岡本綺堂随筆集 (岩波文庫 緑 26-3)

著者 :
制作 : 千葉俊二 
  • 岩波書店
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本棚登録 : 91
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (387ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003102633

作品紹介・あらすじ

『半七捕物帳』の岡本綺堂(1872‐1939)は、明治5年に東京・芝高輪に生まれた。父は元御家人で母は武家奉公をした町娘。時代は明治から大正。江戸の風情の残る東京の町と庶民の日常生活、旅の先々で出会った人々、自作の裏話-穏やかな人柄と豊かな学殖を思わせる、情感あふれる随筆集。著者はいい時代に生まれたらしい。

感想・レビュー・書評

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  • 大きく世の中のルールが変わってしまった激動の時代、幕末から明治にかけての世の中がとても気になるこの頃。

    明治5年生まれの著者は「半七捕物帳」で知られるけれども、もともとが徳川家の御家人の家の出であり、その端境期の記憶を持っているのでは?という期待もあり、随筆集を読んでみる。

    明治30年代以降の随筆が集められ、期待(?)していたような混乱や大きな戸惑いもない(そりゃそうか、30年もたっているんだものな)
    けれども、そこかしこに江戸時代の名残、暗がりが描写されています。関東大震災の体験も書かれておりますが、さばさばとして、あまり悲壮感をもって描かれていないところを見ると、これはかなりマスクされている、もしくは動じない肝を持っているんだなと思ってしまいます。「5分間」という作品で株式仲介店の描写にも現れていてます。慌しい仲介店内を見て満州従軍時を回想するシーンがあります。同じ混乱と混雑の中にあっても、戦場では皆死を覚悟しているため規律と冷静さがあるのに対して、この町の人々には規律もなく生きるための動揺があるのみで、それは戦場をも上回っていると感想を漏らすのです。やはり肝が違うのかもしれない。

    そんな胆力ばかりではなく、やはり最大の魅力は言葉の選び方にあるのではないでしょうか。いままで触れたことのない感触の表現を使って描写される、明治中期以降の日本の姿は、地続きではあるけれども異次元の世界のようです。

    静かな温泉場で読みたい一冊。

  • 温泉旅行に持っていき、読み終わらなかった分は毎晩寝る前に読んだ。そういう場面にとてもよい本。気持ちが落ち着いてやさしくなる。河出文庫の『江戸っ子の身の上』『江戸の思い出』と内容が重複するけれど、重なって収録されている随筆はもちろん代表的なものなので、二度目も楽しく読んだ。

    岩波文庫が河出文庫と違うのは、江戸・明治の世の中や、それに対する綺堂の心情より、綺堂本人の人物が伝わってくる感じがするところ。古い時代に関心があって綺堂を読みたい人には、河出文庫を先にお勧めしたい。

  • ガーデニングする綺堂かわいい
    歯弱なのかわいそう私も気をつけよ
    当時海外で菅原伝授手習鑑とかの日本の古典芸能が向こうの役者さんで上演されてたのが驚き
    関東大震災が一番印象的、自分の財が全部焼けたけど上演された芝居を見てこれも自分の財だと思ったって書いてあってすげぇなぁって思った
    しばしばあの頃はこうだったけど最近の子供たちは〜って言っててふふふって思わず笑った割と懐古厨

    (拷問の話をしばしば思い出す)

  • 自選随筆集『五色筆』
    自選随筆集『十番随筆』
    自選随筆集『猫やなぎ』
    自選随筆集『思ひ出草』
    単行本未収録の随筆

    解説 千葉俊二

  • 岩波文庫緑
    岡本綺堂 随筆集

    「 半七捕物帳 」の著者による日常雑記的な随筆集。



    犬の戯れから 人間の運命を感じるあたり 深い。「人間にも〜眼に見えない運命の頸環がついている〜一寸先は闇の世を、何れも面白そうに飛び廻っている」


    半七捕物帳 を書こうと思った動機は さすがに戦略家〜シャーロックホームズなど 探偵物語への興味〜江戸時代の探偵物語は 今までない〜現代の探偵物語を書くと 西洋の模倣に陥りやすい〜江戸時代の探偵物語の方が 一種変わったものができる

  • 『半七捕物帳』の岡本綺堂(1872-1939)は,明治5年に東京芝高輪に生まれた.父は元御家人,母は武家奉公をした町娘.時代は明治から大正.東京の町の風景と庶民の日常生活,旅の先々で会った人々,自作の裏話──穏やかな人柄と豊かな知識を思わせる情感溢れる随筆集.著者は幸せな時代に生まれたようだ.

  • 『今日もまた無数の小猫の毛を吹いたような細かい雨が、磯部の若葉を音もなしに湿らしている。家々の湯の烟も低く迷っている。疲れた人のような五月の空は、時々に薄く目をあいて夏らしい光を微かに洩らすかと思うとまたすぐに睡むそうにどんよりと暗くなる。』

    言葉の選び方、文章の切り方、感じの使い方、どこをとっても完璧な文章で、すっきりしてるのに柔らかくて温かい。気持ちを乾かさないためにも、こういう美文を読まないと!本は内容も大切だけれど、文体や装丁も大事。ときにはそれが内容を上回ることだってあるのさ♪

  • 「半七捕物帳」を読みながら、この人はエッセイが面白いのでは?と思ったらどんぴしゃり。繰り返し読み返したい随筆集。買おう。

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著者プロフィール

(おかもと・きどう)1872~1939
東京生まれ。幼少時から父に漢詩を、叔父に英語を学ぶ。中学卒業後、新聞、雑誌の記者として働きながら戯曲の執筆を始め、1902年、岡鬼太郎と合作した『金鯱噂高浪(こがねのしゃちほこうわさのたかなみ)』が初の上演作品となる。1911年、二代目市川左團次のために書いた『修禅寺物語』が出世作となり、以降、『鳥辺山心中』、『番町皿屋敷』など左團次のために七十数篇の戯曲を執筆する。1917年、捕物帳の嚆矢となる「半七捕物帳」を発表、1937年まで68作を書き継ぐ人気シリーズとなる。怪談にも造詣が深く、連作集『三浦老人昔話』、『青蛙堂鬼談』などは、類型を脱した新時代の怪談として評価も高い。

「2022年 『小説集 徳川家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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