まぼろしの小さい犬

  • 岩波書店
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784001155068

作品紹介・あらすじ

ベンの最大の望みは犬を飼うこと。でも都会のアパート暮らしでは、それが許されません。一日中ぼんやりと犬のことだけを考えるようになるベン…犬をめぐって激しく変化する少年の心をリアルに描く、ピアスの代表作。

感想・レビュー・書評

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  • ラスト2ページで胸にこみ上げるものがあり、涙の渦に飲み込まれそうになった。
    まさか、まさか、である。児童書でここまで深く感動してしまうなんて。
    いや、この言い方は誤解を招きそうなので付け加える。
    【トムは真夜中の庭で】を書いた作者さんなので、勝手にファンタジーを期待していたせいだ。
    こちらの作品は、児童書におけるリアリズムの傑作かもしれない。

    主人公のベンは、姉とふたりの弟に挟まれて少し孤立している。
    彼が求めるものは、自分と心を通い合わせることのできる「犬」。
    きょうだいの真ん中のポジションに生まれた方は、このあたりでシンパシー大かもしれない。
    ところが、ロンドンの市街地では犬を飼うことは難しい。

    田舎に住む祖父母と、その暮らし。両親、姉弟・・いろいろなタイプの人間が登場してベンと関わっていくが、どこでも微かに疎外感を抱くベン。
    それぞれがベンに対して悪意もなくごく普通の関わり方をしているだけなのに、現実を受け入れるためにはショック・アブソーバーが必要で、ベンにとってはそれが「犬」なのだ。
    そうして日々「まぼろしの犬」を渇望するうちに、現実と理想との境も分からなくなっていく。

    作者は、少年にとって甘い環境など一切用意せず、本物の犬を手に入れるまでの時間を克明に描いていく。
    その間の心の動きと、ロンドンの街の空気と喧騒、イギリスの田舎の風景や、ベンを取り巻く家族の個性など、きっちりと浮かび上がらせている。

    ベンの心模様を、夢想的な子供の持ちやすいものと断言できる人がいるだろうか。
    手に入らないモノを渇望し、「もしも・・」と憧れ、その中で自由に想像の羽を広げなかったことのある人など、果たしているのだろうか。
    痛々しい小さなベンを、満足に思いを口にすることも出来なかった幼い自分と重ね合わせて読む進むうちに、ラストに隠された感動に「してやられる」。
    決して安易に幸せを呼び込まない作者の筆は、実に忍耐強く冷静だ。
    夢想の中で遊ぶのは至福の時だが、生きるのはこの現実。
    ベンはどう、そこに気づき、どう対処したか。

    かつて子供だった、大人に。大人になりきれないと感じる大人にも。
    そして今まさに受け入れられない現実に悩む少年・少女に、おすすめの一冊。
    「手に入らない夢」をありったけ夢想した多くの時間が、決して無駄ではなかったと、ベンが(たぶん)思ったであろうと、そう思うことが私の胸を清々しくさせる。
    絶版になっているらしいが、入手できたらぜひお読みあれ。名作です。

  • しばらく前に読了。
    犬を欲しがっている少年が、犬を手に入れるまでの話。というととてもシンプルなのだけど、描かれる展開では、はじめに失望があり、まぼろしの犬でそれが補完されたと思ったらそれもだめになり、ようやく手に入れてもまだ失望する。ここまで何度も失望させるとは思っていなかったので、地味に衝撃を受けた。ベンの気持ちもわからなくはないけど、憧れって、対象とされた側からすれば勝手でいい迷惑なものだよね…。
    ピアスの作品は、ちょっと哀しい感じがする。

  • 犬が好きでたまらないベン。なのにいろいろな事情で犬を飼えず失望。ベンはいつしか心の中に自分だけの犬を飼い始める。想像の犬を思うあまりベンはいつしか空想の世界が色濃くなり現実の世界がぼんやりしてくる。
    少年の孤独、渇望、葛藤。日々鬱々と悩んで考えてそれでもなんとかやっていき成長していく姿がとてもリアル。子どもから思春期への成長ってこうだよなあ。よく自分で辿り着いた。

  • 犬飼えてヤッター!!って話じゃなくて、想像の犬から現実の犬を飼うことになって、そのギャップを受け入れて立ち直っていこうぜ!っていう前向きなはなしだった…。
    きょうだいに挟まれてる子ってこうだよな~~~。

  • フィリパ ピアス :作 / 猪熊 葉子:訳 岩波書店 初版1989

    ベンの最大の望みは犬を飼うこと。でも都会のアパート暮らしでは、それが許されません。一日中ぼんやりと犬のことだけを考えるようになるベン…


    どうしても犬がほしくてほしくてほしくて‥
    欲しすぎて理想の犬を心の中でつくりあげてしまう。
    それで満足してたのに‥。
     本物の犬を飼えたとき「理想と現実」の違いに愕然とする‥。
    「私にもこんなことあったな」って思い出す。
    大人になる為には、経験しなくちゃならないことを教えてくれる作品だと思います。
    この感情を知らなくて読んだ子供も、いつかぶつかる壁で、その壁にぶち当たったとき、
    この本を思い出すと思う。

  • 河合隼雄さんの推薦だからか、精神の限界まで行ってしまった少年の激しい葛藤が描かれている。本当に危ないレベルだ。最後は見事。現実を受け入れられた!ブラウンの呼び声に胸が震える。

  • 「子どもを本好きにする10の秘訣」>「生き物・自然」で紹介された本。

  • ベンとおじいさんの
    やり取りがほのぼのでいいなあ
    お手紙も・・・

  • わんこは、飼いたいよねー

  • すきだな。

  • 小学生の時に読んだ本。ずっと、探していました。フィリパピアス、天才ですね。

  • 家族の中で孤立しがちなベン少年が、おじいさん達から犬をお誕生日に頂けると期待していたのに、それは果たされず、おまけにおじさんの形見の額縁の小さい犬も失くしてしまう。自分の思いと自分の環境の中でベンの葛藤が続くが・・・。

  • 見ることにあきたんだ。
    見えるものといったらばかでかいだけで代わり映えのしないつまらないことをくりかえしているだけなんだから。

    正確じゃないけどこの言葉だけでご飯が三杯いける^o^

  • ベンは犬が飼いたくて飼いたくて、でも犬はどうやっても手に入らない。
    思うようにならない現実を、それでも生きていかなくちゃならないのは、いつの時代も、オトナもコドモも同じだ。

  • ピアスはどれも面白いけど、
    これは身につまされる面白さ。

  • 学校の課題で

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著者プロフィール

1920-2006。イギリスの児童文学作家。『トムは真夜中の庭で』(岩波書店)でカーネギー賞を受賞。短編の名手としても知られ、「二十世紀の児童文学作家の中でもっとも優れ、もっとも愛された一人」と賞賛された。

「2018年 『コクルおばあさんとねこ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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