蜘蛛の糸・杜子春・トロッコ 他十七篇 (岩波文庫 緑 70-7)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003107072

感想・レビュー・書評

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  • 蜘蛛の糸:1918年(大正8年)。
    エゴイズムを戒める教訓的な話だが、ラストが印象的。普通なら御釈迦様が説教するか、罪人が地獄に逆戻りした所で終わりそうなものだが、御釈迦様が悲しそうな顔をするにとどまる所と、極楽ののどかな描写で終わる所とが芥川らしい。

  • 芥川龍之介の中期の作品集。
    氏は長編は書き上げることができませんでしたが、短編の傑作を多く執筆していました。
    中期には児童雑誌・赤い鳥に残した児童文学や、自身が好んでいた怪奇小説に挑戦をしていて、本書にはそういった作品が多々収録されています。
    全作品子供向けというわけではないですが、あまり普段文学に親しんでいない方にも読みやすい作品集と思います。

    収録されているのは全20編です。各話の感想は以下の通り。

    ・父 ...
    子供が主人公の短話です。
    主人公を含む中学生グループは停留所の待合室で見知らぬ人を指して悪口を言い笑い合うのですが、そんな彼らの目前に、ある妙な格好の男が現れる。
    当然の如く、その男も彼らの標的になるのだが、その男は実は、という話です。
    教訓が含まれた、子供のためのお話という感じがしました。

    ・酒虫 ...
    中国の短編小説集に登場する一篇を芥川龍之介が翻訳した作品。
    本作も子供向けの感じがあって読みやすい作品ですが、舞台設定等は古い中国なので、本当に子供が読むには絵本に落とす必要があるかなと思います。
    いくらお酒を飲んでも酔わないある富豪の元に僧が訪れて、彼は酒虫という奇病を患っていると言い、酒虫を退治することを申し出るという話。
    込められたメッセージは同作者の"芋粥"と同じものを感じました。

    ・西郷隆盛 ...
    主人公の先輩で、明治維新の研究をしている本間という男から聞いた話となっています。
    京都から帰宅の電車内で知り合った老紳士が、自分は西南戦争に詳しく、史料に多くの誤りがあることを知っていると告げる。
    また、あろうことか、西郷隆盛は生存していると言い出す。
    その証拠を示すと本間は一等室で驚くべきものを見せられるというストーリーで、タイトルから歴史ものようですが、他の作品同様、教訓混じりの短話です。
    読み物として面白かったです。また、歴史というものはたった一つの事実でひっくり返るという危うさを感じさせる内容でした。

    ・首が落ちた話 ...
    日清戦争時、清国の軍人である何小二は、偵察の途中日本軍に遭遇し、戦いにより首を切られてしまう。
    そのまま落馬した彼は自分の死を前にして、もし生きていれば過去を償って生きると、これまでの人生を後悔する。
    だが、彼はその後酒によって暴れた挙げ句、首が落ちて死んだことを知る。
    彼の首がなぜ落ちたのか、その不思議な経緯を語ったものとなっていて、寓話じみた物語となっています。
    こちらも短いながら読み物として面白く、印象深い作品でした。

    ・蜘蛛の糸 ...
    日本の児童文学に大きな影響を与えた児童雑誌・赤い鳥掲載の作品。
    芥川龍之介の初めての児童文学作品で、地獄に落ちた悪党・カンダタが生前に気まぐれで救った蜘蛛の糸が天界から降ろされるも、彼の身勝手な行動で糸が切れてしまう展開はあまりにも有名です。
    話の筋はわかりやすく、今なお子供に読み聞かせる名著です。
    改めて読むと、悲しそうな顔で去ってゆくお釈迦様が印象的でした。

    ・犬と笛 ...
    本作も"赤い鳥"掲載の児童文学。
    大和の国に住む木こりの「髪長彦」は笛の名手だったが、ある日、森の中で3柱の神に出会い、いつも聞かせてくれる笛の音の代わりに願いを叶えてくれるという。
    犬がほしいと答えた髪長彦は、神からそれぞれ特殊な能力を持つ犬を与えられる。
    不思議な力の犬を伴って髪長彦は、囚われの大和姫を救うたびに出るという話。
    髪長彦の冒険譚といった内容で、児童文学として書かれただけあって文学というよりは子供向けの読み物らしい作品と思いました。

    ・妖婆 ...
    芥川龍之介は幻想・怪奇小説に関心があり、海外の怪異譚を数多く日本に紹介しています。
    本作は芥川龍之介によるオリジナルの怪異小説で、不思議な能力をもった老婆により引き裂かれた男女が添い遂げるため、老婆の手から逃れるために奮闘するストーリーとなっています。
    構成はしっかりしていて、最後も婆娑羅なる大いなる存在により罰があたったような、勧善懲悪なストーリーとなっています。
    文学小説というよりミステリーらしさがあり、書きっぷりの大仰さがそれを感じさせました。
    本作の批評はあまり良くなかったそうですが、私的には序盤の盛り上げ方など、怪異小説らしくて非常に良かったと思います。

