死ぬ (人生をひもとく 日本の古典 第六巻)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000286466

作品紹介・あらすじ

大切な人との別離が避けられないように、誰もがいつかはこの世からお別れをしなければなりません。自らの運命を粛々と受け入れる大津皇子、予言された高僧の死を冷静に見つめる兼好、詳細な遺言書をしたためた宣長…。死にゆく者の思い、遺された者の哀しみ、喪失感の克服など、「死ぬ」ことへの向き合い方を探ります。

感想・レビュー・書評

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  •  このシリーズの最後を飾るのは「死」であり、その最後の解説のタイトルは「死んだふり」今昔物語集である。見事。担当は山中玲子氏。
     舞台は摂津。80歳ほどの旅の僧侶がお寺にやってきて、しばらく泊めて欲しいとお願いする。
     お寺側は泊められるような場所はないと断るが、「それなら鐘楼の下なら風にさらされないし、そこで寝泊まりします。その代わり、休んでいる間、鐘つきの仕事もします」と言って、話がまとまる。
     そして二日後。
     お寺の僧侶が鐘楼を見に来ると、老僧がなんと横たわっている。どうやら死んでしまったのではないか。その頃、祭礼も近いので、ほかの僧侶たちは死体のある鐘の下に穢れを嫌がって誰も近づこうとしない。
     するとそこに、30歳くらいの男が二人現れた。
    「老僧がここに訪ねて来ませんでしたか?」
     お寺の僧侶が死んだことを告げると、二人はワッと泣き出した。
     老耄の父親がちょっとしたことで機嫌を損ねて何かというと家出する、というのだ。二人の話によると、住まいは播磨で、それなりに経済力のある一族だと明かして、「遺体が父親なら、夕方を待って葬りいたい」と言う。
     鐘堂に案内された二人は、やはり死体を父親だと確認して、泣き伏せる。穢れを恐れて外から様子を見ていたお寺の僧達に「葬送の準備をします」と告げて、いったんは二人は帰っていく。
     やがて夜になってから、一族がやってきて、老僧の屍骸を運び出していく。お寺の僧達はもちろん近付きもしない。
     一族は寺から離れた松原の辺りで一晩中念仏を唱え鉦鼓を叩き弔いをして、夜が明けると去って行った。

     死の穢れを忌むべき30日が過ぎて、お寺の僧侶らは鐘楼に行った。
     すると大鐘がどこにもない。
     鐘が盗まれていたのである。
     あの老僧の死体の事件は、この鐘を盗むための企みだったと気付いた僧侶らは、老僧を葬ったはずの松原に急いで向かった。
     すると、溶けた銅のクズがあちこちに散っているという状態だったという。
     『彼ら』は、お人好しの、そして事なかれ主義の、死の穢れにおびえる寺僧のことも調査済みだっただろう。

     遥か昔の、畏れを知らない男達の話。「死」をテーマにした古典アンソロジーの最後にふさわしい逸話だと思う。

  • 葉隠を読みたくなりました。

  •  「死ぬ」ことにまつわる日本古典の短歌・文30編。大津皇子、人麻呂、業平らの辞世の歌。平家物語、仮名手本忠臣蔵のお軽。方丈記の冒頭の格調高い文章の紹介も。万葉集では死ぬことがテーマで有りながら、死ぬという言葉が出ることは恋の時だけ!和泉式部の恋人の死を悲しむ歌・・・。建礼門院が夢を見た竜宮城が明石であり、源氏物語においても明石が、死後の世界に特別の意味をもっていたのだ。笑えるのは今昔物語にある「死んだふり」のお話。死を忌み嫌うことを嘲笑うようにお寺の鐘を盗んでしまう怪盗ルパンのようなお話がこんな昔にあったということが実に楽しい。「死」と「別れ」「運命」「愛」「恋」などの概念についての日本古来の共通した考え方を知る好著。

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著者プロフィール

1933(昭和8)年、東京生れ。東京大学文学部卒業、同大学院人文科学研究科博士課程満期退学。文学博士(東京大学)。東京大学教授、白百合女子大学教授を経て、東京大学名誉教授。日本学士院会員。専門は、中世文学、和歌文学、日本文学史。主な著書、『新古今歌人の研究』(東京大学出版会、1973)、『新古今和歌集全注釈 全六巻』(角川学芸出版、2011~2012)、『久保田淳著作選集 全三巻』(岩波書店、2004)、『花のもの言う』(新潮選書、1984。岩波現代文庫、2012)、『隅田川の文学』(岩波新書、1996)、『富士山の文学』(文春新書、2004。角川ソフィア文庫、2013)、『ことば、ことば、ことば』(翰林書房、2006)、『藤原俊成 中世和歌の先導者』(吉川弘文館、2020)など。
1997年より、『和歌文学大系 全八十巻』(明治書院)の監修者として、現在まで五十四巻を刊行。残る二十六巻も進行中。

「2020年 『「うたのことば」に耳をすます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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