きかんしゃやえもん (岩波の子どもの本 カンガルー印)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (45ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001151220

感想・レビュー・書評

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  • 名作絵本。
    1959年12月5日に第1刷、手許にあるのは第67刷。児童書や絵本にはロングセラーが多くありますが、中でも化け物クラスです。

    妊娠が判明して舞い上がっていた時期に、よく考えずに「自分が知っている絵本だから」と買ってきた一冊なのですが、新生児期、乳児期は当然ながら全く興味を示さず、読み聞かせを聞いてくれるようになったのはほぼ5年後でした。恥ずかしながら今から考えれば当たり前です。
    最近になって、本棚に並んでいるのを見つけて、これなあに、読んで?と言って持ってきてくれるようになりました。ただ、以前はトーマスやチャギントンが好きだったはずなのに、ここ最近は恐竜に夢中になっていて、思ったほど食いついてくれません。ちょっと残念です。

    作者は阿川弘之。「山本五十六」「米内光政」「井上成美」はいずれ読んでみたいと思いつつなかなか手を出せません。
    鉄道好きだったそうですし、宮脇俊三から波及して南蛮阿房列車は読んだことがありますが、こちらは自分のストライクゾーンからは外れていました。
    でも、児童書としては、「しゃっ しゃっ しゃくだ しゃくだ しゃくだ」「ちゃんちゃん かたかた けっとん」「とっとも つかれて けっとん」「ほんとに いやだよ けっとん」などコミカルでリズミカルな擬音が効果的で、読み聞かせるには楽しい本です。

    何しろ60年前に初版が出た本ですから、やえもんのことを「びんぼうぎしゃ びんぼうぎしゃ」とからかったでんききかんしゃも、「ら ら らん らん ぱあん」といってしまったとっきゅうも、おけしょうをしてもらっていたでんききかんしゃも、れえるばすのいちろうとはるこも、とうにこの世にはありません。栄枯盛衰は世の習いとは言え、諸行無常を感じます。

    ところで。
    読み聞かせながら、あれ、自分この本好きだったかなあ…と疑問に思いました。知ってる本だからと買ってきたけど、そう言えば、からかわれて腹を立てただけなのに、反省しているのに、やえもんのこと、もっと走らせてやればいいのに、と、割り切れなさを感じるのです。
    引退して博物館で隠居するのが幸せなのかなあ、同じ時期に買ったもう一冊、ちいさいおうちはまた人に住んで貰えてるのになあと思っていたのですが、こちらも最近子どもと一緒に見るようになった「カーズ」や「トイ・ストーリー」の続編を見て、もやもやをもやもやのまま言葉にしておこうかなあと思えるようになりました。
    ライトニング・マックイーンは新世代のレースカーに性能ではもはや及ばないことは自覚しながらも、後輩を育成しつつ自らもレースを続ける道を選びます。ウッディはヘッドハンティングを断り、勤務先を変え、とうとうフリーランスになってまでおもちゃとして子どもと遊ぶ道を選びます。
    現役にこだわりしがみついたマックイーンもウッディも、いずれボロボロになって現場を離れざるを得ないでしょう。でも、物語としては彼らの選択には共感を覚えます。一方で、古くて使い勝手が悪くなった実用品を形式的に残すことの胡散臭さは、例えば「腰巻ビル」を巡る感想(https://dailyportalz.jp/kiji/koshimaki_building)によく現れています。
    不便で使いにくい、でも打ち捨てるには忍びない、かといって意匠だけ保存するのは胡散臭い、じゃお前どうすればいいと思ってるんだと言われると答えを持ち合わせているわけではなく、ただもやもやしているだけなのですが、いずれにせよ、古くて不便なものは打ち捨てられ、とにかく新しくてきれいで便利なモノを皆が追い求めていた1950年代の価値観に異を唱えていたたはずのストーリーは、当時新たに作られ、使われてきたものがさらに更新されつつある今、すんなり胸に落ちるものではなくなってしまったなあ、と思ってちょっとしんみりしてしまいました。

  • 老後を穏やかに過ごす秘訣は、「やえもん」にあり?!
    教科書で読んだこと懐かしのやえもんは、オトナになっても深かった…!

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    長年働いた機関車のやえもん。
    「おれだって、若い頃にはたくさんの人を乗せて走ったものだがしゃー」
    と威張ってみせるのですが、誰も相手にしてくれず、怒ってばかりのやえもん。

    そんなくたびれたやえもんを横目に、街では新しい乗り物が大活躍しています。

    「こんなに長い間働いてきたおれを、皆がバカにする…しゃくだ!しゃくだ!」
    あんまりにも怒ってしまったやえもんは、煙突から煙とともに赤い火の粉をはきだしてしまい、さあ大変!!

