ちいさい言語学者の冒険――子どもに学ぶことばの秘密 (岩波科学ライブラリー)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (128ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000296595

感想・レビュー・書評

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  • 私たちが「言葉を身につけた過程」を、子どもたちの助けを借りて探ってみよう。という本です。

    第1章 字を知らないからわかること の「濁点」についての子どもの理にかなった対応の話から最後まで興味深く読めました。

    か (ka) にテンテンは、ga (が)。
    さ (sa) にテンテンは、za (ざ)。
    た (ta) にテンテンは、da (だ)。
    な (na) にテンテンは、???。ですよね。
     では、
    は (ha) にテンテンは?
    これが答えられない(発音できない)子どもがけっこういるそうです。
    ぱ (pa) にテンテンなら、ba (ば)。と誰もが答えられるのに!

    大人でも「テンテンあるなし」の音を、口のどこを使ってどんな風に発音しているかを意識してみると、その理由が分かります。
    子どもは、か-が、さ-ざ、た-だ、の関係を暗黙のうちに理解しているから、は-ば、とはならないのですね。

    あと、「し」と「ち」は区別できるのに、「じ」と「ぢ」を同じ音で発音するのも(最初は)おかしいと感じています。
    日本では (ra) と (la) は同じ発音だと覚えさせられるように、「じ」と「ぢ」の発音も同じと覚えさせられてきただけみたいです。

    このような、大人の日本人が当たり前のように使っている言葉の不思議にいくつも触れることができます。

    なぜ、そうなったの?と頭に残ったのは「死」の五段活用です。
    「飲んだ、読んだ、噛んだ、死んだ」とくれば、
    「飲む、読む、噛む、死む」が自然だし、
    「飲め、読め、噛め、死め」になりそうなものですが、「死」だけが(マ行でなく)ナ行の五段活用で、「死なない、死にます、死ぬ、死ね、死のう」となります。

    子どもがじゃれ合って「助けてくれ~。死む~~。」なんて叫んでいるのも自然なことなのかも知れません。

    日本語以外の外国語の例などもあり、気づきがいろいろありました。

    浅田真央さんがよく「ノーミスしたいです」と言っていましたが、英語の習得過程の例では、
    「誰もボクのこと好きじゃないの」は、Nobody don't like me. と言ってしまい Nobody likes me. と言えるようになるまで時間がかかるらしいです。
    このような感覚は何度も使って身につけるようです。

    日本語でも外国語でも、どうやって自分がそれまでに身につけた言語の知識を微調整しているのか、よく分かっていないみたいですね。

  • ちいさい言語学者の冒険 子どもに学ぶことばの秘密 [著]広瀬友紀 | レビュー | Book Bang(週刊新潮 2017年6月22日号 掲載)
    https://www.bookbang.jp/review/article/533796

    UTokyo BiblioPlaza - ちいさい言語学者の冒険
    https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/C_00093.html

    ちいさい言語学者の冒険 - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/book/b281696.html

    Yuki Hirose - ちいさい言語学者の冒険
    https://x.gd/bwTIi

  • ”私たち大人が自力で思い出せない、「ことばを身につけた過程」、直接のぞいてみられない「頭の中のことばの知識のすがた」を、子どもたちの助けを借りて探ってみましょう。子どもたちはそうした知識をまさに試行錯誤しながら積み上げている最中です。大人の言うことを丸覚えにするのでなく、ことばの秩序を私たちが思うよりずっと論理的なやり方で見いだし、試し、整理していくー子どもたちが「ちいさい言語学者」と呼ばれるゆえんです。(まえがきより)”

     「言語学」というと何となく身構えてしまいがちだが、本書は、もっとゆったりした気持ちで、子どもたち、いや「ちいさい言語学者」たちの試行錯誤の様子から、ことばの興味深さや不思議さを発見しようという本。柔らかい語り口で読みやすく、さらさらと読めてしまうが、実は扱っているテーマは言語学の広範な分野に亘っている。
     まず第1章は「濁点」について。「「た」にテンテンつけたら何ていう?」「「さ」にテンテンつけたら何ていう?」という質問に対しては正しく答えられても、「「は」にテンテンつけたら何ていう?」という質問には答えられない子が多いという。”なぜか、ga(が)って答えてみたり、「$%6」(ローマ字で表せないのでデタラメ記号で表現してみましたが、ha(は)を力みながら出したような音でした)とか、なかにはa(あ)と答える子どももいるらしいとか、とたんにさまざまな珍回答が出てくるようです。(p.3)” われわれ大人からすると、彼らの答えは間違いで、「は」にテンテンつけたものは当然「ば」・・・と言いたくなるが、実は対応規則を論理的に考えると子どもたちの答えの方が正しいのだ! というのも、濁音化とはそもそもどういうことなのかよく考えてみると、それは「発音に使う口の中の場所はそのままに、無声音を有声音にすること」だからである。確かに「た」-「だ」、「さ」-「ざ」ではこれが成立している。しかし、「は」の場合は些か状況が違う。発音してみるとすぐに分かるように、大人が対応していると思っている「は」-「ば」は、上の濁音化の規則に当てはまらないのだ。そして、あくまで濁音化の規則に忠実に従おうとすると、子どもたちが答えたga(が)や「$%6」あるいはa(あ)こそが「は」に対応していることになる。これほど鮮やかな事例を見せられてしまうと、ひょっとすると大人より子どもの方が、論理的にことばに向き合っているのかもしれないと言いたくもなるというものだろう(無論、子どもたちにその自覚はないだろうけども)。
     子どもたちの試行錯誤を読んでいると、身近な大人のことばを参考にしつつも、寧ろ自分の力で言語の規則を一つずつ学び、秩序を以てことばの世界を構築せんと奮闘する姿が見て取れる。そして、実際にその難題を成し遂げてしまうのだ(終いには、そんな奮闘があったことすら忘れてしまう)。本当に、これには素直にすごいなぁと感嘆するしかない。子どもたちの数々の「言い間違い」は、大人にとって微笑ましくもあり、同時に気づきに満ちている。僕も、今こうしてことばを一応不自由なく操れているということは、小さい頃よく頑張っていたんだなぁ(ぜんぜん覚えてないけど)、と「かつてのちいさい言語学者」を自分ながら思わず労いたくなった、そんな一冊だった。

