カッレくんの冒険 (岩波少年文庫 122)

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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001141221

感想・レビュー・書評

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  • 名探偵カッレくんの協力により、3人の泥棒が逮捕されたあの夏から1年経った。
    カッレくんはいまでも”名探偵”として周囲の観察を怠らない。しかしあんな冒険はこの田舎町ではもう起きないだろう。それならこの夏を満喫しよう。
    アンデスを隊長とし、カッレ、エーヴァ・ロッタから成る「白バラ軍」と、シックステンを隊長とし、ユンテ、ベンカで成る「赤バラ軍」の闘い。この神聖な戦いは千年も前から続き、自分たちは名誉ある戦士なのだ!
    今両軍が争っているのは赤バラ軍が所有する『聖像』を巡る争いだ。一見ちょっと変わった形のただの石だけど、両軍が命がけの闘うに相応しい物だ。
    この『聖像』を巡り両軍は、草地を掘りまくり、誰かの裏庭を駆け抜け、余所んちの屋根によじ登り、どっかの家のベッドルームで一時退避し、危険極まりない敵陣地に忍び込んでの大活劇を繰り広げる。

    しかしこの夏は、いつもの冒険とは違った方向に行く。
    『聖像』争奪戦の最中に、エーヴァ・ロッタが、高利貸しじいさんの死体を見つけたのだ…。

    ***

    1作目は泥棒だったのが、2作目は殺人事件。
    さすがに元気なエーヴァ・ロッタがショックを受けたりカッレも探偵こっごの無力さを感じたりするので、
    子供のころに読んだときは、もっと深刻な雰囲気の印象を受けていたのですが、
    今大人になって読み返したら殺人事件のショックさから立ち直るだけの強さと輝きを感じました。しかし殺された高利貸しの老人のことを忘れるわけではありません。ちゃんと自分には家族や友人や、大切なものが側にいると分かっているのですね。

    2巻目になると町の様子や、少年たちの家庭事情も分かってきます。
    町には表通りが一つと横道が一つ、祭りを行う大広場、ゴチャゴチャした横道や古い家があり、町外れには貧しい者たちが住む”おんぼろ丘”があり、魅力的な共有地である広い草原があります。
    医者の息子ベンカは町では上流の方でしょう。
    町中に住むカッレ、エーヴァ・ロッタ、シックステンは中流程度。
    町外れに住み暴君の父親の元大勢の兄弟と狭い家に住んでいるアンデスと、おんぼろ丘で狭い家に住むユンテは下流に近そうです。
    しかし町の人たちは、上流者だからと言って下流者を馬鹿にはしていません。そんな大人たちをみている子供たちも環境の違いなど気にしません。

    リンドグレーンが児童文学者として優れているのは、大人も子供も実に筋が通っていることだと感じました。
    子供たちは、子供であることを満喫しています。だからバラ戦争も真剣です。
    秘密基地にしている屋根裏部屋に入るには階段を上るなんて卑怯なことはしません。勇敢に縄を登ってこそです。
    相手軍から何かを奪ったら、ちゃんとその隠し場所の暗号を教えなければいけません。
    しかし自分が家族の一員であることはきっちり守るんです。絶妙に最悪のタイミングで親に手伝いを言いつけられても従い、どんなに遊びが佳境でも家族で囲む夕食には決して遅れません。
    そのため相手軍から人質を取ったって夕食時になったら一時解放するのがルールです。しかし人質だってそのままバックれるなんてみっともないことはしません。食事が終わったら家を抜け出してちゃんと監禁部屋に帰ってきます。
    正々堂々と戦ってこそ、神聖な戦争の名誉ある戦士です。

    そしてそれを見る大人たちもちゃんと大人としての筋が通っています。
    親たちは、ご近所さんの屋根に上り裏庭を横切る自分の子供たちに呆れながらも、自分もやってきたことだからと見守っています。
    町の大人たちも、悪い子供だね!なんて叱ることもありますが、だいたいはそれも必要だと分かっています。
    カッレたちとも仲の良い町のビョルク巡査は、彼ら探偵ごっこで本物の事件に首を突っ込むことは止めます。しかしカッレたちが本当に役に立つ操作をして、役に立つ情報を持っていれば子供の力を認めます。まさに大人でありながら子供時代も理解しています。
    それに対して、1巻「名探偵カッレくん」に出てきたエイナルおじさんをみんなが「胡散臭い」と思ったのは、おじさんが子供に擦り寄るためのおべっかや嘘臭さを感じ取ったからです。子供同士の真剣勝負に「大人を連れて行けば勝てるからついて行ってやろうか?君たちも賢くなった方がいいよ」などとダサい提案をする、そんな大人は信用できません。

    さて、結局今回もカッレたちの活躍で犯人は捕まります。
    本物の殺人事件に遭遇し、それを実際に捕まえる警察の姿を見たカッレくんは「もう探偵ごっこは終わりだ」と言ってこの2巻は終わりますが…でもそれは間違いだよ、名探偵くん!次の(3巻の)事件はきみを逃がさないよ!

