なぞの娘キャロライン (岩波少年文庫 2117)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001121179

作品紹介・あらすじ

行方不明の年の離れた姉が、突然もどってきた。マスコミは大さわぎ。ぼくたちの生活のリズムはめちゃくちゃ…。平和な一家をまきこんだ事件を軽妙なタッチで描きながら、意外な結末へと導く、ミステリー。小学上級以上。

感想・レビュー・書評

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  • E.L.カニグズバーグの、1976年の作品。
    絶版で長らく入手できなかったが、ようやく手元に届いて読むことが出来た。
    しかしこれは本当に児童文学なのだろうか。子どもが読んでどこまで理解できるのだろう。
    いくつもの仕掛けがあり、いつものように「どこに連れていかれるか皆目分からないまま」読み進み、最後は圧倒される。そしてしばらく身動き出来ないほどの感動がおそうのだ。

    話は14歳の少年・ウィンストンの視点で語られる。10歳の妹・ハイジは発達障害を抱えている。
    そんなウィンストン家は使用人が何人もいる名門カーマイケル家。
    ハイジを世間に出さないように、甘やかして野放し状態で育てる母親。
    仕事に逃げる無口な父親。
    その妹の世話は兄であるウィンストンの肩にかかっている。
    文句も言えず、妹とケンカすることも許されず、自由にもなれず。
    しかしハイジには優れた知性が隠されていた。
    それを見出したのは、行方不明になっていた姉・キャロランだった・・・

    ミステリータッチで展開していくが、恐ろしいことなど何ひとつ起こらない。
    謎ときの部分があるとしたら、突然現れたキャロラインが本物かどうかという点。
    そしておおかたの予想通り、彼女は別人のなりすましなのだ。
    しかし、何のために?それが明らかにされていく過程が読みどころだ。
    無駄のないキリリとした描写と、明るくカラっとした知的な会話の応酬。
    キャロラインによって、徐々に変わっていくウィンストン家。恐怖心を乗り越えながら新しい世界へ足を踏み入れるふたりの子たちの、少しずつの変化。
    うっかり読み飛ばそうものなら置いて行かれる。
    あなたはあなたのままでいいのよ、なんて言う日本式の優しさはない。
    カニグズバーグの少年・少女たちは、知恵と勇気とで新たな運命を手に入れていく。
    家族という呪縛から解き放たれて。

    一カ所だけ、思わず涙したところがある。
    ハイジのために、大学で特殊教育を学びたいと言うキャロラインに対し、嫉妬のあまり「なぜハイジはキャロラインを手に入れることが出来るんだよ」とウィンストンが叫ぶ場面だ。
    キャロラインは黙って彼を抱きしめる。
    「すると私は気分が楽になった。私は泣かなかった。泣けなかったのだ。
    どうやって泣くかを、教わったことがなかったのだ。」
    ・・成長、などという言葉さえ薄っぺらに聞こえてしまう。
    本書の中で、大人になったハイジはハイヒールを履いてテキパキと働いている。
    そして作家になった兄と洒落た会話を楽しんでいる。
    そうなるまで、ふたりはどれほど努力したことだろう。

    なりすましの詐欺行為は許されない、糾弾すべきだなどと言われ、今の日本だったら作品自体が非難の対象になるだろう。そのあたりが、絶版になった理由なのかもしれない。
    もしそうなら、こんな愚かしい話はない。
    何故なら、動機となった真実には蓋をするということだから。
    良い読書が出来た。カニグズバーグは、いつも私の先生だ。

    • アセロラさん
      ご無沙汰しております。
      カニグズバーグ、子供を信頼しているところやウィットに富んだ会話が大好きで、
      尊敬する作家さんです。
      アメリカは...
      ご無沙汰しております。
      カニグズバーグ、子供を信頼しているところやウィットに富んだ会話が大好きで、
      尊敬する作家さんです。
      アメリカはやはりこのテの問題は日本より数十年も進んでいるのか、
      彼女の作品には二重人格…今でいう解離性同一性障害の主人公も登場したりしますね。
      nejidonさんのカニグズバーグ作品のご感想が拝見出来て、
      とても嬉しいです。
      2020/06/14
    • nejidonさん
      アセロラさん! わぁぁ、お久しぶりです!
      カニグズバーグのレビューにコメントを下さって、とっても嬉しいです!
      しかも、尊敬する作家さんと...
      アセロラさん! わぁぁ、お久しぶりです!
      カニグズバーグのレビューにコメントを下さって、とっても嬉しいです!
      しかも、尊敬する作家さんということで、ますます嬉しいです(^^♪

