリーマン」「アラブベルト構想」「シッレ」「シャッビーハ」「ターイフ合意」「ダマスカス詣で」など、馴染みの薄い用語に多く出会えた。
    Bアサド政権は分断統治がうまいな、というのが読んでいるときの感慨だった。
    同著者の2019-2019間の研究成果も追えればと思う。この本は科研費基盤Bの活動と並行して書かれた成果物の一部であり、きっとその後も価値ある成果が別の形で報告されているのではないかと思われる(まだ検索していないけれども)。

    ▼その後
    同著者に拠る岩波新書2017年『シリア情勢』を読んで、その後のシリアの焦土とよぶほかない惨禍が“現在進行形で”続いていることを知り、言葉が出ない。同著者の『シリア情勢』も併せて読むことを推奨する。

  • 【要約】
    ・現在のシリアの状況は、アサド政権が残忍な弾圧者として報道されているが、事態は単にアサド政権が退陣すればよいという単純な問題ではない。トルコ、パキスタン、イスラエルからロシアまでの周辺諸国との複雑な地政学的観点から見た時に、現政権からバトンタッチされるに足りるだけの勢力がないのも事実。アラブの春以降、アサド政権は、それまでに反対勢力が掲げていた要求をある程度は認めて法律も施行しているという事実もある。

    【ノート】
    ・10年来、<a href="http://goo.gl/NVeI5" target="_blank">アレッポの石鹸</a>を愛用している。洗顔洗髪から体を洗うのまで、全てこれ一つでやっている。アレッポがシリアだというのは知っていたが、シリアがどこにあるかは知らず、何となくイタリアの近くにあるのかと思っていた。これは多分、アレッポの石鹸がオリーブからできているのと、シチリア島と語感が似ていたからだと思う。だからというのも変だが、シリア内戦のニュースを聞いた時から気になっていた。それと同時に、そこまで国民を弾圧、虐殺したと報道されているアサド大統領や現体制について、果たして、本当に、そんな映画に出てくるような分かりやすい悪者なんだろうかというのが気になり始めた。

    ・本書では決してアサド政権の弾圧姿勢を容認してはいないが、反対勢力が分裂、批判し合い、周囲のきな臭い国々に対抗できるだけの体制像を描けているわけでもないという状況を伝えている。お隣りのトルコやレバノン、イラクに加えてすぐ近くにはイスラエルもあるわけで、そうなるとアメリカの影もチラつく。反対勢力の中でも、シリア国内だけでケリをつけるべきだとするグループと、国外からの支援も取り入れて、現政権の打倒を実現するべきだとするグループもある。加えて、アラブ民族主義、マルクス主義、シリア民族主義、クルド民族主義、イスラム主義と、イデオロギーだけでも5つの勢力が対立し合っている。何か、アサド大統領、思ってたより大変なんじゃないか。少なくとも市民を虐殺して、その上にあぐらをかいて宮殿で毎日パーティー、というわけではなさそう。

    ・10年以上も前にやった初代プレイステーションのゲーム、メタルギアソリッドで、クルド人であるスナイパー・ウルフというキャラクターがいた。彼女は内戦の中を生き抜け、スナイパーになったのだが、そんな彼女が死ぬ間際に言ったセリフ、「世界は我々(の惨状)を無視した」。この言葉が今になって心に響いてきている。

    ・本書の著者は<a href="http://www.ac.auone-net.jp/~alsham/" target="_blank">「シリア・アラブの春(シリア革命2011)顛末記」というサイト</a>で日々、状況を伝えてくれている。これからずっと注視したい。

    ・2015年11月現在、本書は絶版となり、早くも中古で高値が付き始めていた。幸いなことにたまたま紀伊國屋に新刊が残っていたので入手できた。

  • シリアについて大枠を理解するのに適した本。論拠もしっかりしており、手軽に、一定の信頼感を持って読める良著。

  • 二年前に上梓されたシリアの情勢についての本です。
    その題名のとおり、複雑で混迷しているシリアの情勢について、詳しく解説してくださっています。
    シリアは単純な構図では理解できないとはいろんなニュースで読みましたが、本当にいろんなプレーヤーが登場してきます。そして国内外のプレーヤー(周辺諸国や欧米諸国などの国家主体も含めて)も、それぞれが見せたい構図に合う「現実」・持っていきたい未来 を見せようとしているのだな、と思い知らされました。
    著者はできるだけ中立な立場で記そうと試みているので、ついつい欧米側のバイアスがかかった状態で見てしまうB.アサド政権について冷静に見るきっかけも提供してくれます。
    二年がたち、また情勢も変わってきていますので、引き続ききちんと知ろうとしていきたいなと思いました。

  • イスラエルへの方針は、公正かつ包括的平和と和平は戦略的選択しの対イスラエル強硬路線の2つがある。
    アサド政権への厳しい批判と経済制裁で、まず欧米諸国が開始し、その後シリア周辺諸国を除くアラブ連盟加盟国やトルコが追随した。

全8件中 1 - 8件を表示

著者プロフィール

青山弘之(あおやま・ひろゆき)
1968年生まれ。東京外国語大学卒業。一橋大学大学院にて博士号取得。東京外国語大学総合国際学研究院教授。1995~97、99~2001年にシリアに滞在。ダマスカス・フランス・アラブ研究所(現フランス中東研究所)共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員などを経て現職。専門は現代東アラブ政治、思想、歴史。著書『シリア情勢』(岩波書店)、『膠着するシリア』(東京外国語大学出版会)、『ロシアとシリア』(岩波書店)などがある。またウェブサイト「シリア・アラブの春顚末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

「2023年 『戦火の中のオタクたち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

青山弘之の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×