ヴイヨンの妻,桜桃 他8編 改版 (岩波文庫 緑 90-2)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003109021

感想・レビュー・書評

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  • おもしろい、超おもしろい!

    立場を顧みずに言うと「さすが」の一言
    何気ない日常の事物への光の当て方がセンスありありで、しかもおもしろい。
    こんなにわかりやすくて、センスがあって話として成立しているなんてと、やけに興奮する。

    「日の出前」「嘘」「トカトントン」「ヴィヨンの妻」「家庭の幸福」「黄桃」どれもおもしろい。

    「親友交歓」は二度目やけど、今回改めて最後のセリフは喝采ものやと思った。

  • 『人間失格』、『斜陽』、『富嶽百景』『走れメロス』など有名な作品を生み出した太宰治についてどのくらいご存知であろうか。教科書でも『富嶽百景』や『走れメロス』は取り上げられることが多いが、『人間失格』や『斜陽』のような長編作品はなかなか手を出しづらいのではないだろうか。
    本書では『ヴィヨンの妻』、『桜桃』他8編を収録している。特にこの中では『桜桃』を紹介したい。
    太宰治の作品は三期に分かれ、『桜桃』は第三期の戦争・戦後の混乱の中精神的に不安定で破滅的な作風の時代に当たる。『桜桃』はわずか36ページで太宰文学の(特に第三期の)本質が盛り込まれている。入門書としていかがだろうか。

    中央館2F : 文庫・新書コーナー 913.6//D49
    OPAC:https://opac.lib.niigata-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BN01976274

  • 小説のようなエッセイのような。自身の事を書いた作品がほとんど。最近の小説家でこんなに自分のことを書いている作品は少ないような気がする。自分自身が作品の一部となっているような感じ。この書き方を続けていたら身を削られるだろうと思う。

  • 前半は主に戦争で罹災して津軽まで逃げたエピソードにまつわる作品、後半は人生への絶望が感じられる作品。重いテーマなのだがなぜかからっとしていて、ユーモアもあり、何かふざけた感じがあるところがよい。もうやってられない、という感じだろうか。
    「親友交換」「トカトントン」「家庭の幸福」がよかった。

  • 日の出前

    薄明
    十五年間
    チャンス
    親友交歓
    トカトントン
    ヴィヨンの妻
    家庭の幸福
    桜桃

  • だんだん怖くなる

  • 太宰治の戦後発表された短編を集めた短編集。

    太宰治は戦時下、2度の空襲に遭い、2度住居を失っています。
    1945年の東京大空襲により三鷹の住居が焼け、その後、妻の石原美知子の甲府の実家に疎開するが、4ヶ月ほどで今度は甲府空襲にあって全焼。
    津軽の津島家に再度疎開して終戦を迎えます。

    本書収録作品の多くはそういった太宰治の状況が反映された内容になっています。
    特に甲府空襲ではかなりの恐怖を味わったらしく、短編「薄明」ではその時の様子が認められています。
    文士・太宰治の、あるいは戦争末期から戦後直後の日本の状況を興味深く読める短編集だと思いました。

    収録作品の各作品の感想は以下の通りです。

    ・日の出前
    後書きによると"日の出前"は戦時中に書かれた作品ですが、日の目を見たのは戦後とのことです。
    戦争や太宰治にかかった災禍が如実に出ている他の短編に比較すると、本作はそういうものではない、ある意味普通に短編小説のように思いました。
    高名な洋画家「鶴見仙之助」の問題の息子「勝治」に関する内容で、家庭内暴力を繰り返す勝治に苦しむ家族の様子が描かれています。
    昭和初期に発生した実在の事件を題材にした作品だそうで、最後も後味の悪さを感じました。

