中世和歌集 鎌倉編 (新日本古典文学大系)

  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (514ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784002400464

作品紹介・あらすじ

桜と月をこよなく愛した遁世歌人西行、現実に失望し歌道に精進した藤原定家、配流の地隠岐で都への郷愁を詠み続けた後鳥羽院、そして慈円、良経、家隆-。揺れ動く時代を生き、人間的魅力に満ちあふれた新古今歌人たちから、独特の歌風を展開させた京極派の伏見院・為兼・永福門院まで、鎌倉期和歌史の流れをたどる十編。

感想・レビュー・書評

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  • 鎌倉時代の代表的歌人の十種の和歌集を収録し、現代語訳・注釈を施したもの。

    1、西行『山家心中集』
    出家してもなお数寄心を失わない西行は、まだ寒いのに桜を訪ねて山に入って咲くはずもなかったわと歌ったり(2)、待ちに待ってようやく表れた晴れた月を見て、まず月にかかる雲が気がかりになったり(48)、私のほかに誰が険峻な吉野山の苔を踏むような道を桜を訪ねてやってくるだろうかと歌ったりしている(178)。こころなきやねがはくはの人口に膾炙してる歌も収録。

    2、藤原良経・慈円『南海漁夫北山樵客百番歌合』
    新古今歌壇に重要な位置をしめた良経と慈円の私的な歌合。
    良経は新風歌人の一人。
    南海漁夫・北山樵客という号は両者の隠遁への志向。
    9,10,20,21,35,37,74など

    3、定家『定家卿百番自歌合』
    定家自ら自詠200首を選歌し、百番の歌合にし立てた書。
    10,13,14,18,22,40,43,66,71,74,76など

    4、家隆『家隆卿百番自歌合』
    家隆は新古今時代の前衛的歌人の一人。定家と並び評される。
    4,8,10,12,19,22,25,34,35,52,65、など

    5後鳥羽院『遠島御百首』
    隠岐に流された後鳥羽法皇が在島初期に詠んだ。帰郷の日を待ち望む心情、島での孤独な生活を率直に詠む。
    墨染の袖の氷は立春にとけたが、それでも今までとは全く違う物思いをし、涙の乾くときはない(2)、島の里人が若菜をつんでいる、自分の生活のためにつんでいるのだろうか(伝統的和歌世界の風流のためにつんでいるのではない)5、眺めると月は以前と同じ月だが、わが身だけは以前の春と違ってしまった(14)、潮風に蘆の穂が乱れるように私の心は乱れる、声を出して泣くけれども訪ねて慰めてくれる人はいない(77)、同じこの世でまた住の江の月をみることができるだろうか、今はこうして隠岐の島守となっているが(99)

    6明恵『明恵上人歌集』
    明恵にとって和歌は数寄という点で仏道に相通じるものであった。
    紀州の若い僧が山寺を出ると言い出し、今夜寺を出ていく私をあわれに思って下さい。どうか迷う闇路の道案内して導いて下さいと歌った(135)
    これには流石の明恵も激怒し、迷う闇路の道案内のための仏道だろう、そこから自分から出て行って導くもなにもないわいい加減にしろと(136,137)

    7宗尊親王『文応三百首』
    後嵯峨天皇の第二皇子宗尊親王の歌集。若くして薨じたが、和歌を熱愛した万葉風の鎌倉歌人の一人。
    為家らの合点・評があるのが特徴。
    1,6,15,18,24,25,32,34,36など

    8為家『中院詠草』
    俊成を祖父に、定家を父に持つ為家。彼の息為氏の二条派、為教の京極派と両統迭立期に分かれていく。
    新古今後の和歌史の推移に関わった人物。
    1,4,5,13,14,16,17,18,19、22…、為家の春の歌が好み。

    9為兼・伏見院『金玉歌合』
    10永福門院『永福門院百番御自歌合』
    本書のフィナーレを飾るのは、京極為兼・伏見院・永福門院の京極派和歌の代表的歌人の3人。
    当時の評価からすでに「異風」と異端視されたその独特の歌風は「心の重視、詞の自由、客観叙景、心理描写」
    これがどういうことかというと、平安時代の伝統的和歌で風景の歌を詠む場合、その風景の奥に歌い手の意図が隠されてることが多い。松むしを歌う一見ただの叙景歌だが、実は恋人を待つ虫の恋愛の歌だったり。
    日本では風景や自然を歌う歌は実は抒情歌として機能することが多かった。
    ところが京極派は風景を純然たる風景としてとらえた。動と静、光と影の多彩な変化。
    これが京極派は時間的推移や明暗に敏感で自然観照に優れている、と評される所。
    異端とされた京極派和歌ですが、伝統的和歌の特別な知識を用いずに表現意図が明確であるため、現代の私達には伝統的和歌より逆に親しみやすいという側面もある。
    これは永福門院の叙景歌を詠んでみれば一目瞭然のはず。188から作者の感慨が歌に込められますが、これが古今集からの伝統でよくある歌だと分かる。
    永福門院は「星の影」「壁に消え行く」といった表現から自分の好み。

    心理描写については為兼・伏見院の恋愛歌をみてみると分かる。
    これは確かに二条派は「なんだこれ!」ってなると思います。

    京極派の感想は
    大岡信『日本の詩歌』岩波文庫
    渡辺泰明他『天皇の歴史10 天皇と芸能』講談社学術文庫
    を使用しました。

  • 第46巻

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