大江健三郎自選短篇 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (848ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003119716

感想・レビュー・書評

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  • ・大江健三郎「大江健三郎自選短篇」(岩波文庫)を 読んだ。帯に「全収録作品に加筆修訂が施された大江短篇の最終形」とある。本書収録の23編に関しては、以前の「全作品」や「全集」ではなく、これが最終形、もしかしたら定本になるといふことであらう。それを意識して読んだと書いたところで、私にはそれ以前との違ひなど分かりやうはずがない。ただ、かうして初期から最近の作品まで通して読むと、大江の変貌の具合と文体の推移、つまり読みにくくなつていく過程がよく分かる。私が大江を読み始めた時、既にかなりの作品が文庫になつてゐた。それらは初期の作品であつたはずだが、それゆゑにそんなに読みにくいとは思はなかつた。もちろん初期の作品の文体からして大江である。かなり特徴的な言ひ回しがあつたりして、決して読み易い文体ではない。それでもまだましなのだと、本書から改めて思ひ知つた。「大江短篇の最終形」といふコピーに引かれたこともあるが、同時に、そんな文章の変化が、私にも感じられる形での変化が表れてゐるかといふ興味もあつた。結果は、最初から最後までやはり読み易くない、しかも後期、つまり最近の作品ほど読みにくいといふ、これまで私が感じてゐたことを再確認しただけであつた。
    ・しかしである。内容的には大きな改訂もあつたのである。これは自分で気づいたわけではない。『読売新聞』に「『大江健三郎』を作った短編…デビュー作など自選23編、文庫に」(14.09.28)といふ記事があつた。この中にかうある。「作品の根幹に関わる校正はない。ただ東大在学中の22歳の時、発表 した『奇妙な仕事』では、ある変わった仕事に携わる『僕』『私大生』『女子学生』の3人のうちの1人の設定を、『私大生』から『院生』に直した。」さうか、私大生とあるのに違和感を持つた覚えがあると思ひ出したものである。大江が直したのはもちろんこんな理由ではない。「『私大生』では、学生の『僕』 との違いが出てこない気がした。『院生』にすれば、知的な面や人生経験の違いが出てきますね」。あの現場での対応の違ひがこの改訂によりより鮮明になるとい ふことであらう。もしかしたらこれに関連する小さな改訂があるのかもしれない。手許には何種類ものテキストはないので私には知りやうがない。ただ、50年 以上前の作品にも手を入れて完璧を期さうとする執念(?)には感服するばかりである。万が一、他にもかういふ類の改訂があつたとしても私には気づけない。 たぶんそれで良いのである。読者にはそんな細部に気づくことは求められない。大筋が問題である。だから、「『空の怪物アグイー』の冒頭は、<ぼくは自分の 部屋に独りでいるとき、マンガ的だが黒い布で右眼にマスクをかけている>。以前の『海賊のように』の語を、『マンガ的だが』に入れ替えた。」などといふのにも気づかない。確かにこの方がよりふさはしさうではある。それに気づかずとも読める。分かつた気になれる。さうして「雨の木」連作あたりから読みにくさの度合が一気に強まるのを感じ、ここに至つて大江は日常生活の冒険から抜け出して新たな段階に至つたことを知るのである。それは文体だけでなく、内容、物語からも分かる。己が生活を核にして物語を作る、私はかういふのが嫌ひだから、その文体と相俟つてこの頃から大江嫌ひになつていつた。しかし、今もまだた まに大江を読んでゐる。これがノーベル賞作家の魅力か底力かと思ふのだが……。とまれ、個人的には、物議を醸しさうだが、「セヴンティーン」完全版(第1部、第2部)が読みたかつた。そんなことを考へながら時間をかけて本書をやつと読み終えた次第である。

