アイデンティティ/他者性 (思考のフロンティア)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (121ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000264211

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  • 著者:細見和之(詩人、ドイツ思想・アドルノ研究)

    【目次】
    目次 [iii-vi]
    はじめに [vii-viii]

    I アイデンティティの諸相 001
    自我論とそれをはみ出すもの/身体という受動性/アイデンティティの相剋/記憶とアイデンティティ/模倣と表現/ディアスポラと近・現代

    II 記憶という他者,言語という他者 
    第01章 引き裂かれたアイデンティティ――プリーモ・レーヴィをめぐって 019
    1 悪い知らせを届けるカラス 020
    レーヴィの邦訳作品/レーヴィの「私の家」/「カラスの歌」
    2 レーヴィのアウシュヴィッツ体験 030
    アウシュヴィッツという「地獄」/日常としてのアウシュヴィッツ/「溺れるものと助かるもの」/交替する夢と現実
    3 ダンテの『神曲』と「シェマー・イスラエル」 040
    オデュッセウスの歌/キリスト教と反ユダヤ主義/「シェマー・イスラエル」
    第02章 投壜通信のゆくえ――パウル・ツェランとプリーモ・レーヴィ 053
    チェルノヴィッツという町/ツェランとドイツ語/投壜通信としての詩/レーヴィとツェラン
    第03章 他者の言語を生きるということ――金時鐘をめぐって 067
    1 クレメンタインの歌 068
    文学学校と金時鐘/「それが詩なんだ!」/金時鐘の植民地体験/ツェランと金時鐘
    2 金時鐘の表現=文体にそくして 083
    日本語による日本語への報復/日本の戦後詩における金時鐘/『猪飼野詩集』と長篇詩『新潟』/1980年5月,光州/詩集『光州詩片』
    3 抒情の他者と他なる抒情 098
    日本語を化石化すること/(1)「在日朝鮮人語」を求めて/(2)幼年期の夢/(3)リリシズムの戦い/ふたたびツェランと金時鐘,そしてわれわれ/テロリズムとシニシズムを超えるもの/50年のちに

    III 基本文献案内 113

    あとがき(1999年8月16日 細見和之) [119-121]

  • 言葉に関する学び、そして語彙の形成・記憶の定着に至る自己の確立を考えると、詩人ほど敏感な審美眼を用いてそれを遂行する者はいない、との思いに強く駆られる。何故なら、彼等の言葉は、アイデンティティから突如現れる、生命の糸だから。人生の経過を言葉なしに済ますことは出来ない。しかし、誰にとっても、理解を示してくれた他者との出会い、を知る前の、苦しい無言の日々を記憶していると思う。そして、成長と共に、解り合えない他者が、少なからず居る事にも気付く。思いを外部に吐き出す事は、それを聞いて貰える事を前提とした、思想のバトン、双方交通を期待した行為でなかったか。その期待を見事に打ち砕くのは、他者であり、社会であり、故郷である。己の信仰をそっと告げた相手が見せる不可解な疑念や否定。断絶の経験。それが、後々の人生に落とす影は大きい。詩人は、孤独と云われる。俗世間に背を向け、美的観念に住まう彼等の作品は、誰に向けられたメッセージなのだろう。書物から得られた情報、通り過ぎた町の景色、人々の挙措を、彼等はどのように受け取り、無言の対話を行ったのか。言葉が限定的な事物に向けられ、同じ文化環境を共有する者同士で用いられるならば、対話の成立は苦もない作業。但し、詩人はそのようなコミュニケーションはしない。直接、星や空に呼び掛け、地球へ、宇宙へ、細胞へ働きかける言葉を紡ぐ。彼方に見えた幻視、神々の国に通ずる道を、彼等の言葉は紡ぎ続ける。そして、誰かがその言葉を追いかけ、彼等に追い付き、共に其処へ赴こうとする事を、密かに夢想するのかも知れない。夜を知り、闇にこそ人間の本質が在ると知った、詩人たちの世界に、我々は容易に近付き難い。その壁は、あらゆる否定の声によって築かれたアイデンティティの緊張を示す。何故なら恐らく、孤独な試練を歩む者が抱く孤高の目的そのものと関係するから。誰もが詩人の境地を経験しては、下山する。その頼りなさ、息苦しさに降参してしまう。だけど、どんな人生を歩もうとも、何処かで詩人としての己が顔を出す。その瞬間、顔を顰め、そいつを押し込めてしまうかは、各自の判断に任されているにしても。心に詩を持つ事の、極度の閉鎖的で非在に迷うアイデンティティ。あなたも、そんな運命を背負った一人なのではなかろうか。

  • プリーモ・レーヴィ、パウル・ツェラン、金時鐘という、記憶の他者性、言語の他者性を帯びる詩人たちの表現に即して「アイデンティティ」なるものを捉えようとする一冊。

  • 決して在日コリアンを取り扱った本ではないですが、在日コリアンにとって重要な「自分は何者なのか?」すなわちアイデンティティの部分を哲学的に分析している本です。
    なので、自分のアイデンティティの部分に接近できます。
    考えるきっかけを作ってみてはいかがでしょうか??

  • 沖縄に住んでこの手の本を読むようになりました。沖縄の抱える問題は難しい。。

  • [ 内容 ]
    抽象的思考ではアイデンティティ/他者性という問題の核心には到達しえない。
    肝心なのは個々の「私」におけるその在り方である。
    プリーモ・レーヴィ、パウル・ツェラン、金時鐘という具体的な表現者に即して、この問いを考える。

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 詩による記憶の分有

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著者プロフィール

1962年、兵庫県丹波篠山市生まれ。2014年10月から大阪文学学校校長。2016年4月から京都大学教員。
詩集:『沈むプール』、『バイエルの博物誌』、『言葉の岸』(神戸名ビール文学賞)、『ホッチキス』、『家族の午後』(三好達治賞)、『闇風呂』、『ほとぼりが冷めるまで』(藤村記念歴程賞)
主な詩評論集:『アイデンティティ/他者性』、『言葉と記憶』、『ディアスポラを生きる詩人 金時鐘』、『石原吉郎』、『「投壜通信」の詩人たち』(日本詩人クラブ詩界賞)

「2023年 『京大からタテ看が消える日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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