    ・魔術 ...
    本作も"赤い鳥"掲載の児童文学。
    魔術を見せてもらうためインドの独立運動活動家のミスラ氏の元へ訪れた主人公は、彼に魔術を教えてもらおうとするが、魔術を身につけるためには我欲を捨てる必要があると言われる。
    初期の芥川作品のようなエゴイズムが描かれた作品で、最後はしっぺ返しがあるものの児童文学らしい"くすり"とできるラストです。
    タイトルから怪奇小説の類と思いましたが、"魔術"は出てくるもののそういう内容でもなく、楽しい作品でした。

    ・老いたる素盞鳴尊 ...
    櫛名田姫と結婚し、子宝に恵まれて余生を送っていた素盞鳴尊だったが、愛娘・須勢理毘売命の前に葦原醜男が登場し、彼が気に食わない素盞鳴尊があの手この手で嫌がらせをする。
    記紀神話に記される大国主の根の国訪問をモデルに書かれた小説で、娘の彼氏を認められないお父さんの、神レベルの婿舅問題が書かれた作品です。
    出雲に宮殿を建てた後の櫛名田姫は明記されていないのですが、その後の生活は創作されていて、素盞鳴尊も人間らしいです。

    ・杜子春 ...
    "赤い鳥"掲載の児童文学。
    中国の伝奇小説が元になっていますが、原作とは違い、子供向けに芥川龍之介独自のアレンジが加えられています。
    芥川龍之介の代表作として著名な作品ですが、児童向けのため読みやすく、短くて読みやすい作品です。
    杜子春という若者がどこからか現れた老人の導きで2度金持ちになりますが、貧乏なときと裕福なときの友人からの扱いの違いに愛想がつき、老人の弟子になることを申し出るという展開です。
    人としてまっとうに生きることの大切さが書かれた作品と思いました。

    ・アグニの神 ...
    芥川龍之介氏が"赤い鳥"に掲載をした最後の作品。
    "アグニの神"のお告げを聞くことができるという占い師の老婆が、"アグニの神"を降臨させるという娘を取り返すため奮闘するのだが、という展開です。
    同作者の"妖婆"を下敷きにしたと言われていて、ストーリー展開はよく似ています。
    "妖婆"より読みやすいですが、個人的には怪奇小説らしい"妖婆"の方が好みです。

    ・トロッコ ...
    短編小説。
    本書収録作では"蜘蛛の糸"、"杜子春"と並んで有名作です。私も本作は教科書で読んだ記憶があります。
    小田原・熱海間で始まった軽便鉄道敷設の工事を見物に行ったことをきっかけとして、良平少年はトロッコに非常に興味を抱く。
    ある日、トロッコを押している土工2人と一緒に、トロッコを押す機会が得られ、どこまでも遠くへトロッコに乗って行っていたのですが、だんだん遠くなる自宅に不安感を覚える。
    情景描写が繊細で、質の高い小説と思います。直接的な少年の感情は書かれないですが、彼の心情が鮮やかに伝わってくるようです。
    あるがままを描いたようなストーリー展開なのですが、読了後にはなんともいえない気持ちになれると思います。

    ・仙人 ...
    児童文学めいた作品ですが、とても不思議なオチになっています。
    奉公の口を探している権助は、口入れ屋に仙人の奉公先を捜すよう依頼する。
    困り果てた口入れ屋は医者の夫婦の元にその話を持ちかけると、医者の妻は給金無しで20年間奉公すると仙人になれると言って、権助を受け入れることになる。
    当然、仙術を授けられる力を持たない医者夫婦は二十年後、権助に無理難題をおしつけるのだが、という展開で、ラストは投げてしまったような、何が伝えたいのかよくわからない結末でした。

    ・三つの宝 ...
    戯曲作品。本作も子供向けな優しい内容です。
    盗人から"千里飛ぶ長靴"、"姿が消せるマント"、"鉄でも切れる剣"を、自身の高価な装飾品と交換に譲り受けた王子は、その三つの宝を手に、黒人に無理やり嫁がされようとしている姫を救いに行く。
    黒人の王の前で宝を試すが、その宝は偽物で、黒人の王は本物の宝を持っていた。
    ひねりのある作品ではなく、おとぎ話のようにご都合主義的な展開です。
    読みやすいですが、個人的には感心するような内容でもなく、普通に楽しめる短編という感じでした。

    ・雛 ...
    とある老女が語った話という形式になっています。
    裕福だったが家業が傾き、値打ち物の雛人形をアメリカ人に売り渡すことになる。
    人手に渡る前にもうひと目雛人形を見ておきたいと主人公は父に頼むが、手付金をもらった以上、人のものだとと言って断られる。
    ラストは、歴史、想いは受け継がれない、物悲しい結末となっています。
    豪奢な雛人形、無尽燈の香りが幻想的で、それと対比するような外国の童女の描写が物悲しく鮮やかに映りました。