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    小学生の頃、教科書で読んだ懐かしのやえもん!なのですが、同世代の夫に「これ、懐かしいよね~」と話しかけたところ、「知らない」とのこと…(泣)
    地元がちがうので、採用教科書がちがったのかもしれませんね。

    しかしさらには、小6息子と小2娘も「きかんしゃ やえもん」を読んだことがないと言うのです!
    これは「きかんしゃ やえもん」最大のピンチ!
    いくらとってもいいお話も、読まれなくては意味がありません。
    さいわいにも、小2の娘は「読んでみたい」と興味を示してくれ、さっそく図書館でかりで読み聞かせをしました。

    「自分で音読したい!」と言い出した娘。
    音読しはじめましたが、やえもんのセリフ回しは独特で、ちょっとつまずいていました。
    しかしこの「しゃっ しゃっ しゃくだ しゃくだ しゃくだ」(引用)こそ、一度読んだら忘れられないセリフでもあり、やえもんの色あせない魅力でもあります。

    若くて新しい乗り物に威張ってみせていたやえもんが、火の粉をふりまいてしまったあと、だんだんと困った顔になり、姿が小さくなっていってしまうところが、娘の目には「かわいそう」に映ったようです。
    事件を起こしたやえもんを、どう処分するかの話し合いでは、文章では書かれていない処分の内容を、絵が補ってくれています。

    そして最後の見開きのやえもんの表情といったら!
    威張っているより、困っているより、泣いているより、しょげているより、よっぽど輝いているやえもんが、そこにいます。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    読み終えた娘の感想は「やえもん、処分されそうになったところが、かわいそうだった」でしたが、わたしはやえもんの威張りちらした態度の方にも問題があるよなあ~と思いました。
    でも、やえもんが威張るしかなかった気持ちも、よくわかるのです。
    若者たちに置いていかれたような気持ち、自分はもう必要とされていないのだという切なさ、そんな寂しさを隠そう、威厳をあらわそうと威張るしかなかったやえもん。
    でも、威張って怒ってばかりの人と、仲良くしようというモノは、いませんよね。

    「誰も相手にしくれない!」と怒る前に、自分の姿を鏡に映してみませんか。

    威張って昔の栄光話ばかり話していませんか。
    若者たちの活躍を、批判してばかりいませんか。
    いつも怒っていて、目がつり上がっていませんか。
    話を聞いてくれないと嘆くよりも、やれることが見えてきそうですね。

    ラストページのやえもんは、とても穏やかでいい表情をしています。
    こんな老後を過ごすための秘策は、自分見直しの中にあるかもしれません。

  • やえもんの「おれだってしゃあ、わかいころにはしゃあ・・・」という口調や客車の「ちゃんちゃんかたかたけっとん」などの擬音語がリズミカルでおもしろいと思います。

    高学年の子には時代の波には逆らえない現実の厳しさを感じられると思います。

  • 息子が大好きだった絵本

    何度も何度も読みました。

  •  電車の時代に取り残されたようなきかんしゃの「やえもん」。
     「しゃあしゃあ」といつも怒ってる頑固じいさんみたい。
     今日も怒って走っていると藁に火の粉を飛ばしボヤ騒ぎ、みんな分解して鉄くずにしたほうがいいと…
     昔から読み継がれている本です。【のりもの】

  •  若さゆえの「ちゅうちゅう」と、年老いた「やえもん」


     長い間働いて、年老いた機関車・「やえもん」……節々が痛く、怒りっぽくもなってしまった彼を待ち受ける運命とは?

     ……と、若く新しい電車から馬鹿にされるわ、駅の人たちには「鉄くず」にされそうになるわと、時代を駆け抜けた機関車に対して、厳しすぎる現実がありました。

     運よく機関車に詳しい人に救われた「やえもん」だけど、「気付いてくれる人がいる」というのは、本当に大事だと思いました。

     同時期に読んだ、アメリカの『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』は、若さゆえに「自分を見て!」と暴走してしまうお話ですが、こちらは「長い間働いてきたのに、どうしてこんな評価なんだ」と苦悩する老人のお話です。

     自分の年齢にあった「役割」に、自分が気付けなかったり、他人に評価してもらえなかったり……そんなもどかしさを解消する糸口が見つかる気がしました。

     誰かは見てくれているし、自分が落ち着ける場所は必ずあるよ。 

  • これは何度も何度も読みました。
    やえもんのセリフや、他の乗り物のセリフがとても軽快で、読むのも声音を変えたりとか。

    阿川さんのお父さんの文章なんですね。
    今更知りました。

  • 古くなったきかんしゃのお話し。
    おとなとしてはやえもんの扱いがちょっと切ない。

  • 自分が子供のときに何度も読んだ本。息子は「ちゃんちゃんかたかたけっとん」が気に入ったらしく、読むとケラケラと笑っています。いつの間にか文章を覚えていて、本を開く前から「いなかの小さなきかんこに……」と言っています。ちょっとレトロですが、ほっとする本です。

  • 何十年かぶりに読んだけど、やっぱり秀逸。
    物語の中にも言葉遊びのようなテンポ良い文章
    背景など古いので今の子に受けるのか心配だったけれど、子供に読んであげたら、最後、「よかったね」とほっとした顔をしたのが印象的だった。時代に拠らず心に響く名作だと思います。

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著者プロフィール

阿川弘之
一九二〇年(大正九)広島市に生まれる。四二年(昭和一七)九月、東京帝国大学文学部国文科を繰り上げ卒業。兵科予備学生として海軍に入隊し、海軍大尉として中国の漢口にて終戦を迎えた。四六年復員。小説家、評論家。主な作品に『春の城』(読売文学賞)、『雲の墓標』、『山本五十六』(新潮社文学賞)、『米内光政』、『井上成美』(日本文学大賞)、『志賀直哉』(毎日出版文化賞、野間文芸賞)、『食味風々録』(読売文学賞)、『南蛮阿房列車』など。九五年(平成七)『高松宮日記』(全八巻)の編纂校訂に携わる。七八年、第三五回日本芸術院賞恩賜賞受賞。九三年、文化功労者に顕彰される。九九年、文化勲章受章。二〇〇七年、菊池寛賞受賞。日本芸術院会員。二〇一五年(平成二七)没。

「2023年 『海軍こぼれ話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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