お友だちのほしかったルピナスさん (大型絵本)

  • 岩波書店
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本棚登録 : 96
感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (32ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001105766

感想・レビュー・書評

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  •  「ビネッテ・シュレーダー」の絵を見て、いつも驚かされるのは、そのシュルレアリスムを思わせる、非現実的な幻想性を持ちながらも、現実のどこかに確かにあるのではないかと感じさせる、その存在感の凄さであると私は思い、それは一見、矛盾しているようでありながらも、彼女の描いた、ひとつひとつのオブジェクトの尋常ではない拘りようや、もはや芸術的ですらある、その確立された世界観の描写に、とても魅せられたからだと思っている。

     例えば、名前は分からないが、子どもの背丈程もある、大きな花の存在ひとつひとつをとってみても、それぞれが微妙に異なる形をして毅然と佇んでいる中、僅かに靄のかかった風景がなんとも幻想的だが、そこに影が描かれることで、確かな生命の脈動を感じさせられるし、他にも、てっぺんに一本だけ木の立つ丘がいくつもある風景や、金色の野原から、緑色の嵐の空、様々な青が混じり合う海へと移り変わっていく、色に魅せられる怖いくらいの美しさも、怖いんだけれど、そこにはユーモアや安らぎも感じさせる彼女の筆致に、私は現実の世界に於ける多面性を感じられ、更に、拘りの描写を挙げると、じょうろから流れ出る水の落ちる様や、個性的な髪型からルピナスの花を想像させる不思議な少女(!?)、「ルピナスさん」の軽やかな服の立体感も印象的な中、特に、謎の鳥「ロベルト」の羽の精密さは驚異的な美しさであるし、そこに瞳だけで表現した人懐こさが合わさることで、独特な愛らしい雰囲気を醸し出しているのが、また凄い。

     そんな本書は彼女のデビュー作でありながら、1969年、『ブラティスラヴァ世界絵本原画展、金のりんご賞』を受賞されたのも、その絵を見れば納得出来るのだが、ここでは、彼女自身が物語を創作されている点にも注目したい。

     物語は、花に毎日水をやるのが役目の、ルピナスさんと、毎朝飛び立っては、美味しい果物を運んできてくれる、彼女と仲良しのロベルトの、そんな幸せな日々の暮らしの中で、ふと彼女が感じた退屈感は、確かに幸せなんだけれども、同じ事を繰り返す日々に、どこか虚しさを感じつつあった、彼女自身の独り立ちの現れとも、私には思われた。

     そこで彼女のために、ロベルトが連れて来た二人の友達が、上のふたが開くと色々な物が出て来る、箱のような外見をした、「パタコトン氏」と、マザー・グースでお馴染みの、「ミスタ・ハンプティ・ダンプティ」といった個性的な面々で、最初は単なる散歩のつもりが、パタコトン氏が自分の中から紙を取り出して、あるものを作ったことがきっかけで、思いも寄らぬ大冒険へと変貌する展開は、時には必死な思いもしたが、それも踏まえて、とても印象深く楽しいものになったようだ。


     ルピナスの花言葉には、『想像力』や『いつも幸せ』という意味があり、物語に於けるルピナスさんの退屈感に、子どもが親に「絵本を読んで」とせがんでいる光景が思い浮かんだ私にとって、彼女のそれを解消させるのは、彼女自身の象徴である想像力だと感じ、まさにそれを最大限に活かして見せてくれたのが、ビネッテ・シュレーダーの絵と物語であることから、本書はある意味、そんな読み聞かせをする親子の素敵な関係を、時代を超えて教えてくれた絵本でもあり、その普遍的光景は、終盤の幸せそうに寄り添う、ルピナスさんと、母のような慈愛に満ちた、ロベルトの安らかな美しい姿からも感じられる中、既にデビュー作で、絵本特有の素晴らしさの一つである『想像力』に着目していた、ビネッテ・シュレーダーの先見の明たるや、私達の世界においでよと誘っているような表紙の絵も含め、絵画の道ではなく、子どもたちや、私のような大人のために絵本を描いてくれたことに、私は唯々、ありがとうと感謝したい気持ちでいっぱいだ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      たださん
      > 「子どもの本の現在」という著書に載っているのでしょうか?
      はいその本です。初出は先に書いた聖母女学院「児童文学」です。
      たださん
      > 「子どもの本の現在」という著書に載っているのでしょうか?
      はいその本です。初出は先に書いた聖母女学院「児童文学」です。
      2023/09/25
    • たださん
      猫丸さん

      教えて下さり、ありがとうございます(*^_^*)
      「ひげよ、さらば」も併せて、図書館で探して読んでみようと思います。
      猫丸さん

      教えて下さり、ありがとうございます(*^_^*)
      「ひげよ、さらば」も併せて、図書館で探して読んでみようと思います。
      2023/09/25
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      たださん
      にゃ~
      たださん
      にゃ~
      2023/09/27
  • ビネッテ・シュレーダー展 | 伊丹市立美術館
    会  期:2014年7月5日(土)ー8月31日(日)
    開館時間:10:00-18:00(入館は17:30 まで)
    会  場:伊丹市立美術館
    休 館 日:月曜日(ただし7月21日は開館、翌22日は休館)
    入 館 料:一般800円、大高生450円、中小生150円
    http://artmuseum-itami.jp/exhibition/schedule/7944/

    岩波書店のPR
    https://www.iwanami.co.jp/.BOOKS/11/4/1105760.html

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「じんわりといい絵本でした^^」
      チョッとした冒険と言える話ですが、ロベルトが全部見通していたような感じがして不思議な気分に。。。
      8月...
      「じんわりといい絵本でした^^」
      チョッとした冒険と言える話ですが、ロベルトが全部見通していたような感じがして不思議な気分に。。。
      8月の初旬には、ブラっと原画展観に行きたいと思っています。。。
      2014/07/22
    • はるかわさん
      ついこの間、伊丹駅周辺を歩くことがあり、色々なところに原画展のポスターが貼ってあって、「楽しそうだなあ」と思いました^^ わたしも時間があっ...
      ついこの間、伊丹駅周辺を歩くことがあり、色々なところに原画展のポスターが貼ってあって、「楽しそうだなあ」と思いました^^ わたしも時間があったら行ってみたいと思います。
      2014/07/25
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「わたしも時間があったら」
      もう8月も半ば、、、早く行かなきゃ(一昨日昨日と雨だったので予定変更して家で燻ってました)。。。
      「わたしも時間があったら」
      もう8月も半ば、、、早く行かなきゃ(一昨日昨日と雨だったので予定変更して家で燻ってました)。。。
      2014/08/11
  • 読了 1番落ち着く場所と1番落ち着く相手は一番近くに

  • シュレーダーの絵がうちの娘は好きなんだそうです。幻想的で美しい絵ですよね。本当に頼りになる友達が誰なのか、ルピナスさんが気づくというストーリー。最後は心がほんわかに。

  • その他好きな絵本は色々あるのですが、シュレーダーさんの「ともだちのほしかったルピナスさん」や、ル・カインの「踊る12人のお姫様」のような少し影のある細密描写の作品が好きです。

    <hima>

  • 以前にも読んだのですが、この挿絵に惹かれてまた読みました。
    ポスターも持っているくらい好き。
    ルピナスさんと鳥の関係性を知りたいなぁww

  • ハンプティダンプティ好きなので余計惚れ惚れしてしまいました。ストーリーというよりも、絵の感じからくる全体的な雰囲気がとてもすてきです。

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