肥後の石工 (岩波少年文庫 78)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001140781

感想・レビュー・書評

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  • 中2の夏休みに読んだはずなのに、読み応えのある本だったなぁという程度の記憶しかない。
    たぶん当時の私は、この本の価値を何一つ分からなかったのだろう。
    今この年齢で再読して、ここまで深く感動できる歴史小説だったことを知り、改めて驚いている。
    1966年第6回日本児童文学者協会賞受賞作品。
    ほかにも第4回NHK児童文学奨励賞、第4回国際アンデルセン賞国内賞を受賞している。
    さもありなん、である。涙なくして、とうてい読み終えることは出来ない名作。

    主人公は江戸時代後期に実在した「肥後の石工」岩永三五郎。
    薩摩藩に招かれ、甲突川五石橋などを築いた史実を基にして著された児童文学。
    築かれた橋には秘密があり、中央の石ひとつをはずすと簡単に取り壊せる仕組みがそれ。
    敵が攻めてきたときに、橋を落として城を守る仕掛けだったと言う。
    この秘密を守るため、工事が終わると肥後の石工たちは全員『永送り』になったらしい。
    『永送り』というのは、ひと目につかないように刺客をつかわして国境で斬り捨てることだ。
    主人公の三五郎は、石工たちの中でただひとり、それを逃れて家路に着いた。
    話はそこからがスタートだ。

    何故、三五郎は『永送り』を逃れられたのか。
    三五郎を斬ることが出来なかった刺客の「仁」は、その後どうなったのか。
    替え玉として斬り捨てられた川原乞食の、ふたりの子どもたちのその後は。
    三五郎は、石工仲間の家族から恨みを買うことになるが、どう対処したか。

    登場人物も多く、複雑な絡みも見せ、でもしっかりと底辺に流れるものは変わらない。
    江戸時代の土木工事の描写も読み応えじゅうぶん。
    死ぬことよりも生きることを選んだ三五郎の、ひたむきな生き方にはただもう賞賛である。
    何が彼を生かし続けたか。
    失う一方の人生で、何故そこまで精一杯生きられたのか。
    ひとの心に橋を架けたかったから。そうに違いない。

    読み終えてから、三五郎の弟子たちが築いたという『二重橋』や『万世橋』『日本橋』などを検索して、しばしその画像に見惚れていた。
    誰もが知る歴史上の偉人などではなく、【民】の真摯な生き方を描いた小説として、まさに白眉。
    すべての方におすすめ。

  • 1965年に刊行された本なので60年近く経っている。
    日本の児童書の中ではこれほど長く売られ続けている本はそうそうないので、名作なのだろうと思うが、実際にこの本を読んでいる小中学生を見たことがないのもまた事実である。
    私の子どもの頃にも学校図書館にあったことを記憶しているが、タイトルといい表紙の絵といい、あまりに子どもの好みから外れていて、読みたい気持ちにならず、読まず。(結構読書好きな子どもだったにもかかわらず。)幾星霜。
    数十年前の子どもですら読みたいと思わなかったのに現代の子どもが読むのかとは思うが、同じく敬遠していた『TN君の伝記』も良かったし、これもやはり良いのではないかと読んでみた。

    いや、立派な作品でした。

    時代小説だが、ちゃんと児童文学であるし、だからといって子どもを「未熟な読み手」とバカにしているようなところは一切ない。本当に高い志を持って書かれた児童文学である。

    現代的な目で見れば徳之島の仁の生い立ちや宇助の複雑な思いをもっと詳しく書いた方が物語が盛り上がったのではないかなとも思うが、そうなると長くなるし、やはりこれくらいまとまっていた方が児童文学として読みやすいだろう。
    宇助と里の恋愛なんかも現代なら書いたかもしれないが、そこも昭和の児童文学、さっぱりしている。

    人物と物語が上手く絡み合い、飽きさせない。
    歴史に名を残すことはなかったが、私利私欲ではなく人のために、また贖罪のために立派な仕事をのちの世に残した三五郎、父を殺され流浪して奴隷労働に身をやつす里と吉(「山椒大夫」のイメージ)、貧しさと両親を殺された恨みから刺客となった徳之島の仁という主要人物がとても鮮やかに描かれている。

    巻末の「あとがき」の、作者自身の戦争中の経験と「三五郎を書くことによって私は、自分の意志とは関わりなく何ものかによって生かされている命というものを、もう一度生き直してみたいと思いました。」(p239)という言葉も心に響く。実際に戦争を経験した作家の作品を読むという経験も今はめったにないので、本当に貴重だと思う。

