銀の匙 (岩波文庫 緑 51-1)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003105115

感想・レビュー・書評

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  • おびのりさんのレビューで出会うことができました。ありがとうございます!図書館にあったのはこちらの岩波文庫でした。
    解説より、前篇は信州野尻湖畔において書かれた作品でその時二十七歳。この作品の価値を最初に認めたのは夏目漱石で、漱石の推薦で新聞掲載されたらしい。後篇は夏叡山で書かれたとのこと。(解説和辻哲郎)
    古い茶箪笥から見つけた銀の匙が小さい頃の思い出を象徴するように表題となっている。
    前篇は、同世代とは馴染めなかった幼少期について、とても気のいいちょっと騙されやすい叔母からの愛情を受けての日常が生き生きと描かれている。駝鳥と人間の相撲という見世物の様子で観客は歓喜の声を上げる中、叔母は気の毒と涙する。叔母の計らいでご近所さんのお子さんと仲良くエピソード、学校に徐々に馴染んで学業にも少しずつ取り組む様子、毎日の家族や学校での健気な様子が眩しく微笑ましい。「ある晩私たちは肱かけ窓のところに並んで百日紅の葉ごしにさす月の光をあびながら歌をうたっていた。」
    「ひーらいた ひーらいた、なんのはなひーらいた、れんげのはなひーらいた」
    「うーさぎうさぎ、なにょみてはねる、十五夜お月さまみてはーねる。ぴょん、ぴょん、ぴょん」という謡、懐かしい。綾とり、にらめっこなどの遊び今は見かけない。
    後篇は、キラキラした学童期から暗雲の兆し。担任の先生が急遽日清戦争に召集されて、「先生は戦争にでるのだから二度とあえないかもしれないが皆は今度の先生のいうところをよくきいて勉強して偉い人にならなければいけない」という言葉に涙をこぼしている。次の担任が「大和魂があります」と話す様子を抵抗して教師からの不信用と級友から軽蔑されてしまう。兄との仲たがい、姉への思慕なども織り交ぜて憂鬱な日々が続く。「晴れた夜など澄みわたる月の面をじっと見つめながら静な静な歌をうたうといつか涙が瞼にたまって月からちかちかと後光がさしはじめる」
    成長して後叔母を訪ねる様子も切ない。「ほんによう来とくれた、まあ死ぬまで逢えんかしらんと思っとったに」と拝まないばかりにして叔母は涙をふく。最後の姉とのやり取りでも月が現れる。余韻に浸るため水蜜を味わいたくなった。

    • おびのりさん
      こんばんは。なかなか良作でしたでしょ。
      暖かく、読み込まれたレビューで、私のざっくりレビューと同じ本とは思えません!
      みんみんに言われた、“...
      こんばんは。なかなか良作でしたでしょ。
      暖かく、読み込まれたレビューで、私のざっくりレビューと同じ本とは思えません!
      みんみんに言われた、“朝ドラみたい”は、確かにと思いました。
      2023/05/31
    • ☆ベルガモット☆さん
      おびのりさん、メッセージありがとうございます!
      好きな場面が多くてちょっと羅列しちゃいました。郷愁を帯びた自然や遊びの描写が美しくて、しみじ...
      おびのりさん、メッセージありがとうございます!
      好きな場面が多くてちょっと羅列しちゃいました。郷愁を帯びた自然や遊びの描写が美しくて、しみじみしちゃいます。謡は懐かしくて読みながら唄ってました。
      “朝ドラみたい”というみんみんさんの言葉に私も同感です。どの俳優さんになってもらいたいか考えるのも楽しみ♪
      2023/06/01
  • 幼少期を描いた前篇、少年期を描いた後篇の2篇からなる、中勘助の自伝的小説です。
    なぜこんなにもあのころの気持ちや感覚を細やかに綴ることができるのか、と驚きながら読んでいました。
    時代は違いますが、自分が子供の頃に味わったことのある喜怒哀楽の感情そのものやそれを抱くきっかけになった事柄、それがおさまっていくときの感じが呼び起こされるのです。
    日々の生活の中で蓄積されていた澱が洗い流されたような気持ちで読了。

