長くつ下のピッピ――世界一つよい女の子 (リンドグレーン作品集)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (262ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001150612

感想・レビュー・書評

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  • おそらく、記念文学賞が創設されるくらいだから、スウェーデンは元より、世界中で愛されているのだろうと思われる、その児童文学作家の作品を未だ読んだことの無い私にとって、なんとも痛快であり、そして考えさせられる作品でした。

    父も母もいないピッピは、はっきり言ってしまうと、孤児という事になるのだろうが、そんな雰囲気は全く微塵も感じさせない、ポジティブを通り越したマイペースさに加えて、時折表に現れる、彼女だからこそ観ることの出来る、その的確な視点に思わずハッとさせられ、「いったい、この子何者?」と、感じずにはいられない時点で、既に私は誤った見方をしているのだろうと思いました。

    というのも、この作品は1945年当時、その話があまりに奔放で型破りだった為か、あちこちで出版を断られた経緯があり、ようやく世に出たときには、スウェーデンの子どもたちを夢中にさせて大好評だったそうですが、それこそ、まさに創作ならではの奔放で型破りな点に、実際にやってみたいけれど出来ない、潜在的願望を叶えてくれたのだと思えば、逆に何故、出版を断られたのかが分からない。

    しかし、そこは創作とはいえ、実際に模倣してしまったり、見本として欲しくないような思いが、当時の大人達の意識下にあったのかもしれないと思ってしまい、当時の時代性と言われればそれまでですが、おそらく、現代の多様化社会に於いては、それが全く違和感の無い、ひとつの個性として捉えられるのだろうと思うと、時代を先取りし過ぎた凄さを感じますが、実際には当時の子どもたちに支持されていた。ここに、この作品の真の凄さがあると思います。

    そして、それはピッピの中には、決して夢物語だけではない、実際に現実社会で生きていくことに於いて、大切なものもあるからなのではないかと思い・・・確かに、馬や牛を軽々持ち上げてしまうといった、明らかなフィクション感や、学校やコーヒーの会での、皆を楽しませたい一心で独り善がりに振る舞ってしまう点には、却って、物語と割り切れて心から笑って楽しめますが、ピッピの個性は、それが全てではありません。

    例えば、それは両親に対する優しさがそうで、彼女が、サイズの大きすぎる靴を気に入っていて、他のそれを履こうなんて気がないのは、それがお父さんの買ってくれたものだからであるし、それから、『わたしのおかあさんは天使で、おとうさんは黒人の王さまよ。こんなすてきな親をもった子なんて、そんなにいやしないわ!』という台詞。仮に私が彼女の親として、こんなこと言われたら、おそらく泣いてしまうと思います。

    そして、そんな優しさは、小さなサル「ニルソン氏」や、隣に住む友人「トミー」と「アンニカ」に対してもそうですし、更には泥棒に対しても、最終的には自分のやりたい事に巻き込ませてしまいながら、「これはね、あんたたちが、ちゃんとかせいだお金よ」と言ってしまえる、こうしたピッピの見方には、
    『人というのは、目に見えている一面だけが全てでは無い』ということを感じさせられると共に、それは、ピッピ自身がそうした様々な一面を持っていることを知っているからこそ、言えるのだと感じました。

    それに加えて、更にピッピを魅力的にしているのが、常識にとらわれない自由な発想力であり、なんといっても、「かけ算の九九」を『竹さんの靴』と言ってしまうのには、何度も吹き出してしまったし(おそらくこれは、訳者の大塚勇三さんの素敵なところ)、彼女言うところの、「グアテマラじゃ、こうやってねるのよ」と、頭は布団に潜らせて、両足は枕に載せるといった正反対の寝方をするのには、やはり破天荒だなと思いましたが、その裏にある思い、『なんてものを知らなくたって、九年間、ちゃんとやってきたわ』や、『わたしはね、いつもじぶんに、ちょっとうたってきかせないとだめなの。そうしないと、ちっともねむれないのよ』に、彼女の違った一面が垣間見えて、そこには、『世界一つよい女の子』から想像出来る部分だけが、彼女の人間性ではない事を表しており、そうした点を当時の子どもたちは支持したのではないかと思うと、改めて、人間は単純では無いからこそ、面白くて愛おしい存在なのだということを実感いたしました。

    ちなみに、この作品の生まれたきっかけは、作家、リンドグレーンの小さい娘さんが、『あしながおじさん(スウェーデン語でPappa Langben)』にヒントを得て、『Pippi Langstrump(長くつ下のピッピ)』という女の子の名を考えついたことであり、改めて、こうした子どもの素直で柔軟な発想力には、大人ではなかなか得られない、かけがえのない素晴らしさがあり、思わず、彼女の娘さんにも何か賞をあげたいような気持ちにさせられました。