    ・嘘 / 薄明 ...
    "嘘"は津軽の疎開後に最初に書かれた作品。
    戦禍で家を失い津軽へ逃れた太宰治が、地元の名士から聞いた話、という切り口の作品で、戦時中の女性のいじらしさと頑なさを感じます。
    "薄明"も戦時下における太宰の体験談に基づく作品です。
    甲府空襲にあった際の恐ろしさが書かれていて、それによって娘の眼が見えなくなるがやがて回復するお話です。
    両作品ともページ数はそれほどない短編で、文学慣れしていない方でもおもしろく読めると思います。
    一般的な評価も高い名作です。

    ・15年間 / チャンス ...
    "15年間"は津軽に疎開した太宰治が、15年の東京生活を振り返って書いたエッセイ的な作品です。
    面白いというよりも、各所を転々としていた太宰治の生活が興味深い内容でした。
    "チャンス"もエッセイで、太宰治の恋愛観が書かれたものとなっています。
    太宰治は、恋愛を『色慾の Warming-up』と仮に定義していて、かなりバッサリとした、身も蓋もないような理論が書かれています。
    後半は、恋愛のチャンスがあったのだが、それ以上に料理として出された雀の丸焼きが食べたくてそれどころではなく、チャンスがあっても意思がなければ、恋愛にならないとしています。
    読み物として面白く、短編小説ではないですが、太宰治の作品としておすすめをしたい一作でした。

    ・親友交歓 ...
    本作も面白い短編でした。
    疎開先の津軽の家に、"親友"を名乗るが正直覚えがない男が訪れ、一緒に酒を飲みます。
    だがこの男が非情に粗暴で迷惑な男で、楽しんで飲めるよう対応していた太宰に対し、嫁に尺をさせろだの、家財を寄越せだの言い出します。
    展開がかなりスピーディーで、本短編収録作の中では比較的ページ数がある方なのですが、あっという間に読み終えてしまいました。
    最後も耳元で激しく「威張るな!」と叫び終幕するという凄まじい作品で、少し引きながらも楽しく読めました。

    ・トカトントン ...
    『トカトントン』という幻聴に悩まされる青年の手紙の内容と、それを受け取ったある作家の返答です。
    『トカトントン』の正体について言及はされず、作家の『マタイの十章、二八に書かれたイエスの言葉に霹靂を感じることができれば、幻聴は止むはずです』という返事で終わります。
    若い時代を戦争で費やしてしまった若者の苦悩へ宛てた作品と解説されることが多く、やや難解さを感じる作品です。

    ・ヴィヨンの妻 ...
    戦後の太宰治の代表作の一つです。
    本書の掲題にもなっていて、私は本作を目的に本書を購入しました。
    ヴィヨンとは実在するフランスの詩人「フランソワ・ヴィヨン」です。
    ヴィヨンは毎夜遊びに出る放蕩家で、それのみでなく、窃盗団に所属して強盗や殺人を犯す犯罪者でした。
    本作の主人公はそのヴィヨンのような狼藉を働く「大谷」という男の妻で、夫の借金の方に働くが、彼女は夫が必ずお金を返すことを確認しており、また事実そうなります。
    妻は引き続きはつらつと働くのですが、ある出来事を境に、自分の置かれた立場を直視するかのような展開となります。
    読んでみると不思議な雰囲気の作品で、テーマが読みづらく、不安定さを感じました。

    ・家庭の幸福 / 桜桃 ...
    両作品とも10ページ前後の家族をテーマにした短編。
    "家庭の幸福"はエッセイで、"桜桃"は短編小説です。
    "家庭の幸福"は、前半は太宰治のラジオに関するよしなし事を書いたもので、後半は寝ながら空想した短編小説の構想が書かれています。
    最後の『いわく、家庭の幸福は諸悪の本』という一文が有名で、その考えにいたる一例が小説の構想という形で述べられています。
    "桜桃"は太宰治の命日"桜桃忌"の名付け元となった作品です。
    子供に引っ掻き回される親(≒太宰治)の心情吐露がされており、太宰らしいねじれた感情が表現されています。
    子供が食べたことがないであろう桜桃の実を、まずそうに食べるラストシーンは、そこだけ切り取っても渦巻く様々な感情が読み取れる名シーンです。

