タゴール詩集: ギーターンジャリ (岩波文庫 赤 63-1)

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  • / ISBN・EAN: 9784003206317

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  • 暁の黄金の光をタゴールの言葉に見る。彼の言葉は不滅の宇宙から届いているみたいに、今も生き生きと伝わってくる。



  • 君いくたびか 余所者招き 宿貸したまひきーー
    遠きを近づけ 異人を
    兄弟となせし君
    慣れし家出て わが行けば
    思へども 方便を知らず
    新たにも 慣れし君いますを
    われ忘れしか
    遠きを近づけ 異人を
    兄弟とさせし君



    生死の世にも遍く
    何時 何処にも
    永遠の生命に親しむ君
    ものみな知ります
    君をだに知らば 他なし
    隔てなし 怖れはあらじ
    諸人集へ 目醒ましたまふーー
    君を常に見む
    遠きを近づけ 異人を
    兄弟となせし君


    この身を助けませとは
    われ祈らず
    彼岸に渡る力欲し
    わが荷を 軽くする
    慰めあらずとも
    かくて荷ひ堪はむ
    幸はふ日には うなだれて
    君がみ面を見ばや
    辛き夜には 世をあげて
    欺くもよし
    君をゆめ 疑ふまじ


    わが胸の奥 顕はしませ
    奥のその奥
    汚れなく 耀きて
    麗はしくこそ
    目醒ましめ 働かしめ
    恐怖除けませ
    幸あり 励まし 逡巡はせず
    わが胸の奥 顕はしませ
    奥のその奥
    ものみなと睦れしめ
    縛ぼれを解き 
    業みなに勤しましめよ
    静けし 君が調べ
    蓮華のみ足に わが胸憩はせ
    歓喜を賜べ 歓喜を
    歓喜をこそ
    わが胸の奥 顕はしませ
    奥のその奥


    君 新た新たの相して 来ませ 生命に
    来ませ 香に 色に 来ませ 歌に
    来ませ 身に 鼓動の触れあひに
    来ませ 心の甘露の笑に
    来ませ 見惚るる両の眼に
    君 新た新たの相して 来ませ 生命に

    来ませ 来ませ 清く 耀く愛しき君
    来ませ 麗し 慕はし 寂けき君
    来ませ 来ませ 種々の営みに
    来ませ 苦楽に 来ませ髄に
    来ませ 常々 すべての業に
    来ませ なべての業の極に
    君 新た新たの相して 来ませ 生命に



    今日は稲田に 日と影と
    隠れ鬼して遊ぶ
    青空に 誰が 浮べしや
    白雲の筏を
    今日 蜂は 蜜を思はず
    飛び往きて 光に酔ふ
    今日 何とて 河の洲に
    鴛鴦 寄りそう

    いざ 今日は 家路に就かじ 兄弟よ
    今日は 家路に就かじ
    いざ 今日は 虚空を 押し別け
    余所を 荒らさむ
    潮満ちて 水泡立つごと
    今日 風 笑 拡がる
    今日 業を止め 笛吹きて
    終日 過ごさむ



    歓喜の海路より
    今日 寄する沖つ波
    皆人よ 今 櫂取りて 漕ぎ出でな
    皆人よ 出で立たな
    荷の限り 積みて行かな
    苦の船を 渡さばや
    波の上を渡りて行かな
    よし 生命絶ゆとも
    歓喜の海路より 
    今日 寄せる沖つ波

    誰が 呼び戻すや
    誰が 禁むるや
    危うしと 誰が 言ふや 今ー
    危ふきは 皆 知れり
    呪い 禍事 恐るとて
    安けき大地に 住むべきや
    帆綱 張り持ち
    歌ひて 行かむ
    歓喜の海路より
    今日 寄する沖つ波



    浄く真白き帆に孕む
    美し微風
    われ絶えて見ざりき
    かく漕ぐ船を
    何処の海の岸よりか
    遠く宝を 持ち来るや
    いざ漕ぎ出かな
    棄てて行かな この岸に 
    請ひ得しものはみな

