フランバーズ屋敷の人びと 5 愛ふたたび(下) (岩波少年文庫 601)

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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001146011

感想・レビュー・書評

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  • そして、クリスチナは未来を見る。

    クリスチナとディックの結婚生活はうまくいかない。それも子どもが産まれるまでと思っていたが、マークと共に出かけた時クリスチナは事故に遭いお腹の子を死産する。ディックとの仲が決定的に壊れ、マークへの気持ちが腑に落ちたクリスチナ。一方で、マークとドロシーの仲も冷えていき、ディックはディックで安らぎを求めてクララとの距離を縮めていく。フランバーズ屋敷の人々が行き着くところは。

    マーク、やりやがった。そういうしかない場面が何度もある。自分の思うように行動していくマークがディックとまた大喧嘩。しかしディックも拳での対決を受け入れているような。しかもなんだかわかり合っているような。結局ディックもマークも(もちろんクリスチナも)変わることはない。変わらずに、自分の幸せだと思える道を歩いていくしかない。

    馬に乗る場面やレースに挑むシーンのクリスチナの心の動き、特に心の高揚が文章から伝わってくる。ラストの木戸を飛びこそうとするクリスチナも印象的。きっと何があってもクリスチナは飛び越してしまおうとするのだ。今までも、これからも。

    顔に傷を受けたファーガスの落ち着き。クリスチナをレーシングカーの世界に導き、また心の整理も手伝う。相変わらず実行力に満ちたドロシーも素敵。最後まで自分を偽らず、クリスチナへの友情を忘れず、しっかり前を向いている彼女の強さはカッコいい。

    さて、法律が変わってクリスチナとマークが結婚しても、波乱の人生は変わらないだろう。車を自分で運転し職業を持ちつつ子どもを育てていく新しい考えを持つ一方、狐狩りに参加し乗馬を楽しむ古きよき上流階級の姿も忘れないクリスチナ。少し丸くなり事業にも身を入れるようになったマーク。クリスチナに雇われて農場を管理するディック。看護師復帰だけでなく病院経営まで考えるドロシー。彼ら彼女らに待っているのは、第二次世界大戦とそれに続く大英帝国と貴族たちの夕暮れ、アメリカの台頭、米ソの冷戦。また運命は交錯していくかもしれない。これからのクリスチナたちを思いながら満足して本を閉じた。

    最後にひとつ、これ、本当に少年文庫でいいんですか? あまりにもドロドロすぎない?

  • 誰かの人生ほど、豊かで強烈な興味をそそるものを知らない。

    クリスチナにとっては、人生とは穏やかに満ち足りた気持ちで送るものではなく

    乗り越えるのが不可能かとみえる柵を、血が湧くほどの興奮と高揚でもって跳躍するものである。

    暫く長編はいいです、と言いたくなるくらいであった。

    それでも最後まで夢中になれたのは、全ての人物に共通する「どっかにおりそう」な描写による所が大きい。

    逃避にはもってこいです。

  • 今回も、ドロ沼純愛物語。
    クリスティナとディック夫婦は、それぞれ他の人を愛しているし。
    クリスティナの愛する人は、亡き前夫の兄で、当時は結婚を許されない禁断の愛。
    マークとドロシー夫婦もそれぞれ別に愛する人が・・・
    て、これが少年少女文学?
    最終的にクリスティナはマークと一緒になって、物語前半ではありえないと思われたカップル誕生。
    つくづく、クリスティナって「だめんずウォーカー」(笑)
    やっぱり、前3作で完でよかったのではないでしょうか。
    クリスティナとディックの身分違いの恋成就で「完」のほうが、夢があったよ〜

  • 意見の分かれる4作目だが、私は支持したい思う。たしかに少女小説として、恋愛小説としては3作目で完璧に終わっている。しかし、困難な時代に自分の生き方を模索し貫き通そうとする一人の女性を描くなら、4作は必然だったと言える。クリスチナとディックの唯一の共通点・乗馬が失われ、マークが「いいやつ」になってしまったのは残念。けれど馬、飛行機、自動車など時代を映す道具立ての描写は見事だし、クリスチナの生き方をとおして20世紀初頭のイギリスを浮かび上がらせることに成功している。

  • いよいよ最終巻。
    ここまでくると「なぜ少年文庫?」と思わずにはいられないほど、男女のあれこれが・・・。
    でもエロチックなものへの興味と文学は切り離せないものだから、全く問題なし。主人公が大人なんだから避ける方が不自然だし。
    こういうお宝が眠ってるから、思春期以降も岩波少年文庫を読むべし。

    誠実なディックが、不倫とは・・・。
    夫がいても平気で浮気するドロシー。
    妊娠中なのに馬車で駆け回って死産するクリスチナ。
    人間って、こういう愚かなことをするものなのよね。
    人は結局変わらないってことが描かれているからクリスチナとマークの結婚生活もそう平坦になるとは思えないけど、分かっててもそういうところに飛び込むのが好きな女なんだよ。クリスチナは。
    ラストが象徴しているように。

    好きになれない主人公だったけど、描写も丁寧で、良い小説だと思います。

  • 第3部「めぐりくる夏」で感じた KiKi のある種の失望感はこの第4部を読むことにより確定的になりました。  う~ん、あの第1部で感じた期待値は何だったんだろう??  これは KiKi 自身が平和な時代に経済的に自立した生き方を長年してきてしまった故に感じざるをえない「時代遅れ感」のなせる技か、はたまた著者の描く人物たちの変貌のせいか??

    できるだけ好意的に捉えようとは試みてみたんです。  日本人には理解しがたい「複雑怪奇 & 根深いイギリスの階級社会のしがらみ」が根底にある物語故だろうとか、はたまた第一次大戦という近代戦中・後の混乱期を生き抜く人々の物語故だろうとか、とか、とかね。  でもこの第3部、そして第4部を読了する過程で、KiKi にはクリスチナという人物が「その時々のクリスチナの気分・状況で都合のいい男の間をフラフラしているだけの女」に感じられ、どうにもこうにも共感することができませんでした。



    何て言うか彼女の人生の中での選択って、とかくいきあたりばったりで、自分がふとイメージした「夢」というか「希望」だけに突き動かされた衝動的なものに過ぎなくて、ついでに言えば身勝手極まりないものだよなぁ・・・・と。  そもそもウィルが亡くなった後のクリスチナのやっていることって、KiKi の眼には親の遺産を背景にした偽善以上でも以下でもなくて、いかにもお嬢様、いかにも世間知らず、いかにも我儘放題としか感じられなくなってしまいました。

    フランバーズ屋敷に帰ってきて「農業をやる!」と決めた割には、農作業にいそしむ姿は全くと言っていいほど描かれず(古き良き時代の貴族はそれで良かったと言えばそれまでだけど)、結局は昔なじみのディックに頼り(それでもディックが自身がその気になっているわけだからいいけれど)、挙句「農夫」としてのディックを見込んで「フランバーズ農場再建計画」に着手したにも関わらず、少し落ち着いてきたらディックには「農夫」ではなく「社交生活を楽しむ上流紳士」への変貌を要求するという時点で目がテンになってしまいました。

    それが彼のような「労働者階級」出身でありながら「上流社会の令嬢を射止めた不埒もの」という空気が蔓延している閉鎖社会の中での要求であるだけに彼女の「享楽的」な性格ばかりを強調し、どうにもこうにも馴染めません。  そういう意味ではディックとの再婚を決めた際のグレイスおばさんのアドバイスはまさに的を射ていて、やはり年長者のアドバイスというのはどんなに耳に痛くても一聴の価値は必ずあるものだと思わされます。

    ウィルとの結婚生活が仮に戦争がなかったとしても常に死と隣り合わせだったために刹那的な人物になってしまったとも読めないじゃないけれど、それならそれでもう少し描きようもあったんじゃないかなぁ・・・・。  それに、ウィルとの結婚時代に出会ったドロシーの扱いも途中から変わっちゃっているように思うんですよね。  最初のうちはドロシーに対してどちらかというと批判的だったクリスチナが、いつの間にかドロシーを大親友のように扱うのもちょっとねぇ・・・・。  

    人生の中で出会う人がそんなに多くはないのはわかるけれど、そもそもフランバーズ屋敷の近所にマークとウィル以外に友人がいないかのごとくで、それも KiKi にはちょっと理解不能。  まあこれはラッセル家のお家柄故ということなのかしら??  いずれにしろ、男選びにしろ友達選びにしろ、生き方選びにしろ全てがいきあたりばったりで、彼女の中に核になるものが何一つ感じられず、結局巻が進むにつれ、「クリスチナとは絶対にお友達にはなりたくない感」が湧きあがってきてしまいました。 

    物語では結局クリスチナはマークを選び、そんな彼女の選択を後押しするかのごとく、「夫に先立たれた妻が、夫の兄弟と結婚できるようにするための法律修正案」(そもそもそれが法律によって禁止されていたというのもビックリだったけれど、教会閥の決めた法律であることを知り納得。  修正案が出された背景は大戦により多くの男性が亡くなった 即ち 世の中未亡人だらけ)が可決しそうな~んていう話が唐突に出てきます。  これを読んだとき、天邪鬼の KiKi は「娯楽小説にいきなり社会小説の要素を持ち込んだ結果として支離滅裂なお話になっちゃったのか!!」と思っちゃったぐらい(苦笑)。

    そもそも第1巻の時点で KiKi はクリスチナがマークにそんなに惹かれている印象は持たなかったんですよね~。  せいぜいが自分のものだと決めていたおもちゃを他の誰にも取られたくないという子供っぽい独占欲と大差ないような印象だったんですよ。  そうであるだけにマーク vs. ウィルではウィルを選んで結婚したところまでは彼女の行動にもそれなりの説得力があったと思うんです。  でもウィルの死後ディックを選んだのは「自分がイメージしている農園経営に都合がいい農夫がディックだったから」に過ぎないし、ディックとと破局した後マークを選ぶのは「農園経営は軌道に乗ったから、これからは社交三昧に明け暮れるのに都合がいい紳士はマークだったから」選んでいるようにしか見えません。

    ま、てなわけで散々な Review になってしまいました。  でもね、この物語を読んでみてよかったこと(?)が1つだけあります。  それは現在積読状態になっている光文社古典新訳文庫の「高慢と偏見(上)(下)2巻」を再読してみたい意欲が俄然湧いてきてしまったということです。  光文社古典新訳文庫もこのブログでは独立カテゴリーを設けているシリーズであるだけに、そちらに手を伸ばす1つのきっかけが与えられたことには感謝♪です。

  • この着地の仕方は、わたしには想像できなかったです。
    でも、作者は、物語に、登場人物に、ものすごく誠実に寄り添った結果、こうなったんだということがわかります。

    最後のオチと、時代が、ぴったりはまるということは、これ、作者のはじめからの「読み」通りだったのでしょうか?

    そうすると、時間をものすごくおいてこの4部を出したことさえ、計算だったのかも。
    納得いくかどうかはともかく、圧巻でした。

    そして、これは、子どもには読ませられんと思った。

    ……まぁ、もともと駆け落ちの話なんですけどね。

  • クリスチナとディックは、階級のちがいを愛でのりこえて結婚したはずだった。
    しかし、考え方も感情もかみあわず、二人の関係はどうしようもやくこわれていく。
    何を求め、誰を愛するのか、クリスチナは再び決断のときを迎える。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    とうとうシリーズ読み終わってしまった…
    最初1巻を読んだとき、狩猟のシーンばかりで、しかも狩猟とか興味無いし、登場人物みんなむかつくしキーーってなったんだけど、その1巻の最後でウィルと良い感じになってきてから楽しーってなって最後まで読むほどはまってしまった…

    全部通して言えるのは、凄くイギリスの文化が描かれてる作品だったなあって思った。
    狩猟文化とか、飛行機、戦争、屋敷やそれに仕える使用人達…最後は階級かなあ…
    この最終巻も、ディックはなんでこんなかたくななんだ…とか思ったりしたけど、私たちの感覚からはわからないほど、階級とかそういう問題があるんだなあ…

    てかマークと結局くっついたのか…
    マークがどんどん良い人になってきてクリスチナと同じく私もマークに
    惹かれた(*^o^*)

    面白かった。それぞれ面白かった。
    ほんといろんなことが次々に起こって、嫌な人がでてきたり、支えてくれる人がでてきたり…
    クリスチナがフランバーズ屋敷にきてからこうやって大人になるまで…
    長かったなー!楽しかった!!

  • 半年ほど前に読んだばかりであるが、今回は再版を機に1巻から読みとおした。あらためて大きな感動を受けている。1巻で描かれた、まだ視野の狭い10代のクリスチナから大きな成長を遂げた。しかも、数々の失敗と深い痛手を負いながら。「みずからのいたらなさに頭をかかえながら」生きているクリスチナと、その周辺の人びとが描きこまれて見事。
    「貧しい男は、お姫さまと結婚しました」で終わってしまうおとぎ話の続きを見た。

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