    • たださん
      まこみさん
      私も、本書を読んだから実感できただけで、おそらく当時は気付かなかったと思います。それが正解かも分かりませんしね。でも、そういった...
      まこみさん
      私も、本書を読んだから実感できただけで、おそらく当時は気付かなかったと思います。それが正解かも分かりませんしね。でも、そういった事をあれこれ考えられるようになったのは、読む本の数が自然と多くなってきたからだというのは、なんとなく実感しております(^^)
      2023/05/26
    • こっとんさん
      たださん、こんにちは♪
      小学生の時に学校の体育館で、この映画をみんなで観ました!
      クラスにおさげの子がいたのですが、その日からその子のあだ名...
      たださん、こんにちは♪
      小学生の時に学校の体育館で、この映画をみんなで観ました!
      クラスにおさげの子がいたのですが、その日からその子のあだ名は『ピッピ』になりましたよ。
      数年前にテレビでこの映画がやっていて、懐かしすぎて嬉しくて子どもと一緒に観てみました。
      あんまり古くさい映像で子どもは喜べるかなぁ?とちょっと心配だったけど、ゲラゲラ大笑いしながら観てました。 
      いつの時代も子どもの心に刺さるピッピ!さすがです。
      2023/06/03
    • たださん
      こっとんさん、こんばんは♪
      コメントありがとうございます(^^)

      そうでしたか!
      結構皆さん、ピッピと触れ合う機会って多いんですね。私は全...
      こっとんさん、こんばんは♪
      コメントありがとうございます(^^)

      そうでしたか!
      結構皆さん、ピッピと触れ合う機会って多いんですね。私は全く無くて、今回読んだ本書で、こういう話なんだというのを初めて知りましたが、子どもならではの自由奔放さと、それだけではない繊細な部分も描いていて、いつの時代にも色褪せない作品だと思いましたし、もしかしたら、ゲラゲラ大笑いしながら観ていた、こっとんさんのお子さんも、そういった点に共感できるものがあったのかもしれませんね。

      素敵なエピソードをありがとうございます(^^)
      2023/06/03
  • やっぱり児童文学好きだなあ。リンドグレーンもいい。とんでもない子のとんでもない話なんだけど、なんともいい。よくしゃべるところは赤毛のアンを思い出すけど、ピッピはひとり暮らしなのよね。おうちの名前がごたごた荘というのもいい。ニルソン氏かわいいな。馬も。

  • ピッピが誰にも愛される理由がとてもよくわかりました!子ども時代に出逢わせてあげたい本です。

  • 何から何まで憧れだった少女ビッピ。
    彼女の持ち物から服、遊び、台詞、すべてがお手本だった。
    なのに、大人になって読み返すとまったく印象が違った。
    誰にも相手にされない寂しいほら吹き少女に見えた。
    この正反対のイメージがショックで、またしばらく読まないようにしている。
    次に読むときはどんなピッピがいるだろうか。

  • 子どもの頃表紙だけ見て終わりましたシリーズ第二弾。これは映画を見ましたけど。破天荒な女の子の自由奔放な生活が可愛いです。もの発見家はよかったです。感性豊かすぎ;

  • テーマ【わたしの推し作家:アストリッド・リンドグレーン】

    やってみたい!を実現してくれた「推し作家」

    ===========
    長くつ下のピッピ : 世界一つよい女の子 / リンドグレーン作 ; 大塚勇三訳
    (リンドグレーン作品集 ; 1)
    https://libopac.shoin.ac.jp/opac/opac_link/bibid/KC98139262
    ===========

  • “長靴下のピッピ”
    学校へ行く→
    学校へ行きたい理由が、トミーとアンニカのように夏休みが欲しいからだというのがなんとも可愛らしい。

    先生から敬意を強制される。先生はピッピの個性を認めようと努力するいい人だけれど、”あんた”と呼ばれる事に我慢がならない。敬意は自ら湧いてくるものだ。

    先生からの算数の質問。7+5は?。ピッピは9歳だが学校に行っていなかったので答えられない。先生は答えを知っているのに恥をかかせようとする為に質問するのだという。この意見には私は不賛成。でもスウェーデンやフィンランドの教育では、
    答えのない問題を自由に考える授業が多いと聞くから、ピッピは、答えの押し付けの勉強ばかりではダメである。先生への敬意然り、子供の家(孤児院)へ連れて行こうとする大人然り、大人主体で強制的な行為に物申しているのかもしれない。

  • 社会のルールとか集団の空気とか、こっちがドン引きしてしまうのは私の思う勝手な「常識」の中でピッピを見るからで…と思っていたけれど、コーヒーの会でお菓子食いつくしたのには…
    何故皆でやる楽しい会のお菓子全部自分1人で食べるのでしょう?お行儀とか以前に人のことを考えられていないのでは…?
    でもトミーとアンニカのお母さん、ピッピと遊ぶなって言わないのすごいなぁ


    ピッピのこと好きなトミーとアンニカですが、意外と冷静な目で見ているところが好きです。
    ピッピが周りの人にドン引きされているとき、アンニカとトミーが急に空気になって何もしないのも面白い…

    3人がもう少し、ほんの少し大きくなったら全く違う空気感と関係性になるだろうなぁと想像してそれも面白い。
    思っていた話と全然違ったので、ちょっと衝撃でした。普通主人公はなんらかの成長を見せたりすると思いますが、全く成長しない(これからも多分しない)・全く疑問に思っていない・全く自分を変える気がない

  • 本が好きになったのはピッピのおかげ。ニルソン氏みたいなサルが欲しかった。わたしはピッピになりたいって言ったらしく、親が買ってきたのを後悔した一冊

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