岩波科学ライブラリー ハトはなぜ首を振って歩くのか (岩波科学ライブラリー 237)

著者 :
  • 岩波書店
3.96
  • (24)
  • (35)
  • (19)
  • (4)
  • (0)
本棚登録 : 319
感想 : 45
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000296373

作品紹介・あらすじ

気がつけばハトはいつでもどこでも、首を振って歩いている。あの動きは何なのか。なぜ、1歩に1回なのか。なぜ、ハトは振るのにカモは振らないのか…?冗談のようで奥が深い首振りの謎に徹底的に迫る、世界初の首振り本。おなじみの鳥たちのほか、同じ二足歩行の恐竜やヒトまで登場。生きものたちの動きの妙を、心ゆくまで味わう。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 動物はなぜ動くのか、という話題から始まり、歩行のエネルギー効率や動物の歩行の仕組みを筋肉や骨格の話…と進んでいくのですが、そのすべては「ハトはなぜ首を振って歩くのか」という疑問を解決するため!
    著者の軽妙な語り口と、首振りにかける情熱が、完全に私のツボにはまってしまいました。

    ハトの首振りの最初の研究は、なんと1930年まで遡るのだそう。
    私も、駅のホームや公園の芝生でヤツらを見かけるたびについ首の動きに目を奪われていたのですが、人類は随分前からハトの首振りに並々ならぬ興味を惹かれていたようです。
    また1975年に行われた、ハトの首振りはどういった刺激によって引き起こされるのかを検証した、箱入りハトの実験もおもしろかったです。

    また、ハト以外の鳥類についても、なぜ首を振ったり振らなかったりするのか、著者の見解が述べられています。
    個人的にはペンギンの歩行についての記述にものすごく納得してしまいました。
    試してみたい気持ちを抑えきれず、ペンギンの骨格と同じ姿勢になって歩いてみたら、確かにペンギン歩きと同じ動きになって感激。
    さらに骨格図の横に並べられた、ペンギンが山手線のホームに立っている写真のシュールさにしばし笑いが止まらなくなりました。

    たかが首振り、されど首振り。
    近くに鳥が寄ってきたら、じぃっと観察したくなる1冊でした。

  • これはなー,いいぞ,実にいい。鳩みてたらまず間違いなく一度は謎に思ったことがあるだろう,そう何故首を前後に振って歩くかだ。前後に振って歩いていったい歩きにくくはないか? というあれだ,それに応えてくれるとても読みやすい良著なんだ。
    まずは何故歩く(動く)のかという導入からどう歩く(動く)か。次に歩くと走るの違いとその行動のワケ,その効率性の違い。間子のハトは気になるので今度観察に行ってこよう。
    そしてついに何故首を振るかへ,過去から付き合いの長かったであろう人の近くにいる鳩,やはり昔から鳩が何故首を振って歩くのかに関心を寄せた人々はいたようで,最初の研究は1930年まで遡るそう。
    箱の箱入れ実験は面白い試み。結果,風景が動けば首が動くということがわかった。だがそれだけでは説明がつかない,目のついている部分と眼球の動き,およびその視野の範囲。歩行との直接関連性があるのではないか。首を振る鳥は振ることにより歩行性の安定性を確保する,大股で歩き体の回転を少なくしている。首を振らない鳥は小股でちょこちょこ歩き両足がついている時間を多くとることで安定性を確保している。
    カモは振らない。たまに振らないサギ,たまに振るサギ。コアホウドリのV字振り。泳ぐとき振るカイツブリ。チドリの尾振り,アオシギの体振り。後,スズメなどのホッピングについてもちゃんと解説されていました。
    なにはともあれ一読をお勧めする,読んだすぐから鳥観察が楽しくなること請け合いです。

  • ハトはなぜ首を振って歩くのか

    著者 藤田祐樹
    岩波科学ライブラリー237
    2015年4月17日発行

    この本を読み始めて、まず、そうかと思ったのは、二足歩行をするのは人間と鳥だけという点。カンガルーや猿も二足で進むことがあるが常にではない。著者いわく、鳥たちとヒトとをつなぐのが二足歩行。
    この本を借りに行くとき、図書館が接している公園で確かにすべてのハトが首を振りながら歩いていた。でも、それはある種の錯覚のようで、首を振っているのではなく、実は首を止めていると言ったほうがいいようだ。