  • カッレくんの2冊目の本

    もう探偵ごっこは終わりだカッレは思った。
    しかしある事件が起きたせいでそれは取りやめになった。
    カッレはこの事件を解決できるのか?
    探偵をやめてしまうのか?
    それとも犯人に捕まってしまうのか?

    面白かったです。
    カッレくんはやっぱ長いね。

  • カッレくん三部作、二作目から読んでしまうという失態。笑
    それでもとっても面白かった!!
    カッレくん三部作は改訳版が出ているので、
    次はそちらで読みたいところ。


    古い作品なのにこんなに面白いとは…!!
    前作は泥棒事件(らしい)だったけれど、
    今作はなんと殺人事件。

    ミステリーというよりは冒険譚、という感じ。
    物語の半分くらい「赤バラ白バラ戦争」という、
    カッレくんと仲間たちの架空の戦争ごっこが描かれているんだけど、
    そもそもそのお遊びがめちゃくちゃ楽しいし、羨ましい。そして、このお遊びがものすごく重要な仕掛けになっているんです。


    カッレくんは名探偵になりたいけれど、
    現実的に悲惨な事件を求めているわけではない、ところとか
    登場人物それぞれが、殺人事件に対してきちんと胸を痛めているところもよかったとおもう。


    最後の最後、
    殺人犯との対峙の場面。
    いつものお遊びと機転で切り抜けるところ、
    まさに少年探偵団!という感じで、手を叩いて喜んでしまった。おもしろい!



    ただちょっと、犬にチョコレートをあげる描写があってね、そこだけは改訳でなおっているといいなあ。最近では、犬にチョコレートは与えてはいけないという知識が広がっているけど、子供たちがそれを知っているとは限らないので。

  • 三人の何とも言えない友情がいいわ!

  • ふつう続編はパワーが落ちるのにカッレくんシリーズに限っては全然違いました。
    白バラ軍と赤バラ軍の戦争がますます面白くなってきてますし、何よりも白バラ軍の暗号が群を抜いて面白いです。
    日本語に訳すのは大変だったでしょうねえ。
    文句なく5つです。

    • koshoujiさん
      はじめまして。
      かつて読んだリンドグレーンの本に共感できる人に出会えて嬉しいです。
      是非3作目の「名探偵カッレとスパイ団」もお読みになっ...
      はじめまして。
      かつて読んだリンドグレーンの本に共感できる人に出会えて嬉しいです。
      是非3作目の「名探偵カッレとスパイ団」もお読みになってください。
      2012/08/14
  • カッレくんの2巻目です。図書館で借りました。

    薔薇戦争が文句なく楽しそうです。3対3できちんとルールに基づき争い合っているのが素敵ですね。これをいじめにしない辺りが素晴らしい。
    大勢で多数をいじめるのは卑怯ですが卑怯と思わない子供たちだと
    こういうゲーム感覚の続きで行ってしまうのかな、と。そう考えるとその気持ちもわかるような気がして怖いなと思いました。

    それにしてもこの世の中に悪意を持った人間が存在すると言うことに気づくのは年を一気に2~3歳取ったような気になると言うのはわかる気がします。自分の良く知る町や人がいきなり知らない土地の全然知らない人に思えたり。悲しいことですが悪意と言うものに出会った時にそれを解決するのは時間でしかないのでしょうか。

    恐怖を感じている人は恐ろしいことをする。と言うのも真実だなあと思います。この巻は何となく暗いお話に感じました。まあ現実に悪意を持った人がこれより凄惨な犯罪を犯すことを知っているからなのかな。

  • カッレくんがエーヴァ・ロッタの危険の合図に気づいて、それを赤バラ軍と協力して犯人を捕まえたのがすごかった。

  • このシリーズ、カッレ君が活躍する事件の方はどんどんエスカレートしていくんですよね~。  もちろん犯罪は犯罪であって、青島刑事(← かなり古い?)じゃないけれど、「事件に大きい小さいはない!」んだけど最初の「名探偵カッレくん」の事件はせいぜいがコソ泥だったのが、第2作「カッレくんの冒険」では殺人事件だし、第3作「名探偵カッレとスパイ団」では産業スパイときています。

    そしてつくづく感じるのは、カッレ君の名探偵ぶりもさることながら、エーヴァ・ロッダの「事件まきこまれ体質」とでも呼びたいような事件を引き寄せるパワーみたいなもの。  もちろん彼女の責任ではないんだけど常にトラブルの中心にはエーヴァ・ロッダがいます。  第1作では犯人がエーヴァ・ロッダのおじさんだったし、第2作では殺人事件直後の犯人の唯一の目撃者が彼女でした。  そして第3作では彼女がたまたま母性本能をくすぐられちゃった相手が産業スパイ一味の人質になる・・・・と。  

    しかもその拉致現場をたまたま見たのみならず、一緒にさらわれる道をエーヴァ・ロッダが自ら選ぶわけで、まさに「事件を呼び込む女」そのものです(苦笑)  でも、そうやって考えてみるとこの一連の物語、実は時代を変えた「騎士道物語」と呼んでもいいのかもしれません。



    この2作品に共通している点に、「殺人事件」とか「産業スパイ事件」という社会的にも大きな事件とカッレくんたち仲良しグループが夏休みの遊びとして興じている「バラ戦争」がほぼ同じ比率で物語に出てくるところが挙げられると思います。  そして、その「バラ戦争」で培われた機転の利かせ方、通信手段、身の処し方等々が「殺人犯」や「スパイたち」との追いつ追われつの中でしっかり生かされ、彼らが何とかサバイブできる素養となっているところが素晴らしい!!

