九州大学生体解剖事件――70年目の真実

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著者 : 熊野以素
  • 岩波書店 (2015年4月16日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000610391

九州大学生体解剖事件――70年目の真実の感想・レビュー・書評

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  • 恥ずかしながら、自分は、この事件をあまり知らなかった。

    しかし、この本を通じて、過去にこのようなことが行われたことがあったことを知り、日本の歴史の、あるいは、戦争がもたらす悲劇を知った。


    内容は、1945年、終戦間近の春、九州大学医学部で米軍捕虜8名に対して行われた生体解剖実験、そして、戦後行われた、B級戦犯裁判。その後。

    戦犯裁判記録、再審査資料、親族証言などを基にした小説のように進むノンフィクション。

    著者は、この書籍の主人公となる鳥巣太郎の姪である。

    九州大学生体解剖学の当事者、首謀者の一人として責任を押し付けられる鳥巣医師。
    裁判では絞首刑を言い渡されるが、再審査により10年の懲役に減刑。

    それには、一人の医師と夫を信じ再審査を請求する妻の存在があった。その姿に胸を打たれる。


    他の医師達、陸軍幹部は、それぞれの自分の保身に走り、死んだ者に責任を押しつけ、鳥巣医師を首謀者の一人にしてしまう。

    裁判で明らかになる、九州大学生体解剖学の当事者たちの責任逃れ、果ては、軍幹部まで、責任を逃れようとする姿には呆れるばかり。


    戦争がもたらす狂気、そして、誰もが陥るかもしれない人間の弱さ、同調圧力、それがよくわかる。

    裁判の自分だけは助かりたいとの思いの中で捏造され,スケープゴートが作られる恐ろしさ.正義なんてどこにもない.ただ,愛する人を救いたいという思いで嘆願し続けた蕗子の献身に心打たれた.真実は明らかにされるべきだ.


    死刑判決を言い渡され、「巣鴨プリズン」で、自分の罪を棚に上げて、命乞いをする者…。

    それと相対するように、別の事案で、B級戦犯裁判で同時期収監され、「来なさんなや」との言葉を残し絞首刑となった岡田資中将という人物が対照的だった。

    戦争というものがなければ、この岡田資という人物は、さぞ、人格者として、人々を導いたことだろう。


    戦争という非常時がもたらした、人間の狂気、人間のエゴ、人間のいざという時の、人間の弱さと強さ。


    鳥巣氏が晩年に語った言葉。
    「軍人は決して責任を取らんものだ」

    まさにその通りだ。

    そして、「日本は永久に戦争を放棄したのだ」という言葉を忘れてはいけない。


    同じような悲劇を繰り返さないためにも。

  • 【九州大学生体解剖学の当事者たち、横浜裁判で首謀者としての責任を押し付けられる一人の医師と夫を信じ再審査を請求する妻を描くノンフィクション】1945年春、九州大学医学部で米軍捕虜8名に対する実験手術が行われる。海水から作った代用血液の効果や肺をどこまで切除するまで人は生きられるかなど。
    この事件について戦後、戦争犯罪を裁く通称横浜裁判が行われる。
    手術の中心人物だった教授は自殺、残された関係者と軍部の醜い責任のなすりつけあい。一人強く後悔の念にかられる医師は、自己の免責の証言でなく共同の弁護人の薦めに従い虚偽の証言をする。そしていつの間に自分が首謀者と誤解され、一人責任をとらされそうになる。

    死に直面せずとも、人は責任逃れをする。自分も職場で数多く見てきた。平気で嘘をつき部下を切り捨てる。そんな経験を思い出した。人が罪を押し付けられていく恐怖を本書は描く。
    軍部の姿勢も実に醜い。終戦時書類を焼却、軍部からの命令があったという大学側の主張に、証拠がないという。捕虜の処分についても命令はあいまいである。
    数多くの戦犯裁判、このように罪をなすりつけられて処刑された人はたくさんいたのだろう。
    巣鴨プリズンで出会う。東海軍司令官の岡田資中将。こちらは捕虜殺害の責任を司令官が全て受け入れ揚々と死刑台へと向かう。その対比が鮮やか。
    遠藤周作「海と毒薬」から事件をもっと掘り下げ読んでみた。岡田中将については大岡昇平「ながい旅」に詳しい。
    戦争の狂気さと平時でも変わらぬ人の利己的な姿勢、多くの共感を得られる一冊でした。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:329.67//Ku34

  • 戦時中のことを日頃語ることのない伯父さんが,発した
    「日本は永久に戦争を放棄したのだ」
    「軍人は決して責任を取らんものだ」
    という言葉.
    これを読んだ後,ドシンと,そしてストンと,入ってきます.