    驚きと感嘆をもって周囲の事象と対面し、心の中にそっと掬い上げて、豊かな感性と言葉をもって紙に綴る。
    成人してからも中勘助にとっては毎日が新鮮で、周囲のものに見慣れる、ということがなかったのではないかと感じました。

  • 読み始めると読み耽ってしまう幼少期の細かく綺麗な心理描写。
    いま咲くばかり薫をふくんでふくらんでる牡丹の蕾がこそぐるほどの蝶の羽風にさえほころびるように、ふたりの友情はやがてうちとけてむつびあうようになった。

    私はまた唱歌が大好きだった。これも兄のいる時には歌うことを許されなかったのでその留守のまをぬすんでは、ことに晴れた夜など澄みわたる月の面をじっと見つめながら静な静な歌をうたうといつか涙が瞼にたまって月からちかちかと後光がさしはじめる。

  • 1935年、およそ100年くらい前に岩波文庫から出版された本です。どこでこの本の情報を手に入れたのか?もう定かではありませんが、1930年代のこの国の原風景をとても細やかに描写していて当時の日本の文化や空気に触れられた気がしました。
    ちょっと繊細で弱虫な少年の幼少期の成長譚なんですが、読むほどに情景が浮かんでは消えて、泣き虫少年の胸の内に湧き出す喜怒哀楽がとても芳醇な描写や表現で綴られていて日本語自体の響きの柔らかさ、語彙の豊かさを感じます。
    本作のように主人公が日常で感じる悲喜こもごもの心理描写を詳細に描いた物語って、読んでいてカズオイシグロ先生の「私を離さないで」を思い出しました。物語ではなく、少年期の日常エピソード集って作りです。読んでいて面白さもありますが、なんか「ほわっ」となる読後感です。

  • 明治期の日本の様子を垣間見ることができる。素朴で美しい日本語と文化。

  • 1915年(大正4年)。
    懐かしい思い出を閉じ込めた宝箱のような本。少し切なく、限りなく優しい。他愛のないエピソードが、たおやかな美しい日本語で綴られている。

  • 中勘助の幼少期からの回顧録。物語を読めば分かるが、様々なことを経験し成長していく姿が美しい日本語で描かれている作品。

  • "灘高で1年間かけて読み費やす授業"
    このフレーズだけにとらわれて読みました。
    昔と呼べる時代の話で、背景・文化・言葉など現代とは大きく違うものの、少年の核なる心がしっかりと存在するままでの心情的変化と成長は、懐かしくも心苦しくもあった。
    この作品を題材に1年間学ぶというのを素晴らしいと感じた。

  • 導入で引き出しの中の銀の匙、というアイテムから子供時代の回想に入っていって、あとはもうひたすらに、子供時代が描かれていく。
    描かれている時代に懷かしさを感じる、というわけではないのだけれど、
    あぁ、こんな事に喜んでいたな、とか、ああ、こんな感じだったかもしれないな、と、自分の子供の時分にも思いを馳せる。
    この鮮やかさはどこにいってしまったんだろうか。ノスタルジー。開けば出会える子供時代。

  • 子供の頃の思い出を子供そのままの瑞々しい感性で綴った私小説。病弱な幼少時代の前編と就学後の後編からなるが、いずれも人見知りで感受性豊かな筆者の体験は何処か懐かしい。毎年読み返すたびに「すべてのものはみな若く楽しくいきいきとして、憎むべきものはひとつもない。」そんな風景が当たり前であった過去を思い出し、大人になって失ったものの大きさを振り返る。

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著者プロフィール

1885年、東京に生まれる。小説家、詩人。東京大学国文学科卒業。夏目漱石に師事。漱石の推薦で『銀の匙』を『東京朝日新聞』に連載。主な著作に小説『提婆達多』『犬』、詩集に『琅玕』『飛鳥』などがある。

「2019年 『銀の匙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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