おかめ笹 改版 (岩波文庫 緑 41-9)

著者 :
  • 岩波書店
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003104194

作品紹介・あらすじ

一切の抒情性を排し色欲と金銭欲にこり固った画家、元知事一家の醜猥さを滑稽小説に仕立てた特異な作品。

感想・レビュー・書評

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  • 素敵な人は、ひとりもでてきません。
    いじわる荷風。
    誰もが平等に滑稽。

  • 自分の画才の乏しさを思い知って、内山海石先生の家に出入りすることで身を立たせている主人公や、問題ばかり起こすドラ息子の翰等々…

    登場人物一人一人に欠点や醜さがありながら、清々しいところが大正時代を背景に愉快に描かれていた。

    特に翰は、非常識ではあるが言い得て妙なところもあり、嫌いにはなれない人物だった。

    現代では考えられない大正時代の日常や、花街の描写を想像することができて面白かった。

  • 作者も端書きで述べているとおり、タイトルは特にストーリーを強く反映したものではないが、何ともキャッチーなタイトル。
    主人公は特にこれと言って取り柄があるわけではなく、どちらかというと世間的にはややズレた感じがあるが、心底は優しく常識的な人物。
    その人物が主家の子息を世話するうちに出世するという、いわばハッピーエンドのストーリーだが、花街の様子が面白く描かれていて、それが一つの花になっている。
    非常に読みやすい一冊。

  •  1920(大正9)年刊、永井荷風の長編小説。
    『腕くらべ』の次に書いたもので、実に好対照をなすものとして比較されてきたようだ。
     本作は荷風が得意とする季節ごとの風景の美しい描写は無く、その分ひたすら人物描写やストーリーテリングに没頭している。ゾラのような小説構成を狙いつつ、社会風刺に注力し、全体に「滑稽小説」を目指したコメディだ。荷風の「あとがき」に詳しく制作意図が記されており、確かに笑えるような喜劇となっている。
     風景描写が控えめであるとは言え、いつもの含蓄がありながらどこか親密な感じのする、江戸戯作文学にも連なった情趣豊かな文体は健在で、私にはこの荷風の文体がどうにも好ましく、やはり読み始めるとスッと引き込まれていくのを感じる。難しい熟語もあるにも関わらず、どこか平易さがあり、かつ、明るい。この文体で生き生きと人間を描いていく荷風の小説ストリームは、私はモーツァルトの音楽のような親密さだ。
     本作ではとりわけ風刺を込めているので、矮小な人物たちを手厳しく評する箇所も沢山あるのだが、にも関わらずとげとげしいわけではなく、トーンは相変わらず明るく透明だし、人間を突き放して書く「冷たさ」は感じられない。どこかに優しさがあるような気がする。その点、エミール・ゾラとの資質の相違が際立つ。
     後半は特にドタバタコメディのようになり、出来事の連鎖が錯綜していくのが、まるでシェイクスピアの生き生きとした喜劇のようでもある。偶然の連なりで主人公が幸運を手に入れる大団円も気持ちが良い。
     実に楽しませてもらった快作だった。私はこれが好きだ。

  • 永井荷風 「 おかめ笹 」 難しい。守銭奴、放蕩など 俗物な世界を自虐的に描いた本 と捉えた。他の著作と モチーフの取扱が違うので 著者の意図を考えながら読んだ

    著者は なぜ 美しい竹笹でなく、俗的な おかめ笹を モチーフにしたのか?

    花柳や文学の世界は 外見は 美しい笹に見えるが、実際は 俗物的な おかめ笹 であり、そこでしか生きられない自分をも 嘲笑している? と解釈した

    「放蕩も結婚も事実の要点では〜ちがいはない〜一は秘密、罪悪であり、一は公正明大、親孝行」

    はしがき「おかめ笹は〜いつも野の末、路のはたに生い茂り〜つまらなき わが作の心とも見よ」

    あとがき「おかめ笹は〜主人公 鵜崎巨石が 意想外の事件のために 意想外の利益を得て、安心して酒色に耽る物語」

    「名をなす見込がない、といって絵をかくより外に生計の道がない〜自然に守銭奴になってくる」

  • 思い付いたダメ人間(金が好き、女好き、嘘つき、いい加減)を、つらつら絡ませてみたけど、大した出来事もなく了したという凡作。腕くらべの水準を期待したのが失敗

  • 大正のダメ人間カタログ、というか俗物図鑑(笑)。いいねぇ、生きてるって感じ。向田邦子が「人間の滑った転んだを書いているだけ」と言っていたが、これがまさにそう。
    しかもその時代の空気が伝わるような表現力なので、登場人物も活き活きとしている。
    ドラマ『天皇の料理番』(堺正章版)、『天切り松闇がたり』、アニメ『はいからさんが通る』が好きなのだが、大正ラブだったのか自分は……。
    それらの作品を脳内でブレンドすることで、大正時代が立体的に浮かんできて楽しいぞ、おい。

  • 読了。神保町の古本屋で購入。主人公を振り回す若旦那には感情移入するところあり。身分の上下を問わず低俗卑小なる登場人物の右往左往する様は愉快。

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著者プロフィール

東京生れ。高商付属外国語学校清語科中退。広津柳浪・福地源一郎に弟子入りし、ゾラに心酔して『地獄の花』などを著す。1903年より08年まで外遊。帰国して『あめりか物語』『ふらんす物語』(発禁)を発表し、文名を高める。1910年、慶應義塾文学科教授となり「三田文学」を創刊。その一方、花柳界に通いつめ、『腕くらべ』『つゆのあとさき』『濹東綺譚』などを著す。1952年、文化勲章受章。1917年から没年までの日記『断腸亭日乗』がある。

「2020年 『美しい日本語 荷風 Ⅲ 心の自由をまもる言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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