死者の書・口ぶえ (岩波文庫) (岩波文庫 緑 186-2)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003118627

作品紹介・あらすじ

「したしたした。」雫のつたう暗闇で目覚める「死者」。「おれはまだ、お前を思い続けて居たぞ。」古代を舞台に、折口信夫が織り上げる比類ない言語世界は読む者の肌近く幻惑する。同題をもつ草稿二篇、少年の日の眼差しを瑞瑞しく描く小説第一作「口ぶえ」を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 折口信夫文学忌 1887.2.11〜1953.9.3
    迢空忌 釈迢空(シャクチョウクウ) 歌号よ

    時折、立ち寄る博物館に 折口先生のコーナーが常設されており、再現された仕事部屋等もあり、身近なおじ様と思っていましたが、作品は遥かな感じでした。
    今回は、「死者の書」のみ。「口ぶえ」は、今月、他の作品集に収録されて新刊で出版されるようなので、是非そちらで。コミックにもなっているようです。

    柳田國男の高弟、民俗学の基礎を築き、国文学者で国語学者。

    1939年 日本評論初出
     上代に詳しい方なら、大丈夫かもしれないですが、一読では、理解できず、第一印象は夏目漱石の夢十夜を濃厚にしたような幻想小説でした。

    理解できそうなところまで、紐解いてみました。
    奈良県の當麻寺(たいまでら)に残る「当麻曼荼羅縁起」が、取り込まれているという事です。
    主人公は、中将姫 747~775 藤原鎌足のひ孫で
    藤原豊成の娘。才能ある美女。
    能にも「当麻」という作品があるようです。
    もうひとりの主人公は、大津皇子(亡霊)。663~686 天武天皇の第三皇子。学識、才能あるイケメン。謀反の疑いをかけられて処刑される。

    物語の中で 郎女(いらつめ)、姫と呼ばれるのは、中将姫です。郎女は、若い女性を親しんで呼ぶ時の古語。
    亡霊の皇子と中将姫の間に100年の時差があり、各章が時間の流れの通りに配置されていないので、
    パズルのように各章が収まった時が快感。
    オノマトペ的な音の表現があちこちにでてきます。
    私のイメージでは、語り部が、語りやすいようにするためなのですが、臨場感が上がるのは確かですね。
    以下は、覚書です。






    一.
    二上山に葬られていた大津皇子の目覚め。
    死の際にふと見た耳面刀自(美しさ女性・藤原鎌足の娘)を思い出す。着物は塵となり、裸のままだ。寒い着物を求める。
    したしたした 水の音
    ニ.
    目覚めた皇子の亡霊が見る景色。男達が、藤原南家の郎女を探している。
    こうこうこう 魂呼の声
    三.
    藤原南家の郎女は、結界破りの罪を償う為、万宝蔵院の庵室に匿われる。
    付き人の媼が藤原家の古物語を語り聞かせる。
    四.
    媼の語る大津皇子。耳面刀自への執心。その執心が、やはり美しい郎女をこの地に呼んだのではないかと。郎女は、金色の髪を持つ皇子の亡霊を見る。
    五.
    蘇った大津皇子の魂が記憶を取り戻す。
    妻(山辺皇女)も子も殺された。自分の名さえ残っていないだろうと嘆く。
    六.
    藤原南家の郎女の二上山へのいきさつ。奈良から藤原の里への許されぬ一人旅。
    郎女は写経に取り組む。遂に千部をなす。
    しとしと 雨
    七.
    郎女の神隠し(家出)の様子。
    西へ西へ二上山へ。
    女人禁制の地へ入ってしまう。僧侶に見つかる。
    八.
    奈良の都の様子。大友家持登場。昔を懐かしむ。
    遷都、火災と藤原家にも厳しい社会。
    東大寺四天王像開眼の話題。
    九.
    大友家持が気の向くままに朱雀大路から、五条、右京と都散歩。最後は、三条まで。藤原家の跡地。
    十.
    郎女は書物を得る。大切に育てられた郎女は、御簾の中で書物と出会い外の世界を知る。生きる糧として没頭していく。
    十一.
    ウグイス“法華経 ほけきょう”と鳴く。
    蓮の茎で糸を紡ぐ、付き人達。
    十二.
    女人結界を破り寺の浄域を汚してしまった郎女。その処遇は、本人の意思で、自分の咎は自分で償うとして二上山の麓の寺に。
    十三.
    郎女は、皇子の亡霊の魂の白い玉の幻想を見る。
    つたつたつた 亡霊の足音
    十四.
    大友家持と大師恵美押勝(藤原仲麻呂・姫の父の弟)との 語り。一族の長として気持ちが通じる。
    十五.
    当麻の里の郎女の謹慎生活。夜毎訪れる亡霊を心待ちにする。
    十六.
    当麻の里は春から夏へ。女達は蓮の糸を紡ぐ。
    種々、鳥達の変化。当時の使用人の様子。
    十七.
    秋分の日、嵐の中郎女が居なくなる。
    あっしあっし 弦打ち
    十八.
    蓮の糸で布を織る、郎女。切れては織り、織っては切れて。この布で皇子の素肌を覆いたい。
    十九.
    郎女は布を織り上げる。
    裁っては縫い、ほどいて、布は小さくなってしまう。天竺の僧侶のような衣を作る。
    二十.
    巨大な布に絵を描く。弔いの織物。これが曼荼羅のタペストリーとなる。