      そうなのですよね、日本よりも数倍この問題に対して進んでいます。
      レビュー内にも書きましたが、勇気を出して進んでいく子どもたちがカラっと書かれているのが魅力的です。
      その場限りの優しさで甘やかした大人は、むしろ軽蔑されています。
      これは大人にとっても良い教訓になりますね。
      カニグズバーグでコメントをいただいたのは初めてかもしれません。
      アセロラさん、ありがとうございます。
      コロナ禍が鎮まらないうちに梅雨に入りました。
      どうぞお身体に気を付けてお過ごしください。
      2020/06/14
    • 淳水堂さん
      nejidonさんこんにちは。
      レビューを拝見してとても気になったので読みました。
      なんか表紙が怖い(^^;)ので、11歳の次男に読ませ...
      nejidonさんこんにちは。
      レビューを拝見してとても気になったので読みました。
      なんか表紙が怖い(^^;)ので、11歳の次男に読ませましたがなんか怖いものが来る話かと思ってました^^;
      姉が帰ってきたということがテーマではなく、その帰ってきた姉が何をしたかでしたね。
      サスペンスなどでは”なりすまし”とか”他人の家庭に入り込む(結婚などでも)”みたいなのは、財産目当てなど最初から目的が決まっていますが、この本では入り込んでみたキャロライン自身も新たな人生の目的を持ったというところも良い意味でびっくり。
      さらに「やっちゃえ」のおばあちゃんもなんかすごい(笑)
      児童文学ではっきりと「発達障害へも適切な対応を」と書かれているのは初めてで(本当はもっとあるのかもしれませんが、私は知らなくて)、これ子供にわかるのか?と思ったのですが、一応次男はわかったと言っていました。
      いつも素敵な本の紹介をありがとうございます!
      2020/07/03
  • カーマイケル家の長男14歳のウィンストンは、10歳の妹ハイジにうんざりしていた。ドタドタ歩き、始終つきまとい、人のお皿から食べ物を横取りする。
    上流階級であるカーマイケル家は、多くの使用人を雇うことにより表面的には一家の平穏を保っていたのだ。
    その危うさが顕になったのは、ある晩訪ねてきた女性によってだった。
     「こんばんは、お父様、ただいま」
    彼女はカーマイケル氏と最初の妻との娘で、17年前に誘拐犯に殺されたと思われていたキャロラインだった。

    ===
    ブクログに書かれたれレビューで非常に興味を持ちました。
    表紙の絵が妙に怖いのと、最初の始まり方で一家に入り込んだキャロラインを名乗る謎の娘は何者か?というちょっと怖い話かと思ったのですが、帰ってきた姉の話ではなくてその姉が帰ってきて何をしたかという話で、さらに人は正当な教育によりこんなにも変わるんだなどと衝撃の展開でした。11歳の次男にも渡してみたら、最初はキャロラインが本物か、に興味を持っていましたが、読み終わったら「…びっくりの展開…」。

    さて、ある日突然帰ってきたキャロラインに対して、父親のカーマイケルさんは喜びで迎え、相続という現実的な問題が生じるカーマイケル夫人(キャロラインの母の死後に再婚)は水面下の戦いを繰り広げながらも認めないわけには行かない、そしてウィンストンとハイジの二人は本物かどうかよりもただそのキャロラインを気に入ります。
    ハイジの描写は、最初は「年下に付きまとわれてウザい」という年上の兄弟共通の心境なのかと思ったら、話が進むとハイジに発達障害があることが書かれてゆきます。しかし磨かれるべき知性はあるのに、隠され放置されていたために兄のウィンストンまでも悪影響とストレスを受けていることも明らかになります。
    それを見抜き、なんとかしなければならないと思ったのは外からきたキャロラインでした。兄妹がキャロラインを気に入ったのは、彼女が自分をそのまま受け入れてくれてさらに一緒に成長させてくれる相手だと分かったからでしょう。
    キャロラインは、誘拐される前の家にいた頃から成績に問題があり、上流階級者が名前さえ書けば入学できる大学にしか入れなかったということがわかります。カーマイケル家のような上流階級では、お金で隠すこと、仕事に逃げることなどができてしまい、ずっとそうしてきたのです。
    なお、妹の「ハイジ」という名前も本名は”アーデルハイド”なのかと思ったら(アルプスの彼女の名前から)、本名はヒラリーで「可愛らしく呼ぶ」でハイジらしい。なんだそりゃ。こういうところで根本の問題に目をつぶり、表面の穏やかさを保っていればいいじゃないという一家の特徴が現れています。