    • suenaganaokiさん
      本当に勉強になりました。ありがとうございました。
      本当に勉強になりました。ありがとうございました。
      2015/10/02
  •  読みでありまっせえ!
    「飼育」からポツポツ読み継いで、二つ目に読んだのが「雨の木を聴く女たち」の連作、三つ目が「新しい人よ眼ざめよ」、大江健三郎の中期の二つがこころに残りました。それぞれあれこれ書きました。
     覗いていただければ嬉しい(笑)
    「飼育」の感想
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202211280000/
    「雨の木を聴く女たち」の感想
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202212030000/
    「新しい人よ眼ざめよ」の感想
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202301020000/
    「静かな生活」の感想
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202301100000/

  • 大江健三郎という作家は、自らの作品を改稿する癖で知られているが、2014年に出版された本書は、1957年のデビュー当時から60年代までの初期作品、80年代の中期作品、90年代前半の後期作品という3つの時代の短編を、自らの改稿に基づき編集し直された自作短編アンソロジーである。

    長きに渡って活躍している作家であるが故に、決して執筆ペースが早い作家ではないものの、トータルでの作品数もそれなりに多くなる。それなりに彼の作品を読んでいる自身であっても未読(特に短編は)のものが多いため、改めて大江健三郎という作家の面白さを実感することができた。比較的初期作品は昔に読んでいたが、生々しいグロテスクさを詩的な言語というオブラートで微妙に包み込んだかのような世界観はやはり読んでいて感嘆させられる。端的にいって、とても面白い。

    また、自身の息子、大江光との家族との関係性をテーマにした中期の連作短編『新しい人よ眼ざめよ』は未読の作品であり、静かな感動があった。

    大江健三郎の作品は、集中して読み進める必要があるので、また時間ができたタイミングでゆっくり読み進めたい。

  • もうお腹いっぱい。
    大江健三郎さんの短編が23編収録されています。
    文庫で840ページだから、まるでレンガみたいな厚さ。
    デビュー作「奇妙な仕事」から「空の怪物アグイー」まで初期短篇8編は愉しむことができました。
    緊密な文体で独特の緊張感が漂っていて、読む方も気が抜けません。
    芥川賞受賞作の「飼育」も好きですが、私は「セブンティーン」に結構な衝撃を受けました。
    正視に耐えないグロテスクな心情と鬱屈を抱え、学校に居場所のない17歳の「おれ」が、右翼の大物に認められたことで急速に右傾化していく様子を描いた作品です。
    これは今、「ネトウヨ」と呼ばれる人たちにも重なるのではないかと思いました。
    右翼的な勇ましい言動をすることで不甲斐ない自分を慰撫する傾向が「ネトウヨ」と呼ばれる人たちに強いのは、各方面の識者から指摘されているところです。
    「セブンティーン」は1961年の作品。
    先見の明があると云えるのではないでしょうか。
    中期以降の「『雨の木』を聴く女たち」などの短編は、すみません、頭の悪い私にはちょっとついていけませんでした。
    アカデミック臭もかなりして、「これはどういう意味なのか」「もしかしたら、こんなふうに解釈すべきなのでは」などとあれこれ考えて、遅々として読書が進まないということも何度かありました。
    でも、池澤夏樹さんも云っていましたが、読んでいてこれだけ大変なのですから、書く方はもっと大変に違いありません。
    池澤さんといえば、大江さんの「家族ゲーム」に強い影響を受けたそう。
    この機会に本作も読んでみたいとぞ思ふ。
    なんかレビューになってないですね。

  • 150124 中央図書館
    初期のものは読みやすいが即物的であり、中期、後期のものはふわふわしてつかみどころがない断章めいたコラージュが多い。
    文学を称する以上は、日常的な照明のあたるところだけを写真に撮るように文字に落とすようなことだけではない。言葉の力で、どこまで世界の地平線を広げ、屋根を高く立てて、空間を拡張できるのか、そういうフロンティア感が必要だという考えを想起させるような大江の作品群である。

著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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