800番への旅 (岩波少年文庫 61)

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  • Amazon.co.jp ・本 (214ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001140613

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  • 主人公は12歳の少年・マックスです。
    母が再婚相手と旅行に出ているあいだ、夏休みを父の元で過ごすことになったマックス。
    彼の父は、ラクダを連れてアメリカ中を興行して生計を立てています。
    父と2人、トレイラーで旅をしながら各地でさまざまな人と出会う、マックスには馴染みのないひと夏の生活がはじまります。

    はじめは生意気な態度のマックス少年に、もやもやした気持ちを抱きながら読んでいました。
    12歳という年齢のせいもあると思いますが、母親が「あのラクダ引き」と父のことを馬鹿にしたように呼んでいたことも影響しているのでしょう。
    しかし、行く先々で慕われる父の姿を見たり、自分自身も苦い思いを経験する中で、マックスの父に対する気持ちがゆるやかに変化していって少し安心しました。

    また、サブリナという少女に出会ったことも、大きな影響があったと思います。
    フリークの新聞記事を集めていて、年齢よりも大人びた口調で話す彼女。
    なぜか旅先で何度も遭遇する彼女は、一体何を隠しているのでしょうか。

    小島希里さんの訳者あとがきが、物語の余韻を優しく深めてくれます。
    仮面とは、自分を隠して他の人にならせてくれるものであり、仮面に隠して本当の自分自身にならせてくれるものでもある。
    もし12歳の私が本書に出会っていたら、どんな感想を抱いていたのか、無性に知りたいと思いました。
    このあとがきで引用されている、カニグズバーグの講演集『トーク・トーク』も読んでみたくなりました。

  • 随分前に、とある本で「司書のおすすめ本」として出て来て、タイトルが面白かったので借りてみたのだが、全然面白くなくて途中で挫折して返したのだった。
    今回、カニグズバーグ再挑戦!と気合を入れて借り直して読んでみたのだが、最後まで読み切れたし、以前読んだ時とは違う印象を受けた。

    物語は、12歳の少年マックスが、母親が再婚して新婚旅行に行く間に、「ラクダ使い」である実父の元で暮らす、一夏の経験を描く。
    けれどマックスはラクダは嫌いだし、父親と過ごすトレーラーの生活も何もかも気に入らなくて…。


    私が思うに、マックスの実父であるウッディはとてもいい人だ。ラクダ使いという仕事も、とても魅力的だと思う。
    けれど、マックスは、ラクダは汚らしくて嫌いだし、なんなら父親のことも、義父になるお金持ちのF・ヒューゴ・マラテスタ一世とは違い、うだつの上がらない小汚い冴えない男だと思っている。初めに読んだ時は、そんなマックスの父親に対する目線や、何にしても否定的で差別的な態度に辟易してしまったのだ。全然楽しくない気持ちでページを読み進めることができなくて、割と早い段階でリタイヤしてしまった。
    サブリナが出てくるところまではかろうじて読んだが、そのサブリナ親子に対しても、不審ないけ好かない人たちだと思えたので、どうにも読み進めることができなかった。

    今回の読書とは何が違っていただろう?
    もしかしたら、もう少し読み進めることができていたら、何かが劇的に変わっていたのかもしれない。
    初読の時に比べると、俯瞰して見るという立場で居られたのかもしれない。
    トレーラーに乗って、ラクダのアーメッドとともに国内の色々な場所をめぐるウッディの生活は、日本で生きている限りにおいてはなかなか想像しにくい。
    一時期Netflixで海外ドラマを見まくっていたので、少しだけ以前より想像力が上がっていたかもしれない。

    マックスの立場で読み進めていくと、結構楽しくない気持ちになる。途中でウッディの人柄に気づくと、その暖かさに居心地のよさを感じる。

    オクラホマ州のタルサでの経験が、一番印象に残る。
    タルサには、ウッディのことが大好きな家族がいて、マックスにもよくしてくれる。
    タルサでウッディはマックスのインフルエンザをもらい、高熱を出して寝込んでしまうが、ウッディを慕う家族のうち長男で14歳のマヌエーロがウッディの仕事を代わりに引き受けてくれ、マックスは父親の看病をすることになる。
    マックスはそこで、たくさんのことを学ぶ。

    マヌエーロが売上金を持ってきてくれた時、マックスはラクダに乗せる代金に対して、売上金に端数があることを指摘する。端数は、客とのトラブルを回避するために生じたものだったが、その指摘によって、マックスはマヌエーロを怒らせてしまう。

    正直、マヌエーロを疑うつもりはなくとも、自分だったら端数が出るのは疑問だから聞いてしまうかなと思う。
    けれど、ここでマヌエーロが怒ったのは、それまでのマックスの態度とかもあるんだろうなぁ。
    マヌエーロのお母さんの言葉が胸に痛い。
    「ボー(マックスのこと)は年のわりにこどもぽいところがあるのさ」「こうやって手助けしてるのは、ウッディのことが大好きだからなんで、それを忘れちゃだめだよ」
    マヌエーロを怒らせてしまったことに対して、ウッディに相談するマックスに対しての、ウッディの返しも痛い。
    「どうもできない。今後の教訓だと思うしかない。」

    本当に、人生はこういうことが往々にしてあるのだ。

    ラスベガスでの、歌手のトリーナ・ローズとの出会いも素敵だ。トリーナという人の魅力と、ラスベガスでのショーの雰囲気を想像すると楽しい。
    そして何より、有名な歌手のトリーナ・ローズが、ウッディの古くからの友人という設定がとても魅力的。
    トリーナと出会うことで、物語は終幕に向けて進んでいく。