    ぜひぜひこの時期のご一読を

  • 九大生体解剖事件で軍と大学が罪をなすり合う中,首謀者とされ一時死刑判決を受けた鳥巣太郎.その妻の蕗子の努力により懲役10年の再審結果を得る.本事件のその後の別の一面を解き明かしてくれる.

  • 戦争の持つ狂気,誰もが陥る落とし穴.戦争をしてはいけないと強く思った.そして,裁判の自分だけは助かりたいとの思いの中で捏造され,スケープゴートが作られる恐ろしさ.正義なんてどこにもない.ただ,愛する人を救いたいという思いで嘆願し続けた蕗子の献身に心打たれた.真実は明らかにされるべきだ.

  •  1945年5月17日、22日、25日、6月2日の4回、九州大学医学部で米軍捕虜8名に対して行われた生体解剖実験で、B級戦犯裁判で絞首刑判決(再審査で10年に減刑)を言い渡された九州大学医学部助教授鳥巣太郎についての、戦犯裁判記録、再審査資料、親族証言などを基にした姪による70年目のルポ。

     戦犯裁判といういびつな制度の中で主犯に仕立てられていくが、複雑な人間関係ゆえ真実を語ることのできない鳥巣。

     夫を救おうとする妻蕗子の行動は正義に基づき、力強い。

     戦時下、軍への怖れ、悪化した戦況、敵軍への憎しみ…。

     確かに戦争という因子は大きかろうが、そればかりに原因を求めるのはいかがなものか。
     
     医学部の封建性、医学的好奇心の暴走等を考えると、戦時でなかったとしても、似たような状況になれば起きていたのではないか。

     それにしても軍、医学部の保身振りといったら…。

     別なB級戦犯裁判で同時期収監され、「来なさんなや」との言葉を残し絞首刑となった岡田資中将という人物に興味を持った。

  • 九州大学で行われた生体解剖については、遠藤周作の『海と毒薬』でおぼろげに知っていたが、この本で初めてこの事件について「知った」。

    この本の著者は、事件で有罪判決を受けた鳥巣先生の親戚ということもあり、どこか身内びいきなのでは? という気がしないわけではなかった。けれども、やはりそれだけではなく、著者の言う「真実」もまた真実なのだろうと思う。

    戦争は人間の道徳心を麻痺させる。だから、戦時下にこのような出来事があったとしても不思議ではない(道義的に問題ではあるが)。

    鳥巣先生の奥様(著者の伯母)は、夫の危機にも落ち込まず、前向きに戦っていき、すばらしい女性だと思った。それに対して、軍人たちの責任のなすりつけあいはみっともなかった。

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九州大学生体解剖事件――70年目の真実の作品紹介

軍の命令か、医の倫理の逸脱か-。終戦直前の一九四五年春、名門大学医学部で行なわれたおぞましい「実験手術」により、米軍捕虜八人が殺された。当時、医学部第一外科の助教授であった鳥巣太郎は、この生体実験手術に抵抗し、四回あった手術のうち参加したのは最初の二回(正確には一回半)であった。しかし、戦後に行なわれた「横浜裁判」で、首謀者の一人として死刑判決を受けた。鳥巣は苦悩の末、死を受容する心境に達したが、鳥巣の妻・蕗子は様々な妨害をはねのけ、再審査を請求し、減刑を勝ち取った。本書は、鳥巣の姪である著者が、膨大な戦犯裁判記録のほか、知られざる再審査資料、親族の証言などを基に、語り得なかったその真実を明らかにするものである。

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