討議デモクラシーの挑戦――ミニ・パブリックスが拓く新しい政治

制作 : 篠原 一 
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000258296

作品紹介・あらすじ

議会政治が民意を反映していないという不満が指摘されて久しい。そのような代表制民主主義の欠陥を補完し、熟慮された民意を政策に反映させることをめざす討議デモクラシー。その実践として、無行為抽出された市民たち(ミニ・パブリックス)による討議の結果を政策決定に活用しようとする社会実験が世界各地で行われている。その原型とされる手法を紹介し、二〇〇〇年以降の新しい動向も概観する。民主主義の新しい可能性を示す、刺激に満ちた一冊。

感想・レビュー・書評

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  • ミニ・パブリックス(ランダムに市民を選び、討議をしてもらい、参考にする)、コンセンサス会議(科学技術対象)、市民陪審、e-デモクラシー、参加型予算

  • 本書は、「討議デモクラシー」の実現を試みたいくつかの取り組みについて、無作為抽出された特定の人々から成る「ミニ・パブリックス」型と、すべての人に開かれたものとしての「民衆会議」型に分類し、それぞれの特性について詳細に説明した内容となっています。

    本文中では全部で9つの取り組みが検討の対象となっていますが、その中でも近年特に関心が高まっているのが第1章で紹介される「討議型世論調査(DP)」です。
    DPは、厳密な無作為抽出によって選ばれた市民が情報を与えられ討議した後の意見分布を測定する世論調査手法です。まず、無作為抽出は「合理的無知」、「集団分極化」、「参加バイアス」等の世論調査の諸問題を回避できる点で効果があります。また、DPでは市民間の合意を求めず、最終的な意見分布の把握が目的となっているため、「同調圧力」等の討議の弊害を回避できる点に、他のミニ・パブリックス型討議手法との相違が見出せます。
    今夏、今後のエネルギー政策を巡って日本でもこの手法が用いられました。この事例では、(原発依存度0% or 15% or 20~25%)といったシナリオの選択肢設定に疑問が残るとはいえ、0%支持者の割合が討議前(41.1%)と討議後(46.7%)で5ポイント近く上昇しており、これから調査結果がどのように用いられていくかが注目されます。ちなみに今調査はDPの開発者であるJ・フィシュキン氏が監修しており、彼のコメントを一読したところ評価はかなり高かったようです。

    次に、特に興味を引かれた事例として、第8章で紹介されている、カナダのブリティッシュ・コロンビア州(BC)で実施された「市民議会」があります。
    この事例は、州選挙制度改革をテーマに、無作為抽出された市民が1年近くの長い学習期間を経て討議し、討議の結果採択された選挙制度案について最終的に住民投票にかけるといった二段構えの構造になっている点に特徴があります。結果として、市民議会で採択された選挙制度は住民投票で否決されてしまいましたが、市民会議と州民を繋ぐコミュニケーション・ディレクターを設置した点、州民の意見を聞く公聴会を開催した点、市民議会から徹底して州議会を排除した点など個性的な取り組みを多々含んだ、興味深い事例でした。

    以上のように、討議デモクラシーの実践枠組みはそれぞれ細部までこだわりを持って構想されているため、どの事例の記述も興味を持って読み進められました。
    一方で、ほとんどの事例がいまだ実験段階にあり、「討議」自体の効果に疑念があることは否めません。本文中でも紹介されていますが、討議に参加した人々は「討議過程」よりも、テーマに関する基礎知識を学ぶ準備段階としての「情報提供過程」での意見変容の方が広く見られるとした研究もあります。
    ですが、討議への参加前後では政治的関心が高くなるとした研究もあり、個人的にはこのような広い意味での政治的関心の向上に、「討議」の価値が見出せるのではないかなと思いました。

    本書は、各章の執筆者も制度作りに第一線で携わっている先生方が多く、それぞれの制度の特徴がわかりやすく書かれていて、大変読みやすいです。幅広い方々に、おすすめできる一冊です。


    「『代表』の反対語は参加ではなく、『排除』であり、また参加の反対語は権利行使の回避である」(p237)

  • 市民が政治に参加する方法として、今まで取られている単純な世論調査などとは異なり、じっくりと討議をした上で意見を考えさせる討議型デモクラシーに関して論じられている本。具体例が豊富でわかり易かった。

  • 平川先生がmust buyと(直)

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