すみだ川・新橋夜話 他一篇 (岩波文庫 緑 42-2)

著者 :
制作 : 竹盛 天雄 
  • 岩波書店
3.57
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本棚登録 : 259
感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (337ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003104224

作品紹介・あらすじ

母を常磐津の師匠に、伯父を俳諧の宗匠に特つ中学生長吉の、いまは芸妓になった幼馴染お糸への恋心を、詩情豊かに描いた『すみだ川』。また花柳界に遊んだ作者が、この世界の裏面をつぶさに見聞しみずからも味わった痛切な体験を、それぞれ独立した小篇に仕立ててなった『新橋夜話』のほか、『深川の唄』を加えて1冊とした。

感想・レビュー・書評

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  • 芸妓を描いた新橋夜話が余韻を残す切なさがあってよい。
    男女の刹那的な関係の美しさを読みたい方は、ぜひ。

  • 深川の唄
    江戸の情緒に対する思慕と、急速に西洋化していく日本社会への諦念とが、深川ー山手の対比の上に見事に投影されている。

    すみだ川
    失われていく墨田川周辺の情緒あふれる景観に対する愛惜を、長吉が幼馴染お糸を恋慕う物語に込めている。p.93の「いそがしき世は」からはじまる一文は、荷風屈指の名文ではないか。

  •  3つ入っている。
    「深川の唄」「すみだ川」は1909(明治42)年に発表され、これは荷風30歳、4年間のアメリカ、1年のフランス滞在を終えて帰国し『あめりか物語』『ふらんす物語』が出版された辺りである(『ふらんす物語』はただちに発禁)。「新橋夜話」は短編集で、1912(大正元)年にいったん出版されたのちに収録作に異動があったものらしい。最終的には1909(明治42)年から1912(大正元)年にかけての掌編が収められている。
     いずれも荷風の若い頃の作品だ。「すみだ川」は特に若々しい清新さが窺える佳品。「新橋夜話」は主に芸者の登場する花柳小説が中心となっていて、この界隈への荷風の強いこだわりが早くも現れている。なるほどモーパッサンの影響を受けているのかも知れないコントふうの作品や、一幅のスケッチのような作品が入っていて、味わい深く印象的なものも多かった。これらの中では比較的後年のものの方が良いと思った。
     永井荷風の小説世界は叙情的であるが、たとえば佐藤春夫のような薄っぺらさは無く、ほどほどの深まりを見せ、端正なたたずまいを見せる。情緒が浮き彫りとなるものの激情までには至らないおとなしさは、日本的な情緒であるのかもしれない。
     音楽で言うと、地味で目立たないが一つ一つ傾聴するほどに味わいの深い、そして全体としてあくまで均整の取れたサウンドを持つサン=サーンスの作風に似ていると思いついた。もっとも荷風自身はワーグナーやシューマンなど、ドイツ音楽を好んだように思える。
     一応ロマンチックな世界を展開する文学フィールドは、やはり「強い堅固な主体」の維持装置に支えられているに違いなく、そこでは外部の異質性を排除する防衛機制も当然働く。荷風が江戸文化の香りを残す明治前半の雰囲気を愛し、なだれ込んでくる近代化の波を批判し続けて、失われゆく江戸風の情緒をはかなんだのも、こうした自己防衛機制によるものだろう。
     同じように江戸情緒を溺愛し昭和初期においては巷間にあってもはや時代遅れの様相を呈してさえなお、自分の愛する世界を描き続けたという点で、泉鏡花(1873-1939)が想起される。永井荷風(1879-1959)と鏡花、この両者の違いを検討してみるのも面白いかも知れない。
     本書に収められているような瑞々しい愛すべき小品たちが、私は好きだ。

  • 新橋夜話 は花柳界との交わりがある人間の心情のキビを率直に新鮮に描いており、とても魅力的だ。夜の侘しさ、寂しさ、不安、心に抱えてもなかなか文章にすることが難しいことをセンス良く描き出しているのがよくわかる。耽美派などとひとくくりにせず、この作者が孤高の存在なのがよくわかった。

  • 「すみだ川」の状況は一葉の「たけくらべ」とよく似ている。比較すると面白いかも。

    「新橋夜話」は1ダースの寓話。

    ①掛取り
    銀座の「服部」の前で都電に乗る・・・なんて、やってみたいなあ。電車やバスで行き先違いに乗る、というのはよくやる口なので、このコの二度とお使いに行きたくない気持ちはよくわかる。 ^^;

    ②色男
    芝居の和事だと、断然、江戸の男より上方の男に軍配が上がりますが・・・銀座唐物屋の若旦那の京さんってのがなかなか素敵に困ったおヒトで。女の指輪が抜けなくなって貰っちゃう、なんて。ねえ。「天賞堂」ってこんなに前からあったのね・・・鉄道模型店だと思っていました。

    ③風邪ごこち
    これが一番好き。
    「2月の余寒の夕まぐれ」に、微熱気味の増吉姐さんと旦那の1日。・・・「早かったでしょう。」と小声にいいながら男の肩の上に身体を載せかけた。なんかホッコリ、いいねえ。

    ④名花
    湯島の天麩羅屋の女中お君が芸者小鍛治に成り上がる話。侠気のある姐さんだい。

    ⑤松葉巴
    若いときの恋を忘れられなずに哥沢節へ託す。
    辛いのは遊女側だけでないようで。

    ⑥五月闇
    旦那の意地悪で職質に遭うわ、評判は下がるわ。
    悲惨な最後。でも多分、これが一番リアル。

    ⑦浅瀬 ⑧牡丹の客
    ⑦は歓迎会幹事の雑談。⑧は牡丹見物。しっこしがない~

    ⑨短夜⑩昼すぎ
    ⑨は男女の、⑩主客の対話。これ、ペアで朗読すると面白そう。

    ⑪見果てぬ夢
    「まとまった金をやってもぐずぐずと飲んでしまうだろう」と主人に思われる、車夫の助造の行く末や、いかに。ある意味、究極の自由人?

    ⑫祝盃
    昔、手を出した女中が遠隔地で幸せになっているのを嬉しく思う。無責任っちゃあこの上なく無責任だけど、この時代の旦那方の倫理観はこんなもんでしょうなあ。

  • すみだ川だけ読んでみた。まだ読めない…。

  • 明治から大正にかけての東京が忍ばれました。

  • 深川の唄
    すみだ川
    新橋夜話

  • 11/10/29、神保町・澤口書店で購入。(古本)

  • 読み終わったけど、すでにいま読み返したい。

    活き活きとした江戸、ではなく、滅んでいく江戸の薫り。

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著者プロフィール

東京生れ。高商付属外国語学校清語科中退。広津柳浪・福地源一郎に弟子入りし、ゾラに心酔して『地獄の花』などを著す。1903年より08年まで外遊。帰国して『あめりか物語』『ふらんす物語』(発禁)を発表し、文名を高める。1910年、慶應義塾文学科教授となり「三田文学」を創刊。その一方、花柳界に通いつめ、『腕くらべ』『つゆのあとさき』『濹東綺譚』などを著す。1952年、文化勲章受章。1917年から没年までの日記『断腸亭日乗』がある。

「2020年 『美しい日本語 荷風 Ⅲ 心の自由をまもる言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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