    ハトは1歩ごとに首をグイと大きく前に出し、そこで頭を静止させる。歩いているから体は前に進むが、頭は体と一緒に進まずその位置で静止させたままにしている。これの繰り返しが首を振っているように見えるのだそうである。そして、ハトだけではなく多くの鳥がこうした動きをしているとのこと。ニワトリやカモを手に持って体を上下左右に動かすと、頭だけ同じ位置に静止させいることも確かめられた。ただし、カモは珍しく歩く時に首を振らない鳥であり、この理由についても書かれている。

    では、なぜ首振りならぬ頭の静止を行うのか。研究はなんと1930年に始まった。ハトを上から固定し、箱の中で歩かせる。歩くと一緒に箱が動いて風景が変わるパターンや変わらないパターンなど、4種類で実験したところ、風景が動いたら首振りをしたという。すなわち、ハトが見ている風景と深い関わりがあると判明した。
    我々が電車に乗って外の風景を見る場合、目を動かさずに見たとしたら網膜上に流れてぶれた映像しか映らないが、実際は建物や田んぼや畑など形としてとらえている。これは、我々があるものをとらえ、それを追って目を左右に動かしているからだ。例えば、左から右へ。行き過ぎるとまた目を左に持って行って新たなターゲットをとらえる。

    ハト(鳥)の首振りも、どうやらこれと同じ理屈らしい。人は目が前面にあるから前に歩く時は前方からそらす必要はなく、中心を見続けていればいい。ところが鳥は目が左右ほぼ反対側についているので、前方での視界の重なりは人より少なく左右や後ろ近くにまで、広い範囲で見え、視軸が左と右にある。だから、前進するときに景色をとらえようとすると、目を前から後ろへ動かさないといけなくなる。ところが、鳥は目を人のように早く動かす筋肉がないそうである。だから、頭を静止して左右に見える景色を“固定化”し、網膜上に映るぶれをなくして進んでいくことになる。

    ただ、メインの理由はこうだが、それだけではないとのこと。視覚面では、奥行き知覚をしているのではないかという仮説があるらしい。人間は左右の目で見ている視界がかなり重なるため、左右の画像の違いで立体感など奥行きをつかむ。鳥は左右で重なる視界が狭いのでそれができない。そこで、ある地点で首を固定して画像をとらえ、次の地点でも固定して画像をとらえ、その違いによって奥行き感をつかんでいるのではないか、というわけである。ハトは着地した後、歩かないのに首を振るらしい。それは、枝の感覚をつかんでいるのではないかと想像できる。

    さらに、歩くときのバランス取りや、中枢神経系のリズムが首振りと歩きで一致してしまうことも関係しているのではないかということだ。
    それだけではない。餌を探して食べるのにも関係するようである。ここで、カモがなぜ歩くときに首を振らないかという理由が分かってくる。カモはハトよりもずっと遠くを見ているようなのである。クロサギは餌を探していない、なんとなく歩いているときは首を振らないらしい。
    ハトは比較的近くのものを見続けている。それは餌が近くにあるから。カモは水中では補食するが陸上で歩いているときはいわば休んでいる時であり、餌を探していないから遠くを見ているのではないか。そんな話になってくる。

    ただ、鳥の首振りをひたすら研究している著者の興味はこれにとどまらない。止まっている時だけ首を振るカワセミについて、左右V字型に首を振るコアホドリ、ホッピングして進むスズメ・・・いろんな鳥についても推測をし、今後の課題としている。

    偉い先生がこんなことにこだわって執念をもって研究しているの?学者はオタクだなんて言うけど、本当にそうだなあ、と学問のすばらしさ、楽しさが分かる1冊だった。
    文章もユーモアに溢れておもしろい。特に、後半の図やキャプションの愉快さは決して見逃せない。なお、出版元の岩波がこれについての公式映像をユーチューブにアップしている。
    (下記、1~6)

    https://youtu.be/qaL4hCApjiQ

    https://www.youtube.com/watch?v=4LnOUs615sU

    https://www.youtube.com/watch?v=012aeeof80U

    https://www.youtube.com/watch?v=KL8imQw5ZgY

    https://www.youtube.com/watch?v=yh7_EvRYfQs

    https://www.youtube.com/watch?v=pJSDi9hhjns

  • 面白かった。
    ハトだけではなくスズメやカモなどほかの鳥についても興味深い。なるほど。
    湿地帯のため鳥は多く見かけるが、そういえばじっくりと観察したことはなかった。
    見かけるたびに愛おしく観察してしまいそう。

  • ハトが首を振り振り歩くのは、バランスを取るためなのかなと思っていた。でもあれで走ったら気持ち悪くなったりしないんだろうか。
    これは読むしかない。ハトの首ふりの研究者がいるとは思わなかった。

    看板に偽りなし。ハトが首を振って歩く理由がちゃんとわかる。
    科学系の読み物で、「なぜ◯◯なのか」といったタイトルに惹かれて読んではみるけれど、結局タイトル倒れでわからない、という経験をしょっちゅうするので、爽快だった。
    しかも真相は衝撃的。そうだったのかぁぁぁ!