    • おびのりさん
      みんみんBLレビュー入力したら、すぐよ。
      ひまわりさんも近いね。
      みんみんBLレビュー入力したら、すぐよ。
      ひまわりさんも近いね。
      2023/09/03
    • みんみんさん
      いつか入れたいわねぇ(*/ω\*)
      いつか入れたいわねぇ(*/ω\*)
      2023/09/03
    • ひまわりめろんさん
      ただの免税店ですよ
      間違えた通過点
      ただの免税店ですよ
      間違えた通過点
      2023/09/05
  • 夢幻能のような小説である。

    折口信夫『死者の書』、1939年に書かれた幻想小説だ。長くはないが濃密な、この異色の傑作を読むにあたっては、いくらかの知識を事前に仕入れておいた方が良い。これから書くことは所謂ネタバレだが、古代史に相当詳しい人でない限り、この予備知識によって謎解きの楽しみを奪われたと感じることはないと思うので、このまま書き進める。独力で折口の仕掛けに挑んでみたいと思う人は、ここで引き返されたい。

    物語の舞台は奈良県葛城市、二上山(ふたかみやま)の麓にある当麻寺(たいまでら)である。七世紀に建立されたこの仏教寺院には、当麻曼荼羅(たいままんだら)と呼ばれる織物が保管されている。中将姫と呼ばれる藤原家ゆかりの女性が、蓮糸を用いて一夜で織り上げたという伝説のある織物だ。姫はこの功徳によって、生きながら極楽浄土へ召されたと伝承にある。

    この中将姫が『死者の書』のヒロインである。難解な語り口のため挫折率が高いといわれる作品だが、「中将姫(藤原南家郎女)がいかにして当麻曼荼羅を織り上げたか」を幻想味たっぷりに描きだした、いわば架空の縁起物語であるという大筋を押さえておけば、幾重にも錯綜する語りの中で迷子になることはないだろう。

    そしてもうひとつ、中将姫伝説と並んで、この作品には重要なモチーフがある。姫の誕生に先立つこと百年、天武天皇の子として生まれながら、謀反の罪で処刑され二上山に埋葬された、大津皇子(おおつのみこ)の悲劇がそれである。〈した した した〉という印象的な水滴の音とともに冒頭で目覚めるのは、大津皇子の魂だ。皇子の辞世の句とされる歌が万葉集に残されている。

      ももづたふ磐余(いわれ)の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ

    折口の想像力は、中将姫と大津皇子というふたつの傑出した魂を、藤原一族の血と、二上山というパワースポットを媒介としてめぐり逢わせた。それは別の言い方をすれば、百年の時を越えて成就する、スピリチュアルな恋の記録だったかもしれない。

    『死者の書』を読むにあたって知っておくべき最低限の予備知識は、このくらいだ。あとはただ、折口の魔術的な語りに身をゆだねていれば良い。古代人の魂魄が憑依したかのごとき、折口のほとばしる情念を感じとることができれば、それで良い。稀代の民俗学者にして歌人であった折口信夫が、自身の持てる全てを注ぎ込んだ作品。〈死〉を冠する題名とは裏腹に、これほど生き生きとした古代人の息吹が感じられる小説は、そうあるものではないのだから。

    • 深川夏眠さん
      お邪魔しま~す♥
      どの版か思い出せませんが、「死者の書」は
      学生時代に単体の文庫を読み、
      最近(?)は6~7年前に中公文庫の
      「身毒...
      お邪魔しま~す♥
      どの版か思い出せませんが、「死者の書」は
      学生時代に単体の文庫を読み、
      最近(?)は6~7年前に中公文庫の
      「身毒丸」とのカップリング本で再読しました。
      この小説を原案とする演劇を鑑賞したこともありましたが、
      原体験は幼少期、親戚の家にあった日本の童話集(?)
      のような本に収録されていた、
      絵物語だった気がします。
      それから、昔、奈良県の当麻寺へ行って、
      中将姫が織ったとされる曼荼羅図も拝観しました。
      お寺の近くの中将堂本舗さんの
      よもぎ餅「中将餅」もお勧めです。
      https://www.chujodo.com/
      なんちゃって、失礼しました(汗)!
      2019/01/14
    • 佐藤史緒さん
      夏眠さん、いらっしゃいませ♪

