漱石の漢詩を読む

著者 :
  • 岩波書店
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本棚登録 : 76
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (165ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000237215

作品紹介・あらすじ

漱石の漢詩は、日本近代文学の比類ない独立峰。作家古井由吉が、漱石文学の精髄を、漢詩に突き止める。日本語の個性とその衰弱は、何に由来するのか。失われた日本語の可能性を照らし出す、漢詩のポエジーと象徴。死を前にして、解き放たれた漱石の想像力が、見えない世界の調べと映像を結晶させる。

感想・レビュー・書評

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  • 正月に実家の本を整理してたら出てきたので再読。

    私は漱石の読み方を古井さんに教えてもらってきた、というところがある。今はもうないのだけれど、昔「STUDIO VOICE」という雑誌があって、ある月の特集が小説家へのインタビューだった。デビューしたての平野啓一郎さんの初々しい文章が載っていた頃の話。この雑誌は大事にとってあり、そこに載っていた古井由吉さんと金井美恵子さんのインタビューは今でも折りにふれて読み返すものだ。

    そのインタビューの中で、文学について語る古井さんの言葉にずっと魅了されてきた。例えばこのインタビューの中で、漱石の『明暗』を評して、「他のものと比べるとちょっと文章が雑なように思う」「ただ終わりの方へ向かっていくとまた若干語彙が増えている」「また昔の作品へ戻っていこうとしたのかもしれない」というような言葉を尽くしている。思いつきで言ったような感じは皆目なくて、多くの書物を読んできた者の風格が備わった言葉の発し方に「いったいどうやったらそういう風に深く読めるようになるのか」と当時、すっかり取りつかれてしまったのだった。

    『漱石の漢詩を読む』は俗に言う「修善寺の大患」後に生み出された作品、『思い出す事など』や『明暗』と、その執筆と並行して行われた漢詩の創作について、精読していくもの。漢詩についての解説も多いけれど、折々に、古井さんの文学観が挟まれており、古井さんの創作にあたる際の態度のようなものも透けて見えてくる。漢詩と近代文学の文章を中心にしながら、他の言語との関係も示され、自ずと日本語のかたちとか、日本語の成長記録のようなものまで感じ取れてくる。素晴らしい日本語論であると思う。

    それにしても漱石は凄い作家だし、幸せな作家だと思う。後世の人にこのように読んでもらえれば本望なのではないだろうか。今回の読み直しでも、いろいろと考えるところがあり、また今後も読み続けていく本だろうなと思う。

    日本語が現在、危機的な状況に置かれていると結ばれており、確かにそのとおりだと思う。政治家の言葉の例を引いて書いてあるけれども、政治家の言っていることに重みが感じられないことをなんとなく普通に感じてしまっている今の自分の体感は冷静に見るとかなり異常なんではないかと思う。別に政治に限ったことではないような気がする。きれぎれな言葉がやはり今の世の中多いのかな、と思う。古井さんは「日本人には言葉を変換する力がある」と述べており、そこに何がしかの活路を見いだそうとしている。これからも小説家の言葉をしっかりと読んでいきたいと思わせてくれる。

  • 漱石の漢詩を読むだなんて小難しいこと、私には無縁だと思っていましたし、なにより楽しめるはずがないと思っていたのですけど、古井さんの分かりやすい解説にぐいぐいひき込まれ、漢詩という嘆く人間の制限されたものから生まれる美しさを楽しむことが出来ました。漢詩からぼんやり浮かぶ情景を言葉の意味も含め丁寧に解説いてくださった古井さんに感謝です。
    ぼんやりはうすぼんやりに変化し、ちょっとずつその姿を現しかけています。

  • 漢詩に向き合うとき、深く意味を追求せず、まずは表層を浅く受け取るようにする、という教えはなかなか含蓄深いものがある。
    にしても、さすがに最晩年の作は難解でどうにも歯が立ちそうにない。対して修善寺の大患時のものは生還できたことの喜びというか、すっきりと澄んだ気分が現れているようにも思う。
    それにしてもこんな詩を作る漱石の知識量はとんでもないな。

  • カテゴリ:図書館企画展示
    2017年度第6回図書館企画展示
    「One Hundred and Fiftieth-近代漢学の系譜(その1)-
     生誕150年 漱石の漢詩、子規の漢詩」

    展示中の図書は借りることができますので、どうぞお早めにご来館ください。

    開催期間:2017年10月25日(水) ~ 2017年11月24日(金)
    開催場所:図書館第1ゲート入口すぐ、雑誌閲覧室前の展示スペース

  • 資料ID:W0149089
    配架場所:1F電動書架C

  • 100年前には未だ、日本の文化人が漢詩を作る素養があったということは、漱石が特別に優秀な才能だったとしても今では想像しづらいことです。そして漱石の詩は「これは本物だ、杜甫に似ている」と中国人にも誉められたのだそうです。亡くなった年の1916年は「明暗」を午前に書き、消耗して、午後は楽みながら漢詩を読んでいたというのはよほどのことですね。「彼岸過迄」「明暗」「道草」などの小説のタイトルは特に意味があるわけではなかったとの説明は楽しいものです。最後の年8月14日に詠んだという漢詩は私が見ても素晴らしいですが、今では使わない言葉ばかりで時代を感じます。パソコンで入力するもの大変でしたが、雰囲気は掴んでいただけます。
    幽居 正に解す 酒中の忙 /華髪 なんぞ須いん酔郷に住むを/座に詩僧有りて 閑に句を拈し/門に俗客無く 静かに香を焚く/花間の宿鳥 朝露を振い/柳外の帰牛 夕陽を帯ぶ/所に随い縁に随いて清興足る
    この中で「詩僧」が自分自身を意味するとは、全く想像もつかない世界です! 著者によれば、日本はバイリンガルの国民で、中国文に帰り点などを 打つだけで日本語として読み下しできるというのは驚くべきことです。漢文的な知識が日本人の言語の論理を繋ぐ1つの大事な糸であったという終章の著者の言葉は、日本人の思考力の低下を示唆しているのかも知れません。

  • 浅い読み、表面的な読み方をしてみるのが大事だという。
    むずかしいところはむずかしいなりに、わからないところはわからないなりに、とりあえず読んでいく。下手に深読みしようとしないこと。
    納得。

  • 私のような者には絶対届かない知の世界で楽しみ、苦しみ、そして己の人生を全うした夏目漱石に改めて畏敬の念をおぼえます。

  • 国文学2009年3月号書評より

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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