    ハトの首振りをテーマに、科学する?方法論や考え方が浮き彫りになって、楽しい。
    仮説の作り方と実験による確認。例外の重要性。ハトに、ルームランナーみたいな実験装置の中を歩いてもらう実験をしてた研究者がいる。同じ鳥でもハトやニワトリは首を振って歩くが、カモは首を振らない。すべてが「ハトが首を振る理由」につながっていく。

    百年近く前から、世界中の名だたる研究者が大真面目に「ハトはなぜ首を振るのか」を調べていたと思うと、人間も捨てたものではない。
    研究には金も時間もかかると思うが、藤田先生は上役にどうやって企画を認めさせたんだろう? 企画書を読んでみたい。

  • 「気がつけばハトはいつでもどこでも、首を振って歩いている。あの動きは何なのか。なぜ、1歩に1回なのか。なぜ、ハトは振るのにカモは振らないのか…?冗談のようで奥が深い首振りの謎に徹底的に迫る、世界初の首振り本。おなじみの鳥たちのほか、同じ二足歩行の恐竜やヒトまで登場。生きものたちの動きの妙を、心ゆくまで味わう。」

  • Kindle Unlimitedに入っていなかったらあえて手に取ることはなかったかもしれない。
    ほどよく軽妙な語り口で、初心者にもわかりやすくなるほどと思わされる。
    岩波科学ライブラリは初めて読んだが、ブルーバックスより短くて手軽と感じた。他も読んでみたい

  • 1320

    ハトはなぜ首を振って歩くのか (岩波科学ライブラリー)
    by 藤田 祐樹
    ある日、私のもとに、スズメに関するテレビ番組の取材があった。なんと、歩くスズメがいるというのである。「なに!?」と私は耳を疑った。その方の話によれば、兵庫県中町(現在は多可町の一部)に 間子 という地区があり、間子の七不思議という言い伝えがある。そのひとつに、「間子のスズメは歩く」という内容が含まれているのだ。  その記者によれば、「間子は昔から湿地が多く、地上ではホッピングを行いにくかったためにトコトコ歩くようになったのだろう」と言われているらしい。  もし、これが事実なら、いくつかの点で大変である。

    いずれにしても、ハトやニワトリには頭を静止させようという性質があり、歩くときにも頭を静止させようとする結果、首を振るのである。

    1つ目は、ハトにとって景色が移動することである。この景色の移動を目で見ることが刺激となって、首振りが起こるという考えだ。2つ目は、ハトが空間的に移動するときの加速度を感知し、これが首振りを引き起こすという考えである。3つ目は、脚と首の運動が、何らかのメカニズムでリンクしており、そのため歩行動作を行うと首も動くという考え方だ。

     ここまでの実験で、ハトが首を振る理由は視覚刺激とわかったようなものだが、念のため他の刺激は首振りを引き起こさないか確認しておこう。図 20 のでは、ハトも箱の壁も天井に固定されていて動かないが、足もと部分の床は動く仕組みになっている。この状態でハトが歩くと、ちょうど私たちがランニングマシンの上で歩いているように、足もとの床だけが動く。一生懸命歩くけれど、床だけが動いて前に進まないし、景色(箱の壁)も動かない。すると、ハトは首振りを行わなかった。つまり、歩くという動作そのものは、首振りを引き起こさないのである。

    最後に、ハトの動きを止めて、空間的な移動のみによる影響を確かめよう。図 20 は、ハトを箱ごと動かしてやる実験だ。ハトは立ち止まってじっとしているので歩行動作は行われず、景色となる箱もハトと一緒に動くので変わらない。でも、空間的にはハトは前進するので、内耳の三半規管は加速度を感じる。すると、ハトは首を振らなかった。空間的な移動も、首振りを引き起こさないという結果であった。

