教育劣位社会――教育費をめぐる世論の社会学

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784000611695

感想・レビュー・書評

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  • 「日本は、教育に熱心な国である」
     このような意見を耳にしたとき、違和感を覚える人はさほど多くないでしょう。日本の教育水準の高さは、海外から高い評価を得ています(本文5頁)。
    「日本国民は、教育に熱心な人々である」
     こう言われれば、もしかしたら人によって意見は分かれるかもしれません。それでは、次の意見はどうでしょうか。
    「日本は、教育に充分なお金をかけている」
     日本の教育、特に高等教育では、「受益者負担」という考えが根強いと言われています。つまり、学生やその保護者といった教育の「受益者」が、授業料等の教育費を負担するべきであるという考え方です。
     日本国民は教育を軽視しているわけではありませんが、限られた財源を教育、特に高等教育に対して割くことに対してはあまり積極的とは言えません。新型コロナウイルスの流行によって経済的に困窮する学生への支援が議論になったとき、「大学生に対して私たちの税金を投入するなんてとんでもない」というネット上の意見に心を痛めた学生の皆さんもいらっしゃることでしょう。
     高等教育がもたらす利益は本人にのみ帰属するわけではなく、高等教育を受けた者が社会に対してもたらす利益や、高等教育機関が生み出す研究成果等の利益(これらを「外部効果」と言います)が存在することが、研究者によってしばしば主張されてきました。しかし、「教育にはこんな利益が存在する!」と主張しても、肝心の国民がその主張に対して納得しなければ、「受益者負担」の構造は変わりません。
     そこで、教育への財政支出に対する国民(世論)の意識を理解するために行われたのが、本書で描かれている研究です。本書では、教育は他の社会保障と比べてみたとき、優先順位が低いもの(劣位)として扱われているということ、そのような世論を規定する要因は何か、が論じられています。
     計量的研究を読み慣れていない方にとってはやや難しいかもしれませんが、今後の日本の教育を誰が支えていくべきかを考える上で重要な一冊と言えるでしょう。(ラーニング・アドバイザー/教育学 FURUHATA)

    ▼筑波大学附属図書館の所蔵情報はこちら
    https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/opac/volume/3431496

  • 丁寧に行われた質問紙調査を元にしたレポート。科研費の基盤Aで、5000人を対象にした調査を金沢、東京、インターネットと、3回行なっている。
    ワーディングが統一されてない調査で、行き当たりばったりかと思ったら、それも意図的であるように書かれていてた。
    教育費に関わる教育政策と世論の関係を見るという筋で面白かったし、参考になった。

  • 「政策に決定基準といえば、一般に『平等』と『効率』の二つがあげられる。平等主義的な基準は、しばしば政治的なものであり、価値判断によるところが大きい。効率は、経済的なものであり、ムダのない資源配分の方法を判断する基準とされている。この平等と効率に二つが教育政策にどのような影響を与えるか、あるいは、二つの基準からどのような政策的含意を導き出せるか。それを解明するのが政策研究の基本的スタンスである。」p.8

    「教育の姿を変えようとする試みの歴史は長い。その中心は法制度の変更をベースとにする『改革』であるけれども、資源配分の変更を伴う『政策』こそが大事である。」p.139

    「(中略)過去の政策経路を反省し、新しい世論を創る政策ビジョンが必要な時代の節目に私たちは立っている。子どもからキャリアに教育の重点をシフトさせる生涯教育政策は、ビジョンとエビデンスとファイナンスを結びつける一つの政策コンセプトである。」p.195

  • 教育社会学の研究である。Web調査を行い、教育費についての考えを数値で示したもの。

  • 「教育劣位の財政」と「教育優位の家族」が、学歴間格差、所得格差を生み、不平等社会を助長する。高等教育への公的負担増こそが、現代社会の処方箋。

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著者プロフィール

矢野 眞和
矢野眞和:東京工業大学名誉教授

「2015年 『大学の条件 大衆化と市場化の経済分析』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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