    小さな価値観の中で四角四面に育ってきたマックスが、そうでない世界を知って、それらに触れていくこと。
    そして彼自身の出生の秘密。
    成長譚というには少しわかりにくいが、あんなにウッディを毛嫌いしていたボーが、最後に迎えた結末はじんわりと温かい。
    結びの、『ぼくはおしりをすべらせて、ウッディに近寄った。ウッディはハンドルから片手を離すと、その手でぼくをひきよせた。空港に着くまで、ぼくはずっとウッディに寄りかかっていた。』たったこれだけの描写に、図らずも泣いてしまった。この涙は、よい作品でなかれば出ないものだと思う。
    この物語中ではそこまでわからないけれど、マックスの、いやボーの世界はこの後、劇的に変化を遂げるのだろう。
    そうであってほしいと思う。
    小さな価値観から脱却する一夏の物語であると思う。

    そして余談だが、マックスをそうした存在にしたのはマックスの母親の価値観で、マックスの母親の価値観がそうなったのは、マックスを妊娠した時に、両親から祝福されなかったせいではないかと思った。子どもは親の価値観にかなり影響を受ける。そういう意味では、マックスの母親も、自分の親から、その後の人生に大きな影響を与える仕打ちを受けたのではないかと想像した。

    サブリナについての記述が少ないが、実は彼女のことについては、あまりよくわからなかったのだ。彼女が集めているものが一体何を意味するのか。彼女の言っていることは何なのか。
    解説に、仮面についての記述があるが、ここにおいてもまた然りである。
    しかしこの作品のタイトルは『800番への旅』なので、物語の本質は実はそこにあるのだろう。
    というわけで、次回は仮面について考えながら読むことにしよう。

    余談:『800番への旅』というタイトルはとても格好いいと思うのだが、『0120番への旅』だと途端にダサくなるのはなぜなのか。

  • ウッディ父さん。なんて大きな愛なんだろう。主人公は父さんと行動をともにすることで、自ら様々な発見をし、反省をし、そして、自分の本当の出自を知る。

    しかし、よくぞラクダで商売をしている人のさまをここまで見事に描けるものだ。舌を巻く。

    タイトルの「800番」がそういう意味だったとは!

  • 自分として生きていく。

    マックスは母親が富豪と結婚して新婚旅行に行くので、離婚した父親と夏休みを過ごすことになった。父親はラクダを連れてトレーラーで興行をしながら暮らしている。これからの生活への想いと父親との生活への不満を抱えたマックスが道中で出会ったのは——。

    周りから浮きたくない。見下されたくない。そのために進学先のブレザーを着て、母親の再婚相手に連れて行かれた豪華なレストランの話をする。しかし父親には不発で、知り合ったサブリナはどうやら行く先々でまったく架空の人物になりすましている様子。大物歌手のトリーナは、実は名付け親でどうやら昔の父母を知っているらしい。

    自分が誰なのか、わかっているだろうか。自分のふりをしているのかもしれない。誰かのふりをすることは決して間違いではない。何かを演じることで自由になれることもある。ウッディが演じていたもの。それを受け入れてマックスは残りの夏休みを過ごす。

    外国からの旅人のように、違う習慣を見守れる人になりたい。

  • 再婚する母親が新婚旅行に行っている間、12才の少年マックスは「ラクダ使い」の父親のところで過ごすことになった。
    マックスは、もうすぐ始まるはずの、社会的にも経済的にも恵まれている母親の再婚相手に合わせた生活…名門私立校の生徒となって…に慣れておかなくちゃ!と思って過ごしている。「ぼくが慣れておくはずだったのはファーストクラスの暮らしだっていうこと。」
    ラクダ使いの父親ウッディーは「のびのびできると思うのか?」
    旅回りのあいだにマックスは個性的な人々と出会う。ウッディーはみんなに好かれていて、ウッディーもみんなが好き。それは、お互いに助け合い信頼しあっているから。
    そんな中に身を置いているうちに、マックスの価値観もじわじわと変わっていく、、
    「仮面」というのも、この本のテーマのひとつですが、ウッディーにも仮面があったということを知って、マックスは大きな愛情を感じることになる!

  • チョーやさしいけど金がなく、かっこわるくて、ラクダを飼って芸能の仕事をしているダサくて恥ずかしい父さんと、ラクダは嫌だと別れた母さんが歳のいった富豪と再婚し、急にエリートになったような気分に酔ってるこまっしゃくれた少年の旅物語。義理の父の金でボンボン校に入学できたことを鼻にかけて、ラクダ父さんと田舎を旅してる最中もそのブランド校のブレザーをこれみよがしに着続けたりしてた子が、旅しながら出会った人と触れ合い、ラクダ父さんとの時間を通して、少しずつ、その凝り固まったスカした心が素直になっていく。

    アメリカの文化や空気感が感じられて、映画を観たような気分になった。自分いまや中年やけど、この少年の同年代、10代の初めころに読んでたら、どう感じたんやろう。いいとは思えなかったかもしれないかなあ。

  • いろんな人達がいて
    鎧や仮面で自分を守って生きている
    自分も何か理想を持っていると前を向いて歩ける気がする

    見つけられないと表に出られない事もある
    家にいても何か見つけて外に出て
    そこからまた探してみてほしいと思う

  • タイトルの800番の意味は最後にわかる。そういうことか、という気づき。

  • 山陰中央新報の水曜日『週刊さんいん学聞』で紹介されてた本

  • みんな人は色々な仮面をつけている。
    本当の自分って。。。

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