    これでは解けた。脚を動かすと首が動いてしまうわけでもなく、体の移動を感じるから首を動かすのでもなく、景色が動くから、ハトは首を振るのである。

    景色が動くと、ハトは首を振る。もう少し詳しく言うと、ハトに対して景色が動くと、ハトは景色に対して頭を静止させようとして、首を動かすのである。これは、景色を目で追っているということである。

    目の向きが異なると、見える範囲がまず違う。片側の目だけだと、ヒトの場合には約160度の視野がある。左右の視野が重なる部分が120度くらいあって、全体としては約200度の範囲が私たちには見えている。一方、ハトは、片側の目の視野は169度とヒトと大差ないが、全体としての視野はずっと広くて316度もある。図を見てもわかるとおり、真後ろ以外はおおむね見える。その代わり、左右の視野が重なる部分が小さく、たった 22 度しかない。

    結果として、鳥類の眼球は、頭の大きさに対して不釣合いに大きい。これでは、眼球を私たちヒトのようにキョロキョロと動かすことはできなくても、無理はない。実際のところ、まったく眼球が動かないわけではないが、私たちに比べると、その程度はずっと

    眼球を動かすことができなければ、景色を追うことができなくなり、困ったことになる。景色を見るのをあきらめるという手もあるが、それでは何のために眼球を大きくしたのかわからない。そこで、発想の転換だ。眼球が動かないなら、首を動かせばいいじゃない。小さな眼球を動かすよりコストがかかるとしても、眼球の代わりに首を動かすのは、やってできないことはない。  幸いにも、鳥の首は長くてよく動く。首の骨の数だって、私たち哺乳類よりずっと多い。哺乳類の世界では、なぜか首の骨の数は7個と決まっていて、進化の過程で数の増減が起こらなかった。

    カモが首を振らない理由はわかってしまったが、まだ不思議なのは、首を振る鳥たちは、いつも首を振っているということだ。ハトの研究をはじめてから十数年、ハトを見かけるたびに首を振らずに歩いていないか観察しているが、私はまだ一度も、首を振らずに歩くハトを見たことがない。

    ご存じのとおり、スズメも地上で足もと近くのを探索してついばんでいる。すると、スズメだって首を振ってよさそうな気がする。ところが、彼らは首を振らない。なぜだろう。  それはおそらく、ホッピングによる移動の速度が速いためだ。ハトやニワトリも、走るときには首を振らない。速く動けば動くほど、首振りの頻度も増加させなければならないが、頭を頻繁に前後させてその位置を静止させるのは、速く動くほど難しくなる。首を振る鳥たちも、移動速度が上がって首を振るのが困難になると、首振りをしなくなるのである。

    それでは、ホッピングしながら、スズメはどのようにを探しているのだろうか?  立ち止まって探すのだ。

    コアホウドリは、アホウドリより少し小型の近縁種で、小笠原諸島を含む太平洋の島々で繁殖している。

    ちょうどそのころ、川上さんはコアホウドリの研究をしていて、それが傑作な首振りをしているというのである。 映像を見て驚いた。なんと、コアホウドリは歩きながら、前後ではなく、上下に首を振っていたのである。

    実際、小笠原諸島の小さな無人島で、アホウドリ類は驚くべき密度で繁殖していた。犬も歩けば棒にあたるということわざがあるが、この捕食者のいない小さな無人島では、誰でも歩けばアホウドリ類にあたるような状況だった。

  • 文章が面白い。内容もわかりやすい。興味がひかれついつい読み進めてしまう。
    人の歩くことと走ることエネルギー効率と速度について。
    ペンギンの足の長さとエネルギー効率。目の大きさと位置。視界。首の長さと骨格。
    様々な角度から分析して丁寧に説明しているので、外で鳥をみたらついつい考えてしまいそうだ。
    近くのものを見させればいい、という仮説のもと行った鳥類ハト化計画が面白い。
    歩くスズメがいるという兵庫県中町(多可村)の七不思議は著者にかわって調べたくなる。

  • 鳩といえば首を振りながらひょこひょこ歩くのが印象的な鳥です。この歩き方の理由をマジメにかつ分かりやすく解説している本です。他の鳥の首振り動作についても考察していて、鳥類観察が楽しくなる事請け合いです。

    大阪府立大学図書館OPACへ↓
    https://opac.osakafu-u.ac.jp/opac/opac_details/?reqCode=fromlist&lang=0&amode=11&bibid=2000874503

全45件中 1 - 10件を表示

藤田祐樹の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
佐藤 正午
ピエール ルメー...
恩田 陸
ヴィクトール・E...
ロビン・スローン
又吉 直樹
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×