    「バラ戦争」の中で万が一白バラ軍の誰かが赤バラ軍の捕虜になってしまった際に発する緊急信号、それを味方がキャッチしたことを伝える応答信号、敵が目の前にいる時であっても秘密のメッセージを敵にわからないように味方同士で伝え合う山賊言葉・・・・・。  挙げればキリがないけれど、それらが見事に役立っています。  

    まあ、そこがホッとするところでもあり、嘘っぽいところでもあるわけですが・・・・・(苦笑)。  でも、彼らが大事件に巻き込まれハラハラさせられつつも読者にどこか安心感を与える要素にもなっているわけで、ドギツサやショッキングさで人を釘付けにする昨今の表現手法よりは品格のようなものを感じるのは KiKi 1人ではないのではないかしら。

    と同時に、やっぱり子供たちの遊びというのは彼らのように何もないところで自分たちの創意工夫だけが全て・・・みたいな面もかなり必要だよなぁと思わずにはいられません。  KiKi 自身もゲーム大好き人間だし、どちらかと言えば「やりこみ派」なのであんまり偉そうなことは言えないけれど、ゲームに興じている際にふと思うことがあるんですよね。

    「あ、これ、遊ばさせられてるな」

    ってね。  もちろんゲームの中であれこれ冒険して、迷子にもなって、戦い方も相手によってあれこれ試して・・・・というのはあるけれど、大筋は他人が創造した世界の中で、他人が考えたストーリーに沿って、他人が考えたボス敵攻略法を探しているだけ・・・・・みたいなところもあるわけですよ。  そういう遊びの中からは仲間内だけの暗号だとか、本当の意味で自分の身に何らかの危機(もちろんそれはカッレくんたちが遭遇するような大事件ではなく)が迫った際に、何ら応用が効きません。

    遊びの中で身についたものほど、自分の実になる物はない。  

    そんな想いを深くさせてくれる作品だったと思います。

  • 読んでいて、こ・こわい…と思った。平和な村に人殺しが現れて、人殺しとエーヴァ・ロッタは少しだけ接触した、というなら普通のお話。しかし、人殺しが砒素入りチョコレートをエーヴァ・ロッタに送りつけるところなど、ぞっとする部分もあった。エーヴァ・ロッタが落ち込んでいるところなど、少年小説にはない痛々しさがあった。
    カッレ君の科学的知識にびっくり。最後の、クラーク兄さんと白バラ軍が出会うところは、はらはらした。子供たちの何にも負けない元気さが楽しかった。

  • カッレくんシリーズが、もっとたくさんあったらなあ。大好きです。

  • ピッピとは違って、きっちりとした少年向け推理小説となっているところに驚き。エバ・ロッタちゃん可愛い。ハードカバーで読む。

  • 愉快痛快。出だしから一気に小学生に戻って読みふけりました。前半の赤バラ軍と白バラ軍の戦争は「ごっこ」なのにスリル満点。夜中の逃走劇は楽しかったー。でも、この前半の盗み聞きや山賊言葉が後の事件の伏線になっているからすごい。後半の事件は1巻より悲劇的で残酷。エーヴァ・ロッタの心の動き、丁寧に描かれていて、寄り添えて、感動しました。また、ラスト一行などの情景描写も絵が見えるようで溜息。カッレくん、13歳には見えないほどの機転と勇気と落ち着き。一方で幼さもあって好き。

  • カッレくんとその仲間たちの探偵譚。

    今回の事件はちょっとシリアス。
    子どもならではの活躍が楽しいなあ。

  • こちらも再読。あり得ないくらいつぎつぎと物語が展開していくんだけど、それをご都合主義と感じさせないリンドグレーンはさすがだと、大人目線で思った。子どものときはひたすらどきどきわくわくしながら読んだなあ。地球儀のなかに聖像を隠すとか、さすがすぎる(笑)。

  • ストックホルム、スウェーデンなどを舞台とした作品です。

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著者プロフィール

1907年‐2002年。スウェーデンに生まれる。1944年『ブリット‐マリはただいま幸せ』(徳間書店)で、出版社主催の少女小説コンテストの二等賞を得て、デビュー。以後、児童書の編集者として働きながら数多くの作品を発表しつづけた。1958年には国際アンデルセン賞を受賞。「長くつ下のピッピ」「やかまし村の子どもたち」「名探偵カッレくん」のシリーズや、『ミオよ わたしのミオ』(岩波書店)など、世界中で今も愛されている数々の物語を生み出し、「子どもの本の女王」と呼ばれた。

「2018年 『長くつ下のピッピの本 決定版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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