    1 字を知らないからわかること
    2 「みんな」は何文字?
    3 「これ食べたら死む?」 子どもは一般化の名人
    4 ジブンデ! ミツケル!
    5 言葉の意味をつきとめる
    6 子どもには通用しないのだ
    7 ことばについて考える力

  • たまたま図書館で見かけた当たり本。

    息子さんや周りのお子さんの言葉にまつわるエピソードを面白おかしく交えながら、言語学者である自身の見解が分かりやすく述べられている。

    日本語なんて無意識のうちに習得した言語だと思っていたが、
    深掘りしていくと、その課程は試行錯誤の繰り返し、まさに『冒険』なんだと興味深かった!

    そこに大人の指導はあまり必要なく、環境を整えたり、しっかり話を聞いたりしてあげることが大切だと思った。

    ••┈┈┈┈┈好きなフレーズ┈┈┈┈┈••
    外国人に聞いてみましょう。
    「日本語の授業で「っ」でどう習いましたか」
    「次の音の構えをしながら、つまりスタンバイしながら1拍分の長さをおくことです」
    知ってました?そんな難しいことしているって。

  • ちょうどおしゃべりか大好きな2歳児が我が家にいるので、取り上げられる例に首がもげるほど頷いた。とっぴな文法で話す彼の頭の中では、高度な処理が行われていたりするんだなあ……。今、このタイミングで読んでよかった一冊。

  • 読んでいる間、わくわくしっぱなし。
    周囲の大人を真似して言葉を得るのだと思っていたが、子供はもっとずっと能動的に、フルで頭を回して自力で言葉を獲得していくのだと、何だか胸が熱くなる。
    その間のこと、覚えていたかったなー。
    ちょうど冒険に乗り出した娘を、「何でいつも同じ間違いしてるの?」ではなくて、「おお、まさに手探りで歩き回っているところ…頑張れ!」という気持ちで見守れそう。
    もう少し大きくなったら、「"は"にてんてんをつけたら何?」は必ず聞いてみたい!

  • とにかく良さに溢れてた……とにかくみんな読んでほしい……

  • 幼いヒトが母語を獲得し、母語話者となるまでに起こる様々なことについて触れられた本。
    「ちいさい言語学者の冒険」ってうまいタイトルだなあと思う。言語「学」って聞くとハードルが上がってしまうような感覚を覚えるけれど、母語を獲得していく過程の子どもたちの試行錯誤は言語学そのものの探求に他ならないし、それは「学習」「研究」というよりは「冒険」に近い。未知の世界の手触りを自分で確かめときに導かれながら切り拓いていく冒険そのもの。
    文字と音声が結びつく前の段階だからこその子どもの発想が興味深かった。ひとつの単語の中で子音を入れ替えてしまうタイプの言い間違え(「ねずみ」のzとmを入れ替えて「ねむじ」と言い間違えるとか)って大人ではなかなか観測されない気がする。子どもは「ねずみ」を3文字(拍)の言葉ではなくそれより細かい発音に分解して認識できているのだなと思うとすごいことだ…。

  • クラシック畑、童謡畑の人間が、ジャズのリック、フレーズ、語彙を習得する手掛かりになりはしないかと読み始めた。

    曰く、子どもはただ大人の言葉を真似するのではなく、自分で規則性を見つけようとするとのこと。
    巨匠達の演奏をただコピーするのではなく、仕組みを見つけようとすることが鍵なのかもしれない。


    「グライスの会話の公理」「語用論」について、おおむね7歳ごろになると間接的な表現を理解できるとのこと。自分は未だにそれが難しいことの多い、欠陥を抱えた大人だ。

  • 「こどもに、『は』に点々をつけたらなんと読む?ときいたら、なんと答えるか」 実になんともそそられる質問ではないですか。

    副題に「子どもに学ぶことばの秘密」とある通り、子どもによくある「間違った言葉遣い」を通して、言葉について考えていこうというのが本書の趣旨。なるほどねえ、ということが次々出てきて、とても面白かった。

    言語学というのは(まあ学問は皆そうかもしれないけど)素人にはわかりにくくて、オマケにすごく地味だという印象があるが、これはとても取っつきやすい。それでいて、言語学というのが言葉をどういう側面から見ていくのか、少しわかったような気にさせてくれる。柔らかな語り口で読みやすいのもいいと思った。

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著者プロフィール

大阪府出身。東京大学総合文化研究科教授。専門は心理言語学、とくに言語処理。著作に『ちいさい言語学者の冒険』(岩波科学ライブラリー)がある。近年は、言語発達過程の子供がどのようにその知識を運用するかに関心を寄せている。まだまだ続く息子の珍プレーに、喜ぶ日々。

「2022年 『子どもに学ぶ言葉の認知科学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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