サテュリコン: 古代ローマの諷刺小説 (岩波文庫 赤 122-1)
- 岩波書店 (1991年7月16日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003212219
作品紹介・あらすじ
美貌の少年奴隷をはさんで争いながら南イタリアを放浪する2人の青年を中心に、好色無頼の男や女が入り乱れる。小説『サテュリコン』はまさに古代ローマの爛熟が生み落した「悪の華」だ。とりわけ、奴隷あがりの成金富豪が催すの場面は古来有名。セネカの諷刺短篇『アポコロキュントシス』を併載。
感想・レビュー・書評
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フェリーニの映画版DVD(https://booklog.jp/users/yamaitsu/archives/1/B000IU39FK)を見直してから原作も再読したいと思っていたのをようやく再読。較べると映画はかなり大胆にアレンジしてあったことに気づくが、そもそも紀元1世紀の頃の作品で、本作自体が断片しか残っていないので、残っていない部分は想像で補うしかなかったのかもしれない。
主人公はエンコルピオスという青年。彼の恋人である奴隷の美少年ギトンと、友人で元恋人のアスキュルトスと三人で旅をしている。金持ちの解放奴隷トリマルキオンの饗宴で豪華なのか悪趣味なのかわからない食事でもてなされたり、いろんな人々の話を聞いて交流したり、というのが一番有名な部分か。
ところがアスキュルトスがギトンに手を出したことで大喧嘩になり、ギトンにどちらか選べと(当然自分を選ぶはずと思い)言ったところ、ギトンはアスキュルトスを選び、エンコルピオスは一人になってしまう。その後もギトンとヨリを戻したり、また離れたり、三人の間でのいざこざは続く。
やがて詩人のエウモルポスと出会い、エンコルピオスとギトンは彼と同行するが、さまざまなトラブルが起こる。さらに抜け落ちている部分でエンコルピオスらが過去に働いた悪事により弾劾されたり、彼ら自身もトラブルを引き起こす。結局彼らが乗っていた船が嵐で難破、生き延びた三人は辿り着いた町で金持ちのふりをして人を騙して暮らす。
そこでキルケという名の上流階級の夫人に気に入られたエンコルピオスが彼女の情夫になるが、なぜかイチモツが役に立たず、それを侮辱と受け止めた彼女から酷い目に合されたり、なんとか役立つようにしようと占い師を頼ったらまたそこでトンチキな治療をされたりなど酷い目に合う。
一方エウモルポスは、金持ちのふりをしていたのでやはり上流階級の夫人から娘と息子を提供され、どっちも楽しむ。基本的に登場人物男性はみんな両刀使い、そして好色。エウモルポスの遺産目当ての人がたくさん集まるが、彼は遺書に、自分の死体を食べた者だけに遺産を分け与えるという話をする(このへんで本書は終わり)
トリマルキオンの饗宴部分はいろいろ興味深い。一人の解放奴隷が話す、狼に変身した男の話とか、2000年前にすでに狼男がいたのか、と。その他、エンコルピオスが使い物にならなかったときにキルケが言う「いったいお前さんの気分を害したのはあたしの接吻なの。断食のせいで吐く息が臭かったのかしら。手当を忘れていた腋の下の汗かしら」と言う場面などは、2000年前の女性も口臭や腋臭を気にしたのか!と親近感がわきます(笑)
セネカの『アポコロキュントシス』も収録。ペトロニウスもセネカも皇帝ネロの時代に彼の側近として活躍し、しかし政治的陰謀で陥れられネロによって殺された(自殺を命じられた)。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
悪漢小説。いやーあけっぴろげですね笑
これは全編残って欲しかった…部分欠落が泣けます。
美少年とドタバタ旅路。弥次喜多感ある。 -
意外に読みやすかった。
これを機にギリシア・ローマ時代の本を読んでみたいと思います。
なかなか当時の性風俗的な考え方が垣間見えて面白いです。男も女もどちらもござれの、愛に生きてます的な感じだったり、生きるために盗みもすりゃ騙しもする、退廃的な感じとか、好きです。
もっと知りたい世界のきっかけをくれました。 -
国原吉之助訳。
本来の題名は『Satyrica(サテュリカ)』=サテュロスたちの物語(※サテュロスは酒神ディオニュソスの従者で、好色な山野の精)。学生エンコルピオスと弟分のギトンが、快楽に身をゆだねて南イタリアを放浪する。
附録として、ネロ皇帝の師傳(しふ)をつとめた哲学者セネカの諷刺小説『アポコロキュントシス』を収載(※未読)。
ネロに強い影響力をもった「趣味の権威者」ペトロニウスが、65年頃、ネロを楽しませるために書いた長編の悪漢小説。現存するのは第14~16巻の抄録のみ。恋愛物語、諷刺文学、ものまね劇などに表現や題材を得ているらしい。
フェリーニの映画のトリマルキオンの宴が強烈だったため、原作が気になり手に取った。
登場人物は皆が皆無節操な好色者で、内容はポルノグラフィに近い。そして、ローマ世界の知識がない自分にはどこが諷刺かすらわからない。これは読んでも得るものはない…と投げ出しかけたが、宴の後からが不思議と面白くなってきた。彼らの本能にまかせた立ち騒ぎが痛快なのである。
訳者が「不道徳(インモラル)というより非道徳(アモラル)」と述べるとおり、守るべき道徳自体が存在しない世界では心理的葛藤や抑圧感が生じない。主人公達は自分や他人の滑稽な行為を見ては笑い転げている。真剣な命乞いの場面すら、戯画化されて悲愴感がない。まさに「愛すべき愚か者」という印象。
トリマルキオンの宴は映画版が圧巻だったが、それ以外は原作の方が生彩が感じられた。
<映画版と共通のエピソード(※一部)>
・エンコルピオスとアスキュルトスのギトンを巡る喧嘩別れ
・トリマルキオンの宴
・貞淑な未亡人の誘惑への敗北
・エンコルピオスの不能
・エウモルポスの遺産相続 -
・セネカ『アポコロキュントーシス』も併載。
・高貴な色=赤紫の表現多数。
・augustalesについての描写
・ヘラクレスやカエサルの描写(英雄神) -
イタリア、ローマなどを舞台とした作品です。
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悪漢エンコルピオスとその稚児ギトンの道中記。出てくる人間がことごとく性的倒錯者。
トリマルキオンの悪趣味な宴が有名らしい。でも自分のまとめた船での一幕が一番好きかなー。
修辞学校での問答→トリマルキオンの宴→船での悶着→金の亡者達の町
続きが読みたい。 -
時代:1世紀
舞台:古代ローマ
ローマ貴族ペトロニウスが、ネロ帝を楽しませるために書いたと言われる作品。
大部分が欠けていて、本書もかなり読みにくい。
しかし、逆にそこを想像(正しくは妄想)することがまたひとつの楽しみになってしまうお話。
エンコルピオスとギトンのカップルは、まるで『ポーの一族』の、エドガーとアランのよう。
まあ、エンコルピオスはエドガーよりだいぶおっちょこちょいだけど。 -
クォヴァディスのペトロニウスのモデルだとは考えたくない…
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古代ローマの風俗とともに、風刺小説としての本質を忘れてしまうくらい生き生きとした、しかし徹底した享楽と腐敗が繰り広げられる。映画と比較するのも良い。