思想としての法華経

著者 :
  • 岩波書店
4.29
  • (4)
  • (2)
  • (0)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 46
感想 : 5
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000258579

作品紹介・あらすじ

サンスクリット原典からの画期的な現代語訳を成し遂げた著者が、『法華経』に込められた共存と融和を希求する思想の今日的な意義を問う。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  著者は、理系の学生として大学時代に出会った法華経の思想を読み解くことが著者のライフワークとなり、古代仏典を研究しサンスクリット語の原典を精緻に読み解き「梵漢和対照・現代語訳 法華経」を完成させた。
     本書は前著の数年後にまとめられ、前著を訳出した際の考え方や著者の思いが語られ、それらを通して法華経の思想(解釈)に我々を導いてくれる。
    「サッダルマ・プンダーリカ・スートラ」=「妙法蓮華経」=「白蓮華のように最も優れた正しい教え」、ここに込められた著者が法華経と向き合う真摯な姿勢が誠にすばらしい。

  • 学生時代の「だから何なのだ」という問に適切に答えられなかった自分を反省し、自分で考えることの必要性を認識した著者。

    そして、色んな人生経験を重ね出会った「法華経」。

    中国語で書かれた「法華経」に対する原始的な疑問が、サンスクリットまで遡らせた。

    東西の文明が行き交う西インドで成立した「法華経」の原点に深くせまった著作である。

    そして、思想として読むことで新たな価値発見ができるとしている。

    釈迦が言ったとする教えは、どういう思いで発せられたのか。

    後世の人間が解釈する言語の限界。

    法華経を読んだことはないが、著者の著した「法華経」の解釈を読んでみたくなりました。

  • -----


    法華経の神髄をえぐりだし、研究史を画する一書



     著者は、サンスクリット原典から『法華経』、『維摩経』の画期的な訳業を世に送り、その明晰(めきせき)な訳文と創意に富む訳注は仏教学に新たな息吹(いぶき)を吹き込んだことで知られる。

     本書は、これまでの成果をもとに、『法華経』を「思想」として読み解き、主要なテーマを詳細に論じた一冊だ。

     法華経の神髄とは何か--。「真の自己に目覚めること」である。この認識から他者への目覚めへと展開するダイナミズムが可能となる。認識における止揚(しよう)の論理と実践における寛容の思想の解明が本書の圧巻であろう。

     宗教の歴史とは、権威化・硬直化という必然にどのように応答していくのかという歩みといってよい。欺瞞(ぎまん)の襞(ひだ)に分け入る応答がなくなれば、「人間のために」という溌剌(はつらつ)さは人間を差別するイデオロギーとして機能する。このことは学問についても同じである。往々にして文献学は煩瑣(はんさ)な訓詁学(くんこがく)へ傾き、思想家は文献を疎(おろそ)かにしがちだ。著者は梵漢和(ぼんかんわ)のテクストに一字一句忠実である。同時に、そのアクチュアリティ(現実性)を浮かび上がらせるから驚くほかない。

     著者は環境と時間に恵まれた研究者ではない。仕事のかたわら、稀代(きだい)の碩学(せきがく)・中村元博士のもとで修学を重ね、穴を穿(うが)つような研鑽(けんさん)を続けてきた。著者の半生が序章で語られるが、それは真理に蓋(ふた)をする「虚栄心」との戦いでもあったという。原典と素直に対話する。そこから文献に裏打ちされた思想が初めて立ち上がるのだ。

     本書の出現は、学芸の歴史において一つの「快挙」「事件」といってよい。通読する中で、法華経のイメージが一新される。多くの人に手にとって欲しい。

    --拙文「植木雅俊『思想としての法華経』(岩波書店)、『第三文明』2013年2月、95頁。

    -----






    http://d.hatena.ne.jp/ujikenorio/20130101

全5件中 1 - 5件を表示

著者プロフィール

仏教思想研究家・作家。1951年長崎県島原市生まれ。九州大学理学部物理学科卒、同大学院理学研究科修士課程修了。東洋大学大学院文学研究科博士後期課程中退。1991年から東方学院で中村元氏に師事し、2002年に文系ではお茶の水女子大学で男性初の博士(人文科学)の学位を取得。著書に『法華経とは何かその思想と背景』(中公新書)、『差別の超克原始仏教と法華経の人間観』(講談社学術文庫)、『テーリー・ガーター尼僧たちのいのちの讃歌』(角川選書)、『梵文『法華経』翻訳語彙典』(全2巻、法藏館)、『法華経誰でもブッダになれる』(NHK「100分de名著」ブックス)など。訳書に『日蓮の手紙』(角川ソフィア文庫)『梵漢和対照・現代語訳法華経』(上下巻、毎日出版文化賞受賞)、『梵漢和対照・現代語訳維摩経』(パピルス賞受賞、いずれも岩波書店)、『サンスクリット版全訳維摩経口語現代語訳』(角川ソフィア文庫)など。小説に『サーカスの少女』(コボル)。

「2023年 『日蓮の手紙 2023年3月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

植木雅俊の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×