      実は私が読んだのは一昨年に出た角川ソフィア文庫です。ほんとは岩波文庫で読みたかったんだけど、近所の本屋に...
      夏眠さん、いらっしゃいませ♪

      実は私が読んだのは一昨年に出た角川ソフィア文庫です。ほんとは岩波文庫で読みたかったんだけど、近所の本屋には売ってなかったのが1つの理由。もう1つの理由は、角川版は字が大きくて目に優しかったからでございます。ああ中高年…

      私、折口は初挑戦だったのですが、夏眠さん流石いっぱい読んでますね〜!
      でも絶対、折口好きだと思った!
      霊魂だし幻想だし衆道ですもの(笑

      しかしその絵本?現存するなら見てみたいものです。渋すぎる。

      何より現地を訪問できたのは羨ましいですね! 奈良は法隆寺と東大寺しか行ったことないけど、いつか行ってみたいです。

      中将餅のサイト、早速みてきましたよ!よもぎ餅だいすきなので、これはもう買うしかない!
      よもぎシーズンを待つ楽しみができました。
      耳より情報、ありがとうございました〜
      (*´∀`*) 今年もよろしくです。
      2019/01/14
  • 『口ぶえ』は未完のここで終わっていい。大人になりきる前にしか経験しえぬ恋心と、聖俗のあわいに揺れる生身の身体とを、この瞬間のままに透明な硝子ケエスにしまっておきたい。

  • 文学

  • なにしろ今回は入念な下準備をしたので最後まで読めた。実は下準備の段階で尻込みしていた。何やらとてつもなく恐ろしいものを読もうとしているのではないか。懸念は当たる。地中深く鎮まっていた情念が蠢き出す気配に苛まれなんとも薄気味悪い。崇高な魂を追い求めるが故の純粋さに陶然と酔い痴れるには私は俗され過ぎている。無論反発はないが近寄り難さはある。だが惹かれる、稀有の気高き美しみが私を甘く誘う。この入り組んだ感情に解決の糸口は見つからず。まず折口信夫(釋超空)ほどやっかいな人は二人といないであろう。どうにも気になる。

    (入念な下準備といってもたいしたことありません。富岡多恵子『釋超空ノート』、近藤ようこのコミック、國學院大學博物館での「折口信夫と死者の書」展。あとはネットでちょこちょこ。知れば知るほど慄き増したのでここらが限界と踏ん切りました。)

  • なるほどわからない。「死者の書」は途中で飽きて文字なぞっただけで読了ということにしてしまったけど「口ぶえ」はなかなか興味深いBLだったのでちゃんと読んだ。私は清らかな渥美より男くさい岡沢のほうが好きだわ。我ながら浅い読み方しかできてないのが丸わかりの感想。

  • 難解で、とりあえず読んだーという感じ。解説を読むと少しわかって面白い。謎解きのような、頭の片隅に置いておいて、少しずつ折に触れて、スッキリしていくといいな。
    口ぶえはどちらかというと読みやすかった。

  • 再読。「死者の書」続篇も完結してほしかった...。読者がこの先を想像しても楽しいだろう、と解説で言われても、よほど博学じゃないと無理でしょう!注解は、語句の説明というより、小説の背景を詳しく説明してくれて、大いに参考になる。個人的には「死者の書」は解説抜きでも十分面白いと思うのだけど、著名な文芸評論家でも「わけわからない」「気持ち悪い」と発言していたりもするので、こういう注解でいわば裏を知ることができるのは、非常に良いと思う。

  • 前知識ゼロで購入した本書。
    音の文章表現に惹かれたのだけど、歴史小説として(黒岩重吾作品以来)、この時代設定は大変好みなので、心躍らせながら読み進めた。

    何度か「ぬぬ、これはひょっとしてひょっとするのか」などと思いつつ、『死者の書』を読み終え、『口ぶえ』にいたってそれは確信に。

    BLだったでござる。

    特に否定はしないけど、ただちょっとびっくりした。けっこう露骨なので。
    『口ぶえ』の情景描写はとても素晴らしく、R.カーバーやC.マッカラーズの作品を彷彿とさせる。
    解説を読むと民族学的に読むのが正解のようだけど。

  • 中公文庫の『死者の書・身毒丸』は既読なんですが、続編と、初読の「口ぶえ」が収録されているというので岩波文庫版も。『死者の書』は何回読んでも、古い言い回しの日本語が難解(でも好き)。『口ぶえ』は、思いがけず現代もの(といっても当時の)で、いくらか読み易かったですが、残念ながら未完なんですよね。同性愛者だった折口の嗜好が結構赤裸々(?)に出ていて興味深かったので残念。

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著者プロフィール

歌人・詩人、国文学・民俗学・芸能史・宗教学者。筆名・釈迢空。
大阪府木津村生れ。國學院大學卒業。國學院大學教授、および慶應義塾大学教授。
1953年9月3日逝去(66歳)。能登の墓所に養嗣子春洋とともに眠る。

「2019年 『精選 折口信夫 Ⅵ アルバム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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