    まあなかなか子どもにすすめるのは難しいかもしれないが、読めそうな子どもにピンポイントで紹介するのもいいかもしれない。
    絵も、もうこれはこれしかない、という気がする。イマドキのイラストだったら興醒め。

  • 自分の意思と関係なく命を救われた三五郎、
    救われず死んでいった弟子たち、
    生きるために人斬りをしてきた徳之島の仁、
    理不尽に父親を殺されたこじきの子どもたち、吉とお里。
    
    あまりに悲惨な運命が重なり合いながら、肥後国での橋造りが始まります。
    希望なのか罪滅ぼしなのか分からない。故郷で白い目で見られながらも、自分の技術を受け継ごうとする三五郎の職人魂が美しい。
    果たして三五郎の命をかけた橋は完成するのか…。 時代小説とはいえ、歴史あるものすべてが、いかに多くの人々の涙や魂で造られているのか思い知らされました。
    児童書侮ることなかれでした。

  • 何年か前に友人から薦められていた本。
    やっと読めた。

    お城に架けられた橋の秘密。
    その秘密が外に漏れないよう関わった
    石工たちは、、

    石で橋を架ける技術。
    めがね橋は色んなところで見ることが
    できるけれど、いつか熊本のめがね橋
    もこの目で見てみたい。

  • 教科書「一つの花」でおなじみの今西さんの作品。
    江戸時代後期に石造りのめがね橋を架けるために尽力した人々のドラマ。
    主人公、岩永三五郎の職人としての気持ち、薩摩に呼ばれた後に❮永送り❯されてしまった同僚たちの家族への贖罪の気持ちへの、揺れる感情が苦しい。
    人斬りの徳之島の仁(なんという名前、なんという人生、しかも子供時代の作者に身近な大人がモデルになったという)、宇吉、里と吉、みんなの思うままにならぬ、それでも生き抜く強さに感心させられた。

    橋をつくるために奔走する、庄屋や、総庄屋、その上の役人たち、それぞれの胸のうち。

    九州の山のなかで、こっそり京の大商人に通じながら、ロウやハゼの密造、密売で儲ける豪商がなんだか怖い。

    作者のあとがきにも、心が揺さぶられた。
    たまたま、生き残ったという戦中の体験が、三五郎のなかに生きているのだろう。
    現在では、三五郎の手による、これらの素晴らしい橋は、人の手によって失くなってしまった、とサラリと締められる一文。
    悲しい、寂しいことです。

  • #肥後の石工
    #今西祐行
    #岩波少年文庫
    #児童書
    #読了
    「一つの花」で有名な今西祐行さんの作品。時代小説。難しかったが、ふしぎな魅力で読破。実在する人物と架空の人物が混じる。 なぜ自分は殺されなかったのか、殺された人の家族に恨まれているのでないかと悩みながら生き、橋をかけ続けた三五郎。

  • 司書に課された必読書の中でなかなか手が出せないでいましたが、外出先での待ち時間に読むために文庫本を、と持って出かけたのがよかった。

    長崎の眼鏡橋、皇居の二重橋を見たとき、架けた人たちのことまで考えが及ぶことはありませんでしたが、また見る機会があれば、また見る目が変わりそうです。

    高学年からおすすめ。

  • 努力がわかります。

  • 実際にあった出来事を基にした創作。
    理不尽さに腹が立ちつつ、そういった時代が本当にあったのだと思うとやりきれない思いがする。
    三五郎が周囲の目に苦しみながらも自分の技術を伝えなければ‥と思うところが職人の強さだなあと思った。
    最後はきちんと幸せな状態になってよかったが、実際はどうだったのか…。江戸時代は穏やかなイメージがあるがこういう一面があることも知っておかなければならないと思った。

  • 「熊本の緑川に美しいアーチ型の霊台橋が築かれたのは,さむらいの時代が終わりをつげようとしていたころ.そこには,命をかけて弟子たちを育てた職人・岩永三五郎の物語がかくされていた.」
    「肥後(今の熊本県)の石工頭、岩永三五郎には、つらい過去がありました。美しいアーチ型の石橋に秘められた物語」

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著者プロフィール

●児童文学作家。1923年大阪府生まれ。早稲田大学仏文科卒業。在学中から早大童話会に属し、児童文学を志す。主な児童文学に『肥後の石工』『浦上の旅人たち』『光と風と雲と樹と』。そのほか絵本に「源平絵巻物語」シリーズ、『土のふえ』など。日本児童文学者協会賞、野間児童文芸賞、小学館文学賞、芸術選奨文部大臣賞など受賞多数。1992年紫綬褒章を受章。2004年逝去。

「2017年 『ヘレン・ケラー自伝 (新装版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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