    後方に騒ぐ波の音
    高鳴る大空
    面に さし来る 朝日影
    雲の絶え間より
    梶取よ 汝は誰ぞ 誰が
    宝なす 泣き笑ひ
    物思ひ 心絶えなむ
    いかに今 調べ 鳴らさむ
    いかに言寿がむ




    雲の上に 雲 立ち渡り
    黒闇なす--
    わが身 一人を 何すれそ
    門に 立たずや
    業の日は業も種々
    人も種々 立ち交る
    今日は われ君を憑みて
    留まらむ
    わが身 一人を 何すれそ
    門に 立たすや

    君 われを顧みず
    み姿 見せずば
    如何に 過ぐさむ 長雨
    かくも降る間を
    遠方に 目を見開きて
    ただ われ 憧憬る
    わが生命 荒ぶる風に
    泣き迷ふ
    わが身 一人を 何すれそ
    門に 立たすや



    光明は何処 何処にか
    寡居の火を点せ 明明と
    燈明はありて 焔なし
    これぞ 宿命のことなるか--
    かくてあるより 死ぬこそ優らめ
    寡居の火に 燈明 点せ

    悲哀の使女 告る 「人よ
    汝がために 大御神 起き出でます
    真夜中の 暗闇に 
    汝を相見むと呼びます
    苦を授け 汝を敬ひます
    汝がために 大御神 起き出るます」と

    天の面に 雲広ごりて
    雨は降りしく 間も落ちず
    この闇夜に 何とてか
    わが生命 跳ねおきて
    何すれぞ かくも 迷ふや
    雨は降りしく 間も落ちず

    稲妻は 束の間 閃き
    目に 闇はいやまさる
    知らず 何処に いと遠く
    歌声の 鳴り響もすや
    生命にかけて 道に出でむか
    目に 闇はいやまさる

    光明は何処 何処にか
    寡居の火を点せ 明明と
    雲は呼び 風は叫ぶ
    時 移らふは 惜しや
    ぬばたまの闇夜は 暗し
    生命もて 愛の火を 点せ




    六月の夕闇せまり
    日 傾きぬ
    絶間なく 雨灌ぎ
    降りしき 止まず
    家の隅処に ひとりゐて
    何を思はむ わが心
    雨霧は ぢゃすみんの森に
    何 語るらむ
    絶間なく 雨灌ぎ
    降りしき 止まず
    今 心の浪騒ぎ
    岸に着きかねつ
    香はしや 嘆きつつ 摘むは
    濡れにし 森の花
    闇の夜の 時の間を
    何の調べに 今 過ごすべき
    何過ちてか 今みな忘れ
    思ひ煩ふ
    絶間なく 雨灌ぎ
    降りしき 止まず


    今宵 荒風に 君 相見ます
    生命の友 愛しき君
    心砕けて 虚空は泣く
    われ 寝も寝ずに
    戸を開く こよなき君よ
    幾度か われ尋ね 
    生命の友 愛しき君

    外の方に 誰もいまさず
    君が道 何処に尋ねむ
    いと遠く 何処の河辺
    茂き森の 端
    底深き暗闇に 
    渡りますにや
    生命の友 愛しき君




    知らず 世の始より 幾度か
    生命の河に われを浮かべし
    君よ はた 幾許の家に 道に
    歓喜を 生命に 授けし

    幾度か 君 雲の影に 
    かく微笑みて 立ち
    朝日影に み足 踏まして
    優しく 頭 かき撫でし

    このわが眼に 見慣れたり
    幾度か 幾世にか
    新た新の光明のうちに
    姿なきものの相を
    人知らず 幾何の代に
    生命を 満たせし
    苦と楽を 愛と歌を
    幾何の甘露の雨に




    君 人目 避け 隠れ行き
    な去りそ
    今 この心に 隠れいまさね
    知る人も 言ふ人も なからむ
    世は 君が 隠れ遊び
    国の 内外 経廻りて
    今 わが胸の奥に 
    留まりませ まこと
    人目 避け 隠れ行き 
    な去りそ

