北のはてのイービク (岩波少年文庫 152)

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  • Amazon.co.jp ・本 (147ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001141528

感想・レビュー・書評

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  • 北極に暮らすイービクの、生死をかけた旅の物語。

    父を亡くしたイービク一家は、飢えに苦しんでいた。狩り手がいなくなったからだ。そこで、イービクは飢えから家族を救うため、本土の人々に助けを求める旅に出る。旅の途上、氷の上を注意深く歩いていると、シロクマと遭遇し………。北極で生きること、狩りをして暮らすことの厳しさと豊かさを感じられる。

    冒頭、お父さんとの唯一のシーン。セイウチ狩りをしているときにお父さんが亡くなる場面を、イービクは直視する。その張り詰めた場面に目が釘付けになるし、同時に目を逸らしたくなる。その顛末は本当にハラハラして、一気にこの物語、北極で生きるイービクたちの世界に入りこむことができた。

    狩り手であるお父さんを亡くし、飢えに苦しむ一家の様子もしっかりと描かれている。大切な犬を殺し、食料にすること。腐ったアザラシでも口に含もうとすること。ロープを噛むこと。天候が思い通りにいかなくて、氷が固まらなくて狩りに出かけられずに食料を手に入れられないこと。その苦しさは、イービクたちに心を寄せながら読んでいるうちに、よく伝わってくる。だから、どうしてイービクが危険で無謀とも思える旅に出かける必要があったのかということもよくわかる。もうそれは、切羽詰まった旅なのだ。

    狩りをして暮らすというのは、とても厳しい世界に生きることだ。冒頭の父の死は、人間は狩る側でもあり狩られる側でもあることをまざまざと教えられる。そして、絶えず今日や明日の食料の不安を抱きながら生きていくことも意味する。もちろん、狩りができなかったら飢えに苦しむことになる。

    こうした厳しさの中で、身を寄せ合って生きるイービク一家の絆に感動する。旅に出る決意をし、シロクマとの対峙を乗り越え、生死の淵をさまよったイービクの成長と喜びを感じられるのも心地よい。

    この本は、児童文学でありながら、読者を子ども扱いせず厳しい現実を描き出している。また、それを乗り越え成長するイービクの姿を通して、深い満足感を子どもたちに与えてくれる。

    岩波少年文庫にしては、比較的読みやすく、文章量もそこそこといったところ。4年生くらいにどんどん勧めたい。

  • 凄かった。薄いからすぐ読めそう、と選んだ私が浅はかだった。
    物語のパワーと薄さは関係ない、とよく分かる一冊。
    岩波少年文庫における本作の衝撃は『はるかな国の兄弟』にも勝るとも劣らない。

    開始3ページで始まる強大な悲劇。
    セイウチのツノが完全にお父さんを貫いてるって、そんな。
    そこから始まる飢餓の表現が徹底していて、読んでる私も体調が悪くなりそうだった。
    幼い弟妹は事実を理解していないが、彼らを飢えさせるわけにはいかない。それが辛い。
    主人公イービクが貫くのは、年老いた祖父と、弱い母親と同じく、家族を食べさせる力は無いけど、飢餓の現状をその手に委ねられている 大人 の視点だ。

    犬を少しずつ減らしていく状況も辛い。(犬を繋ぐ革紐もみんなでいただきました←ここが一番アーッ☆と思った…)
    犬ソリを無くすデメリットはあるも、他に手段はない。何よりその選択が悲しい。しかしそれも根本的な打開策ではないので、すぐにまたスタートに戻る、の非情さ。これが大自然です極寒です。なんの装飾もなく淡々と進む筆致に、ただイービクと家族の心に寄りながら、身を捩って読んでいく。
    獲物がなければ、食糧はもちろん、脂もないし、新しい服も作れない。自然は過酷だ。

    そして訪れる転機。
    旅立ちに際して持っていくのは、セイウチのツノなんだね。お父さんを殺したものがイービクを守るんだなあ…うう。

    勇気、戦い、勝利。
    そのあとの、動かないと死ぬけど、既に空腹と疲労で死にそうで動けない、という状況が1番の読みどころだと個人的には思った。
    なんか、わかる、わかりますよ…!

    親戚の大人達に再会し、狩を褒められ、飢餓を脱出。
    飲んだこともないのに、獲物の血や油がどれほど滋養や安らぎをもたらすか、なんとなく想像できる不思議。
    そして獲物を運んでの凱旋。
    帰宅を喜ぶ家族。本当によかった。

    この大人たちとの会話にたびたび現れる、エスキモー独特の言い回しがとても謙虚で素敵だった。
    はっきり物事を訊いてはいけない、ということも。

    北の大地に生きる少年の成長。
    薄い本でここまで心が動かされるという素晴らしい見本だった。
    子供にも大人にもぜひ読んでもらいたい一冊。

    作者の波乱万丈な人生にも興味がある。
    挿絵も見覚えあるなあと思ったら、ピッピのイラストと同じ方だった。こういうシンプルな線が好きだなあ。

  • グリーンランドのエスキモーの話。父を亡くした少年イービクは、飢えた家族を救うため旅に出た。腹をすかした危険な白熊と出くわし、命がけで戦う。過酷な状況で生き抜く少年の姿に感動する。

  • 冬の岩波少年文庫シリーズ。
    タイトルのみでまったく内容を知らないまま読みました。グリーンランドに暮らすエスキモーの少年の物語。

    お父さんと一緒にセイウチ狩りにでかける少年イービク。わーいと思ったのもつかのま、お父さんがセイウチに殺されるという衝撃の展開!

