ファンタジーと言葉

  • 岩波書店
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感想 : 11
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  • Amazon.co.jp ・本 (334ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000246316

感想・レビュー・書評

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  • 覚えておきたい言葉がたくさん。
    ここにメモをとりながら、ゆっくり読もうと思う。

    ・図書館のもたらす自由も、制限つきのものであってはなりません。必要とするすべての人、つまりあらゆる人が使えるものでなければならないし、必要な時、つまりいつでも使えるものでなければならないのです(p36)

    ・フィクションはしばしばほんとうに、直接の経験よりはるかに役に立つ。直接の経験に比べればずっと時間もかからないし、(図書館で本を借りれば)お金もかからないし、扱いやすい、きちんとした形で手に入れることができる。フィクションは理解することができる。経験のほうは、ただただ人を圧倒して、何が起こったかわかるようになるのは何年も何年も経ってから、いや、結局わからないことだってあり得るのだ。フィクションが現実よりはるかに」すぐれているのは、事実、心理、道徳に関して、役に立つ知識を提供してくれるところである(p56)

  • わたしは男である。
    こう言うと、みなさん、私が性別ってものについて、
    わけのわからないばかな間違いをした、とお考えになるかもしれないし、
    わたしがみなさんをだまそうとしている、とお考えになるかもしれない・・・


    そんな印象的な書き出しから始まる、ル・グウィンのエッセイ。
    帯にある「私は本物の竜が見たいのです」というコメントも光ってます。
    「言葉」という形にできなくても、
    私たちの心は普段いろいろなことを感じ、考え、想像しています。
    本を読んでいる・・・とりわけ、物語を読んでいる時には、
    その文字が織りなす世界にどっぷりと浸かり、口いっぱいにほうばり、思うまま飲み下し・・・
    それはもう、ありとあらゆる方法で「感じ」ています。(この感覚も言葉にするのは難しい)

    この本では、普段心の中では感じているのに表現できない心の欠片を、
    的確で素晴らしい言葉に還元して見せてもらえます。
    そう、まさに魔法のように。

    ゲド戦記、闇の左手などで有名な彼女が、
    ジェンダー、ファンタジー、物語、そして言葉や文字について
    驚くほどの造詣、探求、熟考を重ねていることがよく分かります。
    また、本を読むということはどういうことなのか、ということについて書かれた部分は、
    本当に腑に落ちるというか、よくぞ言ってくれました!と心から拍手を送りたいです。

    テレビを見る、映画を見る、ラジオを聞く、インターネットを見る・・・
    情報が圧倒的な数と大音量で、次から次へと押し寄せる今、
    視聴者はその波を受け止め、あるいは受け流し、悪ければ流されていきます。
    しかし、本は読者の「読む」意思と力がなくては、その世界を閉ざしたまま・・・
    ただの紙の束でしかありません。
    「読む」ことは受け身ではなく行動であり、
    読者は読むペース、リズム、内容の取捨選択を自分自身で決めながら、
    自分だけの想像力の船に乗り、大海原を旅する、というわけです。

    「本は、読者が読んではじめて完成する。」



    他にもいろいろな要素がありすぎて、なかなか上手く書けないです・・・。

    ・言葉とはなにか、文字とはなにか
    ・フィクションとノンフィクション
    ・読んだ本は全て肥料や水や日光となり、心の中に豊かな土壌をつくる。
     そこから生えてきた芽が物語になる。
    ・物語を語るということ、または「よい作家」とは
     作家が、登場人物達をどれだけ上手に動かすのではなく、
     登場人物の声を、作家がどれだけ的確に文字にできるかということ
    ・登場人物に命を与えるのは「名前」。名前が正しくないと物語は動かない

    などと言った話は大変興味深いものでした。


    あ、あとひとつ。
    フィリップ・K・ディックの「電気羊はアンドロイドの夢を見るか?」と「ゲド戦記」には、
    よく似た境界線(電気羊ではごつごつした急勾配の坂、ゲド戦記では灰色の塀)が出てきて、
    読んだとき「ファンタジーとSFの世界がつながった!!」と大興奮したのですが、
    ル・グウィンの読んだ本の中にディックも含まれていて「やっぱな」と思いました。

    というかル・グウィンはもともとSF作家だから、そういう橋渡しがあって当たり前かぁ。
    読むごとに新しい発見。やっぱり本はいい。

  • 読み終わらなかった・・・
    グウィンは好きなのだけれど、読みにくかったなあ…

  • 2014年54冊目。

    ゲド戦記の作者ル=グウィンのエッセイ。
    ジェンダーや差別の問題にも幅広い知識で鋭く切り込んでいるが、
    やはり作家としてどう作品作りに向き合うかの部分が一番面白い。
    書くことの本質は「待つ」ことにあって、
    物語が主体性を持って動き出すのに耳を澄ませることが大事。
    村上春樹も同じことを言ってたので、やはり素晴らしい作品を作る作家や芸術家の根底には何か同じものを感じる。