    わが心 固頑なれば
    君 寄りますに相応ねど
    君の 息吹に 宿貸さば
    心 解けざらめやも

    憑む心 われになくとも
    み恵みの滴垂れなば
    たちまちに 花は咲かずや
    実は稔らずや
    人目 避け 隠れ行き
    な去りそ



    日 落ちて 夕闇 到る
    地の上に
    いざ 河辺に 行きて 瓶に水
    汲みて来む
    流るる水 たぎつ瀨音は
    夕空に 満ちわたる
    道の上に われを呼ぶ 
    声すなり

    河辺りに 行きて 瓶に水
    汲みて来む

    いま 人目 離れて 道に
    往来なしー
    うら恋の河に 波立ち
    風騒ぐ
    帰り来む方便も知らず
    誰を 今日 伴侶とせむ
    河辺に 余所人 琴 奏づ
    河辺に 行きて 瓶に水
    汲みて来む


    われ ここにゐるは ただ
    君に唄はむため
    君の み国の集ひに
    われも 侍らばや
    君の宮居に われ
    業なさず ただ
    調べ 聞かせむ
    業なきこの身

    夜更けて 音なき宮居に
    君の祭りあり
    そのとき われに み言賜べ
    歌を唄へと
    暁の虚空に満つ
    琴の音 黄金と輝くとき
    われを 去らすな
    この願ひ 聴しませ




    わが恐怖 砕きませ いざ
    み面を われに向けませ
    近くゐて 識りかねつ
    何方 仰がむ
    君 わが胸に 宿り
    胸に 笑みかけませ

    み言 われに 告げませ
    わが身に 触れませ
    右手を さし伸べて
    われを 抱きませ
    思ふこと みな 誤り
    求むること みな 誤りー
    笑も虚事 涙も虚事
    ここに来て 誤り 除けませ




    またも これ わが思ひを 包む
    またも 目に 垂布 掛かる
    またも これ 言の葉 繋ぐ
    わが心 千千に乱れ
    燃ゆる火 いや 増さり
    またも われ み跡 失う

    み言 声なく 胸に 宿り
    な消えそ 世の中 響むとも
    何処にありても われを な離りそ
    常に 君が辺に 隠しませ
    絶えず わが心の中に 置きませ
    照り映ゆる 天 地 黄泉を



    われを相見に 何日よりか
    君の 来ませし
    照る 月も日も 君を
    何処に 隠さむ
    朝な夕なに 繁く
    君の足音 響り
    人知れず み使者 胸に
    来て われを 呼ぶ

    旅人よ 今日 わが
    生目に 遍く
    歓喜 時なしに
    踊り 慄くか
    時 到れるらし 今
    果てたるか わが業
    大君よ 風 来たり
    君の香 薫る


    今日 秋に いづれの 客人
    わが門に 来たるか
    歓喜の歌を唄へ 心よ
    歓喜の歌を

    蒼天の 声なき語り
    露けき悩ましさ
    鳴り渡れ 今 君の
    琴の調べに

    稲田の 黄金の歌に
    同じ調べ 今日 合はせよ
    流せよ 歌を 漲る河の
    浄き流れに

    来しものの面を
    見るぞ 嬉しき
    木戸開き 打ちつれて
    外に立ち出でよ


    ここに唄はむとて来し わが
    歌を 唄はずなりぬー
    今はただ 調べ整へ ただ
    唄はむとぞ思ふ

    わが調べ 整はず わが
    詞 綴りかねつ
    ただ この身のうちにあるは
    歌の悩み
    今 花も咲かず ただ
    一筋の風 吹く

    われ 彼の面を見ず われ
    彼の声を聴かず
    ただ時祈りに聞く 彼の
    足の響き
    わが門の前すぎて かの人
    往きつ戻りつ

    ただ われ 席を設けぬ
    日の暮るるまでー
    家に 燈火 燃えず 彼を
    如何に 喚ぶべき
    遇はむと望みしに 彼に
    われ遇はざりき



    わが身の内 戦慄き
    眼 眩めくー
    わが心に 誰が結びしか
    赤き護符の糸
    今 この大空の下に
    水に陸に 花に実に
    何とて わが心を
    撒きしや 君よ
    いかに今日 われ遊び
    君と交はりしか
    求め歩きて われ 何得しか
    思ひも叶はず
    今日 何の装いして
    歓喜 涙に泣かむ
    今日 独居 美しく
    この身を 惑はす