    狩りをする一人前の男を亡くしてしまうと、食糧、燃料、衣類、すべてが失われてしまうというエスキモーの過酷な暮らし。それと同時に狩りさえうまくできればすべてが供給される彼らの生活の豊かさも垣間見える。

    味のあるイラストはイングリッド・ヴァン・ニイマン。『長くつ下のピッピ』のオリジナルの挿絵で知られる人。

    死者の話はしないという喪の服しかた、じかにものをたずねる習慣がない、相手を立てた遠回しな物言いなど、エスキモー独自の文化もおもしろい。

    「豊かな暮らしが、飢えの苦しみに変わる時がきた。悪い力が、わたしたちのじゃまをしている。どんなにがんばっても、とても歯が立たないことが起こったのだ。」

    「あれはとても若い犬で、そりの引き方を習ったばかりのところだ。きみが仕込めば、きっとひとかどのものになるだろう。あの犬はさっきのクマ狩りのとき、たいへんよく働いた。わたしの手もとに置いたのでは、どうせ大したものにはなるまい。わたしは犬を仕込むのがへたなものだから。」

  • 極北グリーンランドに住む少年イービク。初めての狩りで失敗をし、父親が命を落としてしまうという、とてもショッキングな始まりです。大きな働き手を失った家族は飢えと寒さに苦しみます。イービクは家族を救うため、氷が張った海を渡り危険な旅へ。途中飢えた白くまに出会い、命がけで戦いますが・・・著者の子供時代にもとづいて作られた物語。「北のはて」の厳しい生活が丁寧に描かれています。イービクのような幼い少年も必死で家族のために獲物を捕らえなければ死んでしまうという極限の生活。食べ物がなくなり飼っていた犬を食べ、最後には犬をつないでいた革ひもまで食べます。「寒さ」「厳しさ」という漠然とした概念が具体的に目の前に迫ってきて、ここまで厳しいのかと驚きました。終わり方が少しあっさりしていました。対象年齢は4.5年生以上とありますが、内容は厳しいものなので、もっと大きい人にも読んでほしいと思いました。

  • 「セイウチは、牙をお父さんの背中に突き刺し、海のなかにひきずりこんだ。それが、イービクの見たお父さんの最後の姿だった。ぞっとするほどの静けさ。イービクはひとりで岸にもどる。」

    (『キラキラ子どもブックトーク』玉川大学出版部より紹介)

    「狩猟の名人だった父を失ったイービクの一家は、食べ物を手に入れられなくなります。家族を救うため、少年は危険な旅に出ます。白クマとの命がけの戦いの結末は?極寒の地で生活する少年のはなし。」


    ・グリーンランドの自然の中で暮らす少年、イービク。父親が亡くなり、北の果てで獲物をとるのがイービクの役目となる。
    ・自然の豊かさや厳しさ、エスキモー(イヌイット)の暮らし、家族の絆、人間の暮らしや命について考える
    ・ページ数は少なくすぐに読める

  • 11歳女子の熱中度 ★★★

    北極圏に暮らす少年の成長物語。最初の数ページで、一家の生活を背負うお父さんがあっけなくセイウチにやられてしまうところから、読むのをやめられれなくなりました。簡素で装飾のない文書が、まっすぐ訴えかけてきます。著者は女性でジャーナリスト。日本で発表された著作はこの1冊のみ、のようです。

  • お父さんを亡くした後、一家の大黒柱となったのは少年イービクだった。壮絶な飢えとの戦いや、たった一人での白くまとの戦いなどが描かれている。
    それにしても、エスキモーの人たちの考え方はなんて慎み深いんだろう。そして、責任感と知恵と勇気によって、なんて大きな力が出るんだろう❗

  • 大阪樟蔭女子大学図書館OPACへのリンク
    https://library.osaka-shoin.ac.jp/opac/volume/408162

  • 北のはてグリーンランドの北部の夏の盛りに、父親とカヤックで漁にでていたイービク。しかし父親は目の前で、セイウチを捕ろうとして命を落としてしまった。
    そこからイービク一家の過酷な日々が始まる。漁に出れないから、獲物がとれないから、食べるものもなく、衣服につかう皮もなく、ランプに使う油もなく、飼っていた犬も一匹一匹と殺して食べたり、犬をつないでいた皮を食べたりして飢えをしのいでいた。
    しかし、季節がかわり、どうしようもなくなり、助けを求めるために、イービクが歩いて旅立つことになった。しかし途中で白熊と出会ったイービクは・・・・・・

    これほどの飢え、経験がありません。経験したくもない。エスキモーの厳しい生活が描かれている。最初は、翻訳が試験問題を訳したような感じが気になりましたが、読み進むうちにそんなのどうでもよくなりました。
    短い物語ですが、のめりこみますね。

  • グリーンランドの島で暮らす家族の物語。
    一家には大黒柱である父親がいたがセイウチ漁の事故でなくなってしまう。
    一家の長男であるイービクは長男であるがまだ猟のうでは大したことがない。幼い妹や弟は父親の死をさけ受け入れていない。日に日に食べもの脂がなくなるなか、結氷するのをまって幼いイービクは本土に助けをもとめ一人旅立つ。

    飢えと寒さと闘いながら本土を目指すにイービクにはシロクマが自分めがけて やってきていることになかなか気づかなかった。そのため・・。

    たまたま父親が狩りで事故死しただけで苦境に陥る家族。原始的な生活でも我々の生活でも自分の目で見、手を動かし生活していかないといけないことは普遍的なことである。

    エスキモーが死者のことを言及することを避ける描写、親切を施すときの婉曲的表現など文化的、社会人類学的興味にも応えてくれる良書である。

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