帝国主義 (ヨーロッパ史入門)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000271004

作品紹介・あらすじ

ヨーロッパ勢力による「世界分割」は、なぜ起こったのか-帝国主義は、外交・政治・経済はもちろん、思想・文化・心性、さらには植民地における現地情勢などの多面的な検証を要する、近代史最大の課題である。ヨーロッパの帝国主義が最も激しく展開した一八六〇年代から第一次大戦前までを中心に、問題のありかを整理。レーニン、ホブスンの古典的理論から、社会帝国主義論、「現地の危機」論、世界システム論、ジェントルマン資本主義論まで、膨大なアプローチを分析し、総合的かつ批判的な帝国主義理解を提唱する。

感想・レビュー・書評

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  •  歴史家による帝国議論だが、以下の2点から国際政治における帝国議論からも取っ付きやすい。
     第1に、『帝国論』ではなく、『帝国主義』に関する論考である事。この点において欧州における帝国主義国という歴史的事実からアプローチしている。この帝国概念はむろん、大航海時代以降の植民地獲得競争にも関わるがそれ以後の欧州における領土分割と占領、そして大戦と通史的に簡単に踏まえており、帝国主義の起源という意味で多いに関係している。
     第2に、歴史学的な視点は『特定化』(時代的な、地域的な・・・)に執着する傾向があるが、本書は歴史学に対する批判や現代の帝国議論を踏まえており、その意味で一般化への試みがなされている。その反面、帝国主義に関する事実の羅列でしかないと言える。むろん、反駁として、いかなるものが事実であるのかまたそうではないのか、そうしたことすらもわからないようになってしまった現代のイデオロギッシュな帝国議論においては鳥瞰図的にそれを見ることも必要だと指摘できる。私は、前者の批判を著者に投げかけつつ、後者の本著の役割に感謝した読者でもある。帝国論は、著者自身が指摘するようにあまりにも広大な議論を展開したためにその論者ですらどこまでその概念に含まれるのが疑問を持たずにもいられないが、本書は歴史学的視点から欧州における帝国主義の�本国の1)社会的プッシュ要因、2)政治的プッシュ要因、3)経済的プッシュ要因、�植民地国のプル要因、�現代の議論と整理されており、非常にわかりやすい。
     むろん、不満の吐露も容易だ。第1に、「主義」(ism)にも関わらず、中心的概念が存在しない。著者は「帝国」という概念が曖昧である事、従って「帝国主義」とすれば歴史的事実から接近できる事、そこで得られた「主義」と現代の論争を比較する事などを読者にゆだねているとも言えるが、少し他力本願ではないだろうか。ismの中核は仮の形でも著者が示すか、もしくは現代の「帝国」議論を揶揄するのであれば、逆に『帝国「主義」』というタイトルの方が納得できる。ちなみに、原著はEuropean Imperialism,1860-1914で、帝国論をど真ん中から論じようという気概は無い。しかし、かといって欧州の帝国議論に終始しているかと言えば、そんな深みも無い。分量も実に少ない。まあ、学部1年生向けのテキストとしては最高だと思うが。しかし、決してそれ以上は何も期待できない。

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