  • 後半になるとさらっと自殺ほのめかす作品が続いて、うわぁ…となった。 さらっと読めるのは流石だけど、なんでこんなロクでもない人ばかりなんだろう…

  • 学生の頃、印象に残った太宰治らしい作品を紹介します。この小説は、青年が作家に送った手紙と、その返事から構成されています。手紙には、青年が社会へ一歩踏み出そうとすると、「トカトントン」という音が聞こえてきて、無気力になってしまう、この音から逃れるにはどうしたら良いか、との作家への相談が書かれています。手紙を送った青年の悩みは、実は太宰自身の悩みであり、作家の返事も太宰が発したものであろうと言うことが、読み進むと分かってくる、考えさせられる短編小説です。

    ↓利用状況はこちらから↓
    https://mlib3.nit.ac.jp/webopac/NJ83073989

  • 2016.10.1(土)¥100(-2割引き)+税。
    2016.11.11(金)。

  • 日の出前

    薄明
    十五年
    チャンス
    親友交歓
    トカトントン
    ヴィヨンの妻
    家庭の幸福
    桜桃

  • 本で読むのは初めての太宰。
    ヴィヨンの妻が読みたくてチョイス。

    図らずも晩年の短編をまとめて読むことになった訳ですが、意外と嫌いではないかも。
    かと言って特に好きというわけでもないのですが…
    大まかにヴィヨン→冒頭からの順に読み進めましたが、個人的には『十五年間』でようやく面白いと思えた程度でした。

    すべての作品の根本にあると言える「どうしようもなさ」は、時代故か作者故か。
    同時代の他の作家や太宰の他の作品を今度読んでみようと思います。

  • 戦後発表された10篇。「日の出前」「十五年間」「チャンス」「トカトントン」「ヴィヨンの妻」が好き。どの作品にも戦争の影がある。殊更悲劇的にではなくただ、大変な時代の現実的な庶民の生活を垣間見ることができて興味深かった。コミカルなタッチの作品もあり、太宰治について抱いていた“暗い作風の自殺した作家”という偏ったイメージが払拭された一冊。作中によく登場する、ダメ男としっかり者の女。男の弱さに母性本能をくすぐられ、女の強さに勇気づけられる。太宰作品に女性ファンが多い理由が分かった気がした。

  • どうしようもなさと、女性の強さと。太宰作品の中では斜陽とヴィヨンの妻が好きです。

  • 冒頭のさりげない描写が本当にいきている。読んでいて心地よい。「お戸棚に、おむすびがございますけど」最高。

  • だぁれも、幸せになんかしてくれない。日の出前、トカトントン、が私は特に好きでした。だめ男、本当にだめ男。嫌いになれないのは、そんな自分が自殺したいほどに嫌いなことを、誰もが知っているから、か。

  • コミカルな描写で読みやすい。

  • 『日の出前』『嘘』『薄明』『十五年間』思ったより読みやすい、けど難しい。1回で読んだ気になっちゃいかんな。表面的にじゃなくてしっかり読み込みたい。

    『チャンス』『親友交歓』『トカトントン』『ヴィヨンの妻』『家庭の幸福』『桜桃』人間味があってわりと好きだ。

  • 太宰治の短編集。自伝のような、小説のような。
    救いのあるようなないような。

    どこへも行けない人々の話たち。

  • 鬱々とした作品より、妙にハイテンションで空元気な作品が好き。シニカルな目線に何度うなずいたことか。

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著者プロフィール

1909年〈明治42年〉6月19日-1948年〈昭和23年〉6月13日)は、日本の小説家。本名は津島 修治。1930年東京大学仏文科に入学、中退。
自殺未遂や薬物中毒を繰り返しながらも、戦前から戦後にかけて作品を次々に発表した。主な作品に「走れメロス」「お伽草子」「人間失格」がある。没落した華族の女性を主人公にした「斜陽」はベストセラーとなる。典型的な自己破滅型の私小説作家であった。1948年6月13日に愛人であった山崎富栄と玉川上水で入水自殺。

「2022年 『太宰治大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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