    ・猿蟹合戦 ...
    「さるかに合戦」を元にしたパロディー作品。
    さるかに合戦の語られないその後が書かれていて、曰く、一行は警官に捕縛され、カニは死刑に、共犯者たちは無期刑に処されるという、夢も救いのない話。
    読みやすくユニークな作品ですが、とても子供には読ませられない内容でした。

    ・白 ...
    白かった飼い犬「白」が主人公のお話。こちらは子供向けの作品です。
    近所の黒い犬が犬殺しに襲われているのを見てみない振りして逃げたことがきっかけで、全身が黒くなってしまい飼い主に狂犬と思われ追い出された"白"が、罪滅ぼしに良いことをして回るというお話。
    ラストはご都合主義的にハッピーエンドで、短編で読みやすい作品でした。

    ・桃太郎 ...
    「桃太郎」を元にしたパロディー。
    猿蟹合戦同様、ひどいアレンジがされていて、原作を改変した子供向けでない内容となっています。
    書かれているのは、桃太郎は老夫婦から疎まれ、家臣の動物たちの仲は悪く、享楽的で平和な鬼たちの住処に乗り込んで、虐殺と陵辱の限りを尽くす桃太郎一行の物語で、書いたときは芥川龍之介もなにか溜まっているものがあったのだろうかと心配になりました。
    独特の桃太郎の物語を展開しており、酷いですがおもしろく読めました。

    ・女仙 ...
    2ページほどの超短編。
    主人公の隣に住む若い女性が年をとった樵の爺さんを擲っている。
    事情を聞いてみると、この女性は実は、という展開で、落ちは唐突でテーマもよくわからず、ラストの衝撃がすべてのような作品でした。

    ・孔雀 ...
    本書収録作の最後の作品。本作は1ページです。
    イソップ童話の"おしゃれなカラス"が元かなと思います。
    ただ、イソップ童話と違って、カラスに続いて本物の孔雀が現れる展開で、虚飾したカラスではなく、それをみた周りの鳥たちにスポットがあたっていて、書かれる教訓も異なっています。
    やはりどこか病んでいるのかなという感じがあります。
    桃太郎もですが、芥川龍之介の中後期作品で、後期への片鱗を伺わせる内容でした。

  • 教科書の「羅生門」と、芥川賞の知名度のために、芥川竜之介を遠ざけていたことを口惜しく思った。
    皮肉が効いていて、可笑しくて、可愛い。
    クスクスときにはドキドキ、ゾワッとする。
    解説には、子供向けの作品を選んだと描かれていたけれど、そんなこと関係ないと思う。
    個人的には、犬と笛、妖婆、老いたるスサノオノミコト、トロッコ、猿蟹合戦、桃太郎 が好き。お伽噺の毒の効かせ方がゾッとする笑いを誘う。

  • 本を読んでいて、「しまった!」と思うことがしばしばある。
    しまった、中学・高校の頃に読んでいればもっとガツンと感銘を受けたはずなのに。
    この作品もそう。
    どの話も非常に面白かった。
    さすが芥川。
    「トロッコ」の良平、かわいすぎるだろ

  • やっぱり短編は面白いですね。すっと読めます、すっと。ちょっと苦手な話もすぐに終わりますし。まあ好みの話も終わりが早いんですけどね、それを含めて好きなのかもしれません。私が彼の作品を知ったのは杜子春でした。毎朝5分ほどNHKあたりでやっていたのを記憶しています。それから早10年、『父』を理解できるレベルに成長できました。次の10年ではどこまで理解を深めることができるのやら。

  • 『杜子春』

    幸せとは何なのか。
    大金持ちになる事が幸せなのか、それによって大勢の人が自分を慕ってくれる、このような事が幸せなのか。
    本当の幸せとは何なのかを教えてくれるような
    非常に人間染みた一作である。

  • トロッコだけ、青空文庫で読んだメモ。
    スタンドバイミー的な物悲しさがあった。

  • 夫の本なんやけど、これに入っている話はどれも面白いし特にトロッコはしゅうこが好きだと思うから読んだらいいと言うので借りた。
    子ども向け系を集めた本だそうですよ。
    トロッコは多分国語の問題とかで断片的には知っとったけど通して読んだら超絶かわいいな。ははは。
    しかし子ども向けか?て思ったのもあるし、一番最初の父とかせつなすぎるわ。

  • <蜘蛛の糸>自分ばかり得をしようとしてはいけない。
    <杜子春>子の親に対する情。
    <トロッコ>誰もが子どものころに抱いていた、言葉にできない不安。

  • トロッコが印象に残っていますね。とても短いのですがよく分からないよく理解できないです。

著者プロフィール

1892年(明治25)3月1日東京生れ。日本の小説家。東京帝大大学中から創作を始める。作品の多くは短編小説である。『芋粥』『藪の中』『地獄変』など古典から題材を取ったものが多い。また、『蜘蛛の糸』『杜子春』など児童向け作品も書いている。1927年(昭和2)7月24日没。

「2021年 『芥川龍之介大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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