    この話は、良い成長を見せた兄と妹が、姉キャロラインへの想いを振り返るという構造になっています。
    そして突然一家に加わったキャロライン自身も、新たな人生の目的を得てここまで来たのです。助けたいと思うこと、一緒に進みたいとおもうこと。

     <君は今の人生を送っている。君の今の人生のおかげで、私は私の人生を送ることができている。キャロラインのおかげで、私達二人お人生がある。わたしはそう思う。P178>

    • nejidonさん
      淳水堂さん、この作品をお読みいただき、コメントまで下さってとても嬉しいです!
      カニグズバーグはなかなかブク友さんたちに読まれないので、いつ...
      淳水堂さん、この作品をお読みいただき、コメントまで下さってとても嬉しいです!
      カニグズバーグはなかなかブク友さんたちに読まれないので、いつも寂しい思いをしておりましたよ。
      すごい名作揃いなのにねぇ。

      カニグズバーグの世界では、子どもに対する対応が日本とはずいぶん違います。
      日本人は、子どもが自立していくのが嫌なのでしょうか・笑
      キャロラインの言葉使い、ウィンストンやハイジへ向ける視線が、私はとても好きです。
      淳水堂さんも同じように感じられたようで、本当に嬉しい!
      次なるカニグズバーグ挑戦されるときは、教えてくださいませ(^^♪
      私も読んでみたいものがまだまだあります!
      2020/07/03
  • うわー!うわー!すごいな…!
    誘拐されて死んだはずの姉が突然戻って来る、というミステリーでは定石の筋書きなのだけど、その不穏な面白さと同時にシビアに世界を描きながらも子どもに寄り添うのがさすがカニグズバーグ。
    ラストは胸が詰まる。

  • 17年前に誘拐され行方不明となっていたキャロラインが帰って来た。その日からウインストンの生活は変わっていった。
    初めからピリピリとした緊張感に包まれた物語でした。戻ってきたキャロラインが本物かどうかという処から始まり、1950年代のアメリカの富豪の家に生まれたウインストンの生活の窮屈さを知り、ごく脇役だと思っていた妹のハイジに焦点が当たった時に物語はふくれ上がります。キャロラインが外の風を連れてきたことにより、ウインストンとハイジ兄妹の運命が変わる様が実に目映いです。特に障害を持つハイジが自分で考え自分で動くようになる場面は「奇跡の人」を思わせる奮えがありました。

  • その大きな魅力の理由


     児童文学作家のカニグズバーグに、ミステリファンがツボりそう……、と『クローディアの秘密』評に書きましたが、それで行くと、この『なぞの娘キャロライン』なんて、題名からしてミステリ系です★

     裕福だけど家庭の温もりが感じられない一家(やはり!?)に、「キャロライン」を名のる女性が現れます。かつて誘拐されたきり行方不明だった娘で、主人公から見ると姉に当たる存在です。
     きらりと光る会話センス。誰とでも(子どもとも)対等に接する姿勢。彼女の出現は、ウィンストンの関心を強くひきます。相続権絡みで巻き起こる騒動の影で、彼女が本物の姉かどうかは、ウィンストン自身にとっても大きな問題に――

     材料は最初からばらまかれてるけれど、姉弟をとりまく環境の特殊さが何となく曖昧で、読み進めないと真相が見えてこない……★ この作話術は、ミステリ用語だとミスディレクションとでもいったところでしょうか?

     このキャロライン、カニグズバーグ作品の魅力を体現しているような人物だなと思ったことがあります(考えすぎかもしれないけど……★)。彼女は、相手を立場や年齢で区別せずに、必ず一廉(ひとかど)の人物として認めて接するのです。
     カニグズバーグの表現も、視点に変な高低差がなく、公平で誠実。(単純な言葉で表すと「上から目線じゃない」「子供扱いしない」とかかな)。このようなまっすぐさを備えたものは、大人が子どもへ向けて書いた物語には少ないと思います。
     子どもが周りに求めるのは、目には見えない血のつながりよりも、確かに感じられる味方のまなざし……
     私たちは、キャロラインがウィンストンに向き合ったような高さの目線で、人を見つめることができるのか。あるいは、ウィンストンのような目線でキャロラインを見つめることができるのか。そうでありたいと思う時、私はキャロラインに魅了されるしカニグズバーグに魅了されるのです。

  • カニグズバーグはけっこう読んだつもりでいたけど、まだこんな凄い作品があったんだっていう感じです。
    初めのとっつきの悪さを我慢スレバ、途中からぐいぐい引き込まれる。
    この話を書いた時代は既に発達障害がアメリカでは話題になっていたんだね。

  • ミステリーものだ。それもヒューマンな。幾重にもヒューマンな。ある日、突然、キャロラインが戻ってきたのだ。

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