  • ジェンダーについての項目が目当てで手に取ったけど、比較文化的な思考も見えて面白かった。
    特に好きなのは、猫の動きをダンサーに見立てたとこと、若さを手放せない人々の話。

  • <言葉という枠にさえとらわれない、響きのファンタジー>


     ル=グウィンが紡ぎだす物語は、活字でありながらも「耳に残る」という感覚が得られるな……★ とずっと思っていました。読んだ言葉がリズムとなって生きていく。本を閉じてもりんりんと空気中に響いて、「確かに聞いた」という感触が去っていかないのです☆

     彼女の著作の多くは、ファンタジーに分類されるものです。それは架空の世界を舞台としているからではあるけれども、もう一つの理由として、作品のなかに息づくリズムのファンタジーという特性も挙げられそうです。
     魔法使いが唱える呪文の意味や効力を問う以前に、純粋に音として、そこに脈打つリズムを指して、魔法を認めることができるのです。

     とかく、これは本だ、書き言葉で構築された世界ゆえの奥行きがあるんだ! という余計な意気ごみや思いこみが個人的にはがっちがちに強固にあるのですが、読み砕いていった先で、ル=グウィン論はもっとシンプルな読みへと回帰します。
     言葉を音として捉えること、波として感じること、文学というダンス。言語の宇宙をつきつめていこうと意気ごんでいって教えられたのは、言葉にさえとらわれない、響きのファンタジーだったのです。
     言葉は音である。響きが魔法である。という上でなおも、「書く」ということは、ル=グウィンが続けていく最重要活動であり続けるのですが。

     本書には、講演、つまり音声資料だった内容も多く含まれています。もとが「書き物」ではないし、翻訳モノなこともあって、読みやすいとは言いがたいのだけど……、ある段階から「ああ、これはル=グウィン自身の声で届けられたものなんだ」という点に意味を見出せます。

     ここで文字数が尽きるけど、女性が「書く」ということに関する考察も深いですね★ 必然(偶然と当初書いていたが、どう考えても偶然ではない)、ヴァージニア・ウルフとブロンテ姉妹の執筆事情にも関心を寄せていたため、共鳴を感じる読書となりました。

  • ル=グウィンです。
    これまたティッピと同じく、せっかく図書館に来たのに何も借りないなんてもったいないととりあえず目に付いたのを持ってきただけなのですが。
    最初はどうなることかと思いました。なんだかもう何もかもが分からん言葉ばっかりで。だから私は諸外国のジョークは全く理解できないんですってば!(笑)
    いくらゲド戦記が好きったってこの調子だとどうしようっかなーと途方に暮れながらも読み進めていたのですけど…これがなかなか奥深い話の連続で、時折理解しにくいユーモアの部分に詰まりながら(笑)も全部読んでしまいました。
    ゲドを読んで思った通りの非常に思慮深い人でした。内省的で、且つ冷静。
    ものすごい読書量に圧倒されます。やっぱり本はいいよ!私ももっと読まねば。
    こんなブログで無責任にあれこれとホイホイ書いているっていうのは、実は結構私にとっては葛藤のあることなのですが、ついつい考えるのが面倒で放ったらかしにしているその葛藤の結構痛いところを突かれました。直接そう言うことに言及してるわけではないですが…身にしみます。

  • interesting.
    出てきた本色々読んでみようと思った。
    この人の考え方は結構好みなので、ゲドが気に入らなかったのは訳のせいかな。
    未訳部分の指輪物語関係が読みたかったよー……。

  • 「ゲド戦記」の著者のエッセイ集だ。
    おもしろい。
    英文題名は「心の中の波」。
    THE WAVE IN THE MIND:
    Talks and Essays the Writer,
    the Reader, and the Imagination
    by Ursula K. Le guin
    彼女の心の中の波に触れてみてください。
    彼女が読んできた多くの本のエキスがあなたの中に宿り始めるでしょう。

  • 言葉や物語についての深い洞察。少女時代の読書で味わった高揚感。色々なものが詰まったエッセイ集。

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著者プロフィール

アーシュラ・クローバー・ル=グウィン(Ursula K. Le Guin)
1929年10月21日-2018年1月22日
ル・グィン、ル=グインとも表記される。1929年、アメリカのカリフォルニア州バークレー生まれ。1958年頃から著作活動を始め、1962年短編「四月は巴里」で作家としてデビュー。1969年の長編『闇の左手』でヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。1974年『所有せざる人々』でもヒューゴー賞とネビュラ賞を同時受賞。通算で、ヒューゴー賞は5度、ネビュラ賞は6度受賞している。またローカス賞も19回受賞。ほか、ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、ニューベリー・オナー・ブック賞、全米図書賞児童文学部門、Lewis Carroll Shelf Awardフェニックス賞・オナー賞、世界幻想文学大賞なども受賞。
代表作『ゲド戦記』シリーズは、スタジオジブリによって日本で映画化された。
(2018年5月10日最終更新)

アーシュラ・K.ル=グウィンの作品

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