    今や われと 他人との
    隔てなし
    君を ただひとり見る
    外に 内に
    君ともし別れなば
    泣きつつ 放浪ひ
    束の間 離れては
    君を呼ぶ


    光明のうちに 光明与えて
    来ぬ 光明の光明
    わが眼より 暗闇
    消えぬ 消えぬ
    天の涯 地の極
    歓喜と笑みに満ちぬ
    見渡す限り 押しなべて
    善し みな善し



    相なき宝を 求めて
    相ある海に われ沈む
    わが旧りにし船を 浮べて
    津々 めぐるを はや やめぬ
    浪の戯れ みな終ふる
    時 今 来るらし
    今ぞ 水に沈みゆき
    死して不死を得む

    耳に聞えぬ歌ぞある
    その歌の 絶えず響くところ
    生命の琴を持ち 行かむ
    底知らぬ集会の中に
    永遠の調べを 合はせ
    名残りの歌に 波垂れ
    声なき君の足許に
    声なき琴を 捧げなむ



    大空に 咲き出でし
    光明の蓮華
    花弁 群なして
    四方に飛び散り
    ぬば玉の 真黒き
    闇の海を おおひぬ
    その真ん中の 黄金の蔵に
    われ喜びて住む おお君よ
    われを廻りて 静かに散る
    光明の蓮華

    大空に 波立ちて
    風 吹き渡る
    四方に 歌声あがる
    四方に 生命踊り立つ
    虚空に満つ この風情
    身に染みわたる この生命の海に 沈み
    胸に満つ生命を 採り来む
    度多く われを廻りて
    風 吹き渡る
    十面に 裳裾を広げ
    抱く 大地
    ありとある生命を
    なべてみな すべての足に
    振る舞ひ 分け与え
    歌と馨香に 意満ちたり
    われ こよなく嬉し
    われを 廻りて 裳裾を広げ
    抱く 大地 

    光明よ 君を敬う
    わが罪を 払へ
    わが額に 父の 
    祝福を置け
    風よ 君を敬ふ
    わが愁いを けせ
    身の隅々 撫でよ
    父の祝福もて
    大地よ
    君を敬ふ
    わが望みを みな叶へよ
    家を隈なく 稔らせよ
    父の祝福もて



    ここに かの君 差し招きます
    われらの この家に
    御座を 設けよ 兄弟よ
    思ひのままに
    喜び唄ひて
    塵すべて掃け

    努めて 芥を
    除くべし
    籠に満つ花々に
    水ふりかけよ
    御座を 設けよ 兄弟よ
    思ひのままに

    昼も夜も かの君います
    われらの この家に
    夜明けには かの君笑みて
    光明をそそぐ
    暁に われら目覚めて
    目見開く時
    かの君 嘉しますを
    われら仰ぎ見る
    かの君の面の輝き
    この家に満ち満つ
    夜明けには かの君笑みて
    光明を灌ぐ

    かの君 ただ一人います
    われらの この家に
    われら 生業せんと
    立ち出づるとき 
    門に立ちて かの君
    われらを導く
    われら嬉しく 道を走り
    歓喜の歌を 唄ふ
    業あまた 一日の末に
    帰り来るとき
    見れば かの君一人います
    われらの この家に
    かの君 目覚めています
    われらの この家に
    われら 心虚けて
    臥床に寝ぬるとき
    かの君の 隠せる燈火
    世に 見るものなし
    裳裾に掬ひて
    夜もすがら照らす
    熟睡に 夢多く
    往来せしめつつ
    かの君 闇に 笑みます
    われらの この家に


    身を隠し 生命の神
    ひとり 目覚むるところ
    信ずる者よ 開け その扉を
    今 み姿を 見む
    終日 われ ただ
    外に廻り 誰を 求めしや
    黄昏の 勤行を 
    われ 学ばざりき

    汝が生命の光明に
    生命のあかしを 点せ
    神主よ 今ひそかに
    われ 卦を盛らむ
    世の中のまつりごとを
    神主 行なふところ
    われも亦 守らむ
    ひかり一筋を

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