台湾と尖閣ナショナリズム――中華民族主義の実像

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000611145

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  • 【224冊目】1970年代に米国の台湾人留学生のデモによって始められたとされる保釣運動。その活動家たちにインタビューし、保釣運動の実際及びその背景にある社会的事情や心理に迫ろうというのが本書の試み。それに続いて、台湾、香港そして大陸の保釣活動家にインタビューし、それぞれの背景にも迫る。そうした試みは結局のところ、その3つの地域の関係性そのものに対する考察へとつながっていく。

     筆者が特に強調するのが、「偏安」と「避秦」という台湾人に働く考え方だ。前者は「支配する国土を奪われた統治者が、地方に落ち延び残された領地を支配し安逸を願う」こと。後者は「自己保全に向け、外部の強権から回避しようとする本能」を指す。
     この2つは、大陸(中共)との関係における台湾そのものの心理でもあるし、保釣運動の背景にあるのはこの両者が絡み合って成形された心理だと筆者は言う。

     もう一つ興味深かったのが、世界華人保釣連盟のような保釣活動の連帯が可能となったのはなぜかということに対する活動家本人たちの説明。
     そもそも保釣活動家たちの中にも、「台独(台湾独立)」か「統一」かや、左派・右派といった主義主張の違いがある。それを超えて連帯が可能となったのは「中華民族の利益」とでもいうべき意識があるからとのこと。これは、習近平が呼びかける「中華民族の夢」にも通底する何かがありそうで興味深い。
     ただし、実際には、たとえば1970年代の保釣運動は、当時の国連における中華民国の議席問題等を背景に、急進的左派が台頭。「保釣」のみならず、国府批判から中共との連帯を呼びかける者とそれに対する反発から運動は分裂し、弱体化の一途をたどるなど、一筋縄ではいかない。

     2012年の日本による尖閣国有化を受け、民間運動だった保釣は、中共による国家的なプロジェクトになり、保釣運動はその役割を変え、宣伝等が主になったという活動家もいる。運動は、今後、衰退の一途をたどっていくのかもしれない。

  • 尖閣列島は台湾の領土だとする主張が1970年頃の米国で留学生たちによって始まり、広がっていった背景。「保釣運動」との名称で台湾・香港・中共(中国本土)が中華意識の下に盛り上がる気持ちがよく分る。中国の文革、香港返還、ベトナム反戦運動などに大きく左右され、「保釣運動」を通して左傾化、あるいは中国と繋がっていると見られ弾圧されるなどの台湾におけるこの運動の長い歴史の重みを知る。そして、外省人だけでなく台湾民族にとっても親日と言われる中での永年の漁の海を喪った哀しみ、複雑さを感じた。「華人」と呼ばれることを好む中華意識も興味深い。

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