こころ (岩波文庫 緑 11-1)

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  • 岩波書店
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  • / ISBN・EAN: 9784003101117

感想・レビュー・書評

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  • 1914年(大正3年)。
    明治の精神とやらはともかく、生物として、配偶者の獲得は弱肉強食の仁義なき戦いである。だからKを出し抜いた先生については、私はさほど責める気になれない。人間はしょせん動物なのだから。第一、勝敗を決めるのは先生でもKでもなくお嬢さんであり、その点において3人の間に不正は何ら存在しなかったのだから。

    だがKは死ぬべきではなかったと思う。生きて愛する女性のために、未来を祝福してやるべきだったのだ。たとえ心で号泣したとしても。そこで涙をのんで祝杯をあげてやることこそ、どんな道を説くより見事な心意気じゃないかと私は思う。そうすれば2人は幸せになれただろうし、世界に女はお嬢さんだけではないのだから、Kだって別の女性と結ばれて幸せになり、「そんなこともあった」と笑って話せる日がきたかもしれない。

    「僕は馬鹿だ」とKは言う。馬鹿で結構ではないかと私は思う。「自分も含めて人間は、基本的にはみんな馬鹿」と気づいてからが、本当の修業ではないか。阿呆な自分を思い知って、じたばたあがいて悶絶して、それでもなお人生にイエスという、そのためにこそ覚悟を決めるべきではなかったか。有為の若い命を、花開く前に散らせてしまっては悲しすぎるではないか…。

    …と、突っ込み所は多いのだが、それは人間心理が異常なほどリアルに書かれている証拠である。個人的には、純文学というよりサイコサスペンスとして楽しませてもらった。いたる所でネタバレされているにも関わらず、これ程の緊張感を最後まで読者にキープさせる筆力は、流石というしかない。

  • 幾度目かの再読。
    人間の汚く卑しい部分。罪悪の苦しみ。そして慈愛。
    読む度になんとも言えぬ気持ちになるが、人間そのものを描き切っている。そんな風に思える作品である。
    Kの信念の矛盾を突いて責め、自殺に追いやった先生が、その罪悪に苛まれ、苦しむ。
    そしてそんな自分が、自ら嫌うあの叔父と同じ人種だと気付いた時の自己嫌悪。
    自分で自分を嫌いながら生きて行くこの辛さ。
    余りにも辛過ぎる。
    人一人を死に至らしめた罪。罰の在り所を探した結果が、毎月のKの墓参りなのだろうが、何をしても自身の罪は拭えない。
    ただ一人、K自身から赦されなければ、先生は救われない。
    先生のこの苦しみを、〝手紙〟という形で告白された読者の私は、やはり死のみが先生を解放する唯一の方法だったのだろうと、思わざるを得ない。
    毎回の事だが、ただ暗澹たる溜息だけが出る読後だった。
    それでもまた読もうと思う。

  • おそらく日本の学校に通っていた人なら、教科書なり何なりどこかのタイミングで「こころ」の一部を読んだことがあるはずだ。

    わたし自身も初めて読んだのは、高校の教科書で。読んだ時の印象はそれほど残っていなくて、覚えているのは、「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」という言葉くらい。

    改めて読んでみて思ったのは、教科書に掲載されている「こころ」はほんの一部にすぎず、全体を通して初めて気づくことがたくさんあるということ。

    人間の心の中では、複雑な変化が起きる。
    疑い、愛情、嫉妬、恐怖、かなしみ。
    人の「こころ」というのは、相手の「こころ」を反映する。
    また、自分の「こころ」とはまったく異なる解釈をされる時もある。その逆も然り。

    本作品では、人の内面、つまり、心の動きについて、細かく描かれている。なぜその結末に至ったのか、そして「わたし」のその後を想像する余地が残されているのが、やはり多様な解釈がされる作品の理由なのだと思う。



    純文学は「日本語が美しい」。

    友達にそう言うと「自分はそれはよくわからないけど、純文学が好きな兄も日本語が美しいから好き」と言っていたと言っていた。

    この作品も、情景描写がとてもよくて、「夏目漱石が好き」という人の心を理解することができたように思う。

    【あらすじ】
    海水浴場で見かけた先生に、わたしは強く惹かれた。
    何度か接触を試み、わたしは先生と話をすることに成功する。そして、わたしと先生の付き合いが始まる。
    奥さんに何かを隠している様子や「善人だと思っていた人が、いざという時に悪人に変わる」というような言葉の端々から、先生の過去を知りたくなったわたしだが、先生はなかなか過去を明かしてくれなかった。
    ある日、父が病で倒れ、田舎に帰っていたわたしに、一通の手紙が届く。それは、先生からの遺書だった。

    叔父一家に騙され、疑い深い性格になってしまった先生は、故郷を捨て、東京へ出た。
    未亡人とその娘のお嬢さんのいる家で下宿させてもらった。初めは注意深く観察していたが、奥さんに「静かで大人しく鷹揚な方だ」と評されて、先生の「こころ」は静まった。静まると共に、家族と冗談を言い合えるようになった。次第にお嬢さんに惹かれていった。ところが、郷里の親友Kも同じ下宿に住まうようになると、Kにお嬢さんを取られるのではないか、また、お嬢さんもKに気があるのではないかという気がしてきた。
    夏休みを利用してKと二人で旅行している時、Kに打ち明けようとしたが、タイミングを掴みかねていた。二人でお寺に寄り、住職の話に熱心に耳を傾けていたKは、先生の無関心な様子に「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と言った。
    お嬢さんへの気持ちを打ち明けることができずにいたが、ある日、Kからお嬢さんに対する気持ちを告白された。「しまった、先に言われてしまった」。そう思った先生は、道学を貫こうとしているKに対し、「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」と言い放った。
    その時にKが返答した「覚悟」を誤解し、焦った先生は、奥さんにお嬢さんをくれるようお願いした。二人の愛が成就した数日後、Kは自殺。Kの自殺の原因が自分にあることは疑いようがなく、以降、先生は罪の意識を背負ったまま生き続けていたが、この手紙がわたしの手に渡る頃には、すでにこの世にいないだろうと書いてあった。

