雪女 夏の日の夢 (岩波少年文庫 563)

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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001145632

感想・レビュー・書評

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  • 子どもたちから「雪女のお話をして」というリクエストがあったが、さすがに原典から紐解くのは難易度が高すぎる。
    で、こちらを選択することに。
    ところが、肝心の「雪女」の舞台は「武蔵の国」なので、惜しいかな標準語なのだ。
    雪深い土地の話という意味では、やはり東北弁の方が味わいがある。
    とは言え、リクエストとして『雪女』というタイトルが子どもたちの口からすらりと出てくるなんて、小泉八雲の果たした役割はあまりに大きい。
    私自身も中学生の頃に読んだ『雪女』『耳なし法一』や『ムジナ』『食人鬼』などという怪談は今も記憶に鮮やかだ。
    ところが読み返してみたらまだまだあって、エッセイもたくさん残っている。
    どれも一度ならず二度三度と読みたくなる不思議な読後感だ。

    小泉八雲の物語にはどれも原典がある。
    と言うことは、日本語を英語にし、そこに彼ならではの想像力で肉付けしたということになる。
    感心してしまうのはその点で、流麗な文体と、読み手を刺激する表現力は特出している。
    明治の頃の日本であるはずなのに、何故か懐かしさにあふれるエッセイの数々。
    日本と、日本人と、その文化と歴史とをこよなく愛していた八雲さん。
    風景の描写ひとつとっても、どれほど美しく、心動かされるものだったかが伝わってくる。

    横浜に着いたばかりの八雲が、人力車に乗って町を駆け巡った興奮を綴る『東洋の土をふんだ日』。
    新鮮な驚きにみちた文章は、こちらまでわくわくしてくる。
    特に『夏の日の夢』というエッセイは素晴らしく、もううっとりとしてくる。
    このエッセイの中に物語が二編含まれていて、一つは『浦島太郎』で、もうひとつは『若返りの泉』だが、
    日本人なら誰もが知っているその話を、彼の眼を通してあらためて日本を言う国を見つめなおすことになる。
    叙情豊かな『伊藤則資(のりすけ)の話』が一番印象的で、これと良く似た話がアイルランドの昔話にもあったのを思い出す。

    新聞記者として文筆力をつけていたことだし、来日前にすで本も出版していたというから、もともと八雲は文章力のある人だったのだろう。
    しかし、そこに日本人妻のセツさんの存在が加わることで、どれほどその世界が広がったかは想像に難くない。
    セツさんはかなり聡明な女性だったと聞く。
    八雲の質問には的確に答え、仕事上では有能な助手でもあったらしい。
    う~ん、やはり自分の国について正しく知ること。
    次に、それを英語で伝える力を持つこと、という順番が正しいのかもね。

  • 名前だけは知っているハーンの作品をはじめて読むことができた。
    怪談で知られるような民話やおとぎ話が12編+後半には4編のエッセイ(抄訳含む)が収録されている。

    面白かったのは、お茶の中の顔、常識、伊藤則資の話。
    自然と杉浦日向子の「百物語」や「東のエデン」(明治期の外国人の日本についての手記)をおもいだした。
    (東のエデンで、日本について、「ここにいるのは、追放前のアダムとイブだ。されば僕は彼らを誘惑しにきた蛇かもしれない」というフレーズが忘れられない)

    八雲のエッセイは、どれも本当に素晴らしくて、抄訳なのが勿体なかった。
    はじめて日本に来たときの町の印象、盆踊りの夢のような光景、浦島太郎伝説と結びつく熊本への旅行など。

    外国人のハーンの目を通してみる、明治やそれ以前の日本が本当に小さくて不思議な別の世界の物語なのが興味深い。
    東南アジアの仏教国の、中国とも韓国とも違う、一つの島国なんだなと思った。
    もはや私たちにとっても失われた国だ。

    注釈も楽しく読んだ。
    ハーン個人の解釈も時折含まれていることがわかる。

    改めて経歴を見て、ハーンがギリシア生まれのアイルランド育ちであることを深く考えさせられた。
    神話の国、妖精の国から来た彼が、日本の自然や大衆の物語にそれらを読み取り、再話した点が興味深い。

    あとがきで、訳者の脇明子さんが、
    英語で書かれた日本についての物語&日本でもともと知られている物語をわざわざ再度日本語に翻訳する意味ってなんなんだ(大意)と当初感じておられたとのこと。
    それを言っちゃあおしまいよーと思ったけど、いっとき流行った自動翻訳における、桃太郎→英語版モモタロウ→日本語版桃太郎が笑えることと同じで、そのフィルターが私には新鮮でたのしかった。
    しかし翻訳にはかなりエネルギーを要したと思われる。
    お疲れ様でした。労作。

  • 読了。読書倶楽部課題図書。

    八雲が日本について書いたエッセイもあり、その表現がとても美しく、本当に日本を気に入ったんだなということがわかる文章だった。

    エッセイは読みやすくて(和訳されたものだけど)、細かい描写が上手かった。そして外国人らしい表現である。

    人となりがよくわかる。
    (170729)

  • 私の知ってる盆踊りは、お祭りの喧騒の中で行われる、楽しげな盆踊りだけだ。
    こんな、神秘的で、静けさに満ちた幻想的な盆踊りは知らない。
    やはり、今では失われてしまった、日本の姿なんだろう。

    私たちの良く知る、この日本のことを書いたものであるのに、今の私たちが見ると、幻想的な、でもなんだか懐かしいような、そんな風景だと思える。
    その昔、ハーンさんが見た、その時の感動と、現代から過去を見た日本人である私たちの感動とは、似たものであるのかもしれない。

  • 読マラの次回棚のテーマにいいかも?
    対象年齢が気になるが…。

  • 2009年8月15日

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著者プロフィール

原作:ラフカディオ・ハーン
一八五〇年、ギリシャ生まれの英国人。アメリカで新聞記者として活動したのち、一八九〇年、日本文化への憧れから、島根県の松江中学に英語教師として赴任。松江出身の小泉セツと結婚ののち帰化し、小泉八雲を名乗る。熊本五高・東京帝国大学などで教鞭をとりつつ、日本研究を海外に向け紹介した。著書に『知られぬ日本の面影』『心』『怪談』など。

「2019年 『BL古典セレクション③ 怪談 奇談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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