  • 面白い、一気に読めたよ!
    これで後期三部作も制覇だぜぇ〜〜。
    今回は人生モノだけど、恋愛も大きなウェイトを占めてるな。人を出し抜くのは良くないよね。
    これも、尻切れトンボだった。さあ、この後は自分で考えて!ってことなのかな。三部作は全てこの終わり方だったよ。
    いや〜漱石面白いじゃん。若い頃に読むともっと身近な問題として捉えられたかもね。国語の授業でもこの面白さを伝えて欲しいな!というか私が分かってないだけか^^;

  • 実用書

  • いゃ〜よかったです。今回注釈を参照しながら また、辞書で語句をしらべながら時間かけて読みました。
    遠回しに先生がKに家業あるなら、恋愛を諦めろと諭していたのが伝わりました。だって本当は自分の方が先に好きになったんだから諦めろとは言えないよね。言ったところでお嬢さんの気持ち次第なんだから。お嬢さんの気持ちを知るのが怖かったんだろうね。相思相愛に確信が持てないところが不安で
    先延ばしにした結果、、、。
    遠い昔の話だけど、現代に通じるものがありおのおのの登場人物が生活している様が読み取れました。
    三角関係の細かい心情がゆったりとしたタッチで描かれている。この頃の文学が好きです。

  • この本は上・中・下の3つの章があり、章のタイトルの通り、上には私から見た先生、中には父親の死期、下には先生から見たKが描かれています。上で謎だった部分が下で明らかになるので上と下にはつながりが見られますが、なぜ著者は中で私の両親を主な題材にしたのだろうと思いました。

    ふあ(海洋環境科学科)

    所蔵情報:
    品川図書館 913/N58

    オンライン(青空文庫):
    ※オープンアクセスなので、どこからでも読めます※
    https://www.aozora.gr.jp/cards/000148/card773.html

  • 後期三部作の3作目。国語の教科書や入試試験で扱うことも多いこともあり知名度が高い作品です。
    内容は3部構成となっていて、最初が「私」が「先生」と出会い交流を深める“先生と私”、実家に帰省したが腎臓病の父が危篤となりなかなか東京に帰れなくなった中、先生から長い手紙が届く“両親と私”、そして本作のメインの話となる先生から届いた手紙の内容である“先生と遺書”で物語は締めくくられています。
    主人公は「私」ですが、後期三部作の前2作と同様、主役である「私」は狂言回しであり、実質は自責の念を綴った手紙を通して「先生」の過去を語った物語となっています。
    “先生と私”で、先生は何か過去に秘密を抱えているかのような言動をしており、その理由についてヒントのようなものが見え隠れします。
    そして、“先生と遺書”でその謎が説明されるような流れとなっています。
    “先生と私”で張られた伏線が“先生と遺書”で解消されるような形になっていて、謎解き小説を読んでいるような面白さを感じました。
    読了後、再読するとまた別の感想を持つと思います。

    有名作ですが、後期三部作に名を連ねている通り、テーマは人間のエゴイズムとなっています。
    エゴイズムとは何かと言うと、他者の不利益を構わずに自己の利益を優先させることで、本作はまさにエゴイズムの果て、感情の暴走から生まれた悲劇を謳ったものとなっており、暗く悲しい内容となっています。
    登場人物は少なく非常に読みやすい作品で、有名作ということで高校生でも手に取りやすい作品ですが、胸を打つほど辛い先生の独白は大人になって再読することでようやく理解できる部分があると思います。
    もし、学生時分に本作を読んだならば、年月が経ってからもう一度繙くことをおすすめします。

    内容は結構エグいです。
    嫉妬と焦燥の応酬でぐちゃぐちゃになった先生の感情、そんな先生の感情を知らず、想いの伴った交友を続けてしまう親友とお嬢さんへの愛憎が克明に描かれています。
    その果に利己的な行動をしてしまった先生の言いしれぬ後悔の様が悲しく、恋愛をテーマにしたストーリーは現代もいくらでもありますが、恋愛としては成就しているというのに、ここまで悲しいストーリーはないと思います。
    物語のスタート時点でそれらは経過後であることも加えて胸を打つものがありました。
    また、個人的には、影が見え隠れしいる先生に惹かれる「私」の形容しがたい感覚もまた本作の見所と感じます。
    本作は先生の遺書の内容で終わっていますが、先生の元へ戻り付いて、誰にも打ち明けられない先生の吐露を胸にしまった私が先生と対峙したとき、どういう感情が呼び起こされるのか、その後の物語が読んでみたい気がします。

  • (読んだ人が帯に書いたコメントより)
    ●あっ!
    ●この本は教科書を読む前に読んでおきましょう。
    ●やはり奥が深い。Kというやつは。
    ●KはなんでK?

  • 名作シリーズを読んでみようの第一弾として『こころ』を読んでみた。本当は岩波文庫のブックカバーが欲しくて『モンテクリスト伯』のセットに買った本。
    夏目漱石の名作ということ、そしてうっすらは内容知っているが本腰入れて読んだのは初めて。
    こころの葛藤は分かったが、これがどれほどの名作で、意味深いものが含まれているのかまでは自分には分からなかった。きっと読解力とか共感